ToLOVEるIF・FINAL 銀河最強の女帝 作:ヒアデス
「っしゃー16時57分! ギリギリ締め切り前に上がったぜー!!」
ギドが片手を上げながら告げた瞬間、ザスティンをはじめとする元部下たちも「やったー!」と声を上げる。才培も大きく息をつき、出来上がった原稿を掴みながら言った。
「おーし、ご苦労さん! ギドもだいぶアシスタントが板についてきたじゃねえか」
「よせよ、先生どころかザスティンに追いつけないうちはまだまだだぜ」
「へへ、言うじゃねえか。そうだ。娘ちゃんたちに例の新作見せてやったらどうだ?」
そう言う上司から数十枚の原稿を受け取る父に、ナナは「新作?」と訊き返す。
ギドは「おう」とニヤついた笑みを浮かべ、ナナに原稿を差し出した。
「俺がメインアシをやる『覇王の軌跡』って漫画だ。ある国の王子が主人公で、妹同然に育った隣国のお姫様との別れや親友だった隣国の王子の裏切りを乗り越えて“覇王”と呼ばれるようになるまでを描いた作品でよ。元王としての経験を見込まれて、設定の監修や背景のデザインもやらせてもらってる」
「へぇー、おもしろそーじゃん。読んでいい?」
「おう、まだ1話しかできてねえがな。モモも読んでみろよ」
「は、はい。お父様もお仕事楽しんでるみたいですね」
もう半分を受けとりながら、戸惑いも露わに訊ねるモモにギドはまんざらでもなさそうに口の端をあげて答えた。
「最初は舐めた口利いた結城の父親見返してやるだけのつもりだったが、締め切り前に描き上げるのがゲームみたいで楽しくなってきてよ。漫画も結構おもしれーし。デビルークはララに任せて俺は漫画家として第二の人生を歩くのもアリかもな」
「またまた、デビルークの皆さんが聞いたら悲しみますよ。お姉様だってお父様やお母様に比べたら国王としては経験不足なんですから、そろそろ戻ってくるよう泣きついてくる頃かも……」
ギドは「どうだかな」と首を横に振り、ふと眉を持ち上げて言った。
「おっとそうだ、国王っていやメモルゼ王の姪っ子と甥っ子には会ったか? メモルゼも内政干渉を受けてて、
「メモルゼ王の姪と甥? いいや、初めて聞いたけど」
原稿を持ちながら聞き返すナナの横で、モモもふるふる首を横に振る。
「メモルゼ王の姪御さんと甥御さんという事は、レンさんとルンさんの従弟妹さん達ですよね? そんな方がいたこと自体初めて聞きました」
メモルゼ王と王妃は即位前からギドとともに大戦を戦った戦友であり、戦後は自身らの子を何度もデビルーク星に通わせたり、ギドたちがララを連れてメモルゼ星を訪問するほど親交が厚かった。
しかし……。
「お前らとは会わせたことなかったか。メモルゼ王には姉がいて、そいつの子供たちだ。あっちの人間は思春期まで男と女の人格両方合わさった状態で生まれ育つからよ。メモルゼ星人は例外なく兄弟か姉妹持ちのはずだぜ」
ギドの説明を聞き、モモは『そういえば』と呟きかけた。
メモルゼ星人は食糧が少ない母星で適応するため、男女両方の人格を持ったまま育ち、思春期の年齢で分裂するという体質を持つ。
レンとルンの両親――つまりメモルゼ王と王妃にも分離した兄弟や姉妹がいるはず。そしてその人たちの子供も……。
「へぇ、どんな人たち? レンみたいなヘタレかルンのような腹黒?」
ナナの問いにギドは「いいや」と首を横に振り、
「メモルゼ王の姉は身体能力も頭もよくてよ。弟と入れ替わった瞬間、知恵と能力で無数の敵を片付けていった。あいつの子供二人も母親に似て出来が良くてよ。レンやルンより優秀だったらしいぜ」
「優秀なのにお姉様やそのお子様たちは王に選ばれなかったんですか?」
モモの問いにギドは「ああ」と首を縦に振る。
「あっちは少数民族だから、よほどの無能でなければ繁殖力の強い男が王になる。メモルゼ王も姉より劣るだけで秀才ではあったしよ。姉も王位に興味なかったから、弟に押し付けるように辞退してさっさと地方の貴族の嫁に行っちまった。腹黒でもなかったな。俺相手でもずけずけ言う奴だったし」
懐かしむような口ぶりにナナは「へぇ」と、モモは「はぁ」と相槌を返す。
確かにルンやレンとはかなりかけ離れてるようだ。むしろギドに近いかもしれない。
(でもルンさんとレンさんに似た宇宙人……どこかで見たような。それも今日のうちに……)
「あいつの子供も王位に興味ないみてえでよ、王宮にもほとんど姿を現したことはない。ある意味レンよりデビルークを継がせるのに都合がいいから、ララの婚約者にもと考えてたけどな」
「えっ?」
「お姉様の婚約者?」
ギドが漏らした最後の一言に、ナナとモモは驚きの声を返した。
◇
「おい、いい加減起きろよ」
「ぅん? ……あれ?」
荒っぽい声をかけられ、ぼんやりした声を漏らしながら目を覚ます。と同時に冷たい床の感触と体に強く巻き付いた異物による圧迫感を覚えた。
どうやら荒縄で縛られ、その状態のまま横向きで床に寝かされていたようだ。
「ここは一体?」
リトは独り言を漏らしながら上体をおこす。そして自身の前に立つ者の存在に気付いた。
「――お前は!」
リトはきっと目を細め、そいつを睨みつける。対して、目の前に立つ緑髪の少年はふてぶてしい笑みを浮かべながらリトを見下ろしていた。
「やっと起きやがったか。この状況でよくグースカ寝てられるもんだぜ」
「まさか君、ランなのか? なんで俺をこんなところに?」
間違いない。ランが変身した男だ。しかし、なぜ彼女がこんな真似を?
