処刑人アリナさんと邪悪の王ギラくん   作:山田プロキオン

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今回は少し長めです


史上最大の勧誘・中編

「つまりアンタは宇蟲王とかいうやつに産まれることを定められたってこと?」

 

「まぁそんな感じかな…」

 

「駄目だ…頭が追いつかない…」

 

 不死身発言の後、ギラはアリナとジェイドから色々と質問攻めにあっていた。とはいえその説明をするに至っては物凄く経緯が複雑かつ、宇蟲王ダグデドについて話さなければいけないため、最初は適当に理由をつけて誤魔化そうとも考えたが、2人の真剣な表情を見てそれは良くないと感じてか、全てありのまま起こったことを話すことに決めた。

 

 自身の世界にいた宇宙を統べる超常的存在、

『ダグデド・ドゥジャルダン』のこと。

 

 父、コーサスがダグデドへの忠誠を建前に、打倒ダグデドを目的としてダグデド本人から授かった命があり、それが自身であること。

 

 自身はダグデドのコピーや分身とも呼べるべき存在で、宇蟲王由来の能力も受け継いでいること。

 

 それ故に不死身の肉体であること、全て包み隠さず話したのだが…。

 

「宇宙を統べる王様、その暴虐に対抗すべく父親の計らいで生まれてしかもその王様の力を模倣している…本当に大衆向け小説の主人公みたいな人ね、アンタ。私飲み込むのに頭フル回転しなきゃだったんだけど…」

 

「さ、流石受付嬢として情報処理をこなしてきたアリナさんだ…俺は宇蟲王のところでもう訳がわからない…そもそも別世界って…」

 

 やはり特殊かつ難解なギラの生い立ちには、理解するのに苦労するようだった。3年間の受付嬢としての情報処理の雑務をこなしてきただけあって、アリナはなんとか飲み込めたようだが、ジェイドはまだ完全に理解していないようである。

 補足しておくが、ジェイドは自身の属するパーティである白銀の剣のリーダーであり、指揮としての腕は申し分なく頭の回転も早いため、決して読解力がないわけではない。それ程ギラの詳細が脳処理に過負荷を齎すということだ。

 

「まぁ、前にきびだんごを喉に詰まらせて死にかけたことはあったけど…」

 

「その裁定だけは理解できないわ…不死身の肉体でも抗えないきびだんごって何よ…」

 

「あはは…って、今はそうじゃない!」

 

 突然大きな声をあげるジェイドにギラとアリナは驚くが、すぐに平常を装い、

 

「何よ、ギラの出生の秘密は驚きの連続じゃない?」

 

「そうだけど、俺の話の続き!アリナさんの武器は確かに魔法陣から出ていたよな?ということは神域(ディア)スキルなんじゃないのか?」

 

 

 

 

 神域(ディア)スキル。それはかつてヘルカシア大陸で栄えていた先人達が用いていたとされる失われたスキル。そしてそのスキルとしての質は、一級冒険者達が用いる超域(シグルス)スキルよりも頭一つ抜けていると言われている。

 しかし詳細については謎が多く、文献に記されるだけで実際目にした者はいないとのこと。

 

「なら、私のコレが本当に神域(ディア)スキルだなんてわからないじゃない?」

 

「しぐるす?でぃあ?よくわかんない…ヤンマならわかりやすく纏めてくれるかな?」

 

 ヘルカシアの冒険者用語にギラは首を傾げて疑問符を浮かべる。こんな時に頭の回るヤンマがいない事が非常に悔やまれるが、いないのはいないと割り切ってギラはジェイドに気になっていたことを尋ねた。

 

「ところでさ、ジェイドさんはなんでアリナを呼び寄せたの?」

 

「それは…白銀の剣は攻撃役(アタッカー)を欠いてしまっていて…『暴刃のガンズ』が引退してしまったんだ…」

 

 暴刃のガンズ。かつて白銀の剣の一員として遺物武器(レリックアルマ)のバトルアックスを振るい、数多くのダンジョンの攻略に貢献してきた一級冒険者。しかし、ベルフラ遺跡のヘルフレイムドラゴン戦にてバトルアックスを紛失。ヘルフレイムドラゴンに負わされた傷の影響で冒険者を引退、と表向きでは広報されている。

 が、実際はギラの変身するキングクワガタオージャーと、アリナの冒険者としての姿である処刑人の圧倒的な強さを前に、ガンズの最強パーティの攻撃役としての自信が粉々に砕かれてしまい、冒険者を続けられる心持ちではなかったというのが真相である。

 その事実にアリナとギラはバツが悪そうな顔になってしまった。

 

「で、何?その責任を私に取れってこと?」

 

「違う、俺は…」

 

 バグバクと五月蝿い心臓の音から全身に広がる緊張をほぐすべく、ジェイドは深呼吸を1つ挟み、覚悟を決めた面構えでアリナを見つめて言った。

 

「アリナさんが、欲しいんだ!」

 

「成程セクハラね、職権乱用で訴えようかしら?」

 

「そうですよジェイドさん、こういうのはお兄ちゃんとスズメさんが言ってたけどまずはお見合いから始めて…」

 

「アンタは何を言っとるんじゃ!」

 

