処刑人アリナさんと邪悪の王ギラくん   作:山田プロキオン

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凌駕一閃、いつか出したいなぁと思っています今日この頃…


邂逅、ギルドマスターと邪悪の王

 翌朝。自分の受付場所にてアリナは深い深いため息をついて項垂れる。そしてそのアリナを心配して駆け寄ってくる冒険者が1人。

 

「どうしたのアリナ、この世の終わりみたいな顔して?」

 

「ギラ…これよこれ」

 

 覇気の感じられない声で、アリナが自身の手元にあった新聞をギラに差し出した。そしてそこには以下のように記述されていた。

 

『処刑人、イフールが拠点か? ギルドが欲しがる逸材はどこに?』

 

「ほえ〜、アリナのことニュースになってるね。でもこれって不味いんじゃない?」

 

「そうよ…しかもイフール全土を徹底調査するって。思えばあの時私前線に出る必要なかったわよね?お家壊されそうになったけど無事だったし、ギラと白銀だけでなんとかなったわよね?」

 

「え、ええっと…」

 

「正直に言って…、ギラ1人で倒せたわよね?」

 

 アリナはぬっと机から身を乗り出し、じっとりとした翡翠色の瞳でギラを見据える。ギラはだじだじとしながらどう話せばいいか、数刻悩んだものの、ちゃんと本当のことを伝えることにした。

 

「うん…」

 

 ギラの回答を聞いて、アリナが陰鬱なオーラになりながら再度項垂れる。わかってはいた。キングガブリカリバーでクレイゴーレムの腕を斬り落とした時から、否思えばヘルフイレイムドラゴン戦やオーガサイクロプス戦に居合わせたアリナならギラ1人でどうにかなってたことなど知っていた。

 それなのに自分の感情のコントロール不足によってでしゃばったことが災いし、またしても処刑人としての噂が広まってしまった。

 

「どうして私のやることなすこと毎度毎度空回りするのよ…」

 

「あっ、僕のこともニュースになってる!」

 

「聞いてないし…」

 

 自身の鬱憤よりも新聞に目がいくギラにアリナはほろりと一筋の涙を流す。

 ギラの言う通りクワガタオージャーも処刑人程ではないが、それなりの見出しの大きさで新聞に記されていた。

 

『紅き鎧の戦士、たった一撃にしてレイドボスの腕を斬り落とす!

処刑人に続き、新たな攻撃役の登場か?』

 

「それにしてもアンタはやけに冷静ね…私達世間から追われてるようなものなのよ?」

 

「こういう時こそ落ち着いた方がよかったりするよ?僕も王になる前は六王国から指名手配されて捕まえ次第死刑を言い渡されたこともあるし…」

 

「ギラって深掘りすればするほどどんどん味濃くなっていくのなんなの?」

 

 さらっと明かされるギラの過去に、新聞の件も相まって卒倒しそうになるアリナ。異世界人、不死身、そして今回の指名手配。この男はどれだけ自分の脳に情報処理させれば気が済むのか、そう思わずにはいられなかった。

 

「先輩〜、どうしたんですか?」

 

 

 ふとアリナの椅子の後ろからツインテールの少女がひょこっと顔を出す。

 彼女の名はライラ。このイフール・カウンターの受付嬢1年目の新人でアリナの後輩にあたる。

 

「ああライラ…ちょっとね」

 

「アリナの後輩さん?こんにちは」

 

「こんにちはギラさん、この前クレーマーから助けて頂いたときはありがとうございました」

 

 ギラに向かって、ライラはペコリとお辞儀する。そんなライラにギラは両手をパタパタと振りながら返した。

 

「いやいや、僕は当然のことをやったまでで…最初にライラちゃんを守ってくれたのはアリナだから、お礼をするならアリナにしてあげて欲しいな」

 

「はい!先輩、ありがとうございます!ギラさんと並んで凄いかっこよかったです!」

 

「え、ええ…」

 

 ライラからのお礼にアリナは引き攣った笑みを浮かべる。内心ギラが割り込んでくれなかったら大鎚で叩きつける寸前だったので素直に喜べないのだ。

 

「あ、先輩その新聞…」

 

 ギラから返却されたアリナの新聞にライラの視線が移った。新聞は処刑人のことで記されていたページ、たちまちアリナは冷や汗をかき始めてしまう。

 

「もしかして…先輩

 

 

 

 

処刑人推しですか⁉︎」

 

「ショケイニンオシ?」

 

 ライラの口から放たれた予想外の言葉に、アリナは首を傾げた。

 

「やだもー!処刑人様のこと先輩も推しているって聞いているんですよ!何処からともなく現れては、冒険者のピンチを救ってまた消える!メッチャカッコいいじゃないですか!今やジェイド様と並んで女子に人気なんですよ!」

 

「は…はぁ…」

 

「あと!最近処刑人様と見事な連携をしてみせた紅い鎧の戦士様!沢山の遺物武器(レリックアルマ)を使いこなして外套をはためかせるお姿がカッコ良すぎて、そっちも推しになっちゃいそうなんですよ!」

 

 推しの処刑人と候補のクワガタオージャーについてうっとりとしながら饒舌になるライラ。彼女の様子を前に、アリナとギラは貼り付いた笑みを浮かべて相槌を打つ他なかった。何せ彼女の推す冒険者2人は、目の前にいるアリナとギラなのだから。

 

