キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
プリルンの記憶を取り戻すために向かったピクニック。それから二日が経過した。今現在、うたの家にはななとこころが来ていた。そして、ななが見せたのは家に来る前に買ってきたケーキである。
「ふわぁああっ!美味しそう!」
「心キュンキュンしてます!」
「元気そうで良かった。ケーキは食べられそう?」
ななの言葉に先程までベッドの中では寝ていた人とは思えないスピードでうたは近くに置いてある小さなテーブルの元に移動する。そこには三人分のケーキとその近くにケーキと一緒に飲むための紅茶が注がれていた。
「うん!」
「……今度から無理したらダメだよ?」
うたはななに心配されて苦笑いを浮かべた。うたはあの時、倒れてしまった後に風邪を引いて寝込む事になる。とはいえ、幸いにもうたの熱は軽症だったために一日分の学校を休んでぐっすり寝たおかげで放課後には復活していた。
「うん。でも、キラキライトが見つかって良かったよ」
「……ただ、結局プリルンは何も思い出してくれませんでしたね」
こころの言葉にうたは元気無さそうな顔つきで頷く。やはり、プリルンの記憶喪失がいつまでも戻らない現状はうたの心にかなり堪えてしまっているようだ。
「……」
「うたちゃん……」
「あ、そうだ!影人君は!?確か、お母さんやはもりから聞いた話だと……」
それを聞いて二人は顔を見合わせると言いづらそうな顔つきを浮かべる。それからこころが影人について説明した。
「……カゲ先輩は……うた先輩よりも高熱を出してしまっていて。今はまだ家で寝ています。私達も様子を見に行ったのですが……」
〜回想〜
ここに来る少し前、影人の家を訪れたななとこころ。ただ、彼の家のインターホンを押して出てきた夢乃に話を聞くと……その答えは芳しい物では無かった。
「……すみません。兄はまだ熱が下がらなくて……。お二人には会えないと」
「そんな……」
「そっか。お兄さんがこんな事になってしまって……ごめんね」
「良いですよ。うた先輩を助けに行ったのが兄の選択ですし、兄はきっと気にしませんから」
〜現在〜
それから二人は影人の分のケーキだけ夢乃に受け取ってもらうとそのままの足でこっちに来たらしい。
「影人君……何で。昨日はボーッとしてたけど、影人君の方が私よりも元気そうだったのに……」
「……実は、あの時点でもうカゲ先輩の方が重症だったみたいなんです。それでもうた先輩を放っておけないって、アイドルプリキュアに変身していたら少しは保つからって……それで無茶を重ねて……ッ」
うたはその言葉に思わず絶句してしまう。自分がした行動のせいで影人が高熱を出す羽目になったと。心が罪悪感でいっぱいになってしまう。
「こころ……ごめんなさい。私のせいで……」
「良いですよ。私もあの時動けなかった一人ですし。うた先輩を責める事なんてできませんから」
そのやり取りが終わると場の空気は重くなってしまう。そんな雰囲気をどうにかするためにこころがうたを元気づけようとする。
「ほ、ほら!いつまでも湿っぽい話を続けたらダメですよ。それこそカゲ先輩は望んでません。だからケーキを食べて元気を付けましょう!」
「うん!どれも素敵で食べちゃうのが勿体無いくらいだし……ほら、うたちゃんはどれが良い?」
ななとこころは罪悪感でいっぱいのうたをどうにか元気にするために明るくなるような話題を振る。それを聞いてうたはそんな二人に合わせるために明るく振る舞った。
「そうだね!影人君が元気になるためにもケーキ食べよ!どれもキラッキランで美味しそう!食べる前に写真を……あっ」
うたがプリルンのトイカメラを手にして電源を入れた瞬間に固まってしまう。……その時画面に映ったのはプリルンの記憶が残っていた時の写真であったからだ。
そのせいでうたはまたプリルンとの記憶がフラッシュバックして元気を無くす。
「プリルン……」
そして、うたがプリルンとの写真を見た影響でまた元気を無くした事は二人にも見えていたために顔を見合わせて気まずい雰囲気になってしまう。
それから少しして、ななとこころの二人はうたの家から出ると帰路に着く。
「「お邪魔しました!」」
「蒼風さん、こころ」
「レイ君!」
二人が出てきたタイミングで丁度そこを通りかかったレイ。彼も最初はお見舞いに顔を出そうとしていたのだが、タイミング悪く親に呼び出されてしまった。
ただ、今回の呼び出しはそこまで長く時間がかからなかったのでこうして改めて後から合流するために向かっていた形である。
「……二人共、ごめん。ピクニックの時と言い、今回のお見舞いも……。あの馬鹿親父が空気読まないせいで……。昨日のは仕方ないにしても今日の方は大した事無い用事だったら後からにしろって……」
