ToLOVEるIF・FINAL 銀河最強の女帝 作:ヒアデス
「女帝様、御客人がお目通りを願っておりますが……」
玉座に座る女帝の前に一人の文官が片膝をつき、胸と股のみを隠した格好の主君を目に入れないように視線を下げながら報告を告げる。
そんな彼の努力を嗤うように、女帝ことララは剥き出しの脚を組み替えながら告げた。
「御客人ね……いいよ、ここに通して」
その命令に「はっ」と答えながら文官は立ち上がって振り返り、奥にいる客人に向けて首を小さく振ってから脇に下がった。
そして彼と入れ替わるように、奥から高そうな服と宝石で着飾った緑肌の小男が従者を従えながら歩いてきた。その歩き方はデビルークの女帝に対するものとは思えないほど軽く、礼に欠けている。
だが、玉座の前まで来た男の素振りと口調はそれ以上のものだった。
「やっほーララたん! その服もセクシーでカワイイねー!!」
銀河の女帝に対し、小男は片手を上げながら下卑た口調で挨拶してくる。それを聞いて彼を案内した文官とまわりに立つ衛兵は顔を青ざめさせる。
そんな中、ララはどうでもよさそうに頬杖をつきながら溜息と声を吐き出した。
「なんだラコスポか。何の用?」
疎ましげな態度と口調も気にせず、ガーマ星の王子ラコスポは上機嫌そうな笑みを浮かべながら言葉を返す。
「もちろんララたんが女帝になったお祝いと、ボクと君の結婚の話を進めに来たんだもん。女帝となった君には相応しい伴侶と有力な星の後ろ盾が必要だもん。ギドもいなくなったみたいだし、あの地球人とは別れたんだろう」
最後の一言を聞いた瞬間、ララはぴきりと頬を引きつらせる。それに気づかずラコスポは続けた。
「やっぱりララたんの伴侶になるのはボクしかいないってことだもん! ボクと結婚して、この宇宙に君臨するガーマ帝国を作ろうじゃないか! 君だってその気になったからボク好みの恰好に着替えたんだろう?」
ラコスポは好色そうな目でララの白い肌に目を這わせながら言葉をかけ続けるが……。
「お断り」
彼女の口から放たれた一言にラコスポは「えっ?」と顔を上げながら聞き返す。ララは不快そうに眉を吊り上げたまま続けた。
「ガーマ星なんかの後ろ盾はいらないし、必要だったとしてもあんたと結婚するぐらいなら別の方法を考えるよ。さっさと星に帰って、ガーマ帝国でも一人で勝手に作ってれば」
そう言ってララは冷笑を浮かべる。それを見て今度はラコスポが不愉快そうに顔をしかめ、ぐぬぬと歯ぎしりを鳴らした。
「せっかく君の力になりたいと思って来てやったのに。だったらもう一度ボクの力を思い知らせてやるだもん! ――いでよっ!」
ラコスポは右手を掲げ、ピンと指を鳴らす。それを聞いて後ろの従者が懐から取り出したスイッチを押した。
するとラコスポの隣から赤紫色の光が伸び、同色の巨大な
「いけエロガーマ! お前の力を見せてやるんだもん!!」
「ゲロッッ!」
ラコスポの新たなペット『エロガーマ』はくぐもった鳴き声とともに白い粘液を放つ。そして――
「――きゃああっ!!」
ララの庇うように前に立ち粘液を浴びた女官の着ていた服が溶け、彼女は悲鳴を上げて体を隠しながら「ララ様、お逃げください!」と叫ぶ。
しかし、エロガーマは座ったままの彼女の逃げ道を塞ぐように立ちはだかった。
「次はララたんだもん! 2度もボクに恥かかせた上にボクの好意を踏みにじった仕返しに、その紐のような水着を溶かして大勢の前ですっぽんぽんにしてやるもん!!」
主が命じるのを待たず、エロガーマは口を開けララに向かって粘液を吹きかける。
しかし、ララは逃げるどころか慌てるそぶりも見せず、つまらなそうな顔のまま唇を尖らせ――。
「――ふっ」
彼女が小さく息を吹きかけた瞬間、粘液はあらぬ方に吹き飛び、エロガーマの主であるラコスポにかかった。
「うわあっ! パパ上様に買ってもらった服が!?」
宝石や金銀の装飾物を残してみるみるうちに高級な礼服が溶けていき、ラコスポは貧相な体を晒しながら慌てふためく。
それを見下ろして、ララは小馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「あらあら、予想どおり貧弱な体ね。そんなんじゃデビルークはおろか自分の星さえ満足に治められないんじゃない?」
「う、うるさいもん! エロガーマ、何をしている!? お前の粘液でそこの女が着ている服を――」
粘液を飛ばされ、唖然としていたエロガーマは主に命じられ、再びララに体を向ける。
だが、ララがぎろりと“紅い眼”で睨みつけた瞬間、エロガーマは「ゲコッ」と怯えがこもった鳴き声を漏らす。そんな蛙にララはにんまりと笑みを浮かべながら……。
