処刑人アリナさんと邪悪の王ギラくん   作:山田プロキオン

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今回ちょっと長めでアリナさん出てきません。ギラくんが登場するシーン、是非とも脳内で『我ら王冠を戴く戦士!』を流してみてください。

あと後書きにておまけコーナー始めました。人気があれば続くかも?


魔神とジェイドと邪悪の王

「人型の魔物…違う、私は人でも魔物でもない…」

 

 緊張に包まれ、沈黙が続いた四層の空気を破ったのは、意外にもジェイド達と相対する男の方だった。

 

人でも魔物でもない

 

 その言葉の意味に、白銀一同が困惑する現状を他所に、男は胸部の宝石のようなものを輝かせ、己のスキルを発動した。

 

「唱え、『巨神の暴槍(ディア・ストウム)』」

 

 刹那、男の足下にアリナのスキルと酷似した魔法陣が出現し、得物である三叉の槍が男の右手の中へと収まる。そして器用に槍を回すと、口を緩めて言葉を発した。

 

「私の名は、シルハ…魔神シルハだ」

 

「魔神…⁉︎アリナさんと同じ神域(ディア)の力を宿したスキルを使うのか…⁉︎」

 

「嬉しいぞ…あの醜く哀れな魔物共を始末してくれて…無限に湧き出てくるから殺すのも面倒になって来たところだった!!」

 

 シルハは話を終えるや否や、地を蹴ってジェイドへと迫り来る。その速さ、正に電光石火の如く、今まで対峙してきた魔物達とは一線を画す。

 

「なっ⁉︎スキル発動、『鉄壁の守護者(シグルス・ウォール)』!!」

 

 とはいえ、そこはやはり上級冒険者の集う白銀の剣の徒党の主。歴戦の勘から咄嗟に盾を構えて己のスキルを発動して見事にシルハの強撃を防いで見せた。

 

しかし…

 

「た、盾が、破損した…遺物武器(レリックアルマ)かつスキルで強化したってのに…」

 

 ジェイドを守護せし盾は、シルハの槍の一撃に完全に耐えることは出来ず、亀裂が生じていた。魔神の力の前に焦るジェイドとは対照的に、シルハは笑みを浮かべ嬉々とした様子であった。

 

「ほぅ、いい反応だ。そこらの魔物よりかは強いとみた。これは楽しめそう———」

 

「退くぞ!!」

 

 シルハが口から言葉を続けようとしたその瞬間、ジェイド達は既に退却に移っていた。先程の交戦において各々は感じ取っていた。シルハを倒すことは現段階では無謀だと。それ故逃げることが得策であると。ギルド最強の白銀だ、全滅する訳にはいかないのだ。

 

「スキル発動…『鉄牢の死刑囚(シグルス・プリズナ)』」

 

 ところが、突如として扉の前に堅牢な格子が出現し、ジェイド達の行手を阻んだ。予想外の事態に、白銀一同は動揺する。そして格子と扉の向こう側には下衆染みた顔でジェイド達を嘲笑するルーフェスの姿が。

 

「どういうつもりだ、ルーフェス!!」

 

 ルーフェスの行動の意図が分からず、ジェイドは声を荒げる。ルーフェスはそんなジェイドに臆することなく、蔑む様子で話し始めた。

 

「逃すかよぉ、目の上のたんこぶの白銀を潰す絶好の機会なんだからなぁ!!お前らは惨めにここで死んで果てな。あぁ、そうそう。冥土の土産にいいことを教えてやるよ。魔神は元々このダンジョンに封印されていたんだ、だがその封印を俺が解いてやった。人の魂を喰わせるのが条件だとさ、いやぁ大変だったぜ?」

 

「人の魂…。おい…ルーフェスお前まさか!!」

 

 ルーフェスの言葉を端々に潜められた邪悪。それを真っ先に読み取ったロウは狼狽と怒りの混じった様子で声を震わせる。そう、ルーフェスのパーティ全滅の真相は…。

 

「そのまさかだよ黒魔導士。あの雑魚共は

 

 

 

 

 

 

俺が殺した。魔神復活の贄のためにな」

 

 

 ルーフェスは己の悪業を何も悪びれる様子も無く上機嫌に語った。真実を聞いたジェイドとルルリは、言葉が出なかった。ただ気が動転するのみ。彼は己の目的の為に、慕う仲間すら平気で殺すのか、とても人の為す所業とは思えなかったのだ。

 

「どうして…仲間なのに…皆、ルーフェスを信じてたはずなのです…」

 

「甘っちょろいことを言うなぁ白魔導士?俺は白銀(お前ら)を殺せるのなら何だってするぜ?

