ToLOVEるIF・FINAL 銀河最強の女帝 作:ヒアデス
2年C組。
「フェイト・テスタロッサです。今日から一週間この学校に留学することになりました。ご迷惑かもしれませんが、よろしくお願いします」
やや緊張の入った声で挨拶する金髪の留学生に半分ほどの生徒たちが目を奪われ、もう半分の生徒たちは“彼女そっくりなクラスメイト”――金色の
そんな中、美少女の転校生など最早珍しくもない彩南校に勤める教師は慣れた様子でフェイトに言った。
「じゃあ、テスタロッサさんは空いている金色さん、あの子の隣に座って」
「はい」
フェイトは短く答え、教師が手の平を向ける先――ヤミの隣まで進み、丁寧な仕草で椅子を引いて腰を下ろす。
そしてヤミの方を向き、にこやかな笑みを浮かべながら、
「よろしくね」
と声をかける。それに対し、ヤミは訝しみのこもった表情で頷きを返し、黒板に視線を戻す。その様子は性格の違う姉妹のようだった。
一方、リトのいる3年A組では……。
「じゃあこの問題を――御神健斗君、書いてくれる?」
「はい」
ティアーユに指名されたオッドアイの男子留学生、御神健斗は躊躇なく立ち上がり、問題の数式が書かれた場所の前に立つ。
一方、他の生徒たちは戸惑いながらパラパラ教科書をめくり、猿山が大きく手をあげて叫んだ。
「先生! これまだ習ってないヤツっす! 二学期の終わりにやるとこじゃあ」
「えっ? ――あっ、ごめんなさい、また違うページ開いちゃってた! 御神君、その問題は……」
そこまで言いかけてティアーユは思わず言葉を止める。
「この関数はf(x)=e^x+kと表せます。ここでf(y)=e^r+kをこの式の左辺に代入すると……」
ぶつぶつ呟きながらチョークを走らせる御神と、黒板を埋める数式に生徒たちもティアーユも唖然と口を閉じる。そんな中、御神は数式を書き終えてティアーユの方を向いた。
「……以上で最終的な回答はf(x)=q^x+7になります――合ってますか?」
ティアーユは彼が書き上げた数式をさっと見てこくりと頷き……
「合ってます……君がいた学校ではここまでやってたの?」
「いえ、昔から理数は得意ですから。時間つぶしに解いているうちにここぐらいは分かるようになりました。もう戻っていいですか?」
照れ笑いを浮かべながら尋ねる御神にティアーユは「ええ」と答え、彼はチョークを置いて席に戻っていく。
そんな留学生に皆は感嘆としたような、あるいはあっけにとられたような目を向けていた。
「御神君、私たちと一緒にご飯食べない?」
「いや男同士俺たちと食おうぜ。ついでに数学教えてくれよ。もうすぐ受験なのに数学わからなくて困っててさ」
昼休みになった瞬間、クラスメイトたちは御神を囲み、昼食に誘ったり勉強を教えてもらおうとする。その中にリトの友人はいないものの……。
「リト、なにふてくされてんだよ。去年までかわいい女の子に囲まれてたお前があいつを羨ましがれる立場かよっ!」
「猿山、そんなんじゃねえよ! 向こうが騒がしかったからつい――」
肩をどつきながら憎まれ口をかける親友に、リトも反論を飛ばしながら肩を叩き返そうとし避けられる。しかし、内心では猿山の言葉にぎくりとしそうになるのを堪え、誤魔化そうと必死だった。
確かに、二年の頃までリトの周りには大勢の友達(女の子ばかりだが)に囲まれていた。しかし、今は御神という留学生が自分に近い立ち位置にいる。しかもハプニングとかと無縁な、多くの学生が思い浮かべる『人気者』として。
それを羨む自分がいる事に気付いたのだ。
「まっ、あんな奴ほっといて俺たちは落ちこぼれ同士、仲良くメシにしようぜ」
