処刑人アリナさんと邪悪の王ギラくん   作:山田プロキオン

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白亜の塔の一件の時のアリナサイドの出来事です。

遅くなりまして申し訳ございません。


私の力で出来ること

 夜のイフールカウンター。星々を照らす月がもう中央を陣取る夜更け頃。アリナはライラと共に事務室で書類整理に追われていた。

 

「あ"〜、なんで深夜残業なんてしなきゃなんないのよ…」

 

「ほんとですよね先輩…」

 

「何他人事のように言ってるのよアンタ!元はといえばライラのミスのせいでしょうが!!」

 

「うぐっ⁉︎そういう先輩こそ!先輩が担当したパーティが原因で来ている書類も4割くらいあるじゃないですか!!」

 

「ぐぬぬっ⁉︎し、仕方ないでしょ⁉︎衝動のままにダンジョンで爆裂魔法扱う冒険者がいるなんて思いもしないじゃない!!」

 

 売り言葉に買い言葉で、互いに愚痴を言い合う両者。その後不毛な言い争いは暫く続いたのだが、埒が明かず時間の無駄と悟ったアリナが作業に取り掛かろうと強引に締める形で終わった。

 

「(白亜の塔…受注は白銀の剣だけに制限されてるわね…まぁ、強豪のルーフェスのパーティが全滅なんてしたらそれはギルドからも警戒されるわよね…お陰でクエストの受注数は減ったのだからいいのかもしれないけど…)」

 

 アリナはどこかすっきりとしない様子だった。グレンとの約束通り処刑人の探索は打ち切られ、副業禁止による受付嬢クビの危機も免れた。白銀にもルーフェスという攻撃役が加わり、これ以上白銀に関わる必要も無くなったというのに。

 

「(ギラが白亜の塔に向かったとも聞いたし、万が一の事態もなんとかなる筈…)」

 

「そういえば先輩〜、処刑人様と紅鎧様の後釜がルーフェスらしいですよ〜。なんか納得出来ませんよね〜?」

 

「なんで?」

 

「だってイケメンじゃないんですよ⁉︎冗談じゃありません!何でギルドは捜索を諦めちゃったんだァァァァァァァァ!!!!」

 

 悲痛な叫びを上げながら、ライラは机に突っ伏せる。そんなライラを横目に、アリナは懐から小さな赤い結晶片を取り出した。

 

「(導きの結晶片(これ)が反応していないってことは、問題ないってことだし…私が出向く必要はない…また明日にでもジェイド(アイツ)に返すか…)」

 

 机の引き出しを開け、結晶片を仕舞おうとしたその瞬間。アリナの頭に電流のようなものが走った。

 咄嗟に目を瞑るアリナ。次に目を開けた時には自分は真っ白な空間のような場所にいた。突然の事態にアリナは戸惑いながら辺りを見回した。

 

 "ア…リナ…、アリナ…クローバー…"

 

 突然背後からする声に、アリナは振り向く。そこには機械仕掛けの紅いクワガタのような生物が、鋏を鳴らしながらアリナを見つめていた。

 普段のアリナなら、この時既にスキルを発動して攻撃を仕掛けるのだが、不思議と敵意は湧かなかった。寧ろ、目の前の未知なる生物に親近感さえ覚えた。

 

「アンタ何…?ギラと似た感じがするけど…」

 

 "我の名はゴッドクワガタ…ギラの中にいるシュゴッド。遠くの地の白亜の塔にて、ギラと白銀に危機が迫っている。今はまだ瀕死というまでではないが、それでも苦戦は免れない…"

 

 ゴッドクワガタなるモノからの知らせに、アリナはハッと息を呑む。同時にアリナの脳内にジェイドとクワガタオージャーがボロボロになりながら人型の魔物と戦う様子が流れ込んできた。クワガタオージャーはまだしも、ジェイドはあと数発攻撃を受ければ瀕死状態に陥るだろう。衝撃に言葉を失うアリナに、ゴッドクワガタは続ける。

 