 そんな時、突如ギルド内が騒がしくなり始める。ギルドの入り口の方に注目が集まっているようで、どうやら珍しい来客のようだ。

 

「なっ⁉︎どうして、あの人が…」

 

 そしてその来客には、流石のアリナも動揺を隠せなかった。

 

「アリナ、あの人誰?」

 

「ギラ、あの人はかつて最強の大剣使いと恐れられた現冒険者ギルドの最高権力者…ギルドマスターのグレン・ガリアよ…」

 

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

「どうしてあの人が…町中の受付所に立ち寄るような人ではないはずなのに…」

 

 突然の大物の登場にアリナは混乱していた。それはこの場にいた誰もが同じようで、イフール・カウンターのカウンター長も慌てて飛び出していた。

 

「ぎ、ぎぎぎ、ギルドマスター様!どうしてこんなところに…!」

 

「まぁまぁ落ち着けカウンター長、この近くに処刑人と鎧の戦士が現れたって聞いたから、暇つぶしに立ち寄っただけさ…」

 

 グレンの発言にアリナとギラは心の臓を握られたような感覚に陥る。まさか自分達の探索にギルドマスター自ら出向くとは、事態は相当厄介な方へと傾いているようだ。

 ふとグレンは辺りをキョロキョロと見回した後、足をアリナとギラのいる方へ向けて歩み寄ってきた。

 

「(えっ⁉︎こっち来たよアリナ!)」

 

「(やり過ごすのよ!なんとかうんまいこと対応して!王様として他国と外交してたんでしょ⁉︎)」

 

 アリナの指示を受け、ギラも即座に笑顔を作ってギルドマスターと対面した。

 

「やぁ、調子はどうかな?可愛らしい受付嬢さんに少年冒険者くん」

 

「はい、特に問題なく…」

 

「いやあの…僕、2(ピー)なんですけど…ヴッ⁉︎」

 

 少年呼びされたことにギラが訂正を加えようとした途端、脇腹に激痛が走る。ふと隣を見ると冷や汗をかきながら額に青筋を浮かべているアリナが。

 先程のはアリナによって目に見えない程の速さで叩き込まれたチョップだとギラは理解した。あのアリナですら遜るギルドマスターグレン。下手に口を挟んではいけないとギラは口をきゅっと摘んだ。

 

「そうかそうか。ところで、少年と嬢ちゃんは俺のスキルを知っているかい?」

 

「勿論です。ギルドマスターのスキルは『時の観測者(シグルス・クロノス)』。その場の時を止めることが出来ることが出来るスキルで、過去の事象も閲覧することも——」

 

 アリナはそこで話すことを止めた。その顔は青ざめており、全身は悪寒を感じていた。それはギラも同様で、ジェラミーから教わった行間からグレンの言いたいことはもう読み取れた。

 

グレンは、ギルドマスターは、

 

 

自分達の正体を知っている、と。

 

「(バレたのか?ゴーレムが暴れている混乱の最中、人々が逃げるのに必死なあのタイミングを見計らって王鎧武装したのに…でも時間を止められたら関係ないのか…)」

 

「正解だ。流石受付嬢だ。いやぁ、スレイの奴に処刑人や鎧の奴について聞いたんだが、生憎記憶がぶっ飛んでいてね。やむなく俺のスキルを使ったというわけだ。

そして処刑人と紅鎧については…

 

 

 

 

 

俺はもう見た」

 

 グレンの言葉にアリナは心の臓を貫かれたように内心動揺した。完全に、己らのことをわかってここの受付にやってきたのだと。全て繋がった。彼女の心臓がかつてないほど強震し、その速度はどんどん上がっていく。

 ギラもギラで、グレンを見据える目つきが鋭さを帯びてきた。

 

「それでその正体だが…

 

 

 

残念ながらわからなかった」

 

「「へっ?」」

 

 グレンの予想外の回答に、ギラとアリナを含むギルド内一同が間抜けな声を漏らす。グレンは頬をポリポリと掻きながら話を続けた。

 

「俺のスキルはあくまで過去の事象を覗き見することしかできない。過去そのものには干渉できないのさ。

 

あいつらめ、処刑人はフードの中でさらに仮面を被って、紅鎧も上手いこと素顔を隠してやがった」

 

 一本取られたとばかりにグレンはガハハと笑う。対してアリナとギラは内心穏やかではなかった。これはもう、確実にバレている。アリナは仮面なんてしていなかったし、ギラも顔を隠すことに徹底してはいなかったのだから。

 

「あの2人は是非とも白銀に迎えたい。だが奴らは何かと理由をつけて拒否をしてると聞いた…」

 

 グレンの鋭い視線がアリナとギラを捉える。その威圧感は流石ギルドマスターといったところか。今まで強敵と対峙してきたギラも初めてカグラギの本性に触れた時のような感覚がしていた。

 

「さて、時間を奪っちまって悪かったな。俺はそろそろお暇させてもらうよ」

 

 蹄を返してその場を後にしようとするグレン。しかし再度ギラとアリナに歩み寄り、2人の耳元で囁いた。

 

「ここでは話しづらい。裏に馬車を用意しておいた。ギルド本部まで来い。少年のことは、尚更複雑だからな」

 

 そう言い残すと、グレンは今度こそ立ち去った。弱みを握られたアリナと自身の詳細を把握されたであろうギラには、ギルド本部へと向かう選択肢以外残されていなかったのだった。

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