「誰が落ちこぼれだ。汚名返上してるとこだっての。お前もそろそろ真面目にやれよ。一応大学行く気なんだろ」
リトの忠告を「行けなかったら適当な会社に入るさ」と流す猿山にツッコもうとしたところで――
「待ってくれ結城君!」
後ろから声がかかり、リトと猿山は眉を寄せながらそちらを振り向く。聞き慣れぬ声からまさかと思えば、二人に声をかけたのは御神健斗だった。
「今から一緒に昼食を摂らないか? 卯敷から君の事を何度も聞いてね。一度話をしたいと思っていたんだ」
「卯敷、さんから?」
言われてリトは朝に絡んできた青髪の女子を思い出す。動画配信をしていて、校内放送やスポーツフェスタ等のイベントでも実況役を買って出ている、一年で最も有名な子。
(そういえば前の学校の先輩だったと言ってたな)
「結城も一緒かよ」
「いいんじゃない。最近は結城もトラブル起こすことなくなったし」
御神の後ろにいるクラスメイトも賛同の声を上げる。それを見て猿山も気を良くし――
「卯敷の知り合いなら無下に出来ねえな。じゃあ俺様が食堂へ案内してやるよ! リトもいいよな?」
「えっ……あ、ああ」
猿山に首根っこを掴まれ、彼とともに先んじて教室を出る。その時、別のクラスから春菜が出てくるのが見えた。
その横には短い茶髪の女の子が。
(春菜ちゃん? 隣にいるのは御神と一緒に校長室にいた――)
◆
『こちら八神。こっちは西連寺って子から結城君や王女姉妹について色々聞き出したとこ。雑談のフリやから当たり障りもない事ばかりやけど』
『こちらテスタロッサ。私もナナとメアって子に接触したところ。隣の席になった金色の闇って子から当たろうと思ったんだけど、警戒されてるみたいで彼女とは話せなかった。なのは――高町調査員はどうですか?』
『こちら高町。一年にはララさんの知り合いがいないからリホちゃんと一緒に色々噂を集めてる。ところで、私が一年って配置微妙に悪意がない? 一年はリホちゃんに任せて私も二年か三年に回った方が効率がいいと思うんだけど』
『こちら御神。俺たちや理保が知らないだけで、一年にもララの関係者がいる可能性がある。“別の可能性”も踏まえて網を張っておくに越したことはない。……それに正直言うと、はやてとフェイトが二年と三年に潜り込むのも不安なんだがな。お前ら中学卒業してすぐ――』
『あ、あっちで勉強してたから! 授業が難しくて固まってたとかあるわけないやないか!!』
関西弁で強く言われ、健斗はたじろぎながらも……。
『わ、わかった。じゃあ引き続き調査と監視を頼む。金色の闇とメア、ネメシスには特に注意してくれ。彼女たち《
『うん』
『了解です。御神首監』
快い返事を返す
『その呼称と敬語はこの町にいる間なしで頼む。生徒や教員、町の住人に聞かれたら面倒なことになるからな。俺たちはよその学校から来た、ただの留学生仲間だ』
その言葉に残るはやても硬い声で、
「うん、わかってるよ。健斗君」
とだけ答えた。
◆
「あ~、どっと疲れた」
帰宅中、リトは言葉どおり肩を落としながら盛大な溜息と愚痴をこぼす。
ナナも文句言わず、
「今回だけは同意。あたしらも転校生に姉上の事についてあれこれ聞かれてさ~。ヤミは途中から抜けて一言も話してねーし」
「留学生ですよナナ。でも珍しいですね。うちの学校に男子も含めて留学生が4人、それもお姉様や今のデビルークの事を知ってて来るなんて」
そう言いつつ、モモも軽くため息を零す。彼女も質問責めにあって疲れてるらしい。
そんな彼女の懐から着信音が響き、モモは慌ててスマホ型のデダイヤルを取った。
その向こうから聞こえてきた声は……。
『おう、モモか。俺だ俺』
「お父様! どうしたんですか?」
