キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
蓮が影人達と別れて家に戻るとそんな彼を家の中で出迎えた二つの影。その中の一人はピンク色のショートカットで青色の瞳のたれ目がトレードマークで優しそうな顔つきであった。彼女は朱藤三姉弟の一番上にして長女。朱藤陽葵。
「あ、蓮ちゃんお帰り〜」
陽葵からの声色はその見た目通りおっとりとしたような物だった。それからすかさずもう一人が声を上げる。
「お帰り、蓮。今日配信の割に少し遅かったわね」
その姿は赤いロングヘアーをツーサイドアップにしていて、ピンクの瞳のつり目がトレードマークでつり目になってる目つきさえ除けばアイドルのような可愛らしさだった。彼女は朱藤三姉弟の真ん中にして次女の朱藤笑華。
「ただいま。ひま姉、ニカ姉。確かに向こうで話をしてたら配信日の割に遅くなっちゃったな」
彼女達は既に芸能界を引退して完全に身を引いている蓮とは違って芸能界に復帰している。
陽葵の方は両親が事件で亡くなって以降、三姉弟の長女として一家を支えるために奮闘。中学卒業から元々続けていた女優業に本腰を入れると今では国民的な女優として人気を得て数多くのドラマへの出演を果たしてきた。
笑華の方は親のようなアイドルになりたいという夢を見ると当時募集していたアイドルグループ。『Pretty Fruits(プリティーフルーツ)』へと応募。見事センターに選ばれるとそれ以降はチームの看板的存在として人気を得ている。
「今日は夢乃ちゃんとの配信だよね〜。私、あの子の配信大好きなんだ〜」
陽葵の言葉に蓮は意外そうな顔つきをする。夢乃は年齢的に幼いし、メインターゲットはあくまで中高生である。そのために既に大人で尚且つ女優の陽葵が好きなのは蓮にとって意外な話だった。
「ひま姉が好きって言うなんて珍しいな。どうして?」
「あの子普段は可愛くてしっかりしてるのに配信とかじゃ別人みたいに大人っぽくなるもの。ギャップがあって良いな〜って」
「なるほど」
ドリーム・アイの正体を知っているのは黒霧家一家とアイドルプリキュアの関係者。そしてマネージャーの姫野や所属事務所の人々のみ。そして陽葵や笑華の二人がドリーム・アイの正体が夢乃であると知っているのは蓮がうっかりバラしてしまったからだ。
「それに、今の時点であれだけの演技ができるならもう少し大きくなったら役者さんの才能とかもありそうだなって」
「それをやるかやらないか決めるのは夢乃ちゃん次第だからなぁ」
陽葵の考えはさておき、陽葵がドリーム・アイを気に入っているという事実は知る事ができた。すると笑華が蓮へと話しかける。
「蓮、アンタ。自分が歳上だからって夢乃ちゃんをあんまり揶揄ったりして虐めたらダメだからね」
「しないって。というか、向こうのVtuberとしての設定を考えたらあっちの世界だと夢乃ちゃんとほぼ同年代だし配信中はタメ語にしないとダメだからな」
夢乃はVtuberとしてやってるキャラと実年齢に大きな開きがある。普段が歳下だからといってそれ通りの接し方は使えないだろう。
「そういや、影人の奴が配信での事をご愁傷様とか言ってたが……何でだ?ひま姉、何かわかる?」
「うーん?あ、もしかするとあの事かもね〜」
「え、ひま姉何か知ってるの?」
「私の予想だけどね」
「じゃあ教えてよ」
「それはルール違反じゃないかな。カゲ君がそうやって意図して蓮ちゃんに言わなかったんだし知らないままやった方が良いと思うよ」
蓮は陽葵にはぐらかされると余計に気になるが、彼がどれだけ問い詰めても良い返事は貰えなかった。陽葵としても実際に体感してもらった方が良い派なのだろう。
「わかったよ……」
「蓮、あまり話してばかりだと時間になっちゃうでしょ。さっさと準備の方しないと」
「わかってるって!ニカ姉に言われなくたってそのくらいやるよ!」
