キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
影人とうたの様子の変化。これにより二人は揃っておかしな状態になってしまうとその状態のまま授業を受けないといけなくなってしまう。こうなったのは前日に登場したズキューンとキッスの影響だがそれはさておき。
今はひとまず授業を乗り切らないといけない。そして授業が始まると早速担任の富士見先生が国語の授業を進める事になった。
「……という文書です。では咲良さん」
「ズキューン!!」
うたは当てられた瞬間に出会い頭と言わんばかりのズキューン宣言。富士見先生もこれには困惑するしか無いが、授業のために問題を投げる。
「えっと、この時の作者の気持ちはどうだろう?」
「それはですね……ズキューン!って気持ちです!」
「ズキューン……?」
うたは当たり前と言わんばかりにズキューンという答えを示すが、富士見もこれには再度困惑。確かにズキューンという単語だけならば心情を示さなくも無いが……流石に国語の勉強でズキューンという言葉は使わない。
「(うたちゃん、ひとまずズキューンから離れよ?)」
「じゃ、じゃあ影人君。代わりに答えを……」
富士見はうたが普段からあまり勉強が得意では無い子だとわかっているので一旦うたを戻すと成績優秀な影人なら大丈夫。そう思って影人へと話を振る……が。
「それはもうメロメロな気持ちでぇす……」
「影人君まで!?凄い眠たそうだし、今は授業中だよ!」
影人の方は寝ぼけた状態でおぼつかない足取りだったものの、どうにか前にまで行くと夢見心地の気持ちのまま答えを書いて富士見をまたもや困惑させてしまった。
「影人君までこの調子だなんて、大丈夫かな……」
「(もうこうなったら一回ハリセンか何かで叩いた方がマシか?)」
レイもそう感じてしまうくらいに今の影人の状況が異常事態だと察せられる。それからレイこの後の授業内容を思い出すと青ざめた。
「(確か午前中の授業の中に体育あったよな!?これ、今の影人が体育なんてやったらヤバいんじゃないのか?)」
そう。レイの思った通り、今日の午前の授業の中には体育が含まれてしまっている。うたの方はただズキューンの虜になっているだけなのでまだどうにかなるが、影人に関しては半分寝ぼけて夢見心地の気持ちのまま体育をやる事になってしまう。そんな中での運動……体育の授業は怪我のリスク等がかなり出てくるのだ。
レイは授業を終えると影人へと急いで話しかけに行く……が、やはり彼はまだダメなようだった。
「おい、影人。今日の体育は休め。今のお前が体育なんてやったら大怪我するぞ」
「えぇ……嫌だよキッス……。もっとキッスの事推させてぇ……」
「お前良い加減にしろ!」
レイは流石に苛立ったのかいつの間にか作っていたハリセンで影人の頭を引っ叩く。
「ったく。幾ら昨日のアレの影響でこうなったからと言って、こんな姿をこころに見せたらどう思うか……」
「ああ、キッスからまた投げキッス貰っちゃったぁ。脳が痺れるぅう……」
「嘘だろおい……何で物理的に殴られても起きないんだよ」
しかし、レイが全力で影人の頭をハリセンで叩いても影人的には夢の中にいるキッスからのファンサである投げキッスを貰って痺れるような気持ち良い感覚になっただけなようで。起きるどころか更に夢見心地にハマってしまったように見えた。
「こうなったら体育で物理的に怪我してもらった方がこの状態から覚めるんじゃないのかな……」
レイはここまで続く影人の異常事態に対策を放棄。そのまま体育の時間になってしまった。今日の男子の体育はソフトボールである。当然ながら影人は未だにキュアキッスの虜になった雰囲気のまま。そのままソフトボールの打席に立ってしまう。
「はれぇ……」
影人が夢見心地の顔をしてバッターボックスに立つ中で前にバスケのチームを組んでいたチームメイトであり、今は相手チームのピッチャーをやる早川が唖然としていた。かつてのチームメイトの影人がこんな調子なので余計に投げづらいのである。
「せめて変な動きしてデッドボールにだけはなるなよ!」
早川はレイからの頼みで一応普通のストレートの豪速球のボールを投げる中、影人はボールが飛んでくるのを見ると……。
「キッスバッティング!」
その瞬間、まさかの影人は夢見心地の状態のままバットをボールのど真ん中に見事命中させるとそのまま打ち返してしまった。
ちなみに夢の中ではキッスとの時間を邪魔しようとしたクラヤミンダーから投げられたボールを影人が本気で打ち返したのである。
「嘘……だろ?」
