キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
初めてのアカペラ練習があった日の翌朝。黒霧家で影人はしっかりと身だしなみを整えていた。
「お兄ちゃん!こころ先輩とのデート、楽しみ?」
「夢乃、今集中してるんだ。それにお前も準備があるんだからあまり遅く行くなよ?」
「もう、お兄ちゃんってば照れちゃって。こころ先輩とのデートもそれなりに回数行ってるんだからそんなに気にしなくても……」
描写が無いためあまり言及して来なかったが、影人とこころは付き合って以降、度々二人で出掛けるなどデートはしてきている。そのため、影人が気を使っているのは今回の事が初デートだからという理由では無い。
「あのな?今日はこころにとって大切な日なんだぞ?普段以上に気を使うに決まってるだろ」
影人の顔つきは真面目そのものであり、夢乃は今日の日付を見て納得の顔つきとなる。それは、今日が母の日であってこころの誕生日でもあるからだ。
「そのために夢乃はグリッターでサプライズの準備するって話だろ?俺も元々参加予定だったのがこころに誘われたから役割を変えただけで……」
前回も解説したが、影人は今回準備に参加できない代わりに誕生日会の準備中にこころが誤ってグリッターへと行ってしまうのを避ける役割を担っている。準備の総監督のレイもそれには了解しており、むしろこころを抑える役割が元々はいなかったので影人はそれの適任者だと判断されていた。
「お兄ちゃん、こころ先輩を途中で泣かせたらダメだからね?泣いてもらうならサプライズの後にしないと」
「わかってる」
「誕生日プレゼントやパーティーの事を悟られたらダメだからね?」
「……わかってるっての」
「ちゃんと夕方ぐらいまでにはこころ先輩の家に来てよ?お祝い側のメインキャスト無しなんてダメだからね?」
「……だから、わかって……」
「今日の夜は、先輩のご家族が良いって言ったらパーティーが終わった後にそのままお泊まりして添い寝をしても良……」
「おいちょっと待て!?何でそうなるんだよ!?」
影人は先程から夢乃から世話焼きの親からのお決まりの指摘を何度も受けてイラッとしていた所に最後にサラッと投げられた爆弾を聞いて流石に反撃する。
「えー?だってお兄ちゃん、お泊まり会の時こころ先輩と添い寝したんでしょ?私が聞いた時ずっと黙っててさー」
「アレは誤解だって!」
「それに、お風呂でこころ先輩のはだ……」
「だーっ!それ以上言うな!というかお前それどこで聞いたんだ!?」
「んーっと、確かレイ先輩」
それを聞いた瞬間、影人は額に青筋を立てる。ここ最近レイからの揶揄いが無くなったと思っていたのだが、忘れた頃に不意打ちでするという何ともタチの悪いやり方で久しぶりの揶揄いを受けてしまった。
「あの野郎、夢乃になんて事教えてるんだよ……」
「何にしてももう一緒の布団で寝てるんだから何してもセー……」
「アウトだからな?流石に夜のプロレスとかやり出したらR18コースだから!この小説が通常投稿の形で存続できないから!」
「そこまで言う必要は無いよね……お兄ちゃん」
影人が夢乃から言われている少し過激な揶揄いの言葉に我慢できなくなったのか、メタ話まで始めてしまう始末である。
「とにかく、こころとのデート……ちゃんと成功させてくる。夢乃も準備の方……頼む」
「うん。任せて!こころ先輩のために、しっかり準備してくるから!」
そんな風に二人がやり取りをする中、二人の両親の魁斗や理沙は微笑ましい物を見るような目で隙間から部屋を覗いていた。勿論影人が恋人のこころを相手にお泊まり会でやった事はこのタイミングで二人にも知られてしまったのだが、それは余談である。
影人はそれから準備を終えて家を出るとこころを家にまで迎えに行く事になる。……このタイミングで時間を少し遡ろう。場面は紫雨家での事だ。
朝、紫雨家のこころの部屋で目覚ましのアラームが鳴り響く。それを聞いて睡眠から目覚めたこころはスマホを手に取るとアラームを止める。
「……ん」
そのまま彼女は起き上がるとスマホのカレンダーに書いてある母の日の文字とその下に書いてあるデートの文字も見て自然と顔つきが笑顔になった。
「今日は母の日!そして、カゲ先輩とのデートも……」
ちなみにこころは薄暗い朝早くにダンスの練習している所から見てもわかる通り、朝には強い方だ。いつも鼻提灯を出しながら寝ているうたとは違い、寝相も悪く無い。また、彼女のようにアラームを止めてから二度寝オチも無いくらいしっかりしている。尚、この場合はうたが異常なまでに寝起きが悪いだけなのかもしれないが。