 ジェイドの勧誘発言にアリナもギラも違う意味で捉えてしまう。しかもギラに至っては本気にしてしまったらしく、ラクレスとスズメから聞いた馴れ初めについて語り始めてしまい、アリナにぺちっと頭を叩かれてしまった。

 

「ベルフラ遺跡でアリナさんを目の当たりにしてから…俺の頭の中は君のことで一杯だった、ずっとアリナさんのことばかり考えていたんだ!」

 

「待って本当に気味悪いんですけど…」

 

「言い方…もっとどうにかならないんですか?」

 

 ジェイドは心からの気持ちを綴ったのだが、対するアリナは引き気味に嫌悪を示し、ギラも頭を抑えながら顔を引き攣らせている。対するジェイドも退く様子は一切ない。

 

「俺は本気なんだ!白銀の剣に、是非入って欲しい!」

 

 白銀の剣として、冒険者の最強格の1人として威厳ある様子で手を差し伸べるジェイド。

 しかしアリナは無関心なようで、ジェイドの手を一瞥して話し始めた。

 

「あのね、私が望んでいるのは平穏無事で安定した生活なの。そのために受付嬢として働いているし、そこにアンタが介入出来る余地はないわ。わかったら他を当たってちょうだい」

 

 アリナはジェイドの勧誘を跳ね除け、しっしっと手を振って門前払いをするのだが、ジェイドも諦められないようで、

 

「うっ、じゃあ!どうしてベルフラ遺跡に足を踏み入れたんだ⁉︎」

 

 ジェイドの疑問にアリナがピクっと震える。刹那、空気の流れが変わったことをギラは1人、感じ取った。普段お遊び感覚でおちゃらけた様子のダグデドが、少し本気を出して自分達を潰しに来た時に感じたあの感覚に類似したものだ。

 

「受付嬢でいたいのなら、副業禁止の掟を破って冒険者をやること自体本末転倒だ。それにヘルフレイムドラゴン討伐に乗り出さなければ俺たちは会うこともなかっ「残業が嫌だったから…」…は?」

 

 アリナの口から聞こえた回答に思わずジェイドは間抜けな声を漏らす。しかしアリナはユラユラとした足取りで距離を詰めると、ジェイドの胸ぐらを掴み、鬼のような形相で烈火の如く怒りをぶちまけた。

 

「何素っ頓狂な顔してんのよ!他に理由がある訳?

わかる?書類の山を目の当たりにさせられる絶望感と、追加で送られてくる雑務の嵐に対する私の殺意が!」

 

「す…すみませんわからないです…」

 

「アンタらもギラもダンジョンの攻略にチンタラチンタラしやがって!残業が終わらないんだよ!だ〜か〜ら〜!私が終わらせてやったのよ!攻略に貢献してやってることの何が悪いってのよ⁉︎」

 

「アリナ落ち着いて!胸ぐら掴んでグワングワンしないで、ジェイドさん脳震盪起こしちゃう!」

 

 ギラが慌てて仲裁に入り、アリナとジェイドを引き剥がした。

 

「え、ええっと〜白銀の剣に入れば残業は無くなっ「定時の概念がなくなるだけでしょ?」ううっ…」

 

 アリナからの正論にジェイドは押し黙ってしまい、さらにアリナは口撃を続けた。

 

「さっきから言ってるけど、私が求めてるのは安定なの!いつ四肢を失うかもしれない冒険者なんてごめんだわ!」

 

「…アリナ、それって本音?」

 

 暫く聞き手に回っていたギラが、ふと口を開く。ギラの発言にアリナは目つきを鋭くさせて口を動かす。

 

「当たり前じゃない!冒険者のどこがいいのよ?」

 

「言ってることは本心なんだろうけど、冒険者が嫌いっていうのは嘘だよね?じゃなきゃ、昔実家で聞いてたっていう冒険者の話を楽しく話さないと思うんだけど…」

 

 ギラの指摘にアリナは心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。以前ギラとレストランで食事を共にした際、偶々それぞれの幼少期の話になり、ギラは児童養護施設での日々、アリナは実家で母が営む居酒屋に集まる冒険者の話に胸をときめかせていた日々を語った。

 その時のアリナの楽しそうな表情をギラは覚えていた。だからこそ冒険者を毛嫌いしているということに本心ではないのでは、と思わずにはいられなかった。

 

「…な、何言ってるのよ。そんな訳ないでしょ、とにかく攻撃役(アタッカー)なら他を当たって!」

 

 先程の覇気はどこに行ったのか。動揺に震える声で吐き捨てると、アリナは蹄を返して路地裏を後にする。

 が、その前に一度立ち止まって振り向くと、

 

「私のこと話したら…ただじゃおかないからな…」

 

 と最後に言葉を残して、今度こそ立ち去ったのだった。

 

 

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

「ねぇもっふん、私冒険者のこと本当はどう思ってるのかな…」

 

 その日の夜、自宅のベッドでアリナは自分でもわからない気持ちについてぬいぐるみのもっふんに尋ねる。しかし当然答えは返ってこず、大きなため息を零して消灯し、自身へ強引に布団を被せた。

 

「シュラウド…」

 

 真っ暗な天井を見つめながら、アリナは幼少期に一時を共にした冒険者の名前呼び、やがてその透き通った声は夜の闇に溶けていく。

 その後、ゆっくりと瞼を閉じていき、規則正しい寝息を立てながらアリナは夢の中へと落ちていくのだった。

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