その答えの代わりに、少年はちっと舌打ちを飛ばした。
「あのバカと間違えんじゃねえ。俺は“リン・エルシ・シャリム”。“ある方”の命令でお前をここまで連れてきたんだ」
「“エルシ”……やっぱりお前とランはメモルゼ星の」
知り合い二人と同じミドルネームを持つリンは首を縦に振る。
「おう、メモルゼ王の姉の子供、お前も知ってるレン王子とルン王女の従兄弟さ」
「レンとルンの……やっぱりさっきのは“男女変換能力”か」
言われてみればランはレンと同じ髪の色だし、リンもルンと髪の色や雰囲気がそっくり。なにより入れ替わり方があの二人とまったく同じだ。くしゃみで入れ替わる二人と違って、ランは咳で入れ替わっていたが。
そう察すると同時、リトは後ろ手を床につけ、隙を見て砂埃を立てようとするが……。
「馬鹿なことは考えんなよ。俺とランは入れ替わったら一時間以上は咳をしようがこのままだ。温室で育ったあの二人と違って、俺たちは身体能力も免疫も強いからな」
そう言いながらもランは数歩後ろに下がる。万が一を警戒してるのか埃で汚されるのが嫌なだけなのか、まだ判断できない。
「じゃあお前に命令したのは……やっぱりララか?」
違ってくれと願いながら尋ねるリトに対し、リンはぞんざいな仕草で首を横に振った。
「さあね。ララ様の意向かもしれねえし、“ロブ様”の独断かもしんねえ。俺はあの方の命令でやっただけだ。あの破天荒王女のことなんか知らねえよ。話に聞いただけで苦労させられそうだから会うのも避けてたしな」
「薄情なものだな。君にとっては元婚約者に当たる方だろうに」
リンの後ろからくぐもった声が響き、リトはそちらを見、リンもそちらを振り返る。
そこにはいつの間にか黒いローブを着た人物が立っていた。目深までフードを被っていて男か女かも分からない。
「これはロブ様、わざわざこんな場所まで。尋問なら俺に任せるか通信越しでもいいでしょうに」
「招待人としてある程度の礼は見せんとな。それに彼には直に会って試したい事がある」
そう言いながらロブと呼ばれた人物はリンを横切り、リトの前まで来た。
「お初にお目にかかる。君が結城リト殿か?」
フードの向こうから響く冷涼な、しかし聞き心地のいい声を聞いてリトは思わず頷きそうになりながら――
「人違いです……って言っても無駄ですよね?」
駄目元の問いにローブの人物はこくりと首を縦に振る。それを見てリトはやっぱりと首を落とす。
この二人がララの手下だったとしたら、自分のことぐらい調べてきているだろうし、他ならぬララから教えてもらっているかもしれない。運良く人違いだと信じ込ませても、美柑や才培、一緒に住んでるセフィやナナ達が危険に遭う可能性がある。
「あんたこそ一体誰だ? ララと関係あるみたいだけど」
「これは申し遅れた。私はデビルーク銀河連合帝国の顧問。ララ女帝に請われて、あの方の側近のような事をしている。名は明かせぬが、この出で立ちから『ローブ』と呼ばれている」
「その顧問だかローブさんがなんで俺を捕まえさせてんだ? 俺なんか
「そうかね? 元王妃と王女たちと共に暮らし、先王ギドから一目置かれ、何よりララ女帝の婚約者でもあった君は宇宙中の勢力に狙われてもおかしくない人物だと思うが」
ララの婚約者……騒動に巻き込まれる原因となったその言葉を聞いて、懐かしいような感覚を覚えながらも――
「だから俺を捕まえたって言うのか? 俺はもう婚約者じゃねえぞ。そもそも、お前がララを操って女帝なんかやらせてるんじゃねえだろうな!?」
「おい、口を慎め。俺やロブ様がその気になればお前なんて簡単に――」
「リン、お前は黙っていろ」
主への無礼に耐えかねて声を荒げるリンの前に、片手が突き出される。突き出してきたのは他ならぬ彼の主、ローブだった。
「君の疑念はもっともだ、結城リト。以前までのあの方なら両親の追放や王位の簒奪など起こさなかっただろうからな。しかし、私はララ様に少し助言を出しているだけだし、あの方の変心の原因は君にもある。それは君自身察しているのではないかね?」
「――っ!?」