しかも影人が打ち返したボールはまさかの運動場の敷地を囲むネットを超えた遥か先にまで消えてしまった。問答無用のホームランである。その場にいる一同がまた唖然とする中で影人はふにゃふにゃとした様子でホームベースを一周。戻ってきた。
「キッス、やったよぉ……」
「化け物かコイツ……」
影人がキュアキッスの夢を見ながらでもしっかり運動はこなし、それどころか相手を圧倒するこの無双っぷりにレイを含めたその場のクラスメイト達は頭を抱える事になる。
「夢を見ながら運動している相手にボコボコにされるなんて自信を無くしちゃうんだけど……」
「はぁ、ダメだこりゃ……」
結局影人は夢見心地の状態のまま体育の時間を乗り切った挙げ句、自分がバッターに出たタイミングでは必ずしも何かしらの成果を残していた。
流石に先程の場外ホームランを警戒した早川や他のクラスメイトはスピード有りのストレート以外の変化球も投げて対応する……のだが、影人はそれさえも全て見切ったと言わんばかりに打ってくるのだ。
しかもその場の状況を見た適切な対応をしてくるのである。例えば送りバントが必要ならしっかりバントをしてくるし、相手の守りが薄い場所に割とピンポイントでボールを落とすので普通に強いのだ。
「影人、普通に体育やる時よりも強いってマジ?」
「キッスぅ……黒い輝きに照らされて俺もより一層輝ける……」
そして、結局影人は体育でも物理的なダメージが入らなかったせいで結果的に夢見心地のまま。というより、もう既に起きてから何時間も経ってるのだから普通は目覚めるはずだ。それなのに未だにこの状態が続くという事は……。
「もしかしてこれ、キッスに洗脳されてたりするのか?」
もしそうだとすれば割と一大事である。レイはあの時戦闘をしていた場所に行って無いので二人がどんな雰囲気で影人達と話をしたのかは知らない。だが、もし仮に自分達を助けてくれたズキューンやキッスが影人を狙っている敵だとしたら……。影人を自分達の側に引き込むための洗脳攻撃を仕掛けてきたのだとしたら。レイはそれを疑わざるを得なくなってしまう。
「……ひとまず、その事も含めて話した方が良いか……?」
レイはななやこころにそういう話をしようかと悩む。しかし、それはまた後で決めるべき事であるとひとまず授業に集中する事にするのだった。
それから午前中の授業を終えて昼休み。昼食を食べた影人、うた、なな、レイの四人は今現在アイドルプリキュア研究会の部屋にまで来ていた。一応影人も研究会に所属しているので本来なら研究会に出るはずなのだが、今回のキッスに染められた事も踏まえてななの方からこころに影人が今日は研究会を休む事を既に伝えていた。
その上で影人とうたの異変に関してこころに診てもらうために彼女を頼るべくななとレイがここに連れてきたのである。
「蒼風さん、咲良さんの方は大丈夫だった?」
「うん。一応体育は体育館で跳び箱とかのマット運動系統をやってたけど……キュアズキューンに心を打たれた影響での大怪我とかは無くて済んだよ」
「良かった。まぁ、未だにその状況から何も変わって無いのは大問題だけど……」
うたは未だにキュアズキューンの事を考えて仕方ないのか時折り小声で“ズキューン”を繰り返していた。
「影人君の方もこれは……重症だよね」
「ああ。もうキュアキッス以外の事が眼中になくなってる。一応恋人関連の単語は発してないから多分あくまでキュアキッスをアイドルとして好きってだけになるだろうけど……」
だが、残念ながら確信にまでは至らない。加えて下手したらこの姿を見たこころが黙ってないかもしれないのだ。もしそうなったらすぐにでもこころを止められるようにその心構えだけは二人で決めておく事にした。
するとそこに研究会で活動中だったこころが研究会の部屋の扉を開けて出てきた。
「なな先輩、レイ先輩。どうし……うえっ!?カゲ先輩どうしたんですか!?」
こころは彼氏の変わりようを初めて認識すると慌てた様子で駆け寄る。影人はこころを見るとふやけた顔つきが更にふやけてしまう。
「ここりょ……。ここりょもおいでぇ……。キュアキッスに癒されりょおお……」
「カゲ先輩がヤバい人になっちゃってますよ!!お二人共、もしかしてカゲ先輩を休ませたのってこれが原因なんですか?」
「ま、そういう事だ」
「ごめんね、こころちゃん」
こころは自分以外の言葉で影人がこんなにも気の抜けたふやけた感じになっているのを見てかなり複雑な顔つきだった。
「……やっぱりカゲ先輩にとって私のような子供っぽい女の子よりもキュアキッスみたいな大人の女性が好きなのでしょうか……」
