処刑人アリナさんと邪悪の王ギラくん   作:山田プロキオン

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ナンバーワン…ナンバーワンだ…


処刑人を止めろ!王の矜持とユニバースのかけら

 ガラガラ、パカパカと馬車の木製車輪の音と馬の蹄の音が交互に響き渡り、荷車を揺らす。この馬車は現在、5人の若人を乗せてギルド本部を目指している。

 陽光が照らす道を悠々と進む馬車とは対照的に、荷車の中では陰鬱な雰囲気が漂っていた。

 

「バレた…バレた…しかもギルドマスターに…クビよ、もうクビだわ…」

 

 顔面蒼白となり膝を抱え込んで悲観する少女、アリナ・クローバー。彼女は受付嬢でありながら冒険者、処刑人としても活動していた。受付嬢として副業禁止のアリナは、その正体を暴かれることに内心怯えていたのだが、遂にその時が来てしまい、頭の中は絶望一色。

 とはいえ、残業が嫌だからという理由でルールを破ったアリナ自身の自業自得でもあるのだが…。

 

「ま、まぁアリナさん…元気だしなよ」

 

 アリナの左隣に座っているジェイド・スクレイドは、励ましの意を込めて言葉を送り、アリナの肩に手をポンと置いた。しかしそれは慰めどころかアリナの嫌悪感を刺激したらしく、肩に置かれた手は強引に振り払われてしまった。

 

「うっさいチクリ野郎…アンタなんか大嫌い!死者の国で亡者の妄言聞きながら永遠に苦しめ!」

 

「なっ…⁉︎」

 

 鋭い視線と共に繰り出されるアリナの容赦ない口撃がジェイドの心に槍のように突き刺さり、深い傷を負わせた。

 

「そんな…死ねとか消えろとか言われても嫌いって言われてなかったのが俺の救いだったのに…」

 

 あまりにダメージが大きかったのか、ジェイドもアリナのように膝を抱えて失意の底に沈んでしまった。

 

「いやジェイド、それって最初から脈無しなんじゃ…」

 

「ルルリちゃんストーップ…」

 

 アリナ達から見て対面で座っている白銀の剣の回復役(ヒーラー)、ルルリ・アシュフォードがジェイドに追撃の言葉を浴びせようとしたところ、間一髪同じく白銀所属のロウ・ロズブレンダが慌てて口を塞いだ。

 リーダーたるジェイドがこんなところで折れてしまっては、攻撃役を失っている現白銀の剣の未来が危うい。ロウの咄嗟の行動は正しい判断だった。

 

「そういえば、アリナさんの右隣に座ってますのは…」

 

「あっ、僕…フッ、よくぞ聞いてくれた!」

 

 ロウの手を退けてルルリが赤メッシュに高貴な服を纏った青年に尋ねた。そしてそのルルリの目先にいる青年、ギラ・ハスティーは待ってましたとばかりに目をくわっと見開き、口角を上げて両腕を広げ名乗り始めた。

 

「俺様は!邪悪の王、ギラ!異界より参上せし…痛ぁい⁉︎」

 

「そのノリはやめなさいよ…後面倒な情報は省いて!見てみなさい、2人とも引いてるでしょ?」

 

 いつものように邪悪の王の口調となったギラに、アリナが脇腹にチョップを入れて窘める。ここ最近、邪悪の王ムーブをしていなかったために張り切ってしまったのだが、視線にいる困惑した様子のルルリとロウを見て、ギラは普通に話し始めた。

 

「始めまして…いやこれで2回目か。僕の名前はギラ・ハスティー。クワガタオージャー、あの赤い鎧の戦士の中の人だよ。宜しくね」

 

「おお、急におとなしくなった…」

 

「見たこともない遺物(レリック)を沢山使ってましたよね?あれは一体どこで手に入れたのですか?」

 

「あ…えっと〜」

 

 ルルリからの質問に、ギラは気まずそうにしながら頬をポリポリと掻く。自身のことについて話すことは簡単だ。しかし、そうなるとルルリとロウの脳内に莫大な情報を齎し、さらに混乱させかねない。ギラが返答に迷っていると、少しばかりメンタルの回復したジェイドが後で詳しく話すと言ってくれたため、その場は収まった。

 そして5人の話題はギルドマスター、グレンへと移った。

 

「それにしてもギルドマスターの意向が全くわかんねぇよなぁ」

 

