皆様も体調管理にお気を付けてください
「ハァ…今日からまた残業か…」
白銀の剣からリストラを言い渡された翌日、アリナとギラはイフールへと戻り、其々元の生活へと戻っていた。
今の時間帯は朝方。アリナは受付嬢の業務に勤しみ、ギラは手頃なクエストに挑みつつ、元の世界へ帰還する手掛かりを探し求めていた。今までのように、アリナはクエストへ向かう冒険者達に愛想笑いを振り撒きながらその背中を見送り、事務作業に臨んでいたのだが、彼女の胸中ではなんとも言えない虚無感が渦巻いていた。
「(どうして…?これが私の望んだことでしょ…受付嬢としての平穏も戻って、またいつものように過ごすだけ…それなのに…)」
胸の中に潜む虚空…。その正体はアリナ自身でも分からなかった。心当たりとしてはジェイドを見送ったその時、ジェイドに重なって見えた彼の姿——。かつて自分の実家の酒場の常連だった冒険者、名をシュラウド。幼き日の己に酒場で冒険譚を、夢を語ってくれた彼は、ある日突然帰らぬ人となった。今思い返せば、冒険者としての職業上、仕方のないことだったのかもしれない。それでも、その出来事は幼いアリナの心を深く抉った。
「(あの日のことを思い出したからかしら…別に、シュラウドみたいに
「おい、おい…おい!!!!」
「へ…⁉︎あ、すみません…」
カウンターの前で声を荒げる赤い服の男性。確かライラが言っていたここ最近新しくやって来た顧客だっただろうか。厳つい見た目と近寄り難い雰囲気故に誰一人として話しかけなかったらしいが、見た目に違わない口振りだ。それは美人受付嬢として冒険者の男共を虜にするアリナ相手でも変わらない。
「この資料、借りてたもんだ。全部読み終わったから返却しといてやる」
「あ…はい、ご利用ありがとうございました…」
男は借りた本を重ねて、カウンターのアリナへと受け渡した。アリナの腕にずしっとした重みが伝わる。普段あの大鎚を担ぐ程の力があるというのに、足下もふらついた。
「重かったか?」
「いえ…お気になさらず…」
「…そうか」
男は俯いたアリナから何かを感じ取ったようだが、特に追及することもなく、そのまま背を向けてギルドを後にしようとする。が、一度振り返るとアリナにだけ聞こえるように小声で呟いた。
「邪悪の王は、もう白亜の塔に行ったみたいだぞ?」
男の言葉に、アリナは顔を上げる。しかしもうそこに男の姿はなかった。
「ギラが…白亜の塔に…」
何故男がギラのことを知っているのか、何故自分にそんなことを伝えたのか、まさか彼もギルドマスター達と同じく自身の正体を知っているのか、そんなこと考える余裕もなく、ギラが白亜の塔へ向かったという伝言が何度も何度も彼女の脳内でループしていた。
「ははっ…何考えてんのよ本当に。でも、ギラならやりそうか…あの馬鹿…きっと白銀の皆迷惑するわよ…」
渇いた笑いをしながら、アリナはギラに対して呆れ返る。しかしそれと同時に、行動に移ったギラをどこか羨ましくも思えた。
「(変だ…本当にどうしちゃったのよ私…)」
僕は… 誰にも死んで欲しくない…
帰って来てよ…シュラウドおじちゃん…
脳裏に蘇るギラとシュラウドの訃報を知った時の自分の悲痛な叫び。わかっている、自分がどう思っているのか、本当はどうしたいのかくらい。それでも受付嬢という立場上、その気持ちを押し殺すしかなかった。
そして深呼吸を挟んでもう一度笑顔を作ると、アリナは声を張り上げた。
「次の方、どうぞ」
「ふっふっふっ…ようやく私の番ですか」
アリナのカウンターに1人の冒険者の少女が現れる。少し長めの黒髪と宝石のような紅い瞳、赤い服に黒い外套とブーツ、トンガリ帽子を携えたその姿は如何にも魔法職。少女はマントをはためかせ、意気揚々とクエストを受注した。
