処刑人アリナさんと邪悪の王ギラくん   作:山田プロキオン

6 / 35
漸く本編時系列に入ります
タイトルはとある特撮作品の最終回のパロです


あっ!邪悪の王と処刑人がやって来た!!

 大都市イフールの隣町にポツンと存在する保育園。ここには最近、新しいバイトの青年がやって来ている。

 

「ナ〜ハッハッハッハッ!よくぞここまで来たな冒険者達よ、だが例え貴様らでもこの邪悪の王を倒すことはできんぞ!」

 

「われらはくぎんのつるぎ!」

 

「わるいおうさまやっつけてやる!」

 

「いけ〜!」

 

 青年の名はギラ・ハスティー。今は子供達とギルド最強のパーティ『白銀の剣』vs邪悪の王のごっこ遊びを楽しんでいる最中だ。

 保育園の子供達は皆元気はつらつで、動くことが大好きなため人手不足の状況下では、従業員達は皆骨が折れるようだったらしいが、体力もあり、面倒見のいいギラがやって来てから負担が大幅に減り、かつギラの作業に対する物覚えが早いのもあってか、大人達の方でも以前より活気に満ちいた。

 

「うわぁぁぁぁ!やられた…」

 

「ギラ兄ちゃん、もう一回やろう!」

 

「やろうやろう!」

 

「よ〜し、じゃあもう一回!」

 

「じゃあくのおう!ギラ兄ちゃんじゃあくのおうね!」

 

「「「ねーーー!!!」」」

 

「いいよ〜、さぁ恐怖しろ〜〜!!」

 

「「「わーーー!!!」」」

 

 ギラの邪悪の王は子供達に大好評であり、ことあるごとに子供達にやって欲しいとねだられる程その人気は根強く凄まじい。

 ギラも邪悪の王を演じることに抵抗など微塵もなく、寧ろ進んで演じてくれているため、悪役決めには困らない。以前は児童の間で誰が悪役をするかで押し付けが発生することもあったそうだが、『みんながやりたくない役は僕がやります』とギラが一身に引き受けるようになってから子供達の間の(いさか)いも比較的少なくなったようだ。

 

「ギラ先生ったら、とても楽しそうね」

 

「子供達も幸せそうよ。ほんと、いい子が来てくれたわね…」

 

 保育園に赴任する2人の女性先生は、遠くから楽しそうに遊ぶギラと子供達を眺めながら、にっこり微笑むのだった。

 

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

 日も沈み、子供達も全員お迎えが来て、後は戸締りするだけとなった。 

 

「終わりましたよ〜!」

 

「あらギラ先生、子供達が来る前よりも綺麗になっているではありませんか、何から何まで本当にありがとうございますねぇ〜」

 

 ギラは子供達の遊んだおもちゃの後片付けと、部屋の電気を消し終えたことを報告する。相変わらずの手際の良さに、先生方は全員舌を巻いて感嘆し、感謝を述べた。

 

「いえいえ、バイトとして雇ってもらった身ですしそれに…今日が最終日でしたから…」

 

 そう言うと、ギラは悲しそうに俯いた。この日はバイト最終日。つまりこの保育園にギラがいることが出来るのも今日が最後。つい先程お別れ会を実施したのだが、子供達からも悲しむ声が上がり、中には泣き出す子もいた。それ程までギラが子供達に好かれ愛されていたということなのだろう。

 

「ギラ先生…」

 

 先生の代表が給料の入った封筒をギラに手渡すと、ギラの肩を叩き。

 

「いつでも遊びに来なさい!私達はいつでも待ってますから、もう貴方も、この保育園(いえ)の一員ですから!」

 

 先生からの激励にギラは顔を上げて驚いた顔をしてしまったが、しばらくしてにっこりと笑みを浮かべてはい、と頷いた。

 

「皆さん、ありがとうございました!」

 

 ギラは先生方に頭を下げて、寝泊まりを予約している宿への帰路へ着く。その間も先生たちが見えなくなるまで力一杯手を振り続けるのだった。

 

「また遊びに行こうかな…ん⁉︎」

 