 

魔神の存在はお前らを消すのに打って付け!!おまけに神域(ディア)スキルを宿した遺物(レリック)も手に入る!!全ては俺の計算通りだ!!」

 

 勝ち誇ったように、再度ルーフェスは笑い声を上げるとスキル解除せずに四層から遠ざかっていく。

 

「俺は遺物(レリック)を探しに行くとする。てめぇらは精々無駄に足掻くんだな。ダンジョン中に響く断末魔が楽しみ———」

 

 意気揚々としたルーフェスの言葉が突如途切れる。その途端、出口を塞いでいた格子は粉々に砕け散ると同時に、ルーフェスはその場に膝を突いた。

 胸部から腹部にかけて、そして口内から感じる異様な熱。同時に遠のきかける意識。恐る恐るルーフェスが下を向くと、血に染まった魔神の槍の先端が自身の腹から突き出していた。ジェイドとルーフェスが会話をしている際に消えた魔神の気配。そしてその気配はルーフェスの後ろから再度露わになった。

 

「ど、どういうことだ…封印を解いた奴は…殺されねぇって…」

 

 先程の余裕は消え失せ、掠れ気味の声で何とか言葉を紡ぐルーフェス。そんな彼をシルハは鼻で笑い、ルーフェスの腹から槍を引き抜いた。

 

「私の視界に入った者は余すことなく喰われる定め。それにしてもそれが貴様の術か?まるで紙のようだったぞ?魂の味といい、なんとも卑小で稚拙で、惨めな男だ

 

…しかし感謝はしておいてやろう!貴様の浅はかな目論見のお陰で、私は自由を手にしたのだからなぁ!!」

 

「あ…あ…お…れは…」

 

 その言葉を最後に、ルーフェスの身が起きることは終ぞなかった。己の血の池に力無く身を預け、心臓の鼓動も完全に途絶えた。シルハは次の獲物とばかりにジェイド達へと視線を移すと、怪しく笑って尋ねた。

 

「さて、お前達はあの紅い男のように私を満足させてくれるか?」

 

 

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

「(どうする?シルハの攻撃は俺達のスキルを容易く打ち破る…真正面から戦って勝てる相手じゃない…)」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で、ジェイドはシルハを睨みつける。魔神相手に対抗策も見つからず、ジェイドをはじめ白銀の者達の心の奥底を焦燥が蝕み始めていた。

 

「どうした?来ないのならこちらから行かせてもらうぞ!」

 

 一向に動きを見せない白銀を前に、シルハは我先とばかりに駆け出す。真っ先に狙いを定めたのは己の攻撃に対応してみせたジェイドだった。

 

「伏せろリーダー!『竜蛇炎(イグニス)』!」

 

 ロウが飛び出し、シルハへの牽制のためにスキルを発動し、揺らめく二対の炎を顕現させる。解き放たれた火炎は不規則な軌跡で魔神へ迫った。

 

「何だ?このありきたりな小細工は?」

 

 案の定というべきか、シルハは腕の一振りで簡単に炎は消え失せてしまった。しかし、その隙こそジェイドとルルリの狙いだった。ここぞとばかりにルルリは自身のスキルを発動し、ジェイドに回復役(ヒーラー)の加護を授ける。

 

「『不死の祝福者(シグルス・リバイブ)』!!」

 

 ロウの炎の渦を破り、シルハの槍がジェイドへと肉薄してその肉体に傷を負わせる。ところが次の瞬間、ジェイドの傷口はみるみる塞がっていき、まるで攻撃を受ける前と全く同じ状態に戻った。

 

「再生能力を与える術か…面白い…」

 

 シルハは頬を緩めると、再び腹部の宝石を煌めかせる。その輝きに呼応するかのように巨大な姿見がルルリの前に出現した。

 

