処刑人アリナさんと邪悪の王ギラくん   作:山田プロキオン

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遅くなってすみません。
昨日テガジューン様がレッド、ブルー、イエロー、グリーン、ブラックに五分身して街を破壊する悪夢を見ました。

五等分じゃなくて五倍の花嫁…

あと今回から結構原作と乖離していきます。ご注意下さい。


邪悪の王、死す?

「どうした?そんなものか?」

 

 魔神シルハは、肩で息をするクワガタオージャーとジェイドを前に嘲るように笑う。ジェイドはともかく、宇蟲王の分身で不死身であるギラも一応は人間。当然攻撃を受ければ傷を負い、消耗もする。

 対する魔神はどうだ。スキルを何度も発動しても、戦線に出ているジェイドと違って疲弊する様子は微塵もない。

 

「おかしい…魔物だって生き物。スキルを使えば俺達人間のように体力を使う筈なのに…」

 

「ジェイドさん…アイツの耳元になんか、六芒星みたいな印が…」

 

 クワガタオージャーからの情報に、ジェイドが目を見開き、自身の盾に目を移す。ジェイドの盾にも、クワガタオージャーが見た印が刻まれていた。

 

「ギラさん、あれは先人達が遺物(レリック)に必ず刻む完全なるものの証…それがあの魔神にあるってことは…」

 

「じゃあアイツも…遺物(レリック)ってことですか?」

 

 シルハの正体に、一同の間で激震が走る。自分達が相手しているのは魔物ではない、白銀をはじめとする上級冒険者が用いる武具と本質的には同じ存在という事実に。

 

「(それならアイツに疲労の概念がないのも納得だ…そして遺物(レリック)なら先人達が作った存在。これは一筋縄じゃいかない。力が奪われることを懸念してギラさんも全力を出せないし…)」

 

 ジェイドの額を、汗と血が入り混じったものが伝う。対するシルハは、存外余裕とばかりに再度魔法陣を空中へと展開した。

 

「唱え、『巨神の裁剣(ディア・ジャッジ)』!!

 

 空間に無造作に出現した魔法陣から顔を見せる刃は、未だ終焉の血塗者(シグルス・ブラッド)を発動しているジェイド目掛けて集中砲火を繰り出す。この一撃を受けてはジェイドは確実に息絶えてしまう。

 

「ジェイドさん!!」

 

 咄嗟にジェイドを突き飛ばし、クワガタオージャーが刃の的へ割って入る。シルハによって繰り出される短剣の雨は、無慈悲にクワガタオージャーを刺し貫いた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 攻撃を全てその身に受けたクワガタオージャーは変身解除し、ボロボロの状態で自身の血で出来た溜まりに力無く体を預けてしまった。

 

「「「ギラさぁぁぁぁぁぁん!!!!」」」

 

 ジェイド、ロウ、ルルリは戦闘であることも忘れて、一目散にギラの下へと集まる。自身らも助けに来たギラですら、魔神の凶刃の前に倒れてしまった。嘗てない絶望感が彼らの胸中を染めていた。

 

「ギラさん、おいしっかりしてくれ!」

 

「そんな…ギラさん…」

 

「目を開けてくださいなのです…ギラさぁん…」

 

 3人に体を揺さぶられるも、ギラが目覚める気配はない。ギラ自身が持参した携帯薬も、ジェイドが使用してしまった。追い討ちをかけるように、シルハは白銀達に向けて再度スキルを発動させた。

 

「人間にしては楽しめた。だが、これで終わりだ——」

 

 魔法陣から出現する千万無量の短剣が照準を白銀達へと定められる。魔神の短刀の群れが今度こそ白銀達も血祭りへと誘う。

 

かに思われたその時。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 突然何者かが奇声を上げながら乱入し、その手に持つ大鎚でシルハを強く叩きつける。予期せぬ不意打ちを前に、シルハは攻撃を受けて壁へと吹き飛ばされ、衝撃と共に土煙が生じた。

 土煙がやがて晴れ、乱入者の姿が露わとなる。所々切り傷のある受付嬢服を身に纏い、長い黒髪と翡翠色の瞳の少女——。

 

「あ…アリナさん」

 