ナナからかかってきた時のように詐欺かととぼける真似はせず、モモはすぐに聞き直す。なにか異変が起きたのかもしれないし、なによりあの“父”相手にそんな事できるわけもない。
モモの一言でリトもナナも身を硬くし、耳をそばだてる。一方、デダイヤルから届いてきたのは……。
『急で悪いんだが、インクと原稿を買ってきてくれ。先生もザスティンたちも俺様も忙しくて買い物に行ってる余裕がなくてよ。ナナも一緒にいるんだろう? 二人で買い出し行ってこい』
『おいギド、早く話済ませて作業戻れ! 締め切りまであと一時間もねえぞ!!』
『わかってるよ先生! じゃあモモ、金は後で出してやるからできるだけ早く頼む!』
「あ、ちょっとお父さ――」
モモが聞き返すのも待たず、ブツリと通話が切れる。
向こうの声がでかくて、モモに聞かずとも用件は分かったが……。
「先生って?」
あっけにとられながら呟くリトにモモは苦笑を浮かべて言った。
「リトさんのお義父様のことです。ほら、私たちの父も今はお義父様のアシスタントをしてますから」
「ああ、そりゃわかってるけど」
形の上ではそうだが、
正直アシスタントなんてすぐ辞めると思ってたし、もし父親と喧嘩して機嫌を損ねたらと心配していたほどだ。
今やすっかりアシスタントに染まってるザスティンたちといい、そんなに面白い仕事なのか? 手伝った時は二度とやりたくないと思うぐらいキツイだけだったけど。
「じゃあ、俺も手伝おうか? もとはと言えば俺の親父の頼みなんだし」
「いえ、リトさんは勉強があるでしょうし、お父様たちのお世話もしてきますから私たちに任せてください。ナナも手伝って。結構いっぱいいるみたいだから!」
「お、おう。じゃあまた後でなリト! 美柑や母上にエロいことすんじゃねーぞ!!」
そう言い残して去っていく姉妹を見送り、リトは息をつき『モモの厚意を無駄にしないためにも勉強頑張るか』と心中で呟きながら家路に戻る。
そこで――
「あれ、結城先輩!」
その声に振り向くと毛先のみが黒い白髪の女の子がいた。ラン・エルニィという一年の女の子だ。
手元には通学用の鞄だけでなく薄茶色の買い物バッグまで持ってる。
「ランちゃん! 君も今帰り? あの友達と一緒じゃないの?」
「はい。リホから配信撮るから先帰っててって言われちゃいまして。結城先輩こそお一人ですか?」
「ああ、さっきまでモモとナナも一緒だったんだけど親父さんからお使いを頼まれてさ。ランちゃんも買い物してたんだ」
その言葉にランは照れ笑いを浮かべながらバッグを持ち上げる。
「ええ。一人暮らしですから、簡単なものだけでも作って食べるようにしてます」
「一人暮らしなんだ。しかも料理も自分でしてるなんて偉いなぁ。俺は他の家事はともかく料理はからきしで、妹やモモとかに任せきりだからさ」
「他のこと手伝ってくれるだけありがたいですよ。うちも弟が手伝ってくれたらなー」
「弟がいるんだ。一緒に住んでないの?」
「ええ……ちょっと事情がありまして」
言いづらそうに口ごもるランにリトは同情を覚える。
うちもララたちが来るまで美柑と二人だけで、苦労もあったからな。
「買い物袋だけでも持つよ。ちょうど手が空いてるし」
「えっ、いいですよ! そんなに重くないし」
遠慮するランに「いいからいいから」とリトは手を伸ばす。
が、そこで足がつんのめかけている事に気付き、慌てて彼女から距離を取る。
そんなリトにランは不思議そうに見上げ――
「あの、先輩?」
「あ、ああ、ごめんごめん。イヤなら別に――」
「見つけたよ、結城リト!」
「えっ――!?」
頭上から声が響き、リトとランはそちらを見上げる。
そこには民家の屋根の上に立つ露出の高い褐色肌の女がいた。あいつは――
