キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
こころと夢乃のおかげで影人の悩みが解決した頃。咲良家の方では午前中に放送されたある番組をはもりが観ている所にうたがやってきた。
『今日のゲストは響カイトさんです』
『よろしくお願いします』
『カイトさんはいつからアイドルになろうと思っていたんですか?』
「これって……」
そこにあったのはとある客間のような部屋であり、ゲストが座るための長い椅子にカイトが、一人用の椅子には番組の司会進行を務める年配の女性が座っていた。尚、服装は紫やピンクを基調とした物で頭には桃の髪飾りを付けている。
番組名は“テンコの部屋”だ。どこかで見た事あるような番組に感じるかもだが、それは置いておこう。その番組に出ているカイトを見てうたは思わずはもりと共に観る事になる。
『歌うのは小さい頃から好きだったんですけど、アイドルになるとは思ってなくて。……でも、ある人に言われたんです。お前の歌、好きだよって』
『お友達?』
『ええ、少なくとも……俺にとっては』
カイトがそう返しつつ番組は進んでいく。どうやら、カイトがアイドルをやるようになったキッカケは彼の友達からの言葉が影響しているらしい。そして、うたはそんなカイトの話を食い入るように観ていた。
「……お姉ちゃん?」
はもりもそんな姉の様子に気が付いたのか、首を傾げる事になる。それから時間が経過してお昼頃。またいつものようにグリッターに集まった影人、うた、なな、こころ、レイの四人にプリルン、メロロン。一同はそれぞれの描いたサインについての話を進めていた。
「え、えっと……私のサイン!……どうかな?」
ななは緊張した様子で考えてきたサインを見せる。それから一同が見るとまずはレイが感想を話した。
「おお、良い感じじゃないか?キュアウインクの……いや、蒼風さんの個性が出てるって感じだぞ」
「はい、ウインクのKの文字が星みたいで心キュンキュンしてます!」
「ホッ……。良かった……センス無いとか言われたらどうしようかと」
レイの意見にこころも便乗して同意する。二人に褒められてななは安心したような顔になっていた。
「大丈夫だって。少なくともレイは蒼風さんが一生懸命に考えたサインを否定なんてしないから」
「おーい、何でそこで俺の名前を出したんだ?影人」
「何も間違ってなんか無いだろ?」
影人とレイがいつもの言い合いをする中、レイの方はななのサインが見れたおかげか少しテンションが高めである。
ななが描いたキュアウインクのサインはキュアのCとuが繋げ文字になっており、キュアの隣には二つの小さなキラキラマークもある。段を分けて下側にあるウインクの方はWinの文字の隣に星の形を意識した特別なKがあり、これでウインクなのだが見方によってはWinと星マークにも見えるためお洒落なデザインである。
「プリ!プリルンのサインも見て欲しいプリ!」
続いてはプリルンの考えたサインである。影人はそれを聞いて少し不安な気持ちが湧いた。
「プリルン、ちゃんと考えたよな?」
「カゲ先輩、また変な所で心配してますよ?これ見てください」
影人はプリルンの事なので変なサインを考えたのではないかと不安視するが、その心配は杞憂で済んだ。
改めて、プリルンの描いたキュアズキューンのサインは上の段のCureは普通だった。しかし、肝心のズキューンの方は頭文字のZの下側の線がズキューンと撃ち抜くように横に長くなっているのが特徴的である。加えて、ズキューンの途中にある二つのoの文字をハートにする事で先程の線がハートを撃ち抜いたような絵へと早変わりだ。最後のsはZから伸びた線に繋げてある。
「マジか……めっちゃ良いサイン考えてきたじゃん」
「ねえたまのサインにズキューンされちゃうのメロ!」
影人はプリルンが意外にもしっかりとしたサインを持ってきたのを見て感心する中、メロロンの方は大好きなプリルンのサインが見られて嬉しそうだった。
「それと、カゲ先輩。余計な心配の癖が残ってますよ?プリルンだってやる時はやるんです!」
「そうプリ!」
影人は何も間違ってない事を言われて唸ってしまう。流石に今回の件はプリルンへの心配をし過ぎたようだ。
それはさておき、次はメロロンのサイン……と行こうとした時にメロロンは何もサインを持って来なかった。
「あれ?メロロン、サインを考えるって話じゃ……」
「どうしてメロロンのサインが必要になるのメロ?」
「メロロン、お願い。サイン作って」
「メロロンにサインなんて要らないのメロ」
レイの指摘やななの頼みにメロロンはツンツンしたような様子で拒否の言葉を口にする。メロロンとしてはサインを描くつもりは無いらしい。
「プリルンもメロロンのサインが欲しいプリ!」
「折角だしメロロンのサインもあったら嬉しいな」
「メロ!ねえたまとにいたまのためなら!」
メロロンは先程まで完全に嫌々だったのにプリルンや影人が頼み込むと一発で描き始める。しかも、その手つきは手慣れた様子であった。要するに、メロロンも考え自体は頭の中にあったという事である。
