キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
昼食後に乗る事になった観覧車。そのとあるゴンドラに乗った一組の男女。一人はうたへと想いを寄せる少年、朱藤蓮。もう一人はその蓮へと想いを寄せる少女、黒霧夢乃だった。
一緒に来ていた連れの人は自分達よりも前のゴンドラに乗り込んでいるために今、このゴンドラは蓮と夢乃の二人きり。ただ、二人が乗ったゴンドラが一番下を出発する中でその内部ではかなり気まずい空気が流れていた。
「「ッ……」」
二人は落ち着きなく周りへと視線を泳がせて目を合わせない。と言うより合わせにくかった。蓮としては目の前にいる夢乃に意識する瞬間はあるものの、異性として好きというわけでは無い。
だが、それでも彼女は間接的とはいえ自分へと気持ちを伝えた。それにどう返すべきなのか迷っているのだ。そして、夢乃の方も蓮に間接的とは言え、半ば無理矢理に気持ちを伝えてから初めての対面での二人きり。何から言い出せば良いのかわからないのである。
それでも夢乃はこの折角のチャンスを逃したくないとさりげなくウインクをしてから覚悟を決め、話し始める。
「あの、蓮先輩」
「ッ、夢乃ちゃん……何?」
「蓮先輩は……もう知ってると思いますけど、改めて。私は、蓮先輩が異性として好きです」
夢乃はこの際中途半端はダメだと思い切って蓮へと告白の言葉を口にした。
「ッ……でも」
蓮は否定の言葉を言おうとして口籠もる。夢乃の目は純粋で、子供っぽいあどけない顔つきながらも蓮から目を背けようとしなかった。
「言わなくてもわかってますよ……。蓮先輩が好きなのはうた先輩だって。この告白は失敗するって……」
夢乃はそう消え入りそうな声色で蓮の言葉を自分で代弁した。夢乃が自分の告白が失敗する覚悟を持ってるならと蓮は申し訳なさそうに返す。
「ごめん、夢乃ちゃん。折角好きになってくれたのに」
「ううん。蓮先輩は気にしなくたって良いんです。私が勝手に好きになって勝手に失敗しただけなので。だから、蓮先輩からの答えを直接は聞きません」
それを聞いて蓮は疑問を抱く。夢乃としてはこのまま自分に改めて“ごめんなさい”を言われるために話しかけたのでは無いのか……と。
「……その代わりに、蓮先輩にお願いがあります」
「お願い?」
「うた先輩でも、他の誰かでも、先輩が心の底から好きって思える人と結ばれたその時に……改めて私を振ってほしいんです」
蓮は夢乃からのお願いを聞いて少し困惑する。その言い回しだと遅かれ早かれ自分は振られて失恋するのだからさっさと振って諦めた方が良いのでは無いのか……と。
「我儘なのはわかってます。こんな事頼んだら蓮先輩が困るって。それでも……私はまだ蓮先輩の事を諦めたくない」
夢乃の言葉は覚悟に満ちた言葉だった。普通だったらこんな事言われても既に終わった恋だというのに何度もしつこいという事で嫌われてもおかしくない。それでも、夢乃はそれを覚悟してお願いしていた。
「私は蓮先輩に気持ちを伝える前から全然アピールできてなくて、蓮先輩に自分の覚悟を全然ぶつけられてません。それに、蓮先輩もまだうた先輩とお付き合いしていないのなら……私だってうた先輩やなな先輩に張り合ってアピールしても良いって事じゃないですか」
実際問題、ななの方は前にこころが加入する直前、蓮、うた、ななの三人でお出かけした際にほぼ九割くらい蓮へと告白をした。……ただ、結局その答えを蓮は回答しておらず。今と同じ関係がその時からずっと維持されている。だったら夢乃もハッキリとした答えを貰わずに保留にしてもらえば……蓮がうたへとしっかり告白して付き合うその時までの間は蓮へのアタックを続けても良い事になるわけだ。
勿論これは当の蓮が良いと言えばの話。蓮が嫌がってるのにこんな事をするのは迷惑な重い女でしか無い。夢乃だって蓮にそう思われるのは嫌だ。そのためあくまで蓮本人に許可を貰おうとしている。
夢乃としては不正ギリギリで尚且つ普通だったらやってはいけない禁じ手を使ってでも蓮に許可を取れる事を大前提として、まだこの恋を諦めたくないという気持ちでいっぱいなのだろう。
「蓮先輩……ここはハッキリ言ってください。……蓮先輩とうた先輩との恋が成功するまでの間だけで良いです。……まだ私をキープ対象の女として見る事はできますか?」
夢乃がそう問いかけるのと同時に観覧車は最高到達点を超えて降り側の半周が始まる。そこから少しだけ沈黙が続いた。夢乃の顔つきは少しずつ落ち込んだような物に変わっていく。すぐに返事を貰えないという事は自分は結局、どこまで行ったとしても蓮の恋愛対象外であると。そういう気持ちに蝕まれていく。