ひとまず蓮は余計な事をして配信予定時間に間に合わないのが最悪なため、急いで片付けや準備を始める事になる。それから少し時間が経った。
蓮はご飯までの時間に可能なだけ勉強を進め、ご飯の時間になると陽葵が作った夕食を三姉弟で囲んで食べる。そして、いよいよ配信予定の時間が近づいてきた。
「夢乃ちゃんからのLINEも入って接続成功したって報告もあったし……ふう」
蓮は正直緊張していた。普段の夢乃の声は幼い子供のイメージが目立つが、前に一度だけ披露してもらったドリーム・アイとしての声色はそれなりに色気のある大人の声だった。Vtuberとしてのビジュも完全に大人のそれである。
蓮は何だかんだで大人の美女に弱い所がある。それを象徴するエピソードとして、夢乃では無いのだがバイトをしている天城切音と初めて出会った時の事。
〜回想〜
「お邪魔します」
蓮がいつも通りグリッターで待ち合わせのためにお店に入るとそのタイミングでバイト中の天城と目が合った。
「いらっしゃいませ〜」
「ッ……」
その瞬間、蓮は目を奪われてしまったのだ。サラサラした紺色のセミディの髪。それなりに大きな胸にある二つの物体。顔つきは美女のそれでそんな彼女が営業スマイルで微笑んできたのだ。その美しさに顔が熱くなるのを感じてしまう。
「えっと、どうされました?」
「あっ、すみません!」
蓮は彼女に指摘されてやっと我に帰ると頬を二回叩いて正気を取り戻す。それと同時に自分の好きな人であるうたを思い浮かべて彼女からの魔性の魅力を振り切った。
「(っぶねぇ……。うたがこれ見てたら絶対ヤバかった……。あの人、初めて見るけど美人過ぎるだろ……)」
「……?」
〜現在〜
その当時はうたがいなかったがために特に問題にはならなかった。ただ、今回は恐らくうたも視聴するだろう。そのため、大人な夢乃の声を聞いて少しでも照れたら不味いと感じているのである。
「ふぅ、大丈夫……大丈夫……」
「何蓮、緊張してるんだヨイ……」
「うわっ!?ヨーヨイ、頼むから配信間近だし静かにしててくれ」
「取り敢えず、自然に話せば大丈夫ヨイ。蓮もキャラを作ってるんだからそれに没頭してれば緊張感は薄れるだろうし」
「ああ……そうだな」
蓮はヨーヨイからの助言を受けるとマネージャーの流川から五分前のメッセージが来る。既に配信待機画面には三万超えの待機者がいた。恐らく一部は夢乃ことドリーム・アイのファンもいるのだろう。それからとうとう配信時間となる。
蓮は画面を切り替えると同時に配信用のゲーム画面へと移動。そしてそれは夢乃ことドリーム・アイの方も同じだ。
「皆、聞こえるかい?……うん。メッセージがちゃんと来てるってことは大丈夫だね」
『私の方も大丈夫そうだよ〜。じゃあ、早速始めよっか。エレン君』
「うん、僕から自己紹介するね。僕は
蓮はVtuberとして活動する際はキャラを変えているために爽やか王子様のような喋り方をしている。彼のVtuberとしての名前は西片エレン。その容姿は金髪蒼眼の王子様のような物であった。
『はーい、サウンドプロダクション所属。楽しい夢への案内人ことドリーム・アイで〜す。今日は私達の夢にようこそ、良い夢を見ていってね〜』
ドリーム・アイからの自己紹介の言葉も問題無く聞こえている。接続に関しての問題は無さそうだった。二人の自己紹介の間もメッセージが流れていく。
ちなみに蓮側の配信画面にVtuberとしてのアバターが映ってるのは蓮だけだ。ドリーム・アイの方は画面の右上側にコラボ相手の画像として貼られている。
ドリーム・アイの方も自分の配信画面に同じように出ているため、それぞれの配信のゲーム画面の事もあって西片エレン側、ドリーム・アイ側でそれぞれ違いがあるということだ。
「早速皆コメントしてくれてるね」
『こんなに沢山の人からコメントが来てくれて私達、嬉しいな〜』