それはさておき、こころは部屋から出て居間へと繋がる障子を開けるとそこには仕事着であるスーツ姿のこころの母親……紫雨愛がいた。
「おはよう、こころ」
「おはよ……あれ、お母さん。日曜なのにお仕事?」
「ごめんね……今日は絶対早く帰るから!」
愛はこころへと申し訳なさそうに手を合わせて謝るポーズを取る。こころはそんな母親の気持ちがわかっているので笑顔で彼女を送り出す事にした。
「うん!」
「朝ご飯。作ってあるから食べてね」
「うん」
「あ、そうそう。影人君とのデート、楽しんできてね!」
「えっ!?何でお母さんがそれを……」
実はこころは今日のデートの件を母親には説明していない。デートの際にサプライズで母の日のプレゼントを買って後からそれを言うつもりだったからだ。ただ、影人が自分の母にそんな事をバラすような人だとは思ってないこころは何故そうなっているのか気になった。
「お母さん、私がカゲ君とデートするってどこで聞いたの?」
「あ……えっとね、その……今はまだ言えない……かな。そんな事より、折角のデート、影人君が迎えに来てくれるんでしょ?影人君を待たせたらダメだからね」
「えぇ……」
こころは困惑するが、愛は出勤時間の事もあるので半ば無理矢理押し通すとそのまま出て行ってしまう。
「じゃ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい……」
こころは半ば唖然としつつも出て行った母親を見送り、食卓に置いてある朝食に目をやる。
そこにあったのは目玉焼きの乗った食パンにレタスとトマトのサラダ。二本の焼かれたウインナーにコンソメと思われるスープ。オレンジジュースも置かれてある。恐らく、愛が出かける前の僅かな時間でこころのために作ってくれた朝食だろう。
「……お母さん、大変なのに」
それからこころは早速席に座って朝食を口にする。その美味しさに思わず頬が緩んだ。
「美味しい……」
こころが味わって朝食を食べていると彼女の視界にフワフワ〜ッと浮かぶ小さな妖精が見えた。
「あれ……この子は?」
その妖精は目玉焼きを上に乗っけた食パンのような姿であり、こころが美味しそうにご飯を食べるのに呼応する形で出てきたようである。
「ピピピ〜ッ!」
この妖精は以前、影人達とお泊まり会をした際にサバカレーの個体がヒッソリと出てきていた。ただ、その時は影人達は誰も気が付かなかったのでこころにとっては初対面……の、はずなのだが。
「むむむ……何だかこの子とは初対面じゃないような気がしますね……確か私が小さかった頃、どこかのタイミングで姿は違うけど見たような気がします……」
「ピィ?」
妖精はこころにそう言われて首を傾げる中、そんな彼女の心境を知ってか知らずかその妖精……レシピッピはこころにそう認識されて幸せそうに飛び回るとフッと料理の中に消えてしまった。
「あっ……。本当にいきなり出てきては嵐のように去ってしまいましたね。うーん……一体どのタイミングでしょうか?私の好きなおにぎりを握った時でしょうか?それともピーマンの肉詰めが出てきた時でしょうか?……心当たりのある出来事が多すぎて特定できませんね……」
こころは色々と悩むが、結局自分の望む答えが出なかったので仕方なく今は影人とのデートや母の日のサプライズを考える事に集中する事にした。
尚、こころの頭の上には薄らとピンクの狐の姿をした妖精が先程こころの前に姿を表したレシピッピと戯れつつ、尻尾を可愛らしく振りながらこころからしてみたら空耳に近い感覚にはなるが声を上げたとか上げなかったとか。
「デリシャスマイルコメ〜!」
そんな些細な話はさておき、こころは影人が迎えに来る時間に準備が終わらないのは不味いとご飯を味わって食べた後に準備をする事になる。
「カゲ先輩が気に入りそうなのは……えっと、えっと……」
こころはここ最近、影人と二人きりでのデートの際は特にオシャレも気にするようになった。少し前まではあまり気にしていなかったくらいだったが、新学期になってから短期間で一気にここまで気にするようになったのはやはり影人とお付き合いをしているからだろう。
「……ハッ、もうこんな時間……あと少しでカゲ君が家に来てしまいます!」