突然何かの気配を感じるギラ。それはオーガサイクロプスの時に感じたものと同じ感覚、しかし以前とは比べ物にならないほどの気迫、そして怖気。  

 

「(多分ダンジョンのボスだと思うけど、放っておけば万が一のことがあるかもしれない…)」

 

 歴戦の勘故か、反射的にそう悟ったギラは、宿に急いで戻るといつものシュゴッダムの外套とオージャカリバーを携え、気配の感じる場所へと急行するのだった。

 

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

「あ"あ"〜、業務押し付けてくるクソ上司にボス討伐すら出来ない無能冒険者供め…、なんでも許される世界なら今すぐぶっ飛ばしてやりたァァァァい!!」

 

 一方こちらは数刻前のイフール・カウンター。他の受付嬢達はとっくに帰宅した中、アリナだけは書類の後処理や受注書の集計作業の為残業を余儀なくされている。因みに今日で残業15日目だ。

 補足しておくとこれでもかなり堪えている方だ。以前の彼女なら7日目で堪忍袋の緒が切れて『処刑人』としてクエストを片付けていただろう。

 彼女がここまで堪えられたのはギラを冒険者に勧誘したのだからあと少しの辛抱だという心のブレーキともっふんの存在だ。

 

 しかし、もう我慢の限界のようだ。

 

「朝はナルシスト気味の白銀の剣のガンズの対応しなきゃだったし、昼間は混雑して夜は残務。2週間も食って寝るだけの日々…ギラの奴もいつまでバイトやってんのよ一級ならソロ討伐に出向きなさいよ…」

 

 はぁ〜っと大きなため息を溢し、アリナは机の上に置いておいた疲労回復作用のあるポーションを一気に飲み干すと、1つの書類に冒険者としての自身の偽名を記し、机から立ち上がった。

 

「こうなったらボスを始末して定時で帰ってやる…

 

 

ごめんもっふん…約束破っちゃって。でも、定時に帰るためだから許してね」

 

 覚悟を決めた表情でギルドを後にするアリナ。決意漲るその翡翠色の瞳には、彼女の強い意思を表すかの如く、メラメラと炎が激っているように錯覚するほど輝いていた。

 

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

『ベルフラ地下遺跡 最深層』

 

 現在冒険者達が攻略に四苦八苦しているダンジョンであり、ギルドの精鋭達の集いであるパーティの『白銀の剣』がボスの『ヘルフレイムドラゴン』の討伐に赴くまでに発展しているほどである。

 とはいえ白銀の剣の面々には、かつてこの大陸で栄えた先人達の失われた技術によって生み出された『遺物武器(レリックアルマ)」を装備した冒険者もおり、攻略は順調に進むかと思われたのだが…。

 

「この強さ、遺物(レリック)を食っているな…」

 

 白銀の剣のパーティリーダー兼盾役(タンク)のジェイド・スクレイドは、冷や汗を流しながら分析する。

通常、魔物はダンジョンに蔓延するエーテルという物質を取り込んで強化するのだが、稀に並の魔物では死に至るとされる遺物(レリック)を取り込んだ個体も存在し、遺物の中の強大な力をその身に宿しさらに厄介になる。

 白銀の剣の目の前にいるヘルフレイムドラゴンはその厄介な魔物となっており、白銀の剣の攻撃役(アタッカー)である『暴刃のガンズ』を負傷させ、さらに彼の得物である「バトルアックス」も粉砕してしまった。

 

「そんな…俺のバトルアックスは遺物武器(レリックアルマ)…攻撃力や耐久力はそんじょそこらの武器とは比べ物にならない筈なのに…もうだめだ…おしまいだ…」

 

 ヘルフレイムドラゴンの圧倒的な強さにガンズは戦慄してしまっている。白銀の剣の一員として多くのダンジョンを攻略して来た彼にはそれなりの自信やプライドもあったのだが、未だかつてない強敵を前に手足は震え、威厳のある様子は影も形もない。

 

「しっかりしろガンズ、態勢を建て直してから…ん?アンタは…」

 