「そうです。アリナさんが処刑人でギラさんが紅鎧でも2人には2人の考えがあるのに…無理矢理加入させようとするのはちょっと酷いのです」

 

 グレンの方針にはどうやらロウとルルリの2人も難色を示している。以前ジェイドも述べたが、本人同士の意思を尊重しないところで組まされたパーティはすぐに崩壊するのは目に見えている。それなのにギラとアリナを白銀に加えようとするグレンの思惑が見えてこないのだ。

 

「いずれにしろ、それはもうすぐにわかることだ…着いたぞ、ここがギルド本部だ」

 

 グレンの考えを1人知っているかのようにジェイドが口を開く。そして時同じくして馬車の動きが止まり、その前には城のような建造物が雄々しく聳え立っていた。

 そう、ここがギルドマスターグレン・ガリアが待ち構えているギルド本部である。

 

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

 ジェイドに案内され、アリナとギラはギルド本部の中の道を進んでいく。ジェイド曰く、ここはかつてS級の超難関ダンジョンだったらしく、完全攻略したギルドマスターが冒険者ギルドの本拠地として改装し、活用したのだという。

 

「ここだ」

 

 進んだ先にあった扉をジェイドが押しながら開ける。重々しい音を奏でた後、一同の視界に飛び込んできたのは、大きな闘技場だった。そしてそこに待ち構えている人物が2人。

 

「ギルドマスターと、側近さん…ドゥーガさんみたいな感じかな」

 

「それで!私達に話って何なんですか?つまらない話なら実家に帰らせてもらいますから!」

 

 冷静に観察するギラと、対照的に強気な口調で愚痴を溢すように話すアリナ。その2人を前にして、グレンも話を始めた。

 

「まぁ落ち着け、俺がここに嬢ちゃんを呼んだのは無理矢理白銀に入れるためでも受付嬢を辞めさせるためでもない。それはそこの少年も同じだ。権力で組ませた白銀なんていいパーティにならないことは俺でもわかる」

 

「では、どういう理由で?」

 

 グレンの意図が分からず質問するアリナに、グレンは頬を綻ばせて背中の剣の柄へと右手を運んだ。

 

「俺と勝負しろ、

 

 

 

処刑人、紅鎧」

 

 

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

 グレン・ラガリア。百年に一人の奇跡と称され、現役時代は自身のスキルである『時の観測者(シグルス・クロノス)』を以てして、現役時代は紛うことなき最強の冒険者だった。彼が現役時代に攻略したダンジョンの数は、未だに破られておらず、名実ともに冒険者のナンバーワンの座に君臨する男。

 そんな彼は処刑人、アリナ・クローバーに決闘を申し込んだ。アリナが勝てばギルドは処刑人から手を引き、アリナの受付嬢人生を二度と脅かすことはしないと約束、逆にグレンが勝てばアリナの白銀入りが決定という条件だった。

 

 その条件の下、決闘は行われた。現最強の攻撃役(アタッカー)と伝説の攻撃役(アタッカー)

 

 世紀の大勝負は僅か数秒で決着がついてしまった。

 

「「「「ギルドマスターさまァァァァ!!!!」」」」

 

 グレンの秘書、及び白銀のメンバーの悲鳴にも近しい大声が闘技場の中で響き渡る。アリナは自身のスキルで大鎚を発現させるや否や、瞬時に攻撃を叩き込んだ。グレンにスキルを発動させる暇など与えず、その一撃でグレンは撃沈してしまった。

 

「ギルドマスター様、力で決着とはなんと寛大なお心。私感謝してますわ…」

 

 大鎚による負傷で未だ身動きのできないグレンに揺ら揺らと歩み寄るアリナ。その貼り付いた笑顔にその場の一同は悪寒に襲われる。

 グレンの目の前で足を止めるとアリナは大鎚を再度振り上げ、笑顔を崩し鬼神の如き顔で叫んだ。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 無慈悲な一撃がまたしてもグレンに降りかかる。しかし、今度は命中しなかった。アリナの一撃を受け止めた者がいたのだから。

 

「少年…」

 

「ギラさん…」

 

「ギラ…どういうつもり…?」

 

 ギラがすんでのところでグレンとアリナの間に割って入り、オージャカリバーで大鎚を防いだのだ。それでも持ち堪えるだけでやっとなのか、ギラの両足は地面に陥没しかけている。

