キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
とある街にある一軒家。その中では一人の言葉も話せるようになる前の幼児がハイハイをしながら部屋の中を進んでいた。
「あーう」
「ふふっ。影人ったら元気ね」
それを優しく見守っているのは黒い髪をポニーテールにして薄い青の瞳をした温和な雰囲気を出す女性。彼女はこの幼児の母親。黒霧理沙だ。彼女が見ているのは自分の息子で大切な存在。彼の名は黒霧影人。母親と同じ黒い髪に瞳の色は右が暗めの赤、左が暗めの青である。ちなみに青の方の瞳は母親よりも暗い色になっていた。つまり、オッドアイなのである。
「ただいま〜」
「あなた、おかえりなさい」
そこに仕事から帰ってきた影人の父親で理沙の夫、黒霧魁斗。彼は黒い髪で瞳は赤く、影人の瞳よりも明るめだ。影人の赤の方の瞳は父親譲りという事だろう。
「あーう!」
すると影人は父親が帰ってきたのを見て嬉しそうにハイハイしながら寄っていく。魁斗は影人を抱き上げると彼へと笑いかける。
「良い子にしてたか?影人」
「夜ご飯はできてるから、皆で食べましょ!」
それから三人は居間に行くと魁斗が仕事のための服から部屋着へと着替えて戻ってくる。そして三人が座ってご飯を食べる事になった。
「そういえば、今日会社で……」
魁斗と理沙が夫婦の会話をする中、影人はまだ幼児で自分ではご飯を食べられないので両親に食べさせてもらう。そんな中だった。二人がテレビを見るために理沙がリモコンを操作。そこに映ったのは歌番組である。そして、丁度タイミングが良いのかそこに映っていたのは男性のアイドルグループが眩いスポットライトに照らされて歌う姿であった。
「……あー!あー!」
その光景を見た影人は反射的に声を上げた。そんな彼を見た二人は影人へと声をかける。
「影人、あそこにいる人が気になるの?」
「今までずっと歌番組を観てても何も言わなかったのに……どうしたんだ?」
影人にとっても何でこんなに惹かれるのかわからない。それでも今の彼にはステージの上でパフォーマンスをして輝くアイドル達が気になって仕方がなかった。アイドルがファンを沸かせてサイリウムが揺れる度に影人のテンションも上がるのか、食事中にも構わず暴れようとする始末だ。
「こら、影人。ご飯中だよ」
「でもさ理沙。影人もこういうのに目が惹かれる年頃なのかもな」
「うーん。でも流石にアイドルを詳しく知るのは難しいんじゃないかしら」
両親がそんな会話をする中、影人の目には僅かに小さな白い四芒星のハイライトが薄らとだができていた。それは影人の中で何かが変わった証拠なのかもしれない。とはいえ、まだ薄らすぎて誰も変化には気が付かないが。
「あう!あーう!」
会場が更に盛り上がると男性アイドルグループがファンサをする度にそれを観ていた観客……特に女性達が叫び声を上げる。
「影人、案外こういうアイドルになりたかったりしてな」
「えー?でも私は影人が大きくなってそんな事を言い出したらちょっと不安になるかなぁ」
両親の会話なんて今の影人には聞こえない。ただひたすらに自分の視界に映ったテレビの向こうからファン達へと歌を届けるアイドルグループの歌声、そして会場の熱狂が伝わるのをただひたすらに観て自分の瞳に焼き付ける事になる。
それから十年以上の時が過ぎた。影人はあれからすっかり成長すると中学一年を終えた後の春休みに入っている。身長は約160cmを少し超えたぐらいの比較的この年齢では平均的なぐらいだ。ただ、昔と比べて変わった点がある。それは両方の瞳にあった白い四芒星のハイライト。それはサイズが少し大きくなったものの、色が黒く変化していた。
「……この街とも今日でお別れか。……とは言っても、そんなに良い思い出なんてものは無いけど……」
彼が綺麗に片付いた部屋にある窓から外の風景を僅かだが眺める。この日。前々から準備を進めていたのだが、影人達黒霧家は父親の魁斗の転勤でこの街から引っ越しをする事に。だが、影人にはこの街に対して何も未練なんて物は無かった。
