キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
七月の下旬に入り、夏の暑さが更に厳しくなっていく……そんなある日。キラキランドのはなみちタウン出張所兼タナカーンの家兼プリルン・メロロンの家の中の一室。この家に元々住んでいた住人、田中ことタナカーンがいた。
彼は下半分が卵の形をしつつ、そこから生まれたばかりのヒヨコをモチーフににした何とも可愛さのある目覚まし時計が鳴るのと同時に起床する。
「スッキリ目覚めタナ」
彼の朝は早い。何しろ目覚ましは朝の5時に鳴っているのだから。しかも、そのタイミングでもちゃんと起きる事ができる。そんな彼は妖精態で窓際に移動。窓に近づいた所で人間の姿へと変化した。
「んんっ!」
彼は窓際で伸びをしつつ朝の日差しをたっぷりと浴びる。尚、何故か彼は寝る時も眼鏡をかけっぱなしだ。今回の冒頭はそんな田中のモーニングルーティーンを解説しよう。
「ん!ん!ん!ん!」
田中はそれから軽く体操をする。それによって目を完全に覚ました田中は早速キッチンへと移動してコーヒーを淹れる。
「やはり良い香りですね」
田中は自分で淹れたコーヒーの豆の香りによって心を癒す。そのままそのコーヒーを飲む事で脳を目覚めさせる。彼にとっての至福の時だ。
「おはようプリ〜!」
しかし今朝はタイミングが悪かったのか、彼がコーヒーを飲んでいる間にまさかのプリルンがいきなり突撃してきたのである。
「むぐっ!?ゴホッ、ゴホッ……」
プリルンがぶつかった影響で少しむせてしまう田中。至福の時を邪魔されても怒らない田中。大人の余裕なのか単にプリルンの性格的に諦められてるかはわからないが、彼はあくまで普通にプリルンへと朝の挨拶を返す。
「プリルン、おはようございます」
ちなみに、プリルンの記憶が戻って以降もこの家に居候という形で住み着いている。ごくたまに影人の家にお泊まりをしに行かない限りは大体二人がいる状態だ。
そのせいか、前に二人好みであるピンク色へと改造された部屋は全てそのままになっている。メロロンがうたの家に行きたがらない以上はこのままずっと住み着く事になるだろう。
「朝ご飯はどうしますか?」
「プリルン、うたと食べるプリ!」
「え?しかし……」
「行ってきまっプリ〜!」
田中はまさかのプリルンの宣言に唖然とする。その後、どうにか止めようとした所でプリルンは勝手に家から出て行ってしまった。
「ああ、何だか嫌な予感がしますね……」
田中は何となく予想ができてしまった。プリルンが勝手に行ってしまった事でこの後起きてしまう出来事が。田中はそう考えつつ近くにあるソファーの一角を見るとその思考に至る要因が気持ち良さそうに寝ていた。
「ねえたま、ずっと一緒メロ〜……」
そこではメロロンが寝言を言いつつ気持ち良さそうに寝ていると彼女も何かの違和感に気がついたのか目を覚ますと同時に隣を見る。しかし当然メロロンが求めるプリルンはこの場にいないわけで。
「……メロ?ねえたまがいないメロ!」
それからメロロンは慌てた様子で田中の元へと移動。彼は丁度今朝の新聞を持っていた。この出張所は森の中なのでここまでわざわざ届けに来てくれる配達員がいるかどうかはさておき、彼は手にした新聞を読む。
「タナカーン、ねえたまがどこ行ったか知らないメロ?」
「実は、うたさんの所に」
「メロ!?」
やはりメロロンはプリルンがうたの所に行ってしまったと聞いて唖然とすると早速そのうたへの嫉妬の炎を燃やす。
「メロ……あのねえたま泥棒メロ〜!何で止めないのメロ!!」
メロロンは怒った顔つきで田中を糾弾。田中は予想通りの展開過ぎて平然とした心でこの様子を見ていた。
「(……予感的中です)」
「今頃二人はきっと……」
メロロンの想像内ではうたがプリルンにタコさんウインナーを食べさせている様子がありありと浮かんでおり、そんなラブラブなワンシーンが繰り広げられている。
「メラメラメロ〜!」
当然メロロンがそんな展開を良しとするわけが無い。嫉妬心を更に燃やしたメロロン。ただ、メロロンはプリルンの事を自分を照らす太陽だと思っている節があり、自分の事を月に例えている。
「あなたは太陽、私は月。月は太陽の光で輝くけれど……その隣には並べない……」
これは実際の太陽と月にも言える事なので何も間違ってない。間違っては無いのだが、メロロンはそんな程度でプリルンを諦める程ヤワでは無かった。
「……なんて、諦めないメロ〜!すぐに咲良うたの家に行くのメロ!!」
怒りのままにうたの家へと直行しようとするメロロン。田中はそんなメロロンの保護者のように一人で突き進むメロロンを心配して声をかける。
「ッ、そんなに慌てては危ないですよ!」
世間は夏休みの時期に突入。……ただ、田中にとって今年の夏は例年以上に忙しくなる予感がするのだった。
同時刻。影人は朝起きると夢乃と部屋の外で会っていた。この二人の関係もここ最近変化が生じている。
「おはよう、夢乃」
「おはよー、お兄ちゃん」
「……やっぱ最近俺との接触が減ったけど……これも兄離れの一つ?」
影人はここ最近夢乃が明らかに距離を置くようになったと感じるようになっていた。具体的には前と比べて夢乃がしてくる物理的なスキンシップの回数がすっかり減ったのである。加えて話し方も少し棘のある物が増えてきていた。
「そうだよ。正直、今までが多過ぎたって感じだし。やってみたら案外簡単に止められちゃうんだね」
「……お前、まさかと思うけど今までのスキンシップって……」
「ん〜?もしかして私が打算なしとかで毎回お兄ちゃんにスキンシップしてたと思ってた?」
「お前ぇえっ!」
どうやら今までのスキンシップの何割かは夢乃が甘えんぼな妹に見せるべく彼女が意図的に行っていた物らしい。つまり、影人が寂しく無いようにするためにわざと回数を増やしていたようだった。影人はまさかの妹に弄ばれていたと知って苛立ちを露わにする。
「でも良かった。お