“ ”は異世界を見る 作:侑音
柚葉さん、前世で交友関係少なかったって言っても人付き合い花丸のコミュ力おばけなので小学校は全然普通に友達いっぱいできてるのです。だって柚葉さんだもん
などと呑気に身構えていた柚葉だったが、中学校は流石にちゃんとした学校に行きたいと思い、征嶺学園に行くことを選んだ。そしてそれは実家、周防家との…正確に言えば巌清との真っ向勝負を覚悟していた。しかしそんなことは無く。寧ろ柚葉が覚悟するべきだったのはもっと身近な存在だった
皆様覚えているだろうか。柚葉と政近、有希の年齢差を……
「あら。そちらにいるのは柚葉ですか?」
征嶺学園に通い始めて数ヶ月が経った頃。唐突に聞こえたその声に柚葉の肩がほんの僅かにびくりと震える。そして声がした方をゆっくりと振り返ると、そこには病弱だった面影が欠片もない姉、有希だった。隣にはもちろん兄、政近もいる
『…お久しぶり、です。…有希、先輩。政近先輩。お元気そう、で何よりです…』
驚きに満ちた目を一瞬浮かべ、すぐに我に返って笑顔を浮かべたものの、その笑みは柚葉らしくない、慌てて取り繕ったような笑みだった。たどたどしく言葉を紡ぐ柚葉を見て有希が笑う
「まぁ、そんな、先輩だなんて…昔のように呼んでくれても構わないのよ?柚葉」
アルカイックスマイルをさも当然のように浮かべながら柚葉を見つめ続ける有希。半ば呆れ顔の政近。若干表情に怯えさえ見え始めた柚葉。しかしよく考えて欲しい。ここは中等部。有希と政近は高等部1年生である。周りの目を気にした政近が気まずそうな柚葉を見て有希に声をかける
「有希、場所を変えるぞ。流石に中等部でなにかするのも…」
「そうですね。柚葉も着いてきてくれる?」
『…先輩がそう仰るならば』
助け舟とは思えないがほんの少し気が緩んだ柚葉は2人に着いていく。暫くして人目につかない空き教室に入った途端、2人は柚葉を振り返り柚葉を抱きしめた
『え、あ…あ、の…せんぱ、』
「柚葉。何のためにここまで連れてきたと思ってるんだ。今は先輩なんて呼ばないでくれ…」
「そうだよゆず。なんであたし達に黙って家出ていったの…!ゆずのばか…!」
『…ッ』
覚悟はしていたつもりだった柚葉も、抱きしめられながら、耳元で兄と姉が泣いている声を感じながら…そうして自分の存在を確かめるように縋り付く2人を、何とも言えない気持ちになった。込み上げる感情も捨てて、ただ2人をなだめていた
「…で、なんで黙って出ていったんだ」
落ち着きを取り戻した政近にそう問われ、すいっと目を逸らす柚葉に有希が畳み掛ける
「お兄ちゃんの言う通りだよ。なんで急にどっか行ったの。しかも6歳だよ?変な人に攫われたらどうするつもり?お母さんもお父さんもみんなほんとに心配してるんだからね!?」
『反省は…しています。…あの、綾乃姉もそんなところいないでこっちに来てください…』
唐突に自分の名前を呼ばれておっかなびっくりな綾乃をちらりと見ながら素直に謝罪のみを述べる
『…今はまだ、なんとも言えません。ただ…
ぺこりと綺麗なお辞儀をしながら謝罪をする妹を見て慌てる有希と政近。そして従者を再び見て…はっきりとした声で言い放つ
『しかし今の私の…いえ、僕の家は緋那達の…僕の大事な幼馴染達がいる家です。どうか…じぃ様にはもう暫く待ってほしいと…気持ちの整理がつくまで待ってほしいと伝えてくれませんか。姉様でも綾乃姉でも、どちらでもいいから…』
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
政近が驚いたように柚葉の言葉を遮り、呆然とした様子で呟く
「お、俺が家を出ているのを知っているのか…?」
『風の噂で耳にしたので…その、兄様が周防の家にいないことは…父様と母様が離婚なされたのも、一応把握してはいます』
「そう、か…」
複雑そうな目で政近が柚葉を見ていた時、有希が唐突に笑顔で話をぶっ込んでくる
「ゆず。あたし、“姉様”なんて硬っ苦しいのは嫌だから、様付けしないやつで呼んで!あ、お兄ちゃんとか綾乃だけしかいない時に限るけどね」
『え、え…?えっ?』
ウィンクしながらそういう有希を見て軽くパニックになりながら政近を見ると、彼は肩を竦めて
「できれば、呼んでやってくれないか。その、俺も…今は、周防を出た身だし、そんな風に呼ばれる人間じゃないから…」
『で、でも…』
「柚葉。…頼む」
懇願するような兄の目を見てはっとした柚葉。そして恐る恐るその名を口にする
『有希、ねぇさん。政近…にぃ、さん…で、いい、ですか。その、あね、さまが…昔、あ、にさま、のこと、にい様って、呼んで、た、から…いい、かなって』
段々不安になって途切れ途切れに言葉を紡ぎながら2人を見ると…2人とも嬉しそうな笑みを浮かべていた
「ほんとはあたしみたいにお兄ちゃんとかお姉ちゃんって呼んでいいんだけど柚葉はそんな言い方しないもんな。うーん仕方ない。俺様が妥協してやるぜ!」
「びっくりするだろ?俺も最初見た時すげぇ驚いたよ。有希も吹っ切れてるし、お前も慣れてくれたら嬉しい」
ドヤ顔で胸を張る姉とそんな姉を呆れたように笑いながら優しく微笑みかけてくれる兄。2人に酷く心配かけたと反省しながら柚葉は
『えと、これからよろしく…ね。兄さん、姉さん』
幼馴染以外に基本使わない、敬語を外した口調を使って、笑顔を浮かべると、2人は感激したように目を輝かせ…そして力強く柚葉を抱きしめた
『!?あ、あの、2人ともっ、力強いからっ、い、息が…』
じたばたもがくと政近も有希も慌てて力を緩めて再び柚葉にほほ笑みかける
「今度兄妹3人水入らずでデートしようよ!ねっ、いいでしょお兄ちゃん様〜」
「いつかな。まずは柚葉が慣れることだろ」
『そ、その…僕も、2人と一緒にお出かけしたい、なって…思っ、てる、から』
「ゆず〜!!もうお姉様は感激だよ〜!」
『え、ちょっ、ね、姉さん…!?』
そんな3人を微笑ましそうに眺める綾乃より遠く…扉の近くで、1人の少女が立っていた
「有希さんと…久世君?あの真ん中の子は誰かしら…?それに、あれは何をしているの…?」
柚葉と少女が出会うまで、残り___