 "ギラを…そしてジェイド・スクレイド達の下へ向かえ…"

 

 その言葉を最後にゴッドクワガタは姿を消し、アリナも元の事務部屋へ戻っていた。

 

「先輩?どうかしましたか?」

 

 黙り込むアリナをライラは覗き込んで声をかける。しかしアリナは、応答することなく勢いよく椅子から立ち上がると、イフール・カウンターを一目散に飛び出した。

 

「あ、アリナ先輩…⁉︎」

 

 ライラの呼び声はアリナに届かず、虚しく事務室に木霊すだけなのだった。

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

 暗闇で先がよく見えない夜道をアリナは走り続ける。何が原動力となって彼女を急かすのか、アリナでもわからなかった。

 

 冒険者である以上、ダンジョンへ向かって魔物と戦い、最悪命を落とすなど当たり前だ。それは冒険者となった彼らの自己責任。それが嫌だからこそ、アリナは受付嬢という道を選んだ。残業が苦しくとも、不安定な生き方は避けたかった。

 

 白銀の代理とされた時は、心底拒絶反応があった。しかしその際の白銀との交流を、心のどこかで悪くないと思ってしまった自分もいた。絆されたのだろうか。それとも彼らとの交流がシュラウドとの日々を思い起こしたのだろうか。

 ジェイドは成果のために、危険を冒そうともダンジョンへ行く、それが白銀の仕事なのだとアリナに語った。馬鹿だと思った。死んだら元も子もないというのに。そして白銀を外されたというのに個人の感情でジェイド達の下へ向かうギラも馬鹿だ。そんな奴らを助ける義理がどこにあるのか。放っておけばいい———。

 

 "シュラウドはもう、帰って来ない…"

 

 "自分の中の力で出来ること、それは他の誰でもない、自分でしか決められないから"

 

「ああ…私も、大概馬鹿なのね…」

 

 受付嬢になってから今まで、冒険者の訃報は幾度となく耳にした。表面状は割り切りつつも、アリナの心には影を落としていた。何故無謀な戦いとわかっていて挑むのか、何故命よりも成果を優先するのか。

 

 名誉?威厳?誇り?そんなことのために?

 

「冗談じゃないっての…」

 

 ギラもジェイドも愚かだ。そんな愚か者達が二度と帰って来ないかもしれない。その可能性をアリナは許せなかった。そうなるくらいなら、自分がダンジョンから引き摺り出してでも連れ帰る。それが自分に大きなリスクを齎そうとも——。そう、それこそが、

 

 

自分の中の力で出来ること。

 

「おうアンタ、そんなに急いでどこに行くんだ?」

 

 ふと前からした声に、思わずアリナは足を止めた。声をかけた主は、赤い服を身に纏い、威厳ありげに腕を組んでいる。昼に自分のカウンターに資料を返却してきたあの青年だった。

 

「アンタには関係ないでしょ…ていうか今夜遅いのよ?早く家に帰りなさいよ…」

 

「ほぉん。受付嬢の癖に随分と荒い口だな?それが処刑人としてのアンタの本性か?」

 

 男の言葉に、アリナは瞬時にスキルを発動させ、大鎚を出現させる。両手で大鎚の柄を握り締め、打撃面を男へ向けて威嚇した。

 

「だったら、何?私には行かなきゃ行けない場所があるの…。そこを退いてくれないかしら?」

 

「行きたきゃ行けばいい。だが、お前の向かおうとしている転移装置には衛兵が大量にいる。話をつけて向かうとなりゃ、時間はそれなりに食うぞ?」

 

「………」

 

「ったく、考え無しに来たのか。ま、俺も白亜の塔に用があるんだ。一緒に来るか?」

 

「はぁ?誰がアンタなんかと…。それにアンタは冒険者じゃないってのに行く理由がどこにあるってのよ!!」

 

 男の意図が読めず、声を荒げるアリナに、男は不敵に笑って回答した。

 

「どこにだって理由はある。俺はそこに欲しいものがある。欲しいものは全部自分の手で手に入れる…それが、海賊ってもんだろ?」

 