そんなメロロンが描いたキュアキッスのサインはキュアのCをハート風味な形へとした上でそこからCureの四文字は繋げ文字。キュアの隣にはメロロンの象徴である二つ繋がった音符も描かれている。キッスの方は最後のsを除けば普通の書き方になるが、sから線が伸びてその先にハートマークが描かれている。これは恐らくキッスの象徴である投げキッスを表しているのだろう。
「メロ〜!」
「可愛いプリ!」
「メロロンもお洒落なサインだな。キュアキッスの特徴も上手く捉えてる」
「このくらい当然メロ!」
メロロンは自慢げな様子でプリルンや影人へと書き上げたサインを見せる。大好きな人に頼まれたらすぐに書いたこの対応をレイは思わず口にして言ってしまう。
「影人やプリルンに言われたら即書くってメロロンってやっぱりチョロイなぁ」
「うるさいのメロ!」
メロロンは照れ隠しとばかりに声を上げてレイを牽制。どちらにせよ、後はうたことキュアアイドルのサインのみだ。ただ、当のうたは溜め息を吐いてしまう。
「はぁ……」
「うたちゃん?」
うたはかなり落ち込んだ顔をしていた。彼女の手元にはしっかりとキュアアイドルのサインが完成している。それなのに彼女は溜め息を吐いたのだ。
そのうたが描いたキュアアイドルのサインだが、とにかくハートが目立つの一言だ。キュアのCをハート風にした物やアイドルのiの点をハートへと置き換えた物、更にアイドルのeの一つもハート風へと変わっている。それとは別でハートマークもあるためサインの中に四つもハートが存在していた。加えてアイドルのdは音符のような形状をするというアレンジもあり、うたやキュアアイドルの良さを全面に出したようなサインである。
「……昨日の事か?咲良さん」
影人は何となくうたが落ち込んだ原因が昨日のテレビ局での事だと見抜いていた。そのため、うたへとそれを問いかける。
「やっぱり影人君は人をよく見てるよね……。うん、昨日テレビ局でね。ファンの人からサインを求められたんだけど、私……サインの事に集中し過ぎてファンの事をキラッキランランにできてなかったかもって」
うたもうたで昨日のサインの件を気にしているようだった。影人はうたを励まそうと考える……が、あの時のカイトとのやり取りを考えると自分が出しゃばるのは良くないと判断。どうすべきか思考しようとする。
「……うた先輩、うた先輩がそう思えるって事は次から気をつけられるって事です。いつもみたいに前向きに考えましょう!」
こころは影人が何かを対応しようとする前にうたへと励ましの言葉をかけた。それに影人は唖然とする。
「そうだね……ファンの人をキラッキランランにする何か良い案があれば良いけど……」
「やっぱりキュアアイドルらしく、歌とかどうかな」
「いや、サイン中に歌はキツいんじゃないかな?」
気づいたらうたへのフォローがななやレイの方からもされていく。影人は何故こんなにスムーズにうたへの励ましが行くのがわからなかった。しかし、直後に朝の事を思い出す。
「(こころや夢乃の言ってた事って……こういう事なのか。周りへと気を配って皆でカバーする。……なんだよ、やってみたら案外簡単な事だったんだな)」
影人は今まで自分一人で無理にやろうとしていた事を悔やむくらいにはスムーズな状況回復に思わず顔が明るく変わっていくのだった。そんな時、グリッターの入り口の扉が開くと一人の男性が入ってくる。
「いらっしゃいませ〜」
それから五人が二階から様子を伺うとそこにいたのは眼鏡をかけて変装をしたレジェンドアイドルの響カイトが立っていた。
「カイトさん……」
うたがそう呟く中、カイトの方もその視線に気がつくと微笑みを返す。その後、うたが彼の接客をやる事になった。
「ハーブティー、お待たせしました」
「サンキュー」
カイトはうたから出されたお気に入りのハーブティーを見てから一度お店の中を見渡す。そこは前のカイトがいたという噂に釣られたファン達による超満員……では無く、いつも通りのグリッターの風景であった。
「お店、今日は落ち着いてるね」
「あはは、カイトさんが来てるお店だってバレなかったので……」
結局、あの後ファンの中で勝手に広まっていた“グリッターがカイトが足を運んでるお店”という話はただの噂だったという事で処理されて今はいつも通りの状態に戻っている。尚、噂の内容は本当だったのだがそれはさておこう。
「……あの、昨日は」
「ん?昨日?」
カイトは何故うたが昨日の話をするのかわからずに困惑する。そもそもカイトは昨日、グリッターに来ていない。加えてうたにも会ってないのでそんな事言われても意味不明でしか無いのである。
「(しまったぁあっ!?今はプリキュアじゃないんだった!!)」
そして、そうなってようやくうたも自分が今プリキュアでは無い事を自覚すると慌てた顔つきになってしまう。そんな彼女を見て影人は遠目から呆れたような目線を向けた。
「……そうだ、影人君は元気そうかな?」
「へ?」
