キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
コンクールが終わった後の休み明け。影人は一人登校しているとそこにこころが走ってきた。
「影人先輩!おはようございます!」
「おう。おはよう、紫雨さん」
影人はこころが開いたキュアアイドル研究会に幽霊部員ながら所属するという話をしてからこころに対してなら多少心を開くようになったのだ。これまでなら話しかけられたら嫌な顔を浮かべていたのに普通に返事を返すようになったのである。
「影人先輩に信用してもらえて嬉しいです!」
「……別に。紫雨さんならこれでも大丈夫……そんな安心感が出ただけだし」
するとこころは影人にそう言われて嬉しいのかニコニコとした顔つきで影人の隣に並んで歩く。影人はそんなこころの歩幅に合わせてゆっくりと歩いていた。
「あ、そうだ。先輩はキュアアイドルのどこが好みとかあります?」
「……俺はそうだな。彼女の歌を聴いてて元気になれる所だな。それに普通に歌上手いし」
「ふふっ。そうですね!私が好きなのは……」
それから二人で話しながら登校するとあっという間に学校に着いてしまう。下駄箱で靴を変えた二人。するとこころはまた影人の元に来た。
「先輩、教室に行くまでですよー!」
「わかった。一年生の教室はこっちだよな」
影人は基本的にこころと登校した日は彼女を教室の前まで送ってから別れる事になっている。影人はこころに年上の人ばかりの二年生の教室まで来てもらうのは悪いと思っているので、自分がこころを一年生の教室前まで送る形を取っていた。
「じゃあ先輩、またお話ししましょうね!」
こころが嬉しそうに手を振って影人と別れると影人はそんなこころを可愛いと内心で思いながらまた自分の教室へと歩いていく。
「……やっぱり紫雨さんのあのリアクション……可愛いな」
影人がボソッと言うが、自分の言った言葉の意味を飲み込むと慌てて顔を僅かに赤くして横に振る。
「ッ……何考えてんだよ、紫雨さんはあくまで学年の違う友達。……それに、今のひたすら暗い俺とキラキラ輝いている紫雨さんとじゃ釣り合いが取れない」
影人はそう言うものの、やはりこころの笑顔が頭から離れなくなっていた。初めて出会った時から僅か一、二週間ぐらいしか経ってない。なのに何故かこころの事を頭の中で考えてしまっている。
「なーにそんなほんのり赤い顔になってんだ、アホ」
影人が教室の近くにまで来るといきなり影人は後ろからどつかれた。影人はボーッとしていたせいなのか目がパッチリと覚めるような感覚になると慌てて後ろを向く。
「痛ってぇ!?何すんだよ……レイ」
「お前こそ、何朝からボーッと考え事してんだよ。……まさか、恋人でもできたのか?」
「違げぇよ……まだできてないし。というか、今の俺に恋する奴なんかいない」
影人が気まずそうにそう言うとレイは影人の反応を見て面白い玩具を見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべる。
「影人〜。お前、好きな子いるだろ」
「……好きな子?俺が?」
影人はレイからの言葉に困惑したように答えを返す。そんな影人の反応を見たレイは畳み掛けるように問いかけた。
「えー?むしろ俺は好きな子がいるからこそさっきの顔をしていたって思ったんだけどなー」
「だからお前の思い過ごしだっての」
「ふ〜ん。ま、誰を好きになるかはお前の自由だし、それが年下でも良いんじゃね?」
そんな風に緩く返すレイ。彼のその返しを聞いて影人の顔が曇る。影人は基本的に他人と深く関らず、話すときも一度に多くは話さないようにしている。ただ一人……自分が最近心を開いて話すようになったこころという例外を除いて。
「……おい、何でそうなるんだよ。お前、俺の行動を監視とかしてないよな?」
「勿論。影人をずっと監視なんてそんな無粋な事はしてないさ。ただ、影人にぞっこんな年下の後輩がいる事ぐらいは知ってるけどね」
レイの言葉に影人は苛立ちを覚える。そのピンポイント過ぎる言葉にやはり見られているのではと思ってしまった。
「おい、やっぱお前俺の事隠れて見てるだろ」
「いや。俺はそんなに言う程には見てないよ。……ただ、周りの人達は見てないようでちゃんと見てるって事。俺はその話を人伝てで聞いただけだからさ」
