キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
うたがアイドルプリキュアとしての覚悟を決めて数日。影人達のクラスは新入生の歓迎会に向けて放課後の練習を進めていた。
「はーい!今日はここまで!」
そんな風に担任の富士見が言うとこの日の練習は終わり、そのまま部活や下校の流れとなる。
「……ふぅ」
影人も何だかんだでちゃんと練習には真面目に取り組んでおり、今日もやり切ったような感じだった。
「影人。お疲れ」
「……あのさ、何でそんなに毎日ナチュラルに話しかけられるんだよ」
影人の視線の先には鞄を持ってやってきたレイがいる。レイは影人が転入してからと言うものの、毎日のようにどこかしらのタイミングで話しかけてきた。
「そりゃあ、俺が影人と友達になりたいからだな」
「何でそんなに……いつも言ってるだろ。俺と友達になるだけ損だって」
「損?損か……。少なくとも、俺やこのクラスの奴等は影人がそんな風に言って跳ね除けても、仲良くしたいって人ばかりだぜ?例えば……」
「影人君!レイ君!一緒に帰ろ!」
レイが名前を出そうとする前にレイが最初に思い浮かべた人物。咲良うたがやってきた。
「咲良さん……はぁ……」
影人はいつものように絡んできたうたを見て頭に手を置く中、レイがうたへと質問を投げた。
「あれ?さっき蒼風さんにも声をかけてなかったか?」
「えっと、ななちゃんも誘おうと思ったんだけどさ。明日、ピアノのコンクールでしょ?だから明日に備えないとだから」
影人やレイはそれを聞いて納得の顔になる。ななは明日のコンクールに向けてずっと頑張ってきた。だからこそ、彼女の明日にかける想いは強いだろう。
「さて、俺はさっさと帰……むぐっ!?」
「どこに行くんだ?影人。三人で帰るぞ」
影人は一人で勝手に行こうとする中、彼は思いっきりレイに捕まると戻される。
「何すんだよ、レイ」
「それはこっちの台詞だっての。勝手に帰ろうとすんな」
影人はレイのあまりの隙の無さに面倒そうな顔になると仕方なく二人に付き合う事にした。
「そういえば、レイ君はどうして影人君と一緒にいる頻度が多いの?前まで同じクラスの他の人達に囲まれてるイメージだったのに」
「それはな、影人から他の人とは違う何かを感じたから……かな」
そんな風にレイは影人へと目線を送ると影人はそんなレイから視線を逸らす。影人はここ最近頻繁に絡もうとしてくるレイを相手にそこまで良い感情を抱いていなかったのだ。
「……だから買い被り過ぎだっての。俺にそんな物はねーよ。てか、レイ。お前はやっぱり陽キャ側の人ってわけか」
「まぁね。自慢じゃないけど、それなりに人とは話せる方だと思うよ」
影人の問いにレイは笑って返すと影人はそんなレイに苛立つ。うたはレイと反発する影人へとレイの良さを話す事にした。
「レイ君はね、前にも言った通りだけど同学年の中では人気者でさ。誰とでも接することができるコミュニケーション能力に人望もある。学年内でもカリスマと呼べるぐらいなんだよ?」
「そうかよ。クラスの人気者がわざわざ気にかけてきて。俺に何を期待するってんだ」
うたが二人を仲良くさせようとするためにそう言っても影人は根本的にレイとは合わないとばかりに塩対応を続けた。影人としてはレイとは対象的に他人との交流を避けたい。だからこそ自分へとレイが何の興味を持って接してくるかわからずに半ば投げやりに対応してしまうのだ。
「……俺は影人の輝きの秘密が知りたいんだ。影人が転入してから君を見てて思うんだ。影人の放つ輝きってさ、こう……目に見える輝きじゃないんだよね。見えてないけどちゃんと周りの人をそっと内側から照らしてくれる。そんな感じって言えば良いのかな」
「それ、私にもわかる!影人君、普段はキラッキランランしてないのに、影人君と話しているといきなり心にキラッキランランって感じが湧き出てくるみたいな!」
「訳わかんねぇよそれ。もう少しそのキラッキランランとかいう自分しかわからない比喩表現じゃなくて俺にもわかりやすい具体的な説明にしてくれ」
影人は独特な例えをするうたにわかりやすい説明を求めるが、結局影人にはどれだけうたからの説明を受けても理解できず。結果的に話の進展はゼロだったために意味はわからず終いとなってしまう。