 男は懐から戦士を模した鍵『レンジャーキー』と、携帯型デバイス『モバイレーツ』を取り出し、レンジャーキーをモバイレーツの鍵穴へと差し込んだ。

 

「ゴーカイチェンジ!」

 

『ゴーセイジャー!!』

 

 刹那、男の肉体を赤い光が包み込み、0.1秒の間で姿を変える。地球を守る天使の使命を受けて、嵐と竜の力を司る赤の戦士、ゴセイレッド。

 

「ギラと同じ…姿が変わった…」

 

「ぼさっとしてんな。行くぞ?ゴセイカード、天装!」

 

 ゴセイレッドは左腰に備えられたテンソウダーを手に取り、テンソウダーの口部分にあたる天装スロットを展開させる。さらにベルトから1枚のゴセイカードを取り出すと、テンソウダーへ装填、カードを飲み込ませるようにして天装術を発動した。

 

『アウトブレイク!スカイックパワー!』

 

 忽ちゴセイレッドとアリナの周りに風が発生し、勢いを増して竜巻へと変わる。

 

「ね、ねぇ。大丈夫なのこれ?」

 

「慌てんな。舌噛むぞ?」

 

 慌てるアリナを他所に、ゴセイレッドは淡々とした様子で宥める。やがて竜巻は2人を包んだまま、何処かへと誘うように突然として消えてしまった。

 月と星々が照らす夜道には、先程までの騒がしさはなく、静寂だけが残されていたのだった。




おまけ:ジェラミー相談所②

 やれやれ、子供の相手も疲れるもんだ。あれからM氏は彼女の腐れ縁であり親友のY氏と小説家志望の友達のA氏に引きづられていってなんとか事なきを得た。それにしてもA氏の感性は、語り部の俺に響くものがある。今度彼女の小説を拝読させてもらおうかな。
 おおっと、そうだった。今日の相談者はスレイ・ゴースト氏のようだ。何やらアリナやギラにこってり絞られたことで心に深い傷を負ってしまったようだねぇ。そのせいか、幾分か丸くなっているように感じる。

「アノショケイニン、コワカッタ…アカイヨロイノヤツモ…」

「そうかい、怖い思いをしたんだねぇ…」

 俺はスレイに寄り添い、肩をポンポンと叩く。彼の行ったことに対しての同情の余地はないに等しいのだが、ここは相談所だからそんな感情は廃して臨まなければいけない。それにしても相談所というよりカウンセラーなのでは、という内なる疑問が湧いてくるが、それは無視だ。

「お前さんのやったことは決して許されることではない。だが、過ちから道を正すことが出来るのも人間の良さだ。反省してこれからは一級冒険者としての責務を果たせるようにな」

「おう…わかった」

 スレイは目尻に浮かべた涙を袖で拭った。彼も前を向いて進んでいけることを願うばかりだ。

「おっと、そういえばお前さん宛にお便りが届いているねぇ。え〜とアクセルの街在住、ニックネーム"マリン"さんより。

『スレイとアリナの絡みを天界に戻った時にテレビ越しに見てたけどまんまうちのヒキニートと爆裂っ娘ね。見ていて面白かったんですけど!プ〜クスクス!!』

とさ」

「え…よりによって俺…そこはジェイドとか王様気取りのあいつとかとのやり取りを見るもんじゃねぇのか?ていうかヒキニートって…」

「う〜ん、人の好みはそれぞれ自由であり優劣はないからねぇ。それよりスレイ。窃盗(スティール)と言ってみてくれ」

「ん?窃盗(スティール)

「次に狙撃(そげき)

狙撃(そげき)!」

「最後に駄女神」

「だ、駄女神…これなんなんだ?」

「よし皆、今日はここらで幕引きといこうか」

「いや待て!最後に言わせた謎語録のオンパレードはなんなんだよ⁉︎」

 スレイはすっかり元気になったみたいだ。もう心配いらないかもねぇ。さてさて、次回は誰が来るのやら。
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