「来てくれたのですか…?」

 

 アリナまでやって来たことに驚くジェイド達。対するアリナはジェイド達の方を振り向き、倒れ伏すギラの下へと歩み寄った。

 

「アンタ達…一流の冒険者なんでしょ…特にジェイド、そんな傷だらけになって…死んだら終わりだったのに…バカ…」

 

「アリナさん…」

 

 いつになく真っ直ぐな怒りの籠った、けれども心の底から心配する瞳でアリナはジェイドを睨む。その後目線を下へ移し、未だ目覚める気配のないギラを見つめた。

 

「助太刀に勝手に出向いて、そのくせ真っ先に死んだの?

 

ねぇギラ、アンタ不死身なんでしょ?ならあんな奴の攻撃くらいで寝てんじゃないわよ…

 

起きなさいよ…いつもみたいに僕、不死身だからって返してよ、五月蝿い高笑い上げなさいよぉ…ねぇ!」

 

 瞳孔と声色を震わせながら、アリナはどこか懇願するようにギラへと呼びかけた。それでもギラからの返答はない。

 耐えられなくなったアリナの2つの瞳から光の雫が流れ落ちる。ここに来る時に誓ったのに、クエストで死ぬくらいなら自分が引き摺り出してでも止めると決めたのに。シュラウドの二の舞は嫌だから、その一心だったというのに、現実は残酷でしかなかった。

 

「成程。この私を吹き飛ばすとは、面白い小娘だ…」

 

 同時に、アリナの攻撃で倒れていたシルハがむくりと巨体を起こした。アリナの一撃によって追った筈の傷が、ルルリから奪ったスキルにて回復していく。

 

「まだ、生きてんのか…」

 

 生気の感じられない声で、アリナは淡々と零す。振り向きざまに光の消えた瞳孔に映し出された魔神に、今までにない殺意の波動、破壊衝動に駆られ、大鎚の柄を万力の握力で握りしめた。

 

「ぶっ潰す…」

 

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

 地面を力強く蹴り飛ばし、アリナは魔神目掛けて飛び出す。両腕で身の丈以上にある大鎚を器用に回転して頭上まで持って来ると、勢いに任せて振り下ろす。だが…

 

「無駄だ、『巨神の暴槍(ディア・ストウム)』」

 

 シルハは己の得物である大槍で一突繰り出し、真正面からアリナの大鎚を受け止める。槍と大鎚がぶつかり合って膠着状態、拮抗しているかのように見える。だが、実際はアリナの方が押されていた。純粋な力勝負では、シルハの方がアリナを上回っているのだ。

 

「(だったら…)」

 

 フッという風を切る音と同時に、アリナがシルハの前から姿を消す。次の瞬間、目にも止まらぬ速さで四方八方から猛撃の嵐がシルハの肉体を穿ち抜いた。

 

「人間だというのにこの速さ…」

 

 シルハは内心驚いていた。白銀やクワガタオージャーが自身と戦闘を繰り広げた際も、ここまでの速度で攻撃を繰り出されたことはなかった。ましてや、今アリナが見せている速度が人間が出来るものとすら思っていなかった。

 そしてアリナは再度シルハの正面へとやって来て懐へ潜り込むと、低重心からの大鎚によるフルスイングを叩き込んだ。

 

「ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 怒りのままに繰り出されるアリナの一撃は、シルハの巨躯を吹き飛ばし、再度壁の方へと吹き飛ばした。

 

「やったか…?」

 

 緊張に声を震わせながらジェイドはアリナをちらっと見る。アリナが息切れしている様子から全力を叩き込んだのは想像に難くない。

 頼む。これで終わってくれ、これで魔神との激戦に幕を下ろしてくれ、と白銀の面々が切に願った。しかし、現実は非情だった。

 

「唱え、『巨神の裁剣(ディア・ジャッジ)』」

 

 四層の間にシルハの詠唱が響き渡り、出現した数多の魔法陣がアリナを四方八方から囲む。発動されたのは各個確定スキル。狙った全ての標的に攻撃を同時発生させて、ほぼ確実に仕留めるもの。

 アリナはジェイドのように耐久力に特化している訳でもなく、服も軽装な受付嬢服であるため、一撃でも喰らえば、即死。

 