レイはいつもタイミング悪く自分を呼び出しては友達付き合いの邪魔をする父親に苛立っていた。今日の用事もこの後レイの父親ことハジメが社長としての会議に出席する関係で長時間抜けざるを得なかったので先にレイへの用事を済ませたのである。ただ、大した事ない話なら秘書とかにやらせても良かったものだが……。
「っと、二人にこんな事話しても困るよな。……悪い」
「良いよ、レイ君の方はレイ君のパパの都合もあるし。私達はそれでもレイ君の友達でいるから」
「悪い、そうしてくれると助かるよ。……それで、二人はどうだった?」
レイは申し訳なさそうにそう言うと影人とうたの体調を気にかける。それをこころが答えた。
「うた先輩の風邪は大した事無さそうだから明日には学校に来れそうって感じです。……カゲ先輩の方はまだ熱が下がらないみたいで。明日はその様子次第って感じです」
「そっか。ま、咲良さんの方だけでも元気になってくれてるならそれに越した事は無いよ。……ただ」
レイは言葉を詰まらせると少し難しそうな顔つきをする。急にそんな顔をした彼にこころは疑問符を浮かべた。
「レイ先輩?どうかしたんですか?」
「風邪を治すだけで済むならマシなんだが……」
「うん。プリルンの事に関しては……」
それを聞いてこころも頭のアホ毛がクテッと倒れるくらいには気持ちが落ち込んでしまう。
「……そうでしたね。このままじゃ、きっとまた」
うたの精神状態は良いとは言い難い。風邪が治れば一時的に戻れるかもしれないが、プリルンの問題を解決できなければいつまで経っても現状が良くならない事は明白である。
すると、ななは何かを決意したような顔つきになると二人の方を向いて意見を話す。
「……こころちゃん、レイ君。これから田中さんの家に行ってみない?ハートキラリロックの事。改めてメロロンに聞いてみたいの!」
「はい!何か手掛かりがあるかもですね!」
「……そうだな。俺達だって二人のためにできる事をやるか」
ななの提案に二人共賛成の意見を示す。それから三人は早速田中の家であるキラキランドの出張所へと移動する事になった。
同時刻。そのキラキランドの出張所ではプリルンがキラキライトを手にしつつ何かの言葉を唱えていた。
「どんぐり落ちたプリ、どんぐり落ちたプリ、どんぐり落ちたプリ、どんぐり……」
「ねえたま?」
「……思い出せないプリ」
どうやらプリルンも昨日の事を気にしている様子であった。その証拠に彼女の耳は力無く垂れている。
「プリルン、何を忘れちゃったプリ?」
「メロ……」
プリルンはキラキライトを見ながらそう呟く。それを聞いてメロロンはある事を思い出した。それは、キュアアイドルのために自分の一番大切な物を封印する覚悟を決めたプリルンの事である。
「(……ねえたまは記憶を失う前、咲良うたとの想い出を一番と言っていたのメロ……。やっぱりねえたまの一番は……メロロンじゃ無いのメロ)」
そんな時、出張所のインターホンが鳴り響くとメロロンはそれに気がついて玄関の扉へと向かう。
「誰メロ?」
メロロンが扉を開けるとそこには丁度彼女を訪ねに来たなな、こころ、レイの三人であった。
「こんにちは、メロロン」
「メロ……。何の用メロ?」
メロロンはそれを受けて今のプリルンを隠すかのように自分一人で扉の外に出ると扉を閉じつつ二人へと問いかける。
「お願いメロロン。伝説のハートキラリロックの事、もっと教えて。プリルンの想い出を取り戻したいの!」
「今のうた先輩には……プリルンが必要なんです!」
「俺からも頼む。ハートキラリロックの事をもっとよく知る事ができれば、それがきっと解決の糸口になるから」
三人の目は真剣その物だった。その三人の目を見てメロロンはまた鍵をかける瞬間を思い出すと少し言いづらそうな顔をして三人へと話をする。
「……ねえたまは願いを叶えてしまったのメロ。もう想い出は戻らないメロ。……奇跡でも起きない限り」
その言葉に三人はメロロンの持ってる知識でも解決が不可能であると思い知ってしまった。するとその直後にメロロンは話を続ける。
「それと、こころ」
「え、私?何ですか?メロロン」
「……影人の事、本当にごめんなさいなのメロ!」
それを聞いてこころは目を見開く。何故メロロンがこのタイミングで謝るのか。彼女には分からなかったからだ。
「……ねえたまがあのキラキライトを無くしてしまったのは、多分メロロンのせいなのメロ。だから……」
その言葉を聞いてこころはそっとメロロンの手を取る。それからメロロンはこころの方を向くと彼女は優しく微笑んでいた。
「そういう事でしたら大丈夫ですよ。……過程はどうあれ、風邪を引いてしまったのはカゲ先輩が自分で考えて決めた結果です。きっと、カゲ先輩も気にしないでほしい。そう言ってくれます!」
こころの声色は決してメロロンを恨むようなそんな物では無かった。むしろ、メロロンを優しく包み込むようなそんな温かい言葉である。
「メロ……でも、影人は……」
「……だったらさ。メロロン、帰る前にメロロンの気にしてる事の解決方法。教えるよ」
