処刑人アリナさんと邪悪の王ギラくん   作:山田プロキオン

32 / 35
またまた遅くなりました、先の展開がなかなか思いつかなくて難産しておりました。

申し訳ございません。


第4章:厄災の兆候
暗躍する謎の鎧


「まったく…なーにが『処刑人(わたし)紅い鎧戦士(ギラ)に惜しみない賛辞と栄誉を』よ!!美化し過ぎだしギルドマスター何やってんのよ!!」

 

 ここは『喫茶どんぶら』。どこにでもあって、どこにも存在ない。そんな噂のある不思議な喫茶店。そんな曰くつきの店にて、受付嬢業務帰りのアリナは誰にも聞こえない程度の小声で仕事の愚痴を溢しながらメニュー表に目を通していた。

 

「マスター!カラフルサンデー1つ!!」

 

「……いいよ」

 

 荒ぶるアリナと対照的に、どこか淡々とした口調で注文を承った喫茶店のマスター五色田介人(ごしきだかいと)は、注文されたカラフルサンデーの準備の為か店の奥へと姿を消した。

 

「それに、白亜の塔の一件からま〜た新ダンジョンがあちらこちらで発見されるし、イフール・カウンターの受付嬢を増やす約束も人件費とかなんやらで時間がかかるっていうし…明日からまた残業…あぁ〜クソォ…」

 

 テーブルの上で頬杖をつきながら、アリナは自分にしか聞こえない小声で現状の不満を漏らす。とはいえ、以前と比べて深刻に沈んでいる様子ではなく、何処か仕方ないとも受け入れている、そんな顔をしていた。

 

「まぁでも、冒険者達も結構頑張ってるのよね…私が嫌いな残業をしてまで受付嬢やっているのと同じで、冒険者達はどんな危険に冒されようとも己の矜持でダンジョンに足を踏み入れている…」

 

 テーブルに置かれた水の入ったコップにそっと手を伸ばすアリナ。コップの中の水面に映る自分と暫く睨めっこをした後にぐいっと水を飲み干す。その後、晩酌中の親父の如く溜息を零しながら、右手で口の周りに付着した水滴を強引に拭った。

 

「結局人間は誰しも、譲れないものの為に働いている。多少のリスクは気にしている暇なんてない。冒険者も受付嬢も、どちらも馬鹿馬鹿しくて崇高で、そして真剣という点においては同じ…私ももう少し頑張ってみるか…」

 

「お待ち遠様。カラフルサンデー1つ」

 

 アリナが発心すると同着で、マスターがカラフルサンデーをアリナのテーブルの上に持ってきた。最後にごゆっくりと添えるとカウンターに戻り、1人『初恋ヒーロー』なる漫画本を読み始める。

 そしてアリナは、自身に提供されたカラフルサンデーに目を輝かせた。

 

「これがカラフルサンデー…コーンフレークの上にアイスが乗っけられてて、その上にゼリー、その上にアイスと可愛いさくらんぼ…見てるだけでも美味しそう…いただきます!!」

 

 スプーンを手に取り、アリナはカラフルサンデーの天辺のさくらんぼ…ではなく、そのさくらんぼを支えているアイスを掬い、口に運んだ。

 

「んん〜〜ッ!!!!」

 

 アリナは舌鼓を打ちながら頬に手を当て、花が満開したかのように破顔した。その笑顔は、普段の受付嬢としての業務で作る偽りのものではない。甘味品に胸を躍らせ、存分に楽しむアリナの本心、彼女自身の純粋な幸福感そのものだった。

 

「やっぱり思った通り。これとっても美味しい!スプーンが勝手に動いちゃう!ここ、お気に入りとして覚えておこうかしら?」

 

 その後もアリナは一口一口をしっかり味わいながらカラフルサンデーを完食した。その時間は、受付嬢の仕事やジェイド及びギラとの会話で疲弊する自身にとって最高の休息に思えたのだとか。

 

「ご馳走様でした!!」

 

 マスターに代金を支払うと、軽やかな足取りでアリナは店を後にする。マスターも代金の支払いが完了すると、またのお越しをと告げて、アリナの背中を見送った。

 

「……あの()なんだか、よくない気がするなぁ…」

 

 アリナに降り掛かる不穏な予兆を感じながら。

 

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

「フンフンフフフフ〜ン♪」

 