それからその日の夜。家に戻った影人の部屋に夢乃が入るためにノックをしてきた。
「お兄ちゃん!入るよー!」
「どうぞ」
「お邪魔しまーす!」
「……夢乃さ、いつまで兄離れしないんだよ」
影人は夢乃に対してそんな風に聞く。影人からして見れば夢乃ぐらいになればそろそろ兄である自分にべったりというのは卒業すると思っていた。むしろこれから先、兄である自分の事を鬱陶しいと思うような年齢に差し掛かる。だが、夢乃にはまだそれの前兆すら無い。
「えー?私は生粋のお兄ちゃんっ子だよ?まだまだお兄ちゃんの事を嫌いになんかなったりしないもーん」
夢乃はそう言って影人へと微笑む。そんな彼女を見た影人はまた溜め息を吐いた。影人としては夢乃に嫌いとか鬱陶しいとか言われるよりはまだこのままの方が気持ち的には楽だが、いつまでもこのままというのは正直気不味いのだ。
「あ、そうだお兄ちゃん。新しい友達できたから、今度こそお兄ちゃんをしょ……」
「却下。俺はお前の友達の前に出るつもりは無い」
「即答って、どれだけ私に兄の事を自慢させないつもりなの?」
「俺なんか誇れる兄じゃない。夢乃の友達に俺が夢乃よりも情けない男だって知られたら嫌だろ」
影人はやはり夢乃の友達と顔を合わせるつもりは無いらしい。夢乃はそんな影人の態度に可愛らしく頬を膨らませた。
「むーっ。お兄ちゃん、ちょっと強情すぎない?良い加減紹介ぐらいさせてよー!私の自慢のお兄ちゃんを紹介させてー!」
夢乃は影人へとタックル気味に後ろからぶつかりながら抱きつく。そんな夢乃のスキンシップに影人はまた面倒そうな顔になった。
「お前はブラコンか」
「あ、そういえばさ。実はこんなチケットを貰っちゃってさ」
夢乃が渡したのは中学生の出場するピアノのコンクールのチケットである。
「……何だこれ」
「ふっふーん。私の新しい友達のお姉さんがこれに出るらしいんだ。私も興味があったからお願いしたらチケット代を引き換えに二枚分余分に貰えたんだ。勿論その二枚は私が出したお金だよ」
「……は?何で二枚?」
影人は夢乃からの言葉に疑問符を抱く。普通行くなら自分だけになるだろう。影人はこの時点で嫌な予感がしていた。
「お兄ちゃんも行こ!」
「だろうな……。話の流れ的に何となくこうなると思っていた」
「流石!お兄ちゃんなら理解してもらえると……」
「嫌だな」
「ええっ!?」
影人はここまで話を持ってきた夢乃の誘いをあっさりと切り捨てた。影人からして見れば完全に余計な事でしか無いと思ったのだ。
「お前な。俺がわざわざ着いていくなんて思うのかよ。というか、余計に二枚も買うとかお金の無駄遣いすんなよ」
「えぇー?良いじゃん。これからのドリーム・アイとしての活動で使えるかもしれないじゃん」
「どこがだよ!大体、俺の知り合いが誰もいないそんなコンクールに興味が湧くとでも……ん?」
影人がツッコミを返すと夢乃に対して半ば苛立ったような対応をする中、彼は何かに気がつくと夢乃へと再度問いかけた。
「そのチケット、中学生のコンクールって言ったか?」
「え?そうだけど?」
「……日付は?」
「明日。場所は……だよ」
「………」
影人は無言になるとチケットに書かれているコンクールに該当するサイトをスマホで検索して開くと出場者欄を見てみる。
「………マジかよ」
するとその中に何人もの名前が並ぶ中、しっかりと“蒼風なな”という名前が載っていた。
「……夢乃、気が変わった。仕方ないから付き合ってやる」
「え?お兄ちゃん、さっきまで嫌がってなかった?」
「煩い。そう思うのなら疑問なんか浮かべずにさっさと俺がお前に付き添ってやるという事実を受け止めろ」
影人がそう言うと夢乃は嬉しそうに笑い、そのまま上機嫌になって部屋から出て行った。
「蒼風さんのピアノ……。あんな気持ちの良い音楽、正直生で聞いてみたいな」
影人は学校の合唱練習の際にななが奏でるピアノに対して気持ち良さを感じていた。彼が合唱に割と真面目に打ち込んでいるのはそれが理由だったりもする。
それから翌日。影人と夢乃は二人でピアノのコンクール会場に足を運んでいた。
「お兄ちゃん、外ではあんまり私と二人きりで一緒にいたくないなんて言うから心配したよ。偶には一緒に出かけれて嬉しい!」
「……あまりくっつくな。あと、お前の友達とは会わないからな?」