こころはそう言って落ち込みかける。するとそこにレイがフォローを入れる事になった。
「それは大丈夫だ。影人の事だし、こころの事はちゃんと大切にしてると思う。……それにちょっと安心もした。さっきまでは話しかけてもキュアキッスの事しか言ってなかったけど、こころの事はちゃんと個別認識してるみたいだし」
「そうなんですね……」
この辺りは影人の意思が残っている証拠だろう。他の人達相手にはキッスの色が大きく出るが、こころと話をした時は彼女の名前もちゃんと出ている事に加えてあくまでこころと一緒に自分の夢を楽しみたいと言えているのだから。
「それに、俺の予想が正しければ一時的にこうなってるだけ。だからその……あまり気にしないであげてほしい」
「……わかりました。カゲ先輩が私の事も考えてくれてるのでしたら……その、複雑ですけどこれ以上は言いません」
影人の話によって脱線したのでこのタイミングでななが会話に参加すると本題に入る。
「こころちゃん。それでここに来た理由だけど、今日の朝からうたちゃんが変なの」
「それは見ればわかります」
こころがうたの方を向くと熱にかかったように顔を赤くしながらまた一人でズキューンをやっているうたがいた。
「ズキューン……ふぇえっ!」
「「「うわぁっ!」」」
するといきなり痙攣したかのようにうたが変な声を出したために影人を除く三人は驚く。それからうたは立ち上がり、研究会のポスターの方に向かう。
そこに貼られていたのは新しく出てきたキュアズキューンとキュアキッスの画像が印刷されており、二人も新しく研究対象になったと告知されていた。
「ふわぁああ……ズキューン……」
うたはそんな画像のズキューンを見ただけでうっとりとしたような声を上げる。
「うぅう……」
「今朝はズキューンが夢にも出てきたって」
「そう!ズキューンにズキューンされて、ズキューンだった!」
「ていう感じで、よくわからないんだけど」
うたの話し方はななにはよくわからず。このままでは理解が不能という事でこころに説明をお願いしているのだ。
「俺の方は何となくだけどわかる気はする。でも、100%の確証は持てないからなぁ……」
レイの方はギリギリ理解はできるらしい。するとこころは確信を持ったかのように自信ありの様子で話し始めた。
「なるほどです」
「えっ!?わかるの?」
「はい!……うた先輩、ずっとズキューンの事が気になっちゃうんですよね」
「そう!素敵でカッコ良くて。ステージを見る度に吸い込まれるみたいな気持ちになって。考えてみたら初めて会った時も何となく初めてじゃないみたいで。その時からずっと気になってるんだ。どうしてこんなに気になるんだろ……」
やはりうたはズキューンの事が気になり過ぎて仕方ないと考えているようだった。その純粋な気持ちに瞳。そしてその気持ちにこころは心当たりがあったのだ。
「うたちゃんがこんな感じだから、アイドル研究会をやってるこころちゃんに聞いてみようって思って」
「それなら簡単!診断完了です」
こころは得意げにそう言う。それを聞いてうたは先程までの熱を出したような顔つきから多少戻ったのか、キョトンとしていた。
「え?もう……?」
「うた先輩、お熱です」
こころはうたの額に手を当てるとそう話す。うたはいきなりの熱が出ている宣告に慌てた。
「え、ええっ!?言われてみたら熱い!風邪!?」
「そうじゃないですよ。……うた先輩はキュアズキューンに一目惚れしたような物。つまり、ファンになったんです!」
「私が……ズキューン、ファン?」
こころにそう言われたうたは目を見開く。自分がズキューンのファンになった。そう考えると何となく自分の気持ちに整理が付いた気がしたのだ。
「ふぁ、ファン……?そんなの当たり前だよぉ……。キッスの事いつまでも推すかりゃさ……」
「うえっ!?影人君どうしたの!?」
「今更気が付いたのかよ……」
うたはこのタイミングでようやく我に返った影響か、影人がいつもと比べておかしい状態に置かれているとようやく認識。そこにレイがツッコミを入れた。
こんな状態の影人は置いておいて、こころはうたへと診断結果を踏まえた上で改めて歓迎する。
「うた先輩。ようこそキュアズキューン沼へ。そして、推し活の世界へ!」
「沼……」
「推し活……」
「「って何!?」」
「あれっ!?」
うたとななが聞いたことの無い専門用語を口にされて意味がわからずに唖然とする。そのためこころは思わず滑り、ひとまず二人へとその説明を入れる事になるのだった。
また次回もお楽しみに。