 歌を口ずさみながら、アリナは帰路に着く。温かい布団の待っている我が家へ。明日からの残業もきっと頑張れそうだ。そう思っていた。

 

「一番強いのは、お前か…?」

 

 突如、何者かがアリナの目の前に立ち塞がる。重々しい声の主は銀と紫に彩られた鎧の騎士で、右手に骸骨のように朽ち果てた竜のような装飾が施された剣を、左手には大きな盾を携えていた。

 

「え、何?渋い色の鎧を着て、冒険者?…もしかして新手のナンパ?すみませんが、私はそういうのは興味ないので…」

 

「我に勝て…」

 

 困惑しながらも返答するアリナに対して、騎士は剣を突き出し襲いかかる。鈍重そうな外見からは想像もつかない速さに、アリナは背筋がひやりとするのを感じた。今まで数多くのダンジョンのボスを攻略してきた彼女ならわかる。あの騎士は本気だ。ボス達が放つ殺気と同じ。しかし圧は今まで戦ってきた、それこそ最近撃破した魔神シルハよりも濃い。

 まさか騎士は自分が処刑人ということを知っているのか、そんな憶測がアリナの脳内を過ぎる。しかし今は戦闘に集中しなくてはと気持ちを切り替える。油断すれば、確実に死ぬ。

 

「スキル発動、『巨神の破鎚(ディア・ブレイク)』!!」

 

 己の神域(ディア)スキルを発動し、アリナの右手の中に身の丈以上の大きさを誇る大鎚が収まる。アリナは大鎚を蹴り上げて肩に担ぐと、鋭い眼光で騎士を睨みつけ、啖呵を切った。

 

「仕掛けてきたのはそっちだから、後悔しないでよ…」

 

「面白い…強さを、お前の強さを見せてみろ!!」

 

 いつにも増して強く光を放つ満月を背に、処刑人と騎士の決闘は幕を開けた。その激戦は、夜明けまで続いたのだという。

 

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

 数日後、イフール・カウンターはいつになく賑わっていた。それは開催がすぐそこにまで迫っている百年祭の活気故だ。

 百年祭はイフールで行われる最大規模のお祭りで、三日三晩開催される。ヘルカシア大陸各地の職人がこの祭りのためにイフールに集結し、数多の露店が立ち並ぶため多くの人が祭りに参加するのだという。

 勿論アリナやライラも楽しみにしていて、最近は昼休みにどの屋台を巡るのかお互いの構想を話し合ってもいたのだが…。

 

「ライラちゃん、アリナは…」

 

「はい、今日も無断欠勤です…」

 

 ギラの質問にライラはしょんぼりとした様子で返答する。ここ数日、アリナはイフール・カウンターに姿を見せていない。それどころか家にも戻っていないらしく、逃げ出しただの、誘拐されただのと、アリナを知る冒険者達から噂が飛び交っていた。

 しかしギラは噂通りのことは決して起きていないと確信していた。アリナは残業に愚痴は吐くものの、しっかりと自分の仕事はこなさないと気が済まない真面目な性格故、逃げ出すことはしない。誘拐も神域(ディア)スキルを持つ彼女なら簡単に退けられることだろう。

 では何故アリナは忽然と姿を消したのか。ギラはジェイドやギルドマスターなグレンにも話を取り付けて、密かに捜索を開始しているが未だ足取りは掴めていない。

 

「先輩、無断欠勤するような人じゃないのに…」

 

「…大丈夫ライラちゃん!アリナはきっと見つかる、僕も一冒険者として捜索に協力するから、ね?」

 

「ありがとうございます…ギラさん」

 

 ギラの励ましに、幾分か柔らかな顔になるライラ。そんなライラを見てギラも優しく微笑むと、必ずアリナを見つけ出すと強く心に誓った。

 

 そんな時だった。イフール・カウンターに数多の冒険者達が押し寄せてきたのは。

 

「どけや、俺が先だ!!」

 

「でしゃばるなと言っているだろうがマヌケ!!」

 

「何⁉︎このクズ野郎!!」

 

「落ち着けぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

 

「…アリナがいたら胃を痛めちゃってたかもなぁ…」

 

 仕事が増えることに怒りを剥き出しにした様子のアリナを思い出し、ギラは額に手を当てながら、空を仰いだのだった。




カラフルサンデーは見た感じを文字に起こしたので、ここはこういう材料だよと詳しい方はどんどんご指摘お願いします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。