「前に夢についての話をした時とか……いつも暗い感じだったからさ」
「あー……」
カイトはそう言って影人の方へと目線を向ける。彼が心配になるのも当然だろう。……何しろその頃の影人は完全にグレ期の真っ只中だった。自分に自信が持てず、自分は輝きを持てないと諦めていたので余計にカイトには暗く映ったのだろう。
「今はもう明るくなって元気ですよ。影人君も色々問題が解決したので」
「ふふっ、良かった。あの子、いつも神経を張り詰めてそうな感じだったから」
「……え?」
うたはカイトの言葉に呆気に取られる。そんなに前から影人の問題に気がついていたのかと驚いたのだ。
「気づいてたんですか?」
「まぁ、何となくだけどね。でも今は皆が助けてくれるようになったんでしょ?そんな感じがする」
カイトの鋭い考察にうたは内心冷や汗をかいていた。このままではプリキュアとしての正体もバレてしまうのではないのか……と。
「おや?あの時の好青年。相変わらずワシの若い頃にそっくりじゃな」
するとそこに声をかけたのは近くの席に座るグリッターの常連こと城蓮司だ。彼は以前、マックランダーの影響で崩れてくる瓦礫に埋もれそうになった所をカイトに助けられたという事があった。
「こんにちは、響カイトです」
するとカイトは眼鏡を外すと蓮司へと挨拶をする。ただ、帽子をしていない状態で唯一の変装アイテムである眼鏡を外すという事は素顔をその場に晒すというわけで。
「ん?君はレジェンドアイドルの響カイト君だよね?」
「蓮爺ちゃんシーッ!」
蓮司は思わずカイトの事を口にしてしまった。うたは慌てて蓮司へと喋ったらダメだと口止めしようとするが、タイミング悪くグリッターの中には偶々若い女性の客もいたようで。
「カ、カイト君!?」
結局、そのまま若い女性には誤魔化しはできないという事でカイトが自分からカミングアウトする事になった。
「いつかこうなるかなとは思ったけど……」
「でも、度々来てたらそりゃいつかはバレるだろ。少なくとも、この前の超満員の時にバレなくて良かった」
影人とレイが二人で話をしているとうたの方でもカイトの事で話が進む事になる。
「プライベートの所、すみません。本当に会えると思わなくて……」
「大丈夫だよ。ありがとう」
不幸中の幸いだったのが、今回バレてしまった相手が良識のある比較的安全なファンであった事だ。彼女もプライベートで来ている事への理解は早く、この事を無闇に周囲へと拡散しないと約束してくれた。
「あの!サインとか貰えたりって……」
「勿論、名前を聞いても良い?」
「えっ、あっ!カイ友のメイです!」
「メイさん、いつも応援してくれてありがとう」
カイトはプライベートで来ている状態だったものの、自分へとサインを求めた女性客からの気持ちに優しい口調で対応。彼は女性客と会話をしながら彼女の心を優しく温めていった。
その様子を二階から見ていたプリルンはいつも通りに目をパチパチとすると女性客からのキラキラがしっかりと見えてくる。
「キラキラプリ!」
それからカイトのサインが出来上がるとしっかりと女性客の名前も入れた上でサインを書き、彼女へと提供。
カイトのサインは頭文字のKを大きく描きつつ、下側には長い横線が描かれており、二本の線が横線の上に交差するように書いてある。更に、K以外の文字は繋げ文字でKから続いている横線の上に綺麗に並ぶような形で描かれていた。
「ふわぁああっ!ありがとうございます!」
うたは女性の心をただの会話だけで自然にキラキラにしたカイトの手腕に思わず見惚れる事になる。
それから少しして、女性はグリッターから出るとカイトから貰ったキラキラを放ちながら嬉しそうな顔をしつつ外を歩いていた。しかし、タイミングが悪いと言えば良いのか。
丁度上空にチョッキリ団から出撃してきたザックリーが疲れたような顔つきで現れた。
「チョッキリーヌ様、ホントに無茶苦茶な事ばかりだし。スラッシュー様はまだ戻って来ないしでメチャクチャだよ……ん?」
ザックリーの視線の先には先程カイトの影響で一際強いキラキラを放つ女性の姿が映る。
「わぁあ、夢みたい。サイン貰っちゃった」
女性はカイトからのサインに嬉しさでいっぱい。幸せ気分の状態だった。当然ザックリーからして見たら彼女はキラキラを強く放つ事になるわけで。
「あ、目障りなキラキラ見つけたぜ……良し」
ザックリーはひとまず下がり切ったテンションを戻すとその女性客をターゲットにクラヤミンダーを呼ぶ事に決めた。
「お前のキラキラ、オーエス!」
「きゃああっ!?」
「はい、ザックリ行くぜ!」
ザックリーがいつも通り、女性のキラキラを引き抜くとリボンを切断しつつクラヤミンダーを召喚した。
「来い!クラヤミンダー!世界中をクラクラの真っ暗闇にしやがれ!せい!」
「クラヤミンダー!」
これにより、またクラヤミンダー召喚されてしまった。今回はサインの色紙をモチーフにした胴体に腕には巨大なサインを描くためのペンが握られている。こうして、またチョッキリ団の手によって空が暗く染まってしまう事になるのだった。
また次回もお楽しみに。