「アゼンダ! なんでお前が? まさかまた脱獄して――」
銀河警察に捕まったはずの相手にリトは思わず叫ぶ。しかし、アゼンダはニヤリと口を吊り上げて「いいや」と首を横に振った。
「デビルーク帝国の女帝、ララ様との取引で釈放してもらったのさ。元王や姉妹たちを匿ってる結城リトを捕らえろって依頼を受ける代わりにねぇ!!」
「ララが!? そんな馬鹿な!!」
思わず聞き返すリトに構わず、アゼンダは黒い何かを手元に出現させ、それを振り上げる。
それを見た瞬間――
「――あぶない!」
リトはランを抱きかかえ、真横へ飛び込む。
その直後、黒い鞭が落とされ、コンクリートの地面と壁を切り裂いた。
それを見て冷たい額から汗が伝うと同時、手元からむにゅっと柔らかい感触が伝わる。
この懐かしい感触は――
「あの、先輩そろそろ離して!」
「あっ――ごめん!!」
ランの胸を揉んでしまったのに気付き、リトは慌てて彼女から離れる。しかし、謝る暇もなく――
「あたしの前で乳繰り合いとは、舐められたもんだねぇぇぇ!」
再びアゼンダが鞭が振るうのを見て、リトはランの手を握り――
「逃げるぞ!」
と叫び、その場から駆け出す。
その後ろから「逃がすかぁ!」と野太い男の声が発せられる。
アゼンダじゃない。まさかと思って振り向くと、彼女の他に二人の屈強そうな異星人が迫っているのが見えた。
(あいつらも俺を狙ってるのか? ララの命令で? 嘘だと言ってくれ!!)
心の中で祈りながらリトはランを引っ張りながら全速力で駆け、モモやヤミがいないかと探しながら路地に飛び込む。
が――、
「――っ!?」
茶髪のオッドアイの男子学生を見つけ、リトとランは思わず足を止めた。
「御神……さん?」
一緒に昼食を摂ったにもかかわらず、御神健斗という留学生は冷たい目で二人を睨め付ける。
「まさか、お前もあいつらの……」
リトの問いにかまわず、御神は懐に手を入れ二人に迫る。それを見てリトはランを庇いながら身構えるが――
「邪魔だ、二人ともどいていろ!!」
御神はリトを突き飛ばし、懐から出したペンダントを刀に変えて刺客に飛び掛かっていく。
「な、なんだ貴様!? ――ぐあぁっ!」
袈裟切りに斬られ、刺客は為すすべなく倒れる。
その直後、刀が声を発した。
『Möchten Sie die Barriere-Jacke einsetzen?(バリアジャケットを展開しますか?)』
「いい。この程度の奴らに必要ない」
そう呟いた直後御神はもう一人の刺客の元へ飛び、彼が撃ち放つ銃弾を切り裂き、二人目の刺客も斬り捨てていく。
「な、なんだ? あいつは一体?」
ランを抱えた状態でリトはたまらずぼやきを吐く。そこで砂煙が口に入ったのかランは「ごほごほっ」と席を零した。
「おい、大丈夫かランちゃん?」
ランを揺さぶり尋ねるリトだった……が。
「いつまでも抱きついてんじゃねえよ、すけこまし野郎」
今まで聞いたものとは違う低い声が漏れる。その声と姿にリトは思わず目を見開き、声を飲み込んだ。
彼の目の前にいたのは“短い薄緑色の少年”だったからだ。まるで分離する前の
「まさかお前――うぐっ!」
腹に鈍い痛みが走り、リトは意識を失い、その場に倒れ込む。
彼を抱き起こす真似もせず、少年はぺっと唾を吐き捨てた。
「ようやく“こっちの姿”に戻れたぜ。ランの奴、こんな男にほだされかけやがって。それになんだあいつらは? 俺と“
そう言って心底嫌そうな顔で少年はリトを肩に抱え、風のように足音を立てずその場から疾駆する。
鞭を斬られ念動力も通じず、御神が出現させた縄に絡めとられるアゼンダに向けて『ご苦労さん』と小馬鹿にするように舌を出しながら。