一応彼にも学校での話し相手はいた。しかし、その関係はそこまで深い物では無い。影人はあまり自分から話しかけることは無く、そこまでの仲になれなかったのだ。
「結局お別れ会も半ば形だけって感じだし。クラスの奴等もその多くは特に俺への興味も無さそうだしな。……どうせ次の街でもそうだろ」
影人は転勤による環境の変化に対して特に興味なんて無かった。むしろ、期待が薄いだけ気乗りしていない所もある程である。そんな中、自分の部屋の最後の片付けをしていた影人のいる部屋の扉が開くと少女の声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん!」
「……夢乃。何だよ」
「何だよ……じゃないの!お兄ちゃんってばさっきから手伝ってって言ってるのに」
「はぁ……何度も言ってるだろうが。そのくらい自分でやれ」
「えー……。仕方ないじゃん!面倒なんだから!」
先程から成長した影人と会話をしているのは影人の三つ下の妹で新学期から小学五年生の黒霧夢乃だ。
彼女は影人や両親と同じく黒髪でショートヘア。その笑顔は正しく天使で愛くるしく、クラスの人気者と言える程だった。また、瞳は影人と同じくオッドアイ。ただ、影人のオッドアイとは左右が逆で右が青、左が赤。更に瞳の色は両親よりも明るめであるために影人よりもかなり明るめだ。
加えて彼女には影人が幼児の頃にハイライトとして薄く宿していた四芒星で白いハイライトがまだ存在し、それは影人よりも大きかった。
「だって私非力だよ?お父さんは他の片付けのラストスパートだって言うし……。お願い、お兄ちゃんは私よりも筋力はあるでしょ?」
そんな風に潤んだような瞳で見つめられては影人も溜め息を吐かざるを得ない。
「仕方ないな……」
「ありがと、お兄ちゃん!」
「で、何を運ぶんだ?」
「えっとね……」
兄妹仲は割と良い方だ。夢乃は兄を割と尊敬している。だからこそこうやって頼りにしているのだが。ただ、影人は自分が夢乃の兄だと知られるのを極端に嫌がっている。
「ねーえ、お兄ちゃんも次の街では流石に私の友達の前に……」
「嫌だな」
「もう!どうして?私、お兄ちゃんの事を自慢したいのに……」
「悪いが俺はお前の兄だと周りに知られたく無い。お前のような完璧な妹の兄が俺なんて知られたら絶対に知られた人から失望される。だから周りの人には何があっても言うなよ」
夢乃は勉強だろうが運動だろうが家事だろうが何でもそつなくこなせる。流石に知識がない事は無理だが、教えられた事は大体すぐに覚えて実行できるのだ。それだけじゃなく人当たりが良く、真面目なので人望も厚い。そんな彼女だからお別れ会の時も女友達からは特に別れを惜しまれた程だ。
「お兄ちゃんは凄いのに……何で皆に自慢させてもらえないの?私だって……言いたいのに」
夢乃はとても不服な様子だが、影人としては自分なんかでは目の前にいる完璧人こと夢乃の兄として不足だと思ってる。また、自分なんかがいたら夢乃の友達作りの邪魔になるかもしれないと思っているのだ。こんな兄のいる夢乃の事を知って、幻滅の感情を彼女の友達に植え付けたく無いのである。
「そういえば、私達の引っ越し先って“はなみちタウン”。山とか海に囲まれた自然豊かな良い街っぽいよ。良い出会いがあると良いね!」
「……そんなものあったら苦労しないよ」
「あーっ。またお兄ちゃん、悲観的な事言って!……どうしてあの日からずっとポジティブになれないの!」
「無理に決まってるだろ。あの日俺の夢は砕けたんだ……。結局、俺の輝く力なんてその程度。……元々無理のある夢だったんだよ。でも、夢乃は違う。夢乃の方こそ俺のかつての夢と同じ所目指すなら俺なんかよりも良い所まで行けるだろ」
そんな風に話す影人の目はとても悲しそうだった。そんな彼を見た夢乃はやっぱり兄の夢はあの時一度粉々に砕けてしまったのだと思う。