沈黙が始まってから約二十秒。夢乃はもうこれ以上無理に頼んだら蓮にとって迷惑だと見切りを付けると自分で諦める宣言をしようとする。
「……蓮先輩の答えはわかりま……」
「待って」
「……え?」
「夢乃ちゃんが自分で諦める前に正直な事を言わせて。そうしないと俺も夢乃ちゃんを最悪の形で振ったって後悔する」
蓮は一度気持ちを整えるために息を吐くと夢乃へと自分の気持ちを素直に口にする。夢乃はそれを真剣な目で聞いた。
「……俺は、正直迷ってる。ななに対してもそうなんだけど、自分はうたの事がどうしようも無いくらいに好きだ。それでも……ななや夢乃ちゃんを見てて“ドキッ”ってする時もある。うたの事が一番で、本当はこんな事やったらいけないって思っても……他の人に惹かれてしまう瞬間があるんだ」
それは蓮がまだうたが好きとは言っても完全な100%。つまり、0.1%とかそういう領域になるかもしれないがうた一辺倒になってない証拠だった。
「うたの事が好きならさっさとあの時告白してくれたななの事振っちゃえば良いのに……ここまでズルズル三角関係を維持し続けて。俺は夢乃ちゃんが思ってる以上に情けない男だ」
蓮は今、自分を取り巻く環境が自分の中途半端な気持ちのせいでできていると重々承知していた。勿論自分がうた一辺倒であれば今回告白した夢乃も蓮へと無謀な告白する段階まで持っていかなかっただろう。そっと自分の気持ちを殺してうたへの気持ちを応援する側に回ったかもしれない。
「そんな俺だけどさ。俺は夢乃ちゃんの事を十分に魅力的な子だって思える。配信のために影人から鬼のようなスパルタ教育をされて、頑張って努力して話し方とか子供っぽい自分の心を殺して。ドリーム・アイとして活動してる時の夢乃ちゃんが本当に別人を相手にしてるみたいだって一回コラボしてわかったんだ」
蓮は素直に夢乃の事は認めていた。自分よりも小さい年齢の子が本来本能的に言ってしまう言葉や話し方を全部押さえ込んで、大人でミステリアスな女性を全力で演じている。幼い頃自分も演技をやっていたからこそわかる。……夢乃のやってる事が相当なまでに異常な事であると。
「俺も初見で夢乃ちゃんの配信を見た時は本当に大人の女の人がやってるって勘違いしちゃうくらいには上手くてさ。だから、夢乃ちゃんがやってるって知った時はまず純粋に凄いって尊敬できた。夢乃ちゃんはそれだけ好きに一直線でやりたい事をやるために努力を惜しまない子だって。俺は思う」
夢乃は蓮の話を聞きながら胸が締め付けられていく。これから自分は振られてしまうのだと。そして、蓮へのアタックはもう二度とできないのだと。そう感じていた。だからこそ、次の言葉に目を見開いた。
「……俺は、そんな夢乃ちゃんの事。まだ一人の女性として見る事ができるよ」
「えっ……」
「勿論、本命はうた。だから俺はこの場で夢乃ちゃんを振るのが正解だと思う。でも、それだったらななも振らないといけない。ななもあの時一度告白したから。……男としては最低な結論だけど、俺がうたと付き合うまでって約束が守れるなら。夢乃ちゃんがアタックしてきても俺は受け入れるよ」
夢乃はそう言われると無意識のうちに涙が溢れていた。夢乃自身、今の自分は相当酷い顔つきをしていると自覚したがその場で泣くと気持ちを落ち着けようとした。
「蓮……先輩、すみません……こんな事にしてしまって……」
夢乃としてはお情けで助けられたのだと。本来自分は救われるはずが無かったのだ。切られて当然。そう思ってさえいた。それでも蓮は自分がアタックしても良いと受け入れたのだ。その言葉に思わず抑えるべき気持ちが溢れてしまう。
「ごめんなさい……こういう時、泣いても蓮先輩を困らせるだけなのに」
そう言ってまた泣くのを無理に抑えようとする夢乃。そんな彼女を見て蓮は優しく彼女の頭に手を置くと撫でる。
「そうやって見ると……やっぱり普通に年齢相応の女の子なんだな。夢乃ちゃんは」
「すみません」
「謝らなくて良いよ。普通の小学生にとってはそれが当たり前だから」
夢乃は配信をやるために普通を逸脱した小学生であると。蓮は見抜いていた。だからこそ、こういう時くらいは普通の小学生らしい反応をしてほしかったのだ。
それから約10秒程目の前で啜り泣く音が聞こえてから夢乃は涙を拭いた。そして、彼女は蓮と向き合う。観覧車が一番下に来るまであと僅か。そのため、夢乃は最後にやり残した事があると思い至る。
「蓮先輩」
「?」
それから夢乃は泣いた後が見えるからか、少しだけ目尻が赤くなっていたもののいつも通りの笑顔を浮かべた彼女は蓮が反応するよりも早く。蓮の頬へと柔らかい何かを当てた。