「唱え、『巨神の妬鏡(ディア・ドレイン)』」

 

 シルハのスキルが発動し、鏡からの光にルルリが包まれる。咄嗟に閉じた瞼をルルリが開けると、彼女の手元にあった杖が無くなっており、その杖はシルハの手の中に収まっていた。

 

「私にこの棒は不要だ。貴様の術さえ手に入れば良かったからな…」

 

「え⁉︎ 『不死の祝福者(シグルス・リバイブ)』!!」

 

 魔神の言ったことに驚きながら、ルルリは己のスキルを発動させようと両手を前に翳す。しかしいつものようにスキルは発動することはなかった。顔を青く染めるルルリを横目に、シルハは嘲るように杖をへし折って投げ捨ててしまった。

 

「スキルが、なくなってるのです…杖もないから魔法も使えない…私、何もできないのです…」

 

「標的の力を根こそぎ奪う神域(ディア)スキルか…」

 

「これだけではないぞ?唱え、『巨神の裁剣(ディア・ジャッジ)』」

 

 シルハは更なるスキルを発動し、空中に無数の魔法陣が出現する。さらに魔法陣からは無数の刃がジェイド達に狙いを定めるように顔を出しており、まさに袋の鼠状態だ。

 

「(各個確定スキル…⁉︎狙った全ての標的に攻撃を同時発生させて、ほぼ確実に仕留める暴力的なスキル…)」

 

 冷静に分析をしつつ、ジェイドは後ろのロウとルルリに視線を向ける。シルハのこの攻撃は、余程の身体能力を有していなければ回避は絶望的。防御力の低い後衛職のロウとルルリは、一撃を受けたらほぼ間違いなく即死。リーダーとして、2人を死なせるわけにはいかない。一瞬の内に脳を活性化させ、ジェイドは現状の最適解を導き出し、ロウとルルリに告げた。

 

「ロウ、ルルリ。こいつは俺が引き受ける。その隙に逃げろ」

 

「⁉︎何言ってるんだリーダー⁉︎」

 

「いいから行け!!スキル発動、『終焉の血塗者(シグルス・ブラッド)』!!」

 

 ジェイドがかつてない程の大きな声でスキルを唱える。次の瞬間、魔法陣の刃は全てジェイドの方へと強制的に方向転換させられた。

 

「ジェイド!そのスキルは周囲の仲間へ向けられた攻撃を全て自分へ向けるもの…私のスキルと合わせて有効に使えるのです…この状況で使うなんて自殺行為なのです!!」

 

「面白い…人間にしては肝がすわっているではないか。その身に受けるがいい、我が裁きを…」

 

 シルハの合図と共に魔法陣から剣の雨がジェイドに襲いかかる。鋭利な刃はジェイドの腹を、足を、そして腕を容赦なく貫き続けた。

 

「かはっ⁉︎」

 

 最強の盾役(タンク)といえども、神域(ディア)スキルの猛撃にはその肉体も悲鳴を上げ、ジェイドは膝を突いて吐血した。

 

「ッッッッ⁉︎ジェイド⁉︎」

 

「来るなルルリ!ロウ、頼む!!」

 

 ジェイドは自身を案じて駆け寄るルルリを突き放し、ロウに指示を出す。ロウもその指示を不本意に思いながらも、ルルリを担ぎ出口へ向けて走り出した。

 

「何をするのですロウ⁉︎このままじゃジェイドが…」

 

「俺だって嫌だよ…でも、リーダーの覚悟なんだ…」

 

 唇を噛み締めながら身体を震わせるロウに、本心は自分と同じなのだとルルリは察した。同時に、シルハによる次の攻撃の準備が始まる。再度魔法陣から剣が出現し、ジェイドへと切先を向けている。次にこの刃の嵐を受けては、さしものジェイドでも立っていられないかもしれない。それでも仲間達のため、ジェイドは盾役を買って出る。

 

「我が攻撃を受けて立っていたのはお前が初めてだったが、これで終わりだ、散れ!!」

 

 無慈悲な悪夢が、ジェイドに再び迫った。

 

「ジェイドーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オージャフィニッシュ!!』

 