「夢乃は可愛いしな。おまけに歌もダンスも上手い。その気になればドームとかも目指せるんじゃね?」
「そう褒めてくれるのは嬉しいけど、それを決めるのは私だよ。……まぁ、できれば目指したいのが本音なんだけどね」
そんな事を話しながら片付けを終えると両親と共に車に乗って元いた街を後にする事に。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
「はーい!」
「うん」
それから父親の魁斗の運転で移動を開始。引っ越し先である“はなみちタウン”へと向かっていく。
「そういえば、“はなみちタウン”の中では結構有名な喫茶店があるんだけど。確か……」
「“喫茶グリッター”ね。噂によると看板娘の女の子が歌ってくれるらしいわね」
「……お店の手伝いしながら歌うって……。それ、手伝いとしてはどうなんだよ」
この時、影人は彼女に対してそこまで良い印象を抱かなかった。何しろ普通なら飲み物とかを運びながら歌を歌ったらコーヒーとかに唾が入ったり、集中できずに間違えたりするだろうと思ったのだ。仮に運んでいる時とは別で歌うサービスだとしてもそれを聞いて客が元気になれるのだろうかと。そんな脳内お花畑の少女を連想した。
「あ。でも評判は結構良い方よ。訪れた客のレビューとか見てると良い印象が多めだし」
そこには“元気を貰えた”とか“看板娘の歌がとても心に響いた”というポジティブな意見が多数寄せられていたのだ。
「凄いなぁ……。私も看板娘さんの歌、聴きたい」
「……アホくさ。何ネットの意見に乗せられてるんだよ」
影人がやる気の無さそうにそう言うと両親は苦笑いする。しかし、両親としても今の影人の姿に関してどこか罪悪感を持っているような複雑な顔だった。それから引っ越した先の家に着くと運送業者のトラックが近くに留まっており、荷物を運び込み始めていた。
「お兄ちゃん、どこ行く?どこ行く?」
「何でそうなるんだよ。まずは部屋の片付けをしろ」
「だってさ、まだ片付けって言ってもそこまで私の部屋に手がついて無さそうだし……」
そんな風にお願い事をするような目を向ける夢乃。しかし、彼女のそんな目を見ても影人の心は動かない。
「ダメだ。少なくともこんな初日から一緒に出歩きたく無い」
影人としては夢乃と一緒に外に出るという行為をできる限りやりたく無いのだ。家族揃って買い物とかに行く時は仕方ないと思っても私用で二人揃って出かける所を何度も見られたら知り合いになった人からその事を聞かれるだろう。
そんな事になれば影人と夢乃が兄妹だとバレて夢乃に対して彼女の友達が幻滅してしまうと恐れているのだ。彼女が友達に話す理想の兄像を壊させたくない。
「お兄ちゃん、いつもそうだよね。私の事になると過保護なんだかそうで無いのかよくわからない態度を取ってさ。……私の気持ちなんてちっとも汲んでくれないし」
夢乃は大のお兄ちゃんっ子。流石に重度では無いのでずっとベタベタしていたいとは思わないが、それでも大好きな兄と一緒に外に出かけたい時だってある。夢乃は影人が何故こうなってしまったのかを知ってるからこそ特に言及しないが、それでも自分の友達が影人を知ったら幻滅するなんて考え過ぎも良い所ではないのかと思っていた。
「とにかく、今日は我慢してくれ」
「むぅ……。でもちゃんと埋め合わせぐらいはしてよね……。ずっと我慢させられている身にもなってほしいんだから」
夢乃はそう言って悲しそうにそう言う。それに対して影人も何も思っていないわけではない。むしろ、罪悪感はちゃんと感じていた。
「(ごめん……夢乃。でも、これは夢乃の事を守るためだ……。夢乃には呆気なく他人の影へと堕ちてしまった俺の分まで輝いていてほしいから)」
それから影人は両親に出かけてくるとだけ伝えると両親はそれを了承。影人は一人、まずは街中を探索する事にした。ここに引っ越したばかりで街の構造がわからないのでまずはそれを知る事から始める事にしたのだ。
「なるほど、ここに川が流れてるのか。反対側にあるのは……桜の木々か」
