処刑人アリナさんと邪悪の王ギラくん   作:山田プロキオン

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2章:正体バレと新ダンジョン、ユニバースを添えて
夜の一幕


 夜も更けてきた時間帯、多くの人々が寝静まった頃。クレイゴーレムの一件で荒んだ街にやって来た人物が2人。

 1人は年老いておりながらも威厳と貫禄を醸し出した熟練の冒険者にしてギルドマスター、グレン・ガリアで、もう1人はその秘書だ。

 

「ギルドマスター、お言葉ですが何故あなたは白銀のジェイドもそうですが、どうして処刑人という不確かな存在に固執するのです?ギルドには優秀な攻撃役(アタッカー)は数多くいるというのに…」

 

「なぁに、処刑人の秘めた可能性、あの神域(ディア)スキルかもしれない力がとんでもねぇからさ。まぁ直接会わにゃわからねぇけど、確かめる価値はある。それはジェイドも俺と同じさ。

 

それに…

 

 

見たこともねぇ遺物(レリック)を使うヤツが現れたみたいじゃねぇか…」

 

 グレンの口調がほんの少し重くなる。好奇心と警戒心、2つの感情が複雑に入り混じったもの。処刑人と時同じくして存在が確認された紅き鎧を纏った謎多き戦士、『クワガタオージャー』。

 彼は敵なのか味方なのか。詳細不明の遺物武器(レリックアルマ)のようなものを振るい、上級の魔物やボスを圧倒する。その存在についても詳しく調査していかなければならない。そう思うやグレンは右手を天高く掲げて、自身のスキルを発動する。

 

「しくじったなぁ、処刑人に紅鎧。この街を救ったことには感謝するが、尻尾を見せたのが失敗だ。

 

スキル発動、『時の観測者(シグルス・クロノス)』」

 

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

「あ"あ"〜、あのクレーマー…末代まで呪ってやる…」

 

 夜中のイフール・カウンターの受付嬢の事務用室。そこには相変わらず鬼の形相で書類の山を睨みつけ、呪詛を唱えるアリナの姿があった。スレイの一件の被害についての始末書であり、いつもの如く先輩受付嬢達はアリナに仕事を押し付けて帰ってしまっていた。

 

「まぁアリナさん…元気だしなよ」

 

「うっさい盾役(タンク)!なんでアンタがここにいるのよ!」

 

「アリナ落ち着いて、こういう時こそ笑顔だよ。スマイルスマイル!」

 

「スマイルでいられるか!ていうかギラもしれっと来てんじゃないわよ!」

 

 当たり前のようにそこにいるジェイドの存在、そして逆鱗を逆撫でするようなギラのノンデリ発言に、番犬のように吠え散らかすアリナ。

 何故野郎2人がここにいるのか。ジェイドは白銀の剣のリーダーの特権で事務所に入る権利を使ったからである。アリナが心配だという彼なりの親切心なのだが、直球過ぎる故か、アリナからはいつも通り煙たがられている。

 ではギラはというと、ジェイドについてきたというのが正解だ。そしてアリナへの差し入れとしていくつか簡単な夜食を作って持ってきていた。因みにジェイドの分も作ってきている。そのことに対してジェイドがやって来ることは前提なのかとアリナが少し怒ったのだとか。

 

 そして現在、ギラとジェイドはアリナの始末書の手伝いをしている。

 

「ギラさん書類片付けるの速いなぁ…」

 

 ギラの書類捌きに思わずジェイドが感嘆の声を漏らした。

 

「国家間での条例とか貿易とかで資料整理することは結構多くて…2年前は大変だったなぁ、僕とジェラミー以外の王様皆牢獄にいたから2人で六王国分カバーしなきゃだったし…」

 

「王様が逮捕されるって、何したのよ…」

 

「えっとね…ヤンマが全世界の電力を独占して、ヒメノが1000メガトンくらいの花火を打ち上げて六王国が火の海になりかけて、カグラギが開発促進した農耕用具が殺傷する可能性があるって疑われて、

 

 

リタは…残業に追われて休みが欲しくて自分から…」

 