そのコメントの中には“エレン様カッコいい”とか“アイちゃん可愛い〜♡”みたいな物が褒めのメッセージなどが多めだったが、その中にポツンと“妙に話慣れてるな〜”みたいなメッセージもあった。蓮はそれを見て対応しようとすると先に夢乃が話す。
『話慣れてる?え〜?エレン君とは初対面だよ。って事は私達のコミュ力が凄いって事だよね〜、褒めてくれて嬉しいな♪』
蓮は夢乃が面倒なコメントへの対処に手慣れているとこの話で判断。夢乃にばかり引っ張られるのは蓮としても彼女に申し訳ない。そのため蓮も話題をゲームへと向ける。
「じゃあ、そろそろゲームの方に入ろっか。アイさん」
『うん、良いよ〜』
夢乃の話し方はプロのアイドルとかにもいそうな大人の魅力を備えた不思議な雰囲気を醸し出していた。確かにこれなら陽葵の言う演技力の高さも納得である。
「今日やるゲームは“集結!世界の遊び51選”だよ。このゲームは世界中に存在するゲームを集めていて、オセロとか将棋みたいなメジャーな物からマンカラやルドーと言ったマイナーな物まで数多く存在するんだ」
今回何故これにしたかというと、折角二人で配信するなら実際の相手の反応を聞きながら対戦ができるゲームをやりたいという話になったからだ。普段のドリーム・アイとかでやるゲームはネットゲームという不特定多数の視聴者参加型の物が多い。蓮もエレンとしてゲームを配信する事は多いのでそれが良いと纏まったのだ。
「最初のゲームだけど……アイさんはどのゲームが良いとかある?」
『やりたいゲーム……。ちょっと数が多くて迷いそうだから先にエレン君が選んでくれて大丈夫だよ〜』
夢乃がそう言って蓮へと選択権を譲渡する。蓮が少し考えると彼が選んだゲームを言う。
「じゃあ……リバーシ。オセロとかどうかな?」
『ん、オセロね〜。良いよ〜』
そんな風にあっさりとオセロで勝負する事が決まる……のだが、その瞬間いきなりコメント欄が流れるスピードが加速する。
「ん?“エレン様それはヤバい”?“悪夢を生み出す魔王が出てくる”?」
『なんかそんなコメントが来ちゃってるね。大丈夫、大丈夫。私は至って普通にプレイするだけだからね』
夢乃がゆる〜く返すとコメント欄の中には“アイちゃんの普通は普通じゃないよ!”とか“エレン君オワタ”とか戦っても無いのに敗北宣言を視聴者に宣告されていた。
「いやいや、流石にそれは言い過ぎだと思うよ。僕だって頭脳戦ならできる自信はあるし」
事実、蓮の頭脳はそれなりにある。しかも単純に中2と小6なのだ。幾ら夢乃が普通の小学生を逸脱した頭脳を持っていたとしてもそこまでの蹂躙にはならないはず。そう蓮は考えていたのだが……。
「対戦よろしくお願いします」
『うん、対戦よろしくお願いしまーす』
早速二人はオセロの対戦を始める。まずは普通にオセロの盤面を進めていく。盤面に置かれた白と黒がクルクル入れ替わる中、蓮は少しずつ違和感を感じていた。
「……あれ?僕が置けるマス、減ってきてる?」
今現在、盤面にある石の数は38個。蓮ことエレン側が白で34個、夢乃ことアイ側が黒で4個……なのだが、この時点で蓮が置けるマスはゼロ。まだ四隅の角は取られておらず、今は夢乃の番だ。
『うーんっと、ここかな♪』
夢乃が石を置くと左下の角を蓮が取れるようになった。一応その近くにも置ける場所はあるが、角が取れる状況なのに蓮が取らないはずが無い。
「え?角取れますけど良いんですか?」
『うん。その角は取れるよ』
蓮は躊躇なく角を取る。角を取ればそこはもうひっくり返す事はできないのでそこは確実に自分の物にできるのだ。
「じゃあありがたく貰うよ」
『そこはエレン君にあげるね〜』
ただ、夢乃の話し方はまるで余裕がありまくってる人が言う台詞その物だった。そして、蓮はこの時ある直感が走る。自分は今、完全にハメられたのでは無いのか……と。
『私は……うん、ここだね』
夢乃がそう言って石を置く。その場所を見て蓮は目を見開く。そこは左端の列の上から三番目。そしてその位置に置かれるとそのマスの一個上しか置く場所が無かった。