 が、シルハの攻撃がジェイドに命中することはなかった。何処かから飛ばされた無数の赤い光刃が魔法陣を全て破壊したのだから。突然の出来事に白銀は勿論、シルハでさえも驚きを隠せていなかった。

 そして光刃を飛ばした張本人が、足音を鳴らしながら一同の前へ参上する。紅い鎧にその身を包み、外套をはためかせながら悠々と歩みを進める姿は正に王に違いない。

 

「ぎ…ぎ…ギラさぁぁぁぁぁん!!!!」

 

 頼もしい助っ人の登場に、ルルリは両目から滝のような歓喜の涙を流しながら乱入者の名を叫んだ。

 ギラもといクワガタオージャーはそのままジェイドの前に進むと、手を差し伸べてジェイドの身を起こすのを手伝った。

 

「ギラさん…」

 

「ジェイドさん、貴方は僕に言いましたよね。僕を待っている民がいるって。でも、それはジェイドさんも同じですよ。

 

ロウさんが、ルルリさんが、そしてアリナが!貴方の後ろにいて、貴方の帰りを待っているんです…

 

 

民を守るのが王の務め…

だから僕は、僕の意思で、貴方達を守る!!」

 

 自身の意思を伝えてヤンマとヒメノ特製の携帯回復薬をジェイドに手渡すと、クワガタオージャーはシルハの方へ向き直り、オージャカリバーの柄を力強く握り締めた。

 

「恐怖しろ、そして慄け…白亜の塔を彷徨いし人の(なり)をした(あやかし)…貴様を葬る者達は、

 

 

白銀の剣と邪悪の王、ギラ・ハスティー!!」

 

 




おまけ:ジェラミー相談所

 俺の名はジェラミー・ブラシエリ。このコーナーは、狭間の国の王たる俺が物語に登場する者達の相談を受けるというもの。裏話も聞けるかもしれないねぇ。今日のゲストは、前回アリナに受付して貰った魔法職の冒険者、M氏のようだ。

「ジェラミージェラミー」

「ジェラミーさ」

「あのですね〜、私って今後出番あるんですかね〜。なんか風の噂によるとあのアリナとか言う人物との絡みのためだけに出されたと言われているのですが…」

「まぁ、お前さんはメタ的にも性格的にもあの世界では扱い辛いだろうからねぇ」

「おう!性格的に扱い辛いとはどういうことだ!詳しく聞かせてもらおうじゃないか!」

「おっと、お前さん何をする気だい?」

 M氏は俺に小さなその体躯を寄せ、握り拳を作って肩や腹にポカポカと打撃を繰り出した。 

「売られた喧嘩は買ってやりますよ!!痛いと言おうがやめるつもりはありませんからね!!」

 まぁ、痛くは全くないのだが。とはいえこのまま不機嫌でいられても困るから、いい感じに幕引きといこうか。

「まぁまぁ落ち着きなさいな。こういう時こそ行間を読むべきさ」

「行間…ですか?」

 M氏は拳を振るうのを止め、懐疑的な、所謂ジト目というやつで俺を見つめる。あと一押しかな?

「とある人気投票で水の女神と女聖騎士を出し抜き1位となり、とある妖怪ゲームでは環境キャラとして君臨し、番外編も作られるお前さんを出したんだ。そう雑に終わることはないだろうよ…」

「むぅ…本当ですか?」

「そうだとも。もしかしたらギラや処刑人達のピンチに颯爽と現れて見せ場を貰えるかもしれないだろう?」

「見せ場…おおっ…」

 M氏は曇り顔から一転、晴れやかな顔つきとなって紅い瞳を煌めかせる。やれやれ。年不相応に賢いと自称しているが、内面には子供らしい部分もあるようだなぁ。

「ピンチに颯爽と現れる…。けしからんおっぱいをした小説家志望の知り合いが語ってくれた最高のシチュエーションの1つじゃないですか!よぉし、今からでもスタンばっておきますよ!待っててください、邪悪の王に処刑人!」

「まぁ頑張りなさいな」

「因みに出番がない場合は責任とってジェラミーが私の日課(爆裂散歩)に付き合ってくださいね?



毎日!!」

「…おっとぉ」


 拝啓、母様。俺は2000年生きてきて初めて間違った慰めをしてしまったのかもしれない…。
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