レイは笑って影人の肩へとポンと手を置く。学年内の人気者である彼の元には毎日のように多くの生徒が集まる。そうなると彼の元に入る情報は必然的に多くなっていく。……ただ、レイも聞いた情報をそのまま鵜呑みにするのでは無く必要な情報に関しては自分でも本当であるか確かめる。つまり、二重の意味での確認が済んでからしか他人との会話には使わない。
「……お前、俺が思ってる以上に用心深いんだな」
「当たり前だろ?信憑性の無い噂を信じて踊らされるのは好きじゃない」
レイの言葉にはちゃんと重みがあった。彼の元には他人から色んな話が入ってくるからこそ、レイは話がきちんと正しい事を確認しないとそれを別の人との会話に使いたく無いのだという信念を感じていたのだ。
「……そりゃあ、他人から信用されるわけだ。ちゃんと広めて良い事と悪い事の判別ができてるわけだし」
影人はレイに対して気に食わない気持ちは抱きつつも、彼の人間性はちゃんと信頼する事を決めた。それから少しして、もうすぐでホームルームが始まってしまう時間になるという時。勢いよく教室の扉が開くとうたが滑り込みで登校してくる。
「遅刻ギリギリセーフ!おっはよう!」
「……咲良さん、その遅刻ギリギリのスタンスどうにかならないのか?毎回登場が唐突だからビックリするっつーの」
「あはは、多分それは無理なんじゃないかな」
「うたちゃんはいつも遅刻ギリギリだからね〜」
影人はうたの友達からもうたの遅刻ギリギリ登校に関しては定番化しているのか、クラスの女友達も半ば諦められている様子だ。
「あははは……」
「……あのなぁ、少しは改善しようとしろよな?」
「多分無理だと思うよ?」
「うん。完全にこの時間がルーティーンになってるだろうし」
影人のツッコミにうたは未だに能天気な笑いを浮かべていると彼女の視線がある方に釘付けになる。影人はその視線の先にいるのがななだと察すると彼女を気にしたうたへと牽制の意味も兼ねて声をかけた。
「……咲良さん」
「何?」
「今はまだ蒼風さんには触れない方が良いかもしれないよ」
「え?でも……明らかに落ち込んでるし、様子が変だよ」
「……だとしても人には触れられたくないタイミングとかもある。もう少し様子を見るだけ見てからな」
影人にそう言われてはうたも頷くしか無い。影人は知っていた。人が失敗して落ち込んだ時、どうしてもその事を触れられたくないタイミングがあると。だからこそ影人は他人の失敗を慰めるために触れる際はちゃんとタイミングを見計らうべきだと思っていた。
「わかった。影人君がそう言うなら、少しは様子見する」
うたも影人に止められなければすぐに声をかけるつもりだったが、影人の言葉に一旦様子見をした方が良いと判断。ひとまずホームルームが終わった後すぐに話しかける線は無くなった。
「この、ちはやふるというのは枕詞というので特有の言葉とセットになっています」
国語の時間、教師からの授業を受けつつ影人は僅かにななを気にはしたが、彼女は今の所平気そうな様子である。
「……思い過ごしか?」
影人が小声でそう呟くものの、うたの方はチラチラとななを頻繁に気にしている様子だった。やはりうたは友達のななの気持ちの変化を気にしている様子である。
それから授業は進み、学活の時間。今回は発表前の練習も大詰めが近いので一時間丸ごと歌の練習だ。
クラスメイトと共に歌を歌う影人はちゃんとそれをやっていたが、やはりどうしても気になっていた。……ななのピアノの音色が普段と違う事に。
「(やっぱり、違う。いつもは俺の心に透き通って染み込むような音色なのに……今日はどこか固い。まるで……失敗を恐れているような感じで……)」
影人がそう考えているとななはその直後に歌が終わった後の伴奏でピアノを弾き間違えてしまう。
「……ッ!?あ!……ごめんなさい」
ななは慌てて謝るとクラスメイトにざわめきが広がる。そもそもななのクラスでの認識はピアノのコンクールで優勝を取れる程の実力者。だから失敗とは程遠いのだと。
「ななちゃんでも失敗するんだね……」
「うーん、どこか具合が悪いとか?」
「あのピアノコンクールの優勝者の蒼風さんが……」
そんな風に噂をする周りの生徒に対して影人は全く違う考えを持っていた。
「(……皆は色々言ってるけど、多分そもそもの前提条件が違う。……どんなに凄いプロの技術を持っていても絶対に失敗しないなんて事は余程有り得ない。むしろ、蒼風さんもここまでの技術に到達するには相当練習したはず……。それに今、蒼風さんはきっとコンクールの事を引きずってる。だから余計に失敗が怖いんだろうな)」
