あのカズマさんの声に似た迷惑客の登場です
「う〜ん…なんかいいクエストはないかな…日雇いの仕事でもいいけど…」
昼食を終え、ギラはギルドのクエストボードの方へ足を運んでいた。最近はクエストどころか日雇いの仕事も中々見つからない。この世界にやってきてから殆ど自力で衣食住をなんとかしなければならなかったこともあり、出費もかなりある。
そのため何がなんでも金を稼がなければならない。だからこそクエストやバイト等を探しているのだが、現実はそう上手くいかないみたいである。
「どうしようか…「何度も言わせんな!クエストを出せっつってんだろ!」…なんだ?」
急にギルド内に荒々しい声が響き渡り、ギラも気になって声のした方へと首を向ける。そこには頬に刺青の入った如何にもチンピラのような外見の男性がおり、ギルド中の注目を集めていた。
男性の名はスレイ・ゴースト。
冒険者の中でも上澄みである一級冒険者なのだが、性格に難があり、気性が荒くよく問題を起こすギルドでも悪い意味で名の知れる悪質なクレーマー。
故に大事にならないよう彼を避けるのが暗黙の了解のようなところがあるのだが、スレイに目をつけられたのが、新人受付嬢であるライラなのは不幸だった。
「え…えっと、そのようなクエストはこちらでも把握していなくて…」
「んな訳ねぇだろ!どうせ俺たち冒険者に内緒で隠してんだろ⁉︎」
ライラの弁明虚しく、スレイの追及は激しくなるばかり。話が通じない。ライラが今にも泣きそうな程目尻に涙を浮かべた、その時だった。
「どうかなさいましたか?」
2人の間に割って入る人物が。
アリナだ。ライラに応対させるのは酷と見たのだろう。これ以上事態をややこしくするのは面倒事を嫌うアリナにとっても不都合極まりない。それに後輩が困っている時こそ手を差し伸べる、それくらいの善意はアリナの中にもあった。
臆することなく自身に声をかけてきたアリナに、スレイは机を叩いて用件を述べた。
「どうしたもこうしたもねぇ!裏クエストを出せっつってんだ!」
「ハァ、なるほど…そのことですね…先程聞いたかと思いますがここではそのようなクエストは取り扱っておりません」
「んなお決まりの言い分聞いてねぇんだよ、さっさと出しやがれや!」
またか、とばかりにアリナは小さく、されど深い溜息をついてスレイに説明を行う。しかしそんな回答など求めていないとばかりに狼のように吠え散らかすスレイ。
しかしいくらスレイが喚こうが彼の望むクエストが提示されることなど一生ないだろう。何故なら
裏クエストなるものは、そもそも存在しないから。
昔より冒険者間で囁かれる根も葉もない噂。それが長い年月を経て冒険者の間で広まり続けた結果、いつしか裏クエストという単語を生み出しそれを真に受ける冒険者が増えてきてしまったのだ。
「俺は知ってるんだぜ、裏クエストの隠しダンジョンには特別な
「何度も言いますがクエストはクエストボートにあるものしか…「口ごたえするんじゃねぇ!」……」
遂に癇癪を起こし、スレイはアリナの胸ぐらを掴む。相手が女性、受付嬢であっても容赦は感じられない。
恐れていたことが…、とギルド中ではどよめきが起こり、これは流石に良くないとギラは2人の方へと向かって足を進めた。
因みにその時アリナはというと、
「(あ〜、コイツ一発ぶん殴ってやろうかしら?)」
存外余裕そうであった。彼女としては今までダンジョンのボスとの死戦をくぐり抜けてきた身。たかが一冒険者の脅しなどに今更戦慄することもなく、冷めた視線でただスレイを見上げる。
しかし光の失った翡翠色その瞳もスレイの神経を逆撫でしたらしく、
「お前なんだその目は…それが冒険者様に対する受付嬢の態度かよ?