「ん?……アイさん」
『な〜に?』
「置ける所、ここしか無いように見えるんだけど気のせいかな?」
『確かにね。そこしか無さそうじゃない?』
一応二人揃って見落としている可能性を考えて他の場所を探す……が、それ以外の黒い石は全て白い石に囲まれた状態か挟める場所がオセロ盤の外になってしまう端っこの石。蓮は嫌でもそこに置くしか無かったのだ。
「本当にここしか無いね……」
蓮が石を置くと夢乃は少し考えてるのか、三秒だけ間を持ってから次の一手を打つ。
『やっぱりここだね』
《パス!》
その瞬間、ゲーム画面に出てくるパスの文字と音声。蓮はそれを聞いて唖然とした。
「……へ?」
『あ、パスだね♪じゃあ……はい』
《パス!》
そのまま夢乃は流れるように左上の角を取ってしまうと左下の一つを残して全て色が黒へと変化。そして一番端の列は両端を塞がれた上で内部が全部同じ色になるともう挟む事ができない。そのため蓮は二度目のパス通告をされてしまう。
「え?え?待って待って!?」
ここに来て蓮は動揺。どうにかキャラの声質は維持したものの、まさかの二連パスに慌て始めた。
『大丈夫だよエレン君。次はあるよ〜』
そう言って夢乃が手を打つと今度はパスにされずに蓮の置き場所がある……が、やっぱり置ける所は一つだけ。
「嘘、嘘、何で?やっぱり誘導されてた?」
取り敢えず置かないと進まないので蓮が石を置く。そこから待ち受けていたのは夢乃からの蹂躙だった。
《パス!》
「またパス……どうなってるのこれ……」
『ん〜?またパスみたいだね〜。じゃあ遠慮なく』
夢乃が石を置くたびにパスの音声が聞こえて石が黒に染まっていく。偶にパスが無いパターンもあるが、その時は大体置ける場所が1〜2個がせいぜいって所だった。
最大30個近くあった石の差はとっくに逆転されており、完全に蓮の負けが濃厚になってしまう。
「え?もしかしてもう僕の番無いよね?」
『どうかな〜。もしかしたらある……かもね〜』
そうは言ってもあくまでそれは夢乃が手を抜けばの話。最善手を打ち続けた夢乃の番は終わる事は無く、最後は五連パスからの右半分全黒状態で終わる事になった。
《パス!》
『はい、最後ね〜』
蓮はあまりの光景の悲惨さに顔が硬直。残った白の石は夢乃が取らせた左下の角と左から二番目の列にある上から四番目にある計二つのみ。残り全てはものの見事に真っ黒に染まっていた。
「ま、参りました……」
『は〜い、対戦ありがとうございました』
コメント欄は蓮への同情の声と夢乃の魔王としての凄まじさを物語るようなコメントで溢れており、先程軽い気持ちで夢乃を相手にオセロを提示した自分を後悔する事になった。
「待って、アイさん何でこんなに強いの?」
『えっとねぇ、私の親戚にオセロが上手い人がいてね〜。その人と沢山対戦して叩きのめされてたからかな〜』
その言葉を聞いて蓮は何となくその相手を連想できてしまう。要するに、夢乃に勝てないということは彼にも絶対に勝てないという事であると蓮は察してしまう事になる。
「えっと、じゃあ次のゲームに行こっか……」
『うん。それなら私、やりたいゲーム見つかったからこれにしよっか』
蓮はしれっとそう言った夢乃の発言にまた戦慄を覚える。対戦前は決まっていなかったゲームを即決できるくらいに絞っていたのである。対戦している間もそれなりに頭脳を使っていたはずなのだ。それなのに対戦後すぐにやりたいゲームを言えるということは……。
「(俺との対戦をやる片手間でゲーム探してたのか?夢乃ちゃん……。ヤバすぎるだろ)」
蓮はこの時、影人が“ご愁傷様”と言った理由や陽葵が言った言葉の意味を初めて理解する事になる。
はい。というわけで今回はコラボ配信の回でしたが、今回やった蓮と夢乃のオセロには元ネタがあります。もしわかった方がいましたら感想欄で指摘をしてもらえると嬉しいです。
それではまた次回も楽しみにしてください。