「エッチないたずらをしたカエルさんには……お・し・お・き♡」
ララが言った途端、彼女の腰元から黒い尻尾がうねり出て、矢印状の先端がエロガーマに向けられる。
それを見て、即座に逃げようとしたエロガーマに白く巨大な光線が放たれた。
「ゲ――ゲコーーッッ!!」
「え、エロガーマっ!!」
光線をまともに喰らい、エロガーマは部屋の隅まで吹き飛び壁にめり込む姿を晒す。
それを見てラコスポは悲痛な声を上げるが、嗜虐的な笑みと冷たい視線を浮かべながら自身を見下ろす“
「ひっ――た、たすけてーーー!!」
ラコスポは床に散らばった宝石や金銀に目もくれず、一糸纏わぬ姿で一目散に逃げ謁見の間から出ていく。それを目にした衛兵がララに尋ねた。
「と、捕らえましょうか? ご命令があれば城中の兵に命じて――」
「放っといていいよ。あいつのために牢と食事を用意するのももったいないし。その代わり、後でガーマ星の王に苦情と他の星より多めの兵力を出すように要求しておいて。それとこの部屋の修理と空気の入れ替えがしたいから、今日はもう誰も通さないように言っておいて。それが済んだらあなたたちも自由にしていいから」
「――は、ははっ。仰せのままに!」
女帝からの命を受けて、文官は一礼し衛兵たちもエロガーマを運び出しながら足早に去っていく。そうして誰もいなくなったところで修理機能と空気の清浄機が作動し、ララの攻撃で壊れた室内はみるみるうちに元に戻っていく。
「相変わらずうっとおしいヤツ……パパもなんであんなのを私の婚約者なんかにしたんだか」
ララは溜息をつき、肘をつきながら不機嫌そうな呟きを零した。
すると――
「まともな婚約者のほとんどは、君の家出と意中の相手を見つけたと聞いて辞退したからな。残ったのはあのような
後ろから声がかかり、ララは肘を下ろしながらそちらに顔を向ける。
そこにはいつの間にか黒いローブを着た者が立っていた。頭にフードを被っていて顔は見えず、声も中性的で男か女かも分からない。文官や衛兵が残っていたら即座に取り囲まれていただろう……捕まえられるかは別にしてだが。
ララは驚きもせず、平然と彼(?)に声をかけた。
「“あなた”か。しばらくぶりだね。見てのとおり、こっちはようやく準備に入ったところ。そっちの方は?」
その問いに、ローブを着た者(便宜上、以後はしばらく“ローブ”と仮称する)は首を縦に振り、
「こちらも準備を進めつつ、地球の様子も監視しているところだ。先王ギドも元王妃も、君の妹たちや親衛隊もあちらでのんきに暮らしているよ。“君の元婚約者”も元気だ。このまま放っておいていいのかい? 要望とあれば捕らえるなり消すなりしてもいいが……」
ローブがそう告げた途端、ララはまた不機嫌そうに口角を下げながら返事を返した。
「いいよ、そのまま放っておいて。むしろ――私に断りもなくそんなことしたら許さないから!」
凄むような視線と言葉を受けてローブは肩をすくめ、
「滅相もない。銀河を統べる女帝殿にそんな無礼は働かないさ。では進捗の報告と余興の見物を済ませたので私は失礼する。また何かあれば通信を入れる。“
「うん。そっちもお仕事頑張って」
ララは笑みを戻しながらローブの言葉に頷く。するとローブは身を翻し、玉座のカーテンに紛れるように姿を掻き消した。
“協力者”も立ち去って、ただ一人残ったララはしばらく沈黙し……。
「リト」
小さく、想い人の名を呟いた直後ララは玉座から立ち上がり、未だ修復と空気の入れ替えが進んでいる謁見の間を後にして行った。
◇
一方その頃、地球の彩南町。
「これは……」
「すげえ料理! これ一体どうしたんだよ?」
もわっと湯気をたてるローストチキンやアクアパッツァ、瑞々しい海藻サラダといった豪勢な料理を眺めながら尋ねるリトとナナに、セフィは得意げな笑みを浮かべながら料理をテーブルに置いていく。その近くで美柑とモモも気まずそうな調子で彼女を手伝っていた。
「いいんですか、朝からこんな料理出しても? 今日の食事代はセフィさんたちが出すって言ってましたけど」
「そうだよ! デビルークから持ち出した財産があるとはいえ、こんな贅沢してたらすぐになくなっちまうぜ!」
心配そうな声で尋ねるリトに続き、すっかり庶民感覚がついたナナも忠告じみた苦言をぶつける。しかし、セフィは上機嫌そうな笑みを向けながら首を横に振った。
「気にしなくていいわ。私たちの生活費はパパが働いて稼ぐことになったから。さすがにいつもとはいかないけど、今日はあの人の就職祝い。そういうわけだからナナたちもリト君たちも気にせず食べてね♪」
「えっ? ギドさん就職したんですか?」
リトは目に見えるほど驚きながら訊き返す。王を辞めて遊び回りたいがためにララに見合いを強要し、リトを脅しつけまでしたあのギドがまた働くなど予想だにしなかったからだ。