「(駄目…間に合わない…)」

 

「アリナさん!!」

 

「リーダーよせ、もうギラさんの携帯回復薬ないんだ!ここでまた『終焉の血塗者(シグルス・ブラッド)』使うんなら死ぬぞ!!」

 

「ロウ…でも…」

 

 ロウに必死に抑えられ、ジェイドは俯いて下唇を噛み締める。今の自分達には何もできない、白銀の剣であるというのに。

 そうこうしている間に、銀色に輝く無数の刀身は、魔法陣より勢いよくアリナ目掛けて射出された。

 

「くっ…⁉︎」

 

 アリナは迫り来る無数の短剣を身軽な身のこなしでなんとか回避していく。数々の死線を潜り抜け培った俊敏性がここに来て役に立った。しかし銀剣の雨は止まることを知らず、遂にその刃がアリナの懐に迫った。

 

 万事休す、最早これまで。そう思われた時だった。

 

『パピヨンフリーザー!!』

 

 突如として冷気が発生し、シルハの出現させた魔法陣と短剣を全て氷結させ、ギリギリのところでアリナは貫かれずに済んだ。

 

「今の技って…」

 

 アリナはジェイドと一緒に背後を振り向く。そして自身らの瞳に映り込んだ光景に息を呑んだ。

 

 服をボロボロにしながら、身体中彼方此方から血を流しながら、それでもオージャクラウンランスを杖代わりにして笑っているギラの姿が、そこにはあった。

 

「ギラさん、生きてる…のか…」

 

「生きてますよジェイドさん。ごめんなさい、思ったより疲労とダメージが大きくて気絶しちゃって…」

 

「ギラさん…本当に良かった…」

 

 ギラは申し訳なさそうに深々と頭を下げる。そんなギラに対してジェイドは気にするなとばかりに肩を叩く。何はともあれ、ギラが生きていたことにロウとルルリも喜んだ。しかし…。

 

「あれ、アリナ…⁉︎」

 

「アリナさん?」

 

 無言のままアリナは靴音を響かせ、ギラの方へ歩み寄る。そして…。

 

 

 

 

パシッ!!

 

 

 快音が響くと同時にギラの左頬に紅葉が舞った。真っ赤な手形をギラに作ったのは勿論アリナ。ギラ、そして白銀の剣は予想外の反応に皆目を丸くした。

 

「えっ…あ、あの…アリナ…なんで僕の頬叩いて…」

 

「紛らわしいわよ…不死身不死身って言いながら声かけても起きないし、そのくせ都合のいいタイミングで目覚めるし…

 

 

 

私の心配を、涙を返せこの邪悪の王がァァァァァァァァ!!!!」

 

 下を向いていた面を上げ、アリナは物凄い剣幕でギラを睨み、溜まっていたものを一気にぶちまけた。

 しかしぶちまけたのは怒りだけではない。その証拠に宝石のような翡翠色の瞳からは、滝のように涙が溢れ出ていた。

 

「アリナ…ごめん、心配かけて…」

 

「グスッ…本当に反省してんなら、さっさとあいつ片付けるの手伝ってよ…まだ、仕事残ってんだから早くギルドに帰りたいの…」

 

「…ああ」

 

 会話を終え、アリナとギラは、腕を組んで仁王立ちしているシルハの方へと向き直った。

 

「私の攻撃を受けて生きているとはな…まだまだ楽しめそうだ…」

 

「ジェイドさん、もしアリナに攻撃が届きそうになったら、守ってあげてくれませんか?僕だけじゃ、心許ないので…」

 

「わかった、任せてくれギラさん!」

 

「ちょっと、何で2人で勝手に話進めてんのよ⁉︎守りなんていらないから!攻撃なんか受ける間も無く終わらせるから!!」

 

 魔神との決戦は最終局面へ移ろうとしているというのに、まるでどこか緊張間のない白銀の面々。果たして邪悪の王達は魔神を打ち倒すことが出来るのだろうか。




一応補足しておきますが、アリナは別にギラに恋愛感情は抱いていません。どちらかというとシュラウドに対して抱いていた感情に近いです。




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