影人は割と時間厳守人間なのでここで彼を待たせるのは失礼だと慌てふためく。そのため、こころはパパッと準備を済ませるとそのタイミングで玄関のチャイムが鳴る。
「はーい!」
それからこころが戸を開けるとそこにはこころを迎えに来た影人がおり、彼は早速話しかけた。
「おはよ、こころ」
「おはようございます。カゲ君」
「準備……大丈夫そうか?まだ終わってないなら待つぞ」
「ッ……だ、大丈夫です!その、鞄だけ持ってくるので少し待っててください」
こころはどうにか影人を長々と自分の準備が原因で待たせないで住む事に安堵の心境となると急いで奥の部屋へと戻って準備完了していた鞄を回収。それと家に残る祖父、祖母へと出かける断りを入れてから玄関へと戻ってきた。
すみません、カゲ君。もう行けますよ」
「わかった。じゃあ、早速行こうか」
それから二人が紫雨家を後にすると早速二人でデートをするために街へと向かう事になる。
同時刻、喫茶グリッターにて。影人とこころがデートに出かけている間、うた達はこころの誕生日サプライズの準備に勤しんでいた。
「メロ……何で影人が来ない事になったのメロ」
「仕方ないよ。こころとのデートが急に入っちゃったみたいだし」
「うん。メロロンも知ってるでしょ?こころちゃんと影人君が恋人同士だって」
「それは知ってるのメロ。でも、影人がいないとメロロンは少し寂しいのメロ」
今現在、メロロンはプリルンと共にパーティーで使うための輪飾りを製作中である。プリルンがこころの誕生日お祝いを手伝いたいとうた達に伝えたため、彼女やメロロンでもやれる作業として割り振られたのだ。ちなみにメロロンは影人も一緒に作るという話を聞き、手伝ってくれるならプリルンも喜ぶと言われて簡単に釣られたのである。
「ほら、メロロン。手が止まってるよ」
「わかってるのメロ」
そんな中でうたはななや田中にちょくちょく見守られながらhappy birthdayの文字を作っている最中だ。
「もうちょっとpとpの間を空けたら?」
「こう?」
「そんな感じです……ああ、行き過ぎ!」
「えっ!?きゃあっ!」
その直後、いきなりドシーンという音と共に一同が慌てて振り返るとそこには目を回した姫野の姿があった。
「はうう……な、何でこんな単純な失敗を……」
「姫野さん!?大丈夫ですか!?」
「すみません、無理言って呼んでしまって」
ちなみに、今彼女が転んだ理由だが、プリルンとメロロンが作った輪飾りが下にまで伸びているのに気が付かなかった姫野が足を引っ掛けて顔面から転んでしまったのである。
「うう、大丈夫ですよ……。夢乃さんのお願いですし……お手伝いしたいと言ったのは私なので」
「それにしても、姫野さんがここまで細かい作業が苦手だなんて」
「ッ……」
実は先程まで姫野も輪飾り作りや飾り付け作りをしていたのだが、手先があまりにも不器用で歪な飾りとなっていたので、彼女がその作業を進めるのは一旦断念。彼女が得意な物資の調達力や事務能力を活かす形で市販のパーティーグッズの買い揃えをしてもらおうと考えていた所だった。
「すみません……」
彼女は申し訳なさそうな顔をしていた。どうやら彼女が前に言っていた仕事以外ができないという言葉の中にはこの作業も含まれているらしい。
「姫野は昔から不器用な子でしたからね……。人間界に馴染んで解決しているかなと思っていたのですが……」
「すみません、田中さん……」
先程から彼女は謝ってばかりだ。自分が足手纏いなこの状況に相当頭を悩ませている形である。
「ひとまず、姫野さんにはこれから買い出しに向かってもらうとして……このままで間に合うかな……」
「ああ。思ったより進捗が遅いな。影人に割り振る分を考えると人手が足りて無いのかも」
そう言う作業の総監督ことレイ。やはり影人がいない影響がここに如実に現れてしまったらしい。
「そんな、今日は大切なこころ先輩の誕生日会ですよ!?お兄ちゃんにだって真剣に頼まれたのに間に合わないだなんて……」
ちなみにこの場にいない天城はどうしても外せない用事が前々から入っていたらしく、今回の作業には不参加だ。
「でも、影人君がこころの事をこっちに来ないように引き付けてくれてるし……それに、こころの誕生日のためだもん。もっと頑張らなくちゃ!」
うたの言葉を聞いて奮起する一同。この感じだとやはり彼女がチームの精神的支柱と見て間違い無いらしい。どうにか夕方までに完成させてこころの家で準備するべくグリッターでの準備メンバー達は飾り付け製作を頑張るのであった。
また次回もお楽しみに。