キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜   作:BURNING

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悩み落ち込む影 彼を気遣う二人

キュアソウルとキュアアイドルがテレビ局に行った翌日の朝。影人はいつも通りにこころとの朝練へとやってきていた。

 

「カゲ君。どうしてそんなに暗い顔なんですか?」

 

影人の顔つきは暗い物になっており、誰が見ても明らかに落ち込んでいるとわかる。

 

「何でも無い。俺個人の悩みってだけ」

 

影人がそう言うとこころは影人の前に顔を近づけると明らかに機嫌悪そうに頬を膨らませる。

 

「カゲ君?またそうやって一人で溜め込むんですか?少しは私達に相談してください」

 

こころは影人を心配してくれている。影人としては相談したい気持ちはあった。……ただ、今回の場合は影人としても話したい気持ちになれなかったのである。

 

昨日、あの場所でカイトから言われた事。それは自分はあくまで新人なのに他人の事を気遣い過ぎた結果、危うく依頼主に多大な迷惑をかける事になった事と、それをカイトに見抜かれて指摘されてしまった事だ。それらが脳裏に焼き付いてどうしても離れない。

 

「(そんな情けないミスこころに話せるかよ……。それに、咲良さんのフォローに目が行き過ぎたなんて事はもっと言えない)」

 

影人はそんなつまらないプライドが邪魔して彼女のこころにさえもこの事を言い出せなかった。

 

「……やっぱり、お兄ちゃんって私達に対して過保護って感じだよね?」

 

その声を聞いて影人が声の方向を向くといたのは妹である夢乃である。何故彼女が朝練の時間にここにいるのか。それは今日の朝、影人がこころの朝練に付き合うために起きた際にタイミング良く夢乃と廊下でエンカウント。

 

夢乃は昨日の夜辺りから兄の影人が折角テレビに出れたのに落ち込んで帰ってきたと認識しており、最初はあまり食いつくのも良くないとそっとしておいた。しかし、翌日目覚めても明らかに元気が無さそうだったので影人に頼んで着いてきたのである。

 

「過保護って……そりゃ、俺も明らかに過保護だとは思うけど」

 

「その過保護って……私達への心配が原因?」

 

こころも影人の過保護に関しては心当たりがあった。最初は自分がアイドルプリキュアに関わる事を極端に避けようとしていたし、アイドルプリキュアになって以降も活動する際に仕事の依頼主相手や失礼を働いたらアウトになる相手に対応する時は顕著になってきている。

 

他にも影人は周りへの気配りに常に神経を使っているように見える時が多々あった。

 

「そういえばカゲ君、いつも私達が何かしらやらかした時とか……フォローに回ってばかりですよね?」

 

「……そんなのやって当たり前だろ。特に公共の場で……アイドルプリキュアとしてやらかしをした時とか、こころにも、咲良さんにも、蒼風さんにも……周りの不特定多数の人達から嫌な目を向けられるくらいなら」

 

こころと夢乃は顔を見合わせる。やはり影人は自分達相手にいつも神経質なのではないのか?そういう疑念が浮かんできたのである。

 

「カゲ君、私達に気を配ってくれるのは嬉しいのですが……」

 

「断る。こころ達には伸び伸びとやってもらいたい。そういうフォローとかの汚れ仕事を済ませるのは俺の仕事だ」

 

こころは何かを言う前に断られてしまっては話すらできないと困り果ててしまう。一応こころとしては影人にあまり神経質にならなくて良いと言おうとしたのだが……影人としては周りのやらかしをフォローするのは自分の役目と言って譲らない。

 

すると夢乃は一度溜め息を吐くと影人へと呆れたような目線を向けてから彼の前で苛立ちを露わにする。

 

「はぁ……。あのさ。お兄ちゃん、良い加減にしてよ」

 

それから夢乃が詰め寄っていくと怒ったような目を影人へと向けた。それにこころは慌てたような顔になる。

 

「うえっ!?夢乃ちゃん、ちょっと落ち着いて……」

 

「こころ先輩はちょっと静かにしていてください。……ふぅ……。いつまで私達に子守りが必要とか思っての?このバカゲ兄、ちょっとくらい私達を信じてよ」

 

夢乃はこころからの言葉を制すると普段の夢乃からなら考えられないくらいの高圧的な言葉を影人へとかけた。

 

「夢乃……俺はお前達のためを思って……」

 

「だーかーら、それが余計なお世話なの。お兄ちゃん最近周りに気を配り過ぎ!……私が側で見てても今のお兄ちゃんは危なっかしいよ?それこそ、放っておいたら心が折れそうなくらいに」

 