ローブの一言に、リトはぎくりとする。
確かに、ララが地球から去ったのは彼女の好意を断った直後。あれが原因じゃないかと思っていた。
「それに私は銀河の完全なる平穏のために行動している。デビルークを中心とした銀河統一軍を作って反抗勢力を潰したり、あえて他の星々への干渉を強めて不穏分子を
「ソルゲム……それって御門先生をさらおうとした」
記憶を掘り起こしながら尋ねるリトにローブは頷きを返す。以前、御門を組織に入れるために春菜と唯をさらうばかりか、どこかに売ろうとしていた連中。
そいつらを潰したのが本当なら、ローブたちのおかげで御門が攫われる危険はなくなったことになるが……。
「君をここまで連れてきたのも、多くの勢力に狙われている君を安全に保護するためだ。そしてできることなら女帝陛下や彼女の家族からの信頼厚い君に協力してもらいたい」
フードの中から玲瓏な声を響かせながら、ローブはゆっくり距離を詰めてくる。それを前にリトの中から後ずさりたい衝動とローブに近付きたい衝動が昇ってきた。
その感覚を堪えながら座り続ける“獲物”を前に、ローブは自身の顔を覆うフードに手をかけ――
「結城リト――私に従いなさい!」
フードを下ろした瞬間、長い銀髪と真っ赤な目を持つ――神秘的な美女の容貌が露わになった。
◇
今より少し時は
「地球人ごときが邪魔すんじゃないよっ!」
突然現れ、(アゼンダにとって)手下二人を倒し、自身の鞭を切り裂きながら迫るオッドアイの男に手を伸ばし、
しかし、御神は刀を持つ右手を大きく伸ばし――
「――魔力
ぼそりと唱えた瞬間、彼の右腕に紺色の魔法陣と光が灯る。それと同時、数百個の分銅が加えられたかのような重みがアゼンダの腕に加わり、「いぎっ」と呻いた。
その合間に御神は眼前に迫り、柄で彼女の右腕を叩き鞭を落とす。だが、アゼンダはすぐに念動力を解き、もう片方の手を懐に入れ、ナイフを取り出した。
「死になっ!」
アゼンダは躊躇なく御神の顔面目掛けてナイフを突き入れる。が、御神は予期していたように上体を逸らしてナイフを躱し、アゼンダの肩から下を袈裟切りに切り裂いた。
「ぐああぁっ!」
鈍い悲鳴をあげながらアゼンダは白目を剥いて倒れる。
『非殺傷設定』がかかっているから死んではいないはず。
内心で呟きながら御神は「バインド」と発する。すると、どこからともなく現れた紺色のロープがひとりでに彼女の体を縛り上げた。
それを見て、残り一人の刺客が「くそっ」と毒づきながら体を反転させて逃げる。
「くそ、地球人は貧弱じゃなかったのか? あんな術使ったり強い奴がいるなんて聞いてねえぞ! ここはさっさと逃げ――」
言いかけたところで眼下をのこのこ歩いている水色髪の少女が見えた。
「あっ、御神先パーイ! こんなところで何やってるんですかー!?」
戦いの様子と自身の真上に気付かず呑気に右手を上げながら叫ぶ少女に、刺客はべろりと舌なめずりをする。
(しめた! あの女を人質にすればあの剣士に一泡吹かせられる。女の方もその筋には高く売れそうな顔と体してるしな)
「まずい――理保、そこから逃げろ!」
健斗が怒声をかけるも、その意味が理解できず理保はパチクリ目を開く。そんな少女の前に巨漢の男が降ってきた。
「ひゃっはああああっ!!」
男は荒々しい掛け声を放ちながら理保に迫る。
だが理保はきっと目を細め――
「脚力強化――はあああああっ!」
「いきなり失礼な人ですねぇ。ナンパならせめて紳士的にきてくださいよ。まっ、そろそろ“トラブル”らしい騒動が起きてほしかったし、あんた如き余裕で対処できるからいいっスけどね」
何が起きたかわからず、刺客は体を起こすのも忘れ、頭上を見上げる。
彼の前には右脚を振り上げたまま憎らしく笑う少女、そして脚の先に浮かぶ“紅蓮の魔法陣”が浮かんでいた。
「理保……お前、強化魔法なんか身に着けてやがったのか」
立ち止まり唖然としたまま問いを放つ御神に、理保は「もちっ」と頷く。
「宇宙人や魔導師一人対処できないまま彩南になんか来るわけないじゃないですか。《