「全く…あのまま暴れ続けられたらギルド本部ごと吹き飛ばされちまうよ…とはいえどうするべきか…」
己のスキルで時間を止めたグレンだったが、この先どうしようかと首を捻る。時間停止を解除すれば、すぐさまアリナとクワガタオージャーの戦闘が再開されるため、根本的に解決するための策を見つけ出さなければならない。
未だにアリナから受けたダメージの残る身体を鞭打って起こすと、グレンは時間と共に止まっているアリナとクワガタオージャーの所へと歩み寄った。
「嬢ちゃんはすごい顔だな…これじゃ処刑人じゃなくて鬼神…いや魔神だな…」
底が知れぬとばかりにクククッと笑いを零し、次にグレンはクワガタオージャーの方を見つめる。
「それを受け止める少年も少年だ。嬢ちゃんを前に怯むどころか真っ向から挑む姿勢…かなりの場数を踏んできたと見た、それにまだまだ全力じゃなさそうだしな…」
グレンは思わず身震いして冷や汗を一筋流す。かつて最強の
処刑人の正体について探りを入れた際、同時にギラの事情についても把握していた。あまりも荒唐無稽な内容で、最初はでっち上げだとグレンは思ったのだが、ダンジョンのボスを圧倒する攻撃力、この世界では再現することのできない技術の数々、そして極め付けは自身を潰しに全力で殴りかかってきた処刑人アリナを、手加減しながら互角に渡り合っていたことなど、様々な状況証拠より確信せざるを得なかった。
そしてグレンが一番懸念していることは、ギラの中に眠る強大な力についてだ。
「嬢ちゃんも潜在能力が計り知れないが、この小僧もよくわからねぇ…下手すりゃ、1人でヘルカシア消し飛ばすんじゃないのか…」
グレンが1人淡々と分析をしていた、その時だった。
ピシッ
と、何かがヒビ割れるような音が停止した空間の中で響く。慌ててグレンが辺りを見回すと、アリナの大鎚と、クワガタオージャーのオージャクラウンランスが交わっている部分から亀裂が生じていた。
「オイオイまさか…」
次第に亀裂は大きくなっていき、時の空間も揺れ始める。そして…。
パリィィィィィン!
とガラスの砕け散るような音と共に、アリナとクワガタオージャーは動き出した。
「あら?何か一瞬止まった気がしたんだけど…気のせいかしら?」
「うん?なんか巨人達がいっぱいいたような…夢?なのか…なっ⁉︎ジェイドさん達が、止まってる?」
状況が掴めず、辺りをキョロキョロとするアリナとクワガタオージャー。一方でグレンは、自身のスキルを物理的に破ってきた2人の強さにあんぐり口を開けてただ呆然と眺めていた。
「お、俺の観測部屋に入ってくるとは…ここは時間の流れから隔離され、俺以外の時は停止する———筈なんだが…少年は兎も角、嬢ちゃんは…やはりそうか」
アリナに対して、何かを確信したグレンは口角を上げ、途端に大声で笑い始めた。
「ハハハハハハハハハ!!降参だ、俺の負けだ」
グレンは自身の敗北を認め、指を鳴らす。刹那、止まっていた時間が動き出した。
「ん?」
ふと、アリナが自身の大鎚へと視線を移した。何やら違和感を感じた様子。その予感は見事に当たり、彼女の大槌の一部分が砕けていた。
「嘘⁉︎私のハンマーを、砕いた…?」
「え…、あ、ああ〜っ⁉︎アリナごめん!弁償!弁償するから!」
クワガタオージャーが変身解除し、ギラの姿に戻るとそのまま土下座する。アリナは渋い表情をしたが、その後ギラの肩をポンと叩いて一言告げた。
「別に、今回はいいわよ。時間が経ってまた発動すれば元通りになってる筈だし…、今回は、ね」
これで話は終わりとアリナはぷいっとそっぽを向いた。そしてギラは怒鳴られなかったことを安堵し、ホッとため息をついたのだった。
「嬢ちゃんの大鎚に傷をつけるとは、少年は只者ではないな…」
「あぁ、いやぁ…その…」
グレンの指摘にギラはしどろもどろとなってしまう。そんなギラの様子を先程のように豪快に笑い飛ばすと、グレンは口火を切った。
「これではっきりしたぜ。嬢ちゃんのスキルは、
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
この世界において、スキルというものは個々の特性となりえる武器なのだが、そのスキルを破れる方法の仮説が存在する。それは対象スキルよりも上位のスキルをぶつけるということだ。
つまり
しかし
そしてそのグレンの
「ん?そうなるとギラさんは…」
「確かに、スキルは使っていないのに不思議なのです」
仮説を通じて浮かんだ疑問をロウとルルリが零す。遂に話さなければならないと、ギラは一度深呼吸を挟んで2人の下へ歩みを寄せた。
「ロウさん、ルルリさん。そのことについてなんだけど…」
「待って、ギラの説明じゃ日が暮れるわ。ここは受付嬢として私が綺麗に纏めて教えてあげる」
ギラを差し置き、アリナが詳細を話し始める。
ギラは異世界から来た、
受付嬢として培った技術で簡潔に纏め上げたアリナの説明に、ロウとルルリは目を見開いた。
「じゃあギラさんのいる世界ってヘルカシア大陸の文明と比べてかなり発展しているのか⁉︎」
「不死身の身体に底なしの体力、巧みな剣術に飛び道具…もう1人でパーティの役割担えちゃうのですか⁉︎」
「う…うん、そうなんだ」
興奮を抑えられずに詰め寄ってくるロウとルルリに、ギラはだじだしとしながら首を縦に振るしかなかった。
「ハハハ、俺も初めて聞いた時は驚いたよ。まさか別世界があるなんて…」
「世界は無数にありますからねジェイドさん。世界どころか、宇宙を見渡すだけでも膨大な数の生命体がいますから」
「生命体ってどんなのがいるのよ?」
「えっと…ちょっと待ってね」
アリナに尋ねられ、ギラは徐に懐から携帯型デバイスの『キングズホットライン』を取り出した。現在チキューとの連絡は圏外となっていて不可ではあるが、アプリは使用可能のため、ギラは大宇宙知的生命体探索アプリを起動した。
「結果出た!この宇宙だけでね…M78星雲のウルトラ族、あとは星食いのブラッド族とか戦闘民族サイヤ人とかがいるね」
「星食いとか戦闘民族とか不穏すぎない?大丈夫なのこの宇宙⁉︎」
ギラからの報告に思わずアリナは突っ込みを入れる。他の面々も言葉にこそ出さなかったが、顔を引き攣らせていたため、アリナと同意見なのだろう。
「まっ、でもそんな都合良く宇宙人が攻めてきたりなんてするわけないわよね。私の平穏も約束されたので結構です。それでは、さようなら」
用は済んだ。そうとばかりにアリナは蹄を返して帰路に着く。自分の桃源郷であるマイホームにいち早く戻りたくて仕方がなかった。
「あ、アリナさん待ってくれ!」
「うるさいストーカー…もう関わってこないで…」
「あの、非常に言いにくいんだが…
新ダンジョンが発見されたんだ…」
「は?」
ジェイドの報告に、アリナは顔を真っ青にして絶望の淵に立たされるのだった。