影人の今回の目的はあくまでもななの弾く生のピアノの演奏だ。普段の合唱練習の際に彼女が弾くピアノの美しさに惹かれ、もしコンクールで弾くならば彼女の曲はどれだけ美しい音色になるのかを知りたいのである。
「……むーっ。仕方ないなぁ」
それから夢乃は指定された席に影人と共に到着すると夢乃は一人、友達やその家族に挨拶するために移動していく。
「……はぁ。夢乃は良いよな……。一人でも輝ける何かがある。それに人も良いとか完璧過ぎるだろ」
影人は妹の夢乃には才能があると素直に認めていた。むしろ、才能の無い自分と比べてしまうくらいに。
「お待たせ!お兄ちゃん、寂しく無かった?」
「お前じゃないんだから平気だっつーの」
それから夢乃が戻ってくると影人はお手洗いに行くために一人席を離れるとトイレを探して歩く。その帰り道の事だった。
「さてと、もう少ししたら開演しちゃうし、早く戻らないとな」
すると影人の目線の先に見覚えのある紺色の髪が映る。 そこにいたのは水色のドレスに身を包んだ蒼風ななであった。彼女は鏡に手を置くとプレッシャーに押し潰されてしまいそうな顔つきをしている。
「……大丈夫。私ならきっと……」
「………」
ななは鏡に映る自分を見ると酷く緊張し、不安そうな顔つきをしていた。そのために鏡の自分に向けたウインクをするとプレッシャーを紛らわせていたのだ。影人はそんな彼女を見て声をかけるべきか迷った。
だが、影人は今、自分が声をかけても彼女の集中を邪魔してしまうと判断すると何も言わずにそのまま歩いて行ってしまう。
「……かなりプレッシャーを背負ってる感じだな……何も無いと良いけど」
それから影人は夢乃の隣の席に戻ると暫くしてコンクールは開演。それからエントリーした人達による公演が進んでいく。そのピアノの音色はどれも美しく、影人も夢乃も聴き入ってしまう程だった。
「……進行のプログラムによると次か……」
「お兄ちゃんのお目当ての人の事?」
「ああ。俺のクラスメイトだな」
「ふーん。お兄ちゃんが入れ込むなんて意外だね。ピアノになんて興味無いと思ってたのに」
「……まぁ、普段ならピアノのコンクールになんて興味は無いな」
だが、影人はこの街に来て知った。自分の心を気持ち良くしてくれる透き通ったピアノを弾く人を。その人の大舞台、見ないわけにはいかない。
それからななが舞台袖から出てくると中央に置かれているピアノの前に座ると早速弾き始める。
「……綺麗な音」
ななの奏でるピアノの音楽はとても美しく、滑らかで洗練された物だった。夢乃も自分の友達の姉目的で来ていたのだが、ななの弾くピアノに本当に聴き入ってしまっていた。
「………」
それから曲は進んでいくと盛り上がる部分に差し掛かる。そしてそれも終わり、あと少しで弾き終わるという時だった。いきなりピアノの音が止まってしまう。
「……?」
影人がいきなり止まったピアノの音に目を見開くと前でななはピアノの椅子に座ったまま動揺した顔つきになってしまっていた。
その日の帰り道。影人と夢乃は二人で今回のピアノのコンクールの感想を言い合う事に。
「凄かったね、お兄ちゃん」
「ああ。……正直蒼風さん以外はオマケのつもりだったけど、普通に皆凄かった。このコンクールのレベルの高さがわかる」
「……でもさ、残念だったよね」
この日、コンクールで優勝したのはななでは無かった。ななは最後の最後でピアノを弾き間違えて演奏がストップ。結局それによる減点を取り返せるような点を取れなかった。結果的にななが優勝から転落した事で他の人が優勝する流れになったのだ。
「………蒼風さん、俺が声をかけてたら違ったのかな」
「お兄ちゃん、そんなに気に病まなくても大丈夫だよ?むしろ、蒼風さん?のミスはあの人のミスなんだから」
影人は正直少し後悔していた。あの時。プレッシャーに押し潰されそうになった彼女とちゃんと話していれば。……もし、うたやレイが言っていた誰かの心を照らせる力が本当に自分にあって、あそこで彼女に話しかけていれば。もしかしたら彼女に自信を取り戻させられたのかもしれない。
「お兄ちゃん、もしどうしても気になるのなら明後日の月曜日。蒼風さんに直接話しかけてみたら?」
「……俺は他人のためにそこまでするような奴じゃねーよ」
そう言って夢乃からの言葉をバッサリと切り捨てる。それから休みを挟んで月曜日。学校にまで時間は進むことになるのであった。
また次回もお楽しみに。