夢乃は今の影人が危うい状態だと肌で感じ取っているのだ。ここは兄妹としてずっと過ごしていた時間がそうさせている。それに、今の影人は昔の彼自身とそっくりなのだ……。夢に向かって努力し過ぎた挙句、その努力を全否定されて心がへし折れたあの時みたいに。

 

「……他人の心配する余力があったら自分の事を第一に考えてよ。それとも何?私達の事を子守りをしないといけないくらいのお子様とか思ってるわけ?」

 

夢乃の反論に影人は詰まる。そもそも、夢乃が影人相手にここまで反抗的な態度を取ったのは初めてだ。何しろ今までドリーム・アイの活動をする際に影人がそのサポートに入っていた頃にはこんな口調なんて見せなかったのである。

 

兄に甘えてばかりでこんな嫌われるのを覚悟したような言葉は言わなかった夢乃がまるで反抗期のような兄への嫌悪感を見せていた。

 

「そんなわけ……」

 

「じゃあもっと私達を信じてよ……。私達、何から何までお兄ちゃんに世話してもらわないと生きていけない子供じゃないんだからさ。……もっとお兄ちゃんは自分の事に集中してよ」

 

「……は?」

 

影人は夢乃から出てきた言葉に思わず凍りついた。それはカイトにも言われた言葉と共通しており、ここから影人は他人の事ばかり気にし過ぎだと夢乃に通告されたのである。

 

「でも……お前らには俺みたいに……心をへし折られてほしくないんだよ。俺みたいに、周りを全て拒絶するような事になってほしくないんだよ!」

 

影人がそう言って二人へと気持ちを吐き出す。やはり影人は過度な恐れを抱いていた。自分の友達が、彼女が、妹が……かつての自分みたいになってしまう事を影人は怖がっているのだ。

 

「アイドルプリキュアとして、ドリーム・アイとして……世間の中で人気になって……露出も増えて……そうなればなるほど怖くなってるんだよ。一つのミスが最悪の展開にもつれ込む危険だってあるのに。そうなるくらいなら、俺はどんなサポートだってやるし……皆のミスをカバーしないとって……」

 

影人の目は恐怖に染まっていく。自分のやらかしに気が付かなくなるくらいに、今の影人の目は自分以外(・・・・)に向いてしまっていた。

 

「お兄ちゃん。お願いだから一人で無茶しないでよ……。またあの時みたいに心が壊れたお兄ちゃんなんて見たくないよ……」

 

夢乃の言葉に影人は何も言い返す事ができず。その場には無言の時間が流れる。その後、こころが話の続きを言い出した。

 

「……カゲ君。私からもお願いです。もう少し、自分の事に集中してください」

 

「でも……俺が注意しなかったら誰が……」

 

「それは、皆さんで注意の負担を分け合いましょう」

 

こころが言い出したのはチームであれば至極当然の答えだった。そもそも、周りへの気配りは本来なら影人一人がやるべきでは無い事なのである。

 

「私達は今までずっとカゲ君に頼り切りだったんですよ。カゲ君だったら任せて大丈夫だって。そう考えちゃって周りへの注意をカゲ君一人に押し付けてしまった。だからカゲ君は一人でそれを受け持ってきたんです」

 

こころは厳しい言葉をかけた夢乃とは対照的に優しい言葉遣いと顔つきで影人を少しでも安心させようとした。

 

「俺は……もっと自分の事を考えても良いのか?」

 

「はい!今まで周りに目を配り過ぎてた分、自分の事を考えて良いですよ」

 

「……こころ、ありがと。それと、夢乃。……心配かけさせてごめん」

 

「やっとわかった?……このバカゲ兄」

 

こうして、影人の方の問題は解決へと動き出した。今まで周囲への気配りを影人だけに任せ過ぎた分、これからは他の人達が少しずつ負担を受け持つのだ。これだけでも影人はもっと自分の事に意識を向けられるだろう。

 

昨日のような事態も少しずつ減っていけば、影人の心への負担も大きく軽減される可能性が高まる。それから影人は改めて昨日の事を二人へと明かした。二人はそれを受けて先程の提案を実現するべく周りにこれを伝えると約束する事になる。

 

「……夢乃ちゃん、その……カゲ君を助けるためにわざと嫌われ役をやったんですよね?」

 

三人は朝練後に一緒に帰る事になったのだが、その途中。黒霧家と紫雨家に戻るための別れ道に差し掛かった頃。影人が先に行く中でこころがそっと夢乃へと話しかけた。内容は先程の夢乃の態度の事である。

 

「良いですよ。お兄ちゃんとこころ先輩は恋人同士なんですから、喧嘩するなんて私は見たくありませんし」

 

「夢乃ちゃんはそれでも良いんですか?その、カゲ君から嫌われるかもしれませんよ?」

 