だが、失敗を怖がる事によって萎縮すれば体は更に固くなって本来の力を発揮できなくなる。そうなればどんどん沼にハマるように本来の自分を見失ってしまうのだ。
「……流石にフォローしないとヤバそうだな」
影人はなながこれ以上気持ちの面が不安定になって歓迎会での合唱に支障をきたすなら多少タイミングが悪くても助けるべきだと判断。うたにもその事を伝えるべきと考えた。
それから時間が経って昼休み。あの後の合唱練習でミスは無かったものの、ななの精神はずっと不安定のまま。彼女は授業中でこそ特に普段と変わり無い様子だが、休み時間になると不安そうな面持ちであった。
そして彼女は昼休みになった瞬間、立ち上がるとお弁当を持って一人でどこかに行ってしまう。
「あっ!」
「うた〜!影人君!お弁当食べよ!」
するといつものように東中がうたと影人を弁当を一緒に食べるために誘ってきた。それを聞いたうたは影人から予めフォローの話を聞いていたために先に友達に断りを入れる。
「あ、今日はごめん」
「ごめん……今日だけはどうしても無理なんだ……。悪い」
その後、影人もうたの女子友達三人に頭を下げて謝ると今はどうしても都合が悪いと伝えた。
「「「………」」」
そんな影人の態度を見た東中は他の弁当仲間の新橋や坂上の二人と顔を見合わせる。
「わかった。また明日は一緒に食べようね!」
「……良いのか?こんな我儘……」
「良いに決まってるでしょ。私達、もう立派な友達だしね!」
そんな風に影人は返されると心の中に僅かに温かさを感じた。……この感覚はこの学校に転入する前は何も感じなかったはず。なのに何故か妙に心に響いたこの感情。影人は東中達を相手に頷くと三人は自分達が影人から見ても友達だと認識してもらえた事に嬉しさを感じていた。
「じゃあ、行ってくる」
影人は弁当を手にすると急いでななや彼女を追ったうたを追いかける形で移動していく。三人はそれを気持ち良く送り出してくれた。それから影人が程なくしてななを追いかけたうたに追いつくと彼女は一人校舎の外にある植え込みを囲むようにアーチ状のベンチに腰掛けて元気を無くした様子で弁当を食べるななの姿を遠目に見つける。
「……はぁ」
その様子を影人とうたは遠くの茂みから見守る形で覗く。また、その場にはプリルンも揃っていた。
「ななちゃん、今日元気無いんだよね。何かあったのかな?」
「……さぁな」
影人はなながこうなった事情を知っていたが、敢えて何も言わない選択を取った。この件に関しては悩みを持っている側が話す前から中身を知られた状態で慰められるのと、悩みを持っている側から全部相談相手に話した上で慰めを貰うのではかなり相談をする側の負担が違う。なのでうたは何も知らない状態でななの相手をさせた方が良いと影人は判断したのだ。
「一緒にお弁当を食べようと思ったんだけど……うーん」
「プリルンお腹空いたプリ!お弁当食べたいプリ〜!」
するといきなりプリルンがお腹空いた発言からのうたの持っていた弁当を勝手に取ると持ち上げてしまう。
「ちょっ!?お前は空気を読め!」
影人は今勝手にプリルンが飛び回るとそこをななに見られた時に言い訳ができないと慌て、それと同時に弁当を取られたうたは取り返そうとするが、空中を自在にフワフワ浮けるプリルンに思いっきり肩透かしを喰らわされて前のめりに転んでしまう。
「あ、ダメ!コラッ!……うわっ!」
「……うたちゃん?それに影人君?」
「……結局こうなったか」
騒ぎのせいでうたが叫んでしまったためにななに影人とうたがいるのがバレてしまった。ちなみにプリルンはななの視界に入ったタイミングでうたの手元辺りに降り立ったのでそのままぬいぐるみとして抱えられる事に。
「えへへ……一緒にお弁当食べても良いかな?」
「俺も良いか?」
「……うん」
二人の提案にななは頷くとそれを了承。それからうたがななの隣、影人はうたの更に隣。プリルンは影人とうたの間に置かれる形となるとお弁当を広げる。これによりお弁当を食べるのと同時に元気を無くしたななとそれを慰める二人による話が始まるのだった。
今回はここまでですが、今日はこの後やっとこころのメイン回が放送されるとの事なのでとても楽しみです。彼女がどんなキャラか見届けようと思います!この小説の方もまた次回を楽しみにしてください。