冒険者は神様だろうが!舐めんじゃねぇぞ!」
スレイはアリナを掴んでいる腕とは反対の拳を振り上げる。アリナを殴るつもりだ。冒険者達や受付嬢達は驚愕し目を見開いたり、口に手を当てて悲鳴を上げていたりした。
しかしスレイの拳はアリナに命中することはなかった。
「そこまで、もうやめよう」
すんでのところでギラが乱入し、スレイの拳を受け止めてアリナから引き離したのだ。困惑するアリナだったがギラが任せて、と小声で言ってきたため、彼を信じることにした。
「(なんでだろう…ギラなら本当になんとかしてくれそうな気がするのよね…)」
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「なんだお前⁉︎勝手に割り込んできやがって!」
「僕も冒険者だよ。それと少し度が過ぎるんじゃありませんか?アリナ…ゲフンゲフン、受付嬢さんがないって言っているのならそれが全てです。そこから先は僕達が踏み入ることなんて出来ません。
冒険者は神様…貴方はそう言いましたね?でもそれは僕達を神様相手のように
「出てきて早々説教なんかしてカッコつけやがって…、邪魔なんだよ、まずはお前から殴り飛ばしてやろうか?」
ギラが説得してもスレイの怒りが収まる様子はない。それどころかギラに八つ当たりして拳を振るってやろうと言い出す始末だ。
ギルドの面々もやはり無理だったかと落胆する者達で溢れていた。しかし、事態は思わぬ方へと傾き始める。
「殴り飛ばす?殴り飛ばすと言ったか?」
ギラの口から質問が
「⁉︎そ、そうだって言ってんだろ!」
ギラの圧に押されながらもなんとか言い返すスレイ。流石は腐っても一級冒険者といったところであろうか。
とはいえ先程のような荒々しさが少々収まっており、スレイの本能も無意識にギラに対して警鐘を鳴らしていた。
「そうかそうか、受付嬢を殴りたいのならすればいい…
この俺様を、邪悪の王のギラを倒してからいくらでもな!!」
力強く言い放つギラ。その威厳すら感じられる強圧には、スレイも後退りする程。
役ではない、演技ではない、その姿は正しく邪悪の王の威光に
スレイだけではない。ギルドの冒険者や受付嬢、果てはアリナまでもが王としてのギラにただただ圧倒された。
「…ッ、お、覚えてろよ!」
形成不利と見たスレイはよく聞く捨て台詞を残してギルドから出ていってしまった。
スレイが去った後、ギルドの中では先程の張り詰めた空気が嘘かのように歓声が湧き上がり、ギラを称える者たちで溢れていた。
「大丈夫だったアリナ?」
「ええ…その、ありがとうね」
照れ隠しをしながらアリナはギラに礼を述べる。その足下には消えかかる魔法陣…、アリナもアリナで限界だったようで、ギラが動いてくれなかったらスキルでスレイを強引に黙らせていたのだろう。
そうなったら受付嬢クビは免れないので、今回は二重の意味でギラに助けられたという結果になった。
「(それにしてもギラは怒ると結構怖いのね…)」
「それじゃ、僕日雇いバイト探しに行くから…」
スレイに続き、ギラも冒険者ギルドを去り、入れ替わるようにして今度はジェイドがやって来た。
「あ、あれ?どうしたんだこの騒ぎ…」
何故か歓声で包まれているギルドにジェイドは理解が追いつかず、首を傾げるのだった。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「クソっ、クソっ!あの冒険者め…この俺に恥をかかせやがって!受付嬢もだ!どいつもこいつも俺の癪に触れやがって…」
ギルドを抜けたスレイは爪を噛みながらイフールの街を彷徨う。今の彼はギラとアリナに対する怒りで満ちている。何としてでも仕返ししたいところだがいい案が浮かんではこないようだ。
そんな中、スレイの瞳に巨大な岩石の巨人のようなものが縄で拘束され、荷車で運ばれているのが映った。
「あれはレイドボスのクレイゴーレム…眠っているな、大方武器や防具の素材のために眠らせて運んできたのか…」
刹那、スレイは何かを思いついたように怪しく口角を上げて高笑いを始めた。
「ひゃはは!どいつもこいつも、気に入らねぇやつらはぶっ潰してやる…」