「ねぇ、アンタの世界の仲間達ってホントに王様?テロリストの間違いじゃないの?」

 

「なんかアリナさんみたいな人がいたような…」

 

「いや〜懐かしいなぁ。ハハハ」

 

「「ハハハじゃない!!」」

 

 ギラの懐古する王様達のしくじりにアリナとジェイドは唖然としてしまう。具体的に言えば、今日のスレイの一件が可愛らしく見えてしまうほどだ。それをハハハで流せるとは、ギラもかなり変わっていると思わざるを得なかった。

 

「ま、無駄話はその辺にして!さっさと書類の山を片付けるわよ!残業へのやる気なんて私にはミリもないんだから!明日の私が定時で帰れるように残りもやってやるわ!」

 

「でもアリナ、無理はあまり良くないよ。限界は超えないためにあるってある人が言ってたし、このままだといずれリタみたいになっちゃうよ?」

 

「じゃあアンタが代わりにやってくれる?この書類の山?」

 

 アリナはギラの労いの言葉を一蹴し、少し意地悪な問いをする。無責任なことを言わないで欲しいと思って言ったことなのだが、今回ばかりは相手が悪すぎた。

 

「わかった、任せてよ!体力は自信あるしアリナはゆっくり休んだ方がいいよ、今日はゴーレム討伐やここまで書類の整理大変だったもんね」

 

「あ、アリナさん。俺の方も書類の山もう1つ終わったよ」

 

 イビリをものともしないギラの優しさという名のカウンターとジェイドの書類完了宣言がアリナにボディブローのような凄まじいダメージを与えていく。しかもジェイドもギラも書類の処理が正確かつ、アリナを気遣って並び順も丁寧に束にして纏めており尚且つチェックも終わっていた。

 

 その事実はアリナの中のあるものを粉砕した。受付嬢のプライドというものを。

 

「うわぁぁぁぁぁん!!!!」

 

「どうしたのアリナさん⁉︎」

 

「急に泣き出しちゃった⁉︎」

 

「うわぁぁぁん!!なんなのよギラといい白銀といい!私がマスターするまで半年かかった書類整理をいとも簡単に出来て!何よりギラは体力マウントまでして!ムカつくムカつくムカつく!!!!」

 

 目尻に涙を浮かべてアリナはバンバンと机を叩いて悔しさに浸る。その際衝撃で書類の重石がコロンと落ちてしまった。

 ジェイドが拾い確認するとそれはかつてヘルフレイムドラゴンを討伐した際に手に入れた遺物(レリック)で、アリナとジェイドが初邂逅した時にアリナが握り潰したものだ。

 

「これ、前に俺がアリナさん渡したやつ…。ん?何か書いてある…ええっと何何…クエスト…受注?」

 

 重石に記されていた小さな文字。ジェイドは並外れた視力でその文字を見抜き、読み上げた。

 

 刹那、重石から眩い光が溢れ出しやがてそれは羅列された文字となって空中に映し出された。

 

「白亜の塔…達成条件は全階層のボス討伐…依頼者については明記しないとか…これは、受注書?」

 

 おどおどした様子でジェイドが内容を読み終えると、やがて光は収まり重石が寂しく残っているだけとなった。

 

「今のは受注書…なのかな?」

 

「ええそうねギラ。じゃ、その件は白銀と2人で何とかしてね」

 

「アリナ、なかったことにしようとしてない?」

 

「当たり前でしょ!書類整理もあるのに面倒事に首突っ込むのはごめんなの!」

 

「それもそうだな、よしギラさん!俺たちでこれを調べよう!」

 

「わかりましたジェイドさん!」

 

「…それにしても、白亜の塔って聞いたこともないなぁ…」

 

 ジェイドは首を捻りながらううむと唸る。これまで白銀の剣として数多のクエストを請け負ってきた彼だが、その中に白亜の塔なるものはなかったため、訝しく感じているのだ。

 

「もしかしたら今までにないくらい困難なダンジョンだったりして…」

 

「それはあり得るかもな…俺たち白銀の剣が出向くことになるかもしれない…」

 

 ジェイドは重石を握り締め、この先の激戦を予感するのだった。

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