影人が歩いているのは近くに小さな川が流れている堤防の上で自分が歩く反対側にピンクの花を満開に咲かせた桜の木々である。
「綺麗な桜だな……」
そんな風に影人が綺麗な桜の木々を見ながら歩いていると一人の少女が犬を連れて歩いていた。
「“桜満開〜綺麗だね〜♪笑顔も満開だね〜きゅーちゃん♪”」
「ワン!」
少女の姿は茶色のロングヘアで髪にはピンク色のカチューシャを付けている。また、頭の左側には黄色い音符型の髪飾りを付けており、瞳の色は赤茶色だ。
「(歌いながら散歩……まぁ良いか。そういう人もいるんだな……)」
影人は少女が恐らく自作の歌を歌いながら犬と共に散歩するのを見て眉を顰めるが別に気にする必要も無いとスルーした。
「こんにちは!」
「ッ……どうも」
二人が向かい合って接近すると少女の方からいきなり影人へと挨拶をしてきた。そのため影人も驚いて咄嗟にぶっきらぼうな返し方になってしまう。
「この街で見た事無い顔……初めましてだよね。私と同級生ぐらいかな?あ、私は咲良うた!この子は飼い犬のきゅーたろうだよ!」
「ワン!」
そう言っていきなり馴れ馴れしく話しかけてきた元気でハキハキとした喋り方をする彼女に影人はやっぱり警戒した様子で答えを返す。
「黒霧影人……。今日この街に引っ越してきたばかり。だからこの街の事は……」
「影人君かぁ、良い名前だね!“ようこそ〜♪影人君♪はなみちタウンへ〜♪ワクワクでいっぱい新生活〜♪”」
そんな風に影人の事を歓迎すると言わんばかりに勝手に歌を歌われた影人は困惑する。
「いきなり歌……歌うの好きなのか?」
「うん!私のうちはね、喫茶店をやってるんだ!だから影人君も……」
「ごめん……今日は街を回る関係で時間が無いんだ。……また次の機会でも良いか?」
「そっか……急に誘っちゃってごめんね。うちの喫茶店からここから……」
それから影人は話しかけてきた少女、うたから喫茶店の場所と名前を教えられた。
「そこにある喫茶店、“喫茶グリッター”が私のお家だからまた時間ができたら来てね!それじゃあ、またねー!」
それからうたは犬であるきゅーたろうを連れて去っていく。そんな風に嵐のような彼女を見送りながらその背中を少しだけ見つめていた。
「……良いな……。あんな風に輝いて……」
それから影人はハッとすると首を横に振って自身を戒める。そんな事、自分にはできないという事実をある事をキッカケに知ったのだ。だから影人はこんな風になったのだが。
「ひとまずさっさと学校までの道を行くか」
それから影人が予め調べておいた学校への道のりを進むとちゃんと到着する。
「意外とわかりやすいな。これなら迷う事は無さそうだな」
影人はそんな風に学校までの道を覚えると他の場所へと行こうとした。すると影人が振り向いた先には自分よりも小柄な一人の少女が多少急いでいるのか、自分のいる方向へと小走りで走っていた。
「……あっ!!」
だが、足がもつれてしまったのかその少女は前に転びそうになってしまう。それを見た影人は咄嗟に飛び出すと彼女を支えるように受け止めた。
「ととっ……!!」
「ッ……」
その少女が顔を上げるとそこには濃い紫の瞳や髪でやや太眉。また、髪はツインテールと頭頂部のアホ毛が特徴的な少女である。そんな中、二人は我を忘れたように少しの間見合うと少女の方がハッとしたのか影人から離れると頭を下げた。
「あ、あの!助けてくれてありがとうございます!」
「いや……別に当たり前の事をしただけだし……君も急いでるんだろ?」
「え?……あ、はい!すみません、こんなバタバタしてて。また会ったらよろしくお願いします!」
それから紫髪の少女は自分の用事のために走り出す。そんな彼女を見送った影人はまた一人自分の行く先へと歩んでいく。こうして影人と彼の運命を大きく変える小さな少女との出会いは慌ただしい物であった。
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