「では、あのクエストを受けさせていただきましょう!我が魔法でダンジョンのボスを屠ってやります!そして私の名前を未来永劫冒険者達に語り継がせてやろうではありませんか!!」
仰々しく声を響かせ、決まったとばかりに紅い瞳を煌めかせる少女。勿論ギルドの人々の奇異なものを見る視線が一斉に少女とアリナへと向けられたのは言うまでもない。
「(私が担当する冒険者って何で変な奴らばっかなのかしら…)」
ジェイドといい、ギラといい、担当中の少女といい。おかしな者達に絡まれてばかりだとアリナは憂い、心の中で溜息を零すのだった。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
ギルドを後にした赤服の男は、空から垂らされたロープに乗って雲の上を漂う赤い海賊船、『ゴーカイガレオン』へと戻ると、船内のソファへ背もたれした。
「マーベラス、良かったの?王様のこと伝えて…」
「あん?口が滑っただけだ」
ナビィの懸念するような問いに赤服の男、マーベラスは特に気にする素振りもなく無愛想な表情のまま返答する。そしてソファから身を起こすと、レンジャーキーが大量に収納された宝箱の中からクワガタオージャーのキーを取り出して見つめた。
「ここに来たのも何かの縁だ…あの時手に入れられなかったお宝、今度は掴み取ってみるか…」
自身の手に収まるレンジャーキーを掲げ、マーベラスは不敵な笑みを浮かべた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
一方ジェイド達は、要求通りにルーフェスを白銀の剣へ加え、白亜の塔の四層へと向かっていた。当然ルルリとロウは難色を示したものの、アリナとギラの正体を暴露すると脅してきたルーフェスに逆らうことは出来ず、渋々首を縦に振るしかなった。
「(そういえば、ルーフェスのパーティの壊滅…あれには1つだけ不審点がある。3人の死体は、人間離れした攻撃痕から損傷が激しく、魔物による死なのは明らかだ…
でも1人だけ、剣のようなもので背中を滅多刺しにされて死んでいた…
あの場でそんなことが出来るのは…)」
ジェイドの懐疑な視線が、前を歩くルーフェスへと向けられる。しかしあの場でルーフェスがパーティを殺す理由も特にない上に、問い詰めれば寧ろアリナやギラのことをばらされるかもしれないがため、ジェイドはその件については飲み込むことにした。
「ようやく着いた…ここが…」
一行は四層の
「———ッッッ⁉︎⁉︎⁉︎」
暗闇の中、鼻を刺すような血生臭い悪臭がジェイドを襲った。ロウが魔法によって灯りを灯した後に一同の視線に映ったのは、無情にも切り刻まれた魔物だったものが転がっている惨状。
そしてその先に待ち受けていたのは、銀髪上裸の腹部に宝石のようなものが埋め込まれた男性だった。
「ま、まさか…あれが人の姿をした魔物…」
人型の魔物を前に、ジェイド達は戦慄する。格が違う、今まで相手をして来た魔物とは明らかに次元が違うのだと。威風堂々と立ちすくむその姿から威厳さえも感じる。
「
お前達は、あの紅い男のように私を満足させてくれるか…?」
人型の魔物はジェイド達を見据えると、新しい玩具を見つけた子供のように口角を上げた。
一方、息を切らしながら白亜の塔に向かう青年が1人——。
「待っててジェイドさん、ロウさん、ルルリさん!!」
邪悪の王、ギラ・ハスティーは赤い外套をはためかせながら、白銀の剣に加勢すべくエルム大峡谷の草原を駆け抜けるのだった。
中の人ネタ、偶に入れていけたらなと…
偶にマベちゃんはガレオンで上空から観察とかするので、そこでギラの動行を把握しております。