 

「ここで命を奪ったら…アリナはもう後戻り出来なくなる。そんなことは、させない!」

 

 体中の力を全て腕力と握力へと集中させ、ギラはアリナの大鎚を押し返す。アリナも数歩距離をとって改めて大鎚の柄を力強く握り締めた。

 

「そっちがその気なら、私も容赦しないから…」

 

 ギラを見据え、アリナは殺気を放つ。本気で自分を潰しにくる、ギラにはわかる。かつてデズナラクや五道化、ダグデドと激闘を繰り広げた時と類似した感覚。震えが僅かながらに体を蝕んでいる。

 それでも、一歩として引くわけにはいかない。異世界といえども、かけがえのない命なのだから。王として、守り通すまでだと。

 

「あの大鎚を無力化する…それだけだ!」

 

 ギラは黄金の王冠、『オージャクラウン』を手に取り、赤い宝珠に触れる。

 

『KING!KING!KING!KING!』

 

「王鎧武装!始祖、光来!」

 

 王冠を頭に乗せた刹那、ギラの肉体を橙色の結晶が包み込み、処刑人と対峙するための黄金の鎧が授けられる。

 

『You are!I am!We are the!We are the!

KING!KING!OHGER!』

 

『キングクワガタオージャー!』

 

 宇宙の力と全てのシュゴッドを束ねし金色の王、キングクワガタオージャーの出陣である。

 

「あ…あの時の鎧戦士…」

 

「マジでギラさんなのか…」

 

 ギラの王鎧武装にルルリとロウは驚愕した様子。ジェイドもアリナとギラの対決を前に固唾を飲んで見守るしかなかった。

 

「いくぞ…アリナ!」

 

「望むところよ…ギラ!」

 

 両者は同時に地面を蹴って瞬時に肉薄する。

 

 一流の冒険者でも追い抜いてしまうほどの速さで走るアリナによって豪快に振り回される大鎚。対するはシュゴッド達のエネルギーが充填され、神々しさと禍々しさを帯びているキングクワガタオージャーの王槍『オージャクラウンランス』。

 

「ハァァァァァァァ!!!!」

 

「ォォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

 

 両者の得物はぶつかり、同時に強大な衝撃波を波紋のように発生させた。

 

「うっ…やべぇ…」

 

「物凄い波動ですぅ〜」

 

「アリナさん…ギラさん…」

 

 2人を中心に広がる幾ばくもの余波は、白銀の剣の精鋭達といえども立っているのがやっとであった。さらに余波の威力はとてつもなく、波紋が刃のようにギルド本部の闘技場を斬りつけ、崩壊させ始める。

 

「こ、このままでは…『時の観測者(シグルス・クロノス)』」

 

 状態を看過出来ないと見たグレンは、己のスキルを用いて時間を停止した。

 

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

「ん?ここは…」

 

 ギラが瞳を開けると、そこにアリナはいなかった。アリナだけではない。白銀の剣も、ギルドマスターも。そして自分は、荒れ果てた地にぽつんと1人立っていた。

 

 刹那、静寂破るように無数の光弾が飛び交い始める。何事かとギラが振り向くと、そこには無数の巨人達が、暗闇を身に纏った何者かと熾烈な激突を繰り広げていた。

 

 暗闇、理不尽な力で全てを飲み込み、絶望を齎さんとする『厄災』。

そしてその厄災に立ち向かう巨人達の中には、ギラの知るチキューの守護神も紛れ込んでいた。

 

「キング…オージャー…?」

 

 巨人達は奮闘するも、厄災の勢力は衰えず。寧ろ時が経つにつれ巨人達は劣勢へと追いやられていた。

 

 厄災に軍杯が上がる。そう思われた次の瞬間、暗雲を裂き、黄金の巨神が姿を現した。

 

「あ…あれは」

 

 ギラが驚いたのも束の間、巨人達は黄金の巨神へとその力を集結させ、暗闇を、厄災を打ち破った。

 

「これは…一体…」

 

 謎の記憶に圧倒されるギラ。その時、辺り一面にノイズが走り始め徐々に視界が奪われていく。そしてやがて視界は黒に染まりその記憶は、

 

 

消えた。




アリナさんとの激しい攻撃のぶつかり合いと、グレンのスキルの影響でギラくんが見たものは…
現行戦隊を追っている方ならお分かりいただけたかと
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