「あの父上が王以外の仕事をかぁ。ちなみにどんな仕事?」
ナナの問いにセフィはいたずらっぽい笑みを浮かべながら、
「うふふ、それはね……」
◇
「じゃあ、このページのベタ塗りから頼む。ちゃんとマウロの指示どおりやれよ」
「マウロの指示どおりにだと!? なんで俺がこいつの指示に従わなきゃならねえんだ!?」
隣に座っている
彼らを前にラフなTシャツを着た無精髭の男――
「なんでって、お前さんが悪さしないように仕事の手伝いでもさせてくれって奥さんに頼まれたからな。元王様だろうがここじゃ一番下っ端だ。俺や先輩に従いながら仕事すんのは当たり前だろう」
「俺様は銀河を統一したデビルーク王だぞ! その俺がてめえらなんかに従って漫画家の助手なんかできるか!」
そう言ってギドが立ち上がり部屋を出ていこうとした瞬間、才培は眉を吊り下げ――
「ほう、奥さんの厚意を無下にしてまた遊び呆ける気か? 宇宙を征服した王っていうからどんな奴かと思ったら、情けねえ野郎だな」
「なんだと――!?」
侮蔑を色濃く含んだ言葉に今度はギドが頬と眉間を引きつらせる。それに対し、才培は興味を失ったように後頭部を掻きながら言った。
「ああ、いいいい。お前にゃもう頼まん。邪魔だから外に出て好きなだけスカートでもめくってろ。お子様はほっといて俺たちは仕事開始だ。夜までに二作仕上げるから心していけよ」
「は、はい!」
邪険そうにしっしっとギドに片手を振りながら才培はザスティンたちに指示を出し、部下たちも主をよそに威勢のいい返事を返す。
それを聞いているうちに、ギドの胸の奥から居心地の悪さと意地が湧きあがってきて――。
「まっ、待て――くそ、わかったよ! こんな仕事すぐに覚えてやる。マウロ、さっさとベタ塗りってやつの仕方を教えろ!」
「は、はい。じゃあ今私がやってるようにここをマーカーで黒く塗ってください。くれぐれもはみ出ないよう丁寧に……」
ギドは嫌そうに吐き捨てつつも腰を下ろし、マウロに教わりながらベタ塗りに取り掛かる。それを横目に才培はニヤリと笑う。さらにその横でザスティンも困惑を残した顔で“後輩”となったかつての主君を見やっていた。
◇
一方、アシスタントとしての初仕事にかかる父たちをよそに、モモは一時間目の授業が終わってすぐ教室を抜け、屋上でネメシスとある動画を見ていた。
『トラにちわ~!【UZURIPO CHANNEL】の時間で〜す!!』
画面の向こうで青色がかった髪を二つのサイドアップに分けた少女が片手を振りながら黄色い声を上げる。
それに耳を傾けながらモモはひとりごちるように呟いた。
「『
「うむ。入学後すぐ、
「……」
ネメシスの説明を聞きながらモモはサムネイルに映る『ウズリポ』こと
その内容はデビルークの帝国化やララの女帝即位など、彩南町の住民でも知りようがない宇宙の情報ばかりだった。
しかも――
『昨日、デビルークの帝宮にガーマ星の王子が来たみたいです。その王子、無謀にもララ先輩に結婚を持ちかけて断られた途端エッチなカエルを繰り出してきたらしいんですけど、案の定ララ先輩を怒らせちゃってカエルともども退治されちゃったみたいです。
その後、王子の父親であるガーマ星の王様は何度も床に頭をつけるほど平謝りさせられた上になにかの取引をさせられちゃったようです。さすがにその内容はまだわかりませんけど。他にもローブ姿の協力者がいるみたいですし、ララ先輩なにを企んでいるんでしょうかね~。
そんなわけで今日はここまで! これからも逐一新生デビルーク帝国と女帝ララ様の情報を掴んできますので、まだこのチャンネルを登録してない方は今すぐ登録!
それではトラなら〜〜♪』
ガーマ星の王子ラコスポの来襲、そしてララが彼を返り討ちにした。これはまだ銀河ニュースでも取り上げられておらず、デビルークから離れた自分たちでは知るすべもなかったことだ。
その情報をなぜか地球人であるはずの
まさか実は彼女も宇宙人? あるいはまさか理保こそが……。
「――違いますよ!」
「――っ!?」
後ろから声をかけられ、モモはビクリと振り返りネメシスも目を見張りながらそちらに体を向ける。
そこには今さっき動画の向こうに映っていた青髪の少女が立っていた。
「どうも〜。そろそろ呼ばれそうな気がして自分から参上してみました! 彩南高校一年、『配信部』唯一の部員にして部長をしています。
唖然とする二人を前に卯敷理保は尖った八重歯を覗かせながら挨拶を告げ、ピンと伸ばした人差し指を額に当てながら付け足した。
「あっ、ちなみに私は黒幕でもララ先輩の協力者でもありませんよ♪」
ネメシスってメアよりモモとの方が絡ませやすい。