レイはそう言ってメロロンへと悩みをどうにか解決する方法を彼女へと伝達する事にした。
それから三人が帰るとメロロンは家の中に戻る。そこにはまたプリルンが先程の言葉を唱えていた。
「どんぐり落ちたプリ、どんぐり落ちたプリ、どんぐり落ちたプリ!どんぐり落ちたプリ!どんぐり落ちた……」
「ねえたま、さっきからそれは何なのメロ?」
メロロンの言葉にプリルンは先程からずっと言っていた言葉についての説明をする。
「おまじないプリ!無くなった物が見つかるプリ」
「メロ!?」
「……ここの何か、無くなっちゃったプリ。ポッカリプリ……」
昨日一日中かけて行われたプリルンの記憶を戻すための一連の流れは全くの無意味では無かった。少なくとも、プリルンに何かが抜けている。そう自覚させただけでも大きな進歩だろう。ただ、プリルンの言葉にメロロンは複雑な顔つきになる。
「……ねえたま」
メロロンが今までうた達からプリルンを遠ざけようとしたのには記憶を失っても尚、プリルンに根強く残っているキュアアイドルことうたへの気持ちがあったからだ。
メロロンは自分がプリルンにとっての一番でありたいと切実に願っている。そのため、プリルンとうたを遠ざければ自分だけを見てくれるようになると……そうメロロンは思ったのだ。しかし、実際は違う。このまま記憶を取り戻せば、プリルンはまたうたの方を向くだろうし、そうで無くてもまたうたが好きになる可能性が高くなる。
加えて、今の悲しむプリルンをメロロンは見たく無かったために彼女はある決意を固めた。
「……メロロンが探すメロ!」
「プリ?」
「無くなっちゃったポッカリ、探すメロ!」
「プリ?……プ〜リ!ありがとうプリ!メロロンいつも優しいプリ!」
そう言ってプリルンはメロロンへと抱きつく。その温かさを受けて、メロロンは微笑む。
「当たり前メロ。だって、メロロンは……ねえたまの一番メロ!」
「プ〜リ!」
その言葉に喜ぶプリルン。……ただ、メロロンの今の心境は凄まじい程のうたへの嫉妬であった。その証拠に、プリルンへは優しく話しかけるその言葉とは裏腹に手では強く拳を握り締めている。
「(……それに、もう影人はメロロンの側に置いたらダメなのメロ。だから、だからメロロンの前に残っているねえたまは……ねえたまは絶対にメロロンだけの物メロ)」
それから早速メロロンはプリルンへと探すための準備をすると言ってどこかへと移動していく事になるのだった。
「じゃあ、早速メロロンがねえたまのポッカリを取り戻すための準備をしてくるのメロ!」
それから時間が経過し、咲良家にあるうたの部屋。そこにはうたの名前が貼られた付箋付きのうたの分のケーキがあり、その近くにうたは座り込んでいた。
「……プリルン」
彼女が見ているのはトイカメラの中に残っているプリルンとの想い出の写真であった。そこにはプリルンと作った想い出の数々が収められている。
「ふふっ。あったなぁ……。こんな事」
うたは微笑みつつそれらの記憶を思い出していく。初めて出会った時にプリキュアを探した写真やお泊まり会の時の事も入っている。
「懐かしい。これ、お泊まり会のだ」
そして、うたが画面を移行させるとそこには再生のマークがある。……それは、プリルンが一度いなくなる前。記憶が残っている時の物だった。
『うた、見てるプリ?プリルン、キラキランドにお出かけしてくるプリ!プリルンも頑張るプリ!だって、プリルンもアイドルプリキュアのメンバープリ!だから待っててプリ!キュアアイドルはプリルンが守るプリ!』
その動画を、プリルンの言葉を一字一句聞く度にうたの心には悲しみが広がっていく。それから彼女は思わず画面の上に涙を溢してしまう。
「嫌だよ……プリルン。忘れちゃったなんて……う、うぅ……うわぁああっ!」
うたの分のケーキの隣にはプリルンのために残してあるケーキもあった。それは、二人でプリルンと食べたいと思ったのだろう。そのためか、机の上にあるのはななやこころとは一緒に食べなかった分である。
そして、うたは部屋の中でただひたすらに大声で泣く。この悲しい感情は全て吐き出さないといけないと……そんな気がしたからだ。
普段はあれだけ元気なうたであるものの、流石に友達であったプリルンに覚えてないと何度も言われたりどれだけやっても想い出が戻らないとあれば……彼女の心も限界になってしまう。
人前では明るく、決して涙を見せないうた。そんな彼女も弱る時はとことん弱る。むしろ、アレだけ普段から感情豊かでその起伏が激しいのだからその涙を流す量は他人のそれを大きく上回る。
「うた……」
そのタイミングでうたを呼びに来た母親の咲良音は久しぶりにここまで泣きじゃくる娘の声を聞き、心配な気持ちが大きくなる。それでも、今はそっとしておくべきだと入るのを止めて入り口付近でその泣く声をただそっと聞いているのだった。
また次回もお楽しみに。