「……私の事は大丈夫ですよ。むしろ私自身もお兄ちゃんに依存してた所があったので、この機会に少しでも兄離れをするべきなのかなって」

 

それは夢乃自身が前々から考えていた事だった。夢乃は自分でも兄である影人にベッタリ過ぎると思っていたのである。

 

「勿論、お兄ちゃんの事を嫌いになるつもりは無いよ。前よりもちょっと距離感を置くようになるだけ。私の側にいなくても大丈夫って思ってもらえれば……それだけでお兄ちゃんはやりたい事をもっとできるようになるはずだから」

 

夢乃はそう言って兄離れをするとこころに宣言。そんな彼女の言葉にこころは自分も決意を話す事にした。

 

「……でしたら夢乃ちゃんがカゲ君から離れる分、カゲ君の側には私がしっかりとついてます」

 

「そうしてくれると私も安心できます。あ、そうなったら先輩の事をこころ姉さんって言った方が良いですか?」

 

夢乃がそう聞くとこころは夢乃から実際に言われる所を想像して顔をポンと赤くする。

 

「うええっ!?ゆ、夢乃ちゃんからお、お、お姉ちゃん呼び!?」

 

「え?でも実際そういう話になりませんか?お兄ちゃんとこころ先輩が結婚したら……」

 

「も、もう!そういう事は結婚が正式に決まってから言ってくださいよ!私とカゲ君はまだ許嫁ですら無いんですから!」

 

こころの顔つきは完全に照れ隠しのそれであった。やはり、お姉ちゃん呼びされるのはもう少し手順を踏んでからの方が良いらしい。とは言っても今のまま二人がお付き合いを続ければいずれそうなるだろうが。

 

「と、とにかく!これからは私達でカゲ君をもっとしっかり支えましょう!」

 

「そうですね!お兄ちゃんがもっと活き活きとしてる所……私も見たいですし」

 

こうして、こころと夢乃の二人は少しでも影人の負担を減らすべくそれぞれのやるべき事をしっかりやろうと決意するのだった。

 

それから少しして。場所が移動し、チョッキリ団アジトでの事。そこではザックリーがチョッキリーヌへとある事を頼み込んでいた。

 

「チョッキリーヌ様……マジでもう一人増やしてくださいよぉ……」

 

ザックリーはカッティーがいなくなって以降。外回りの仕事の負担が重くなった事を言及。少しでも負担を分散させるべく他の人を雇う事を提案した。ただ、やっぱりチョッキリーヌにそのつもりは無いようで。手にしたビリヤードのキューを指示棒のように扱っていた。

 

「人が足りないならアンタが二倍働けば良いじゃないか」

 

「……ザックリ二倍じゃ足りないっすよ。プリキュアは六人ですよ?」

 

チョッキリーヌはザックリーからの言葉に立ち上がると怖い顔のまま彼の元に詰め寄っていく。次の瞬間、チョッキリーヌは突如としてザックリーの顔を両手で挟むように鷲掴みにする。

 

「じゃあ、六倍!は・た・ら・き・な!」

 

「ひいっ!?」

 

チョッキリーヌの顔に圧倒されたザックリー。そんな中、ザックリーはこの場にいないスラッシューの事を思い浮かべると口にした。

 

「そ、そういえばスラッシュー様がこの前……」

 

「スラッシュー?あんな奴いない方が私の方に手柄が回ってくるんだ。そのためにお前は働くんだよ!」

 

「うえっ!?チョッキリーヌ様が手柄横取りっすか!?」

 

「当たり前だろう?部下の手柄は上司のもの、上司の失敗は部下の責任なんだからね!」

 

ザックリーはチョッキリーヌからの言葉に唖然とする。もうこうなってくるとスラッシューの部下として働いた方が幸せになれるんじゃないかと思えてくるくらいだ。

 

「ふん、ぐずぐずしてたらまたお前の休みが減る一方だからね?」

 

チョッキリーヌに鞭打たれる形でザックリーはバーを出ていく事になる。その最中、やはり前回の出撃の際に体調を崩していたスラッシューの事を考えた。

 

「スラッシュー様、ザックリ大丈夫なんすかね……。まさか、カッティーみたいな事になるんじゃ」

 

ザックリーとしてはスラッシューまで今の現状でいなくなったら正直身が保たないとさえ感じるようになってしまう。それだけ彼女の言葉がザックリーの支えになっているのだ。

 

「今度スラッシュー様が働いてるお店にザックリ様子を見に行くべきか……いや、あそこはプリキュアのアジトらしいし。ザックリ言って敵の中に飛び込むのと同じか」

 

ザックリーはどうにかスラッシューには元気になってもらいたいと切実な気持ちを抱えつつそのまま街へと出向くことになるのだった。




また次回もお楽しみに。
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