 弱気のガンズを叱咤するジェイド。その時、自身らを横切る人影を確認した。紫と白に彩られた外套をその身に纏ったなんとも軽装という言葉が似合う冒険者。まさか彼もこのダンジョンにやってきたのか、しかも1人でとジェイドはおろか、他のメンバーも驚愕していた。

 

「お、おいアンタ、奴を相手に1人は無茶だ!」

 

 1人ヘルフレイムドラゴンへ向かっていく冒険者に声をかけるジェイドだが、冒険者は歩みを止めない。そもそも話を聞いているかどうかすらも怪しい。冒険者の頭の中で考えていることはただ一つ。

 

「(残業原因のクソドラゴン…ぶっ潰す!)」

 

 ソロでやって来た冒険者、もといアリナは早期決着をつけ、定時で帰ることしか考えていなかった。そしていつものように自身のスキルを発動させようと、右手を構えたのだが…。

 

『オージャフィニッシュ!』

 

「ハァァァァァァァ!!!」

 

 どこからともなくアリナにとって聞き覚えのある電子音が響き渡り、その刹那、ダンジョンの壁を破って赤の戦士『クワガタオージャー』が乱入し、無数の斬撃を飛ばしてヘルフレイムドラゴンを斬りつけた。

 その威力の高さたるや、遺物武器(レリックアルマ)でも傷一つ追わなかったヘルフレイムドラゴンが後退りするほどだった。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、はい!大丈夫なのです」

 

「あ、アンタは一体?」

 

 クワガタオージャーの問いに白銀の剣の回復役(ヒーラー)の桃色髪の少女、ルルリ・アシュフォードは元気に返答し、ジェイドは乱入してきたクワガタオージャーに困惑していた。

 そんな中、アリナは1人スキルの発動を中断し、ズカズカとクワガタオージャーの方へ歩み寄る。そして赤いマントを力一杯握りしめて溜め込んでいたものを一気に吐き出した。

 

「おっそい!何で今頃来るのよ!来るってわかってたらわざわざ私出向かなかったのに!!!!」

 

「え、あぁ…その…なんか、ごめんね…」

 

「ごめんで済んだら私は危ない綱渡りする必要ないのわかる?」

 

「本当にごめんなさい!!」

 

 怒気を孕んだアリナの愚痴にクワガタオージャーは只々頭を下げるしかなく、その様子を白銀の剣一同はあんぐり口を開けながら呆然と眺めていた。

 

『グオオオオオ!!!!』

 

 遂にドラゴンまでもが茶番はまだかと咆哮を上げる。アリナとクワガタオージャーは瞬時に切り替え、魔物の方へ向き直り戦闘態勢に入る。

 2人が戦う様子にジェイドは再度忠告した。

 

「む、無茶だ。ヤツは遺物を取り込んだ邪悪な魔物だ!いくら何でも2人がかりじゃ無謀だ!」

 

「フン、この俺様を差し置いて邪悪を語るなど、不届き至極!敵が強いのなら、俺様もさらに強くなればいいだけのこと!」

 

 邪悪の王モードの口調でジェイドの警告を一蹴すると、クワガタオージャーは金色の始祖の王冠である『オージャクラウン』を取り出し、王冠の赤い宝石に触れた。

 

『KING!KING!KING!KING!』

 

「王鎧武装!始祖、光来!」

 

 意気揚々と頭に王冠を被せるクワガタオージャー。刹那、眩い金色の光がクワガタオージャーを包み、王冠に宿る宇宙の力が解放され、新たな鎧を授けられる。

 

『You are!I am!We are the!We are the!

KING!KING!OHGER!』

 

『キングクワガタオージャー!』

 

 全てのシュゴッドの力を束ねし金色の戦士、

『キングクワガタオージャー』が今、ヘルカシアの地で初めてその姿を顕現した。

 

「ナ〜ハッハッハッハッ!ナ〜ハッハッハッハッ!」

 

「何よその姿…」

 

「もう訳がわからない…」

 

 クワガタオージャーの唐突に見せた新形態に反応が追いつかず、アリナとジェイドは頭を抱えるしかなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。