「ちゅっ……」
「……え?」
その直後、蓮の鼻の奥をくすぐる夢乃からした匂い。そして、目の前にまで来ていた彼女のあどけなさの残る少し幼い顔つき。彼女は頬をほんのり赤くしながら蓮へと宣戦布告した。
「許可と言質……しっかり取りましたからね。今から無しなんて言わせません。うた先輩の事忘れるくらい私の事を好きにさせますから」
それと同時にゴンドラの扉が開くと降車時間が間近に迫る。そして、夢乃は入り口付近に立ってから蓮へと振り返ると満面の笑みを浮かべた。
「今度は蓮先輩から私に告白させます。……その時は本命の方をしますから。覚悟、しててください」
夢乃は蓮の手を握るともう降りる時間という事で先程まで向かい合って座っていた席から立たせる。
蓮は夢乃に手を引かれるままに外に出ると少しだけボーッとした様子だった。そして、観覧車から出るための道を夢乃の後を追う形で出ると外で先に降りていた面々と合流。
「……夢乃、その感じは最後にしっかり宣戦布告やったな……」
影人が降りてきた蓮と夢乃の顔つきを見てそうボソッと呟く。それと同時に一度ため息を吐く。
「蓮、ごめんな。手間のかかる妹だけど、やる時はマジだから。争奪戦参加を受け入れたからにはちゃんと覚悟しとけよ」
そう誰にも聞こえないような声だったものの、夢乃の様子からちゃんと蓮の争奪戦への参加が認められたと判断。彼女へのすぐのフォローは要らないと考える。
それはさておき、影人は既に観覧車を降りたうた達の元に行くと次の行き先を相談する事になる。
……それと同時刻だった。プリルンが例の発言をして、同時にこの遊園地全体が特殊なドームのような空間に包まれたのは。
「ブルっと来たプリ!?」
「えっ!?」
一同が混乱する中、スラッシューは一人持ち場に着くと通信をした上でスパットやカッティーと同時にターゲットの人間を見つけられたという事を確認する。
「……スパット様、カッティー。目的の人間は?」
「しっかりと見つけたのですぞ」
「私もしっかりと発見できました」
「同時にやらないとキラキラを持った人間がいなくなりますし、こうしないといけないのは面倒ですが……仕方ありませんわね」
前にも説明したかもだが、マックランダー及びクラヤミンダーを一度召喚してしまうと周囲にいる人間からは恐怖という感情が全面に押し出されるために直前までどれだけキラキラを持っていようがそれらは全て掻き消されてしまう。
そのため、クラヤミンダーを複数同時に出そうと考えるなら幹部全員が連絡を取り合って一斉に召喚するしか無いのである。
「お主のキラキラ」
「頂くわ!」
「「オーエス!」」
「「「「「うわぁああっ!」」」」」
三人はキラキラを奪い取るとすかさず水晶と素体の人間を合わせることでクラヤミンダーを呼び出す。
「カッティーン!」
「切り捨てスラッシュ!」
「はい、スパッといきましょう♪」
「現れるのです、クラヤミンダー!」
「世界中をクラクラの真っ暗闇にしてやるのです!」
「「「「「クラヤミンダー!」」」」」
これにより、カッティーが一体。スラッシューが一体。スパットが三体ものクラヤミンダーを呼んでしまう。
その中のスラッシューが呼んだ個体のクラヤミンダーの姿はまるでプラネタリウムの投影機ような物体を頭部に装着した個体であった。そして、そのクラヤミンダーは登場と同時に目を発光させる。
「クラヤミンダー!」
その力によって遊園地全体が宇宙空間のような映像を模したドームとして閉鎖されてしまう。
そして、カッティーが召喚したのはメリーゴーランドの馬の個体。スパットが召喚したのはジェットコースターの乗り物の部分の個体、観覧車のゴンドラ個体、そしてお化け屋敷の館個体である。
奇しくもスラッシューが出した個体以外はどれも今日一日の中で影人達が回ってきたアトラクションの個体だった。
すると更にお化け屋敷の個体が力を発揮すると地面からゾンビが湧き出すかのように人型の小型人形が現れる。
「さて、始めましょうかしら」
こうして、幸せの施設だったはずの遊園地が一転。恐怖の空間と成り果ててしまったこの場所でチョッキリ団からの大規模攻勢が始まる事になるのだった。
今回夢乃がアウトコースギリギリな方法を使って蓮との関係を維持しましたが……リアルでこんな事をやったら普通は嫌われてアウトなのでそこはこの作品内だけでの話という事で割り切ってもらえると助かります。
そして、今回のラストでようやくチョッキリ団からの襲撃が入りましたので次回からは待たせていた戦闘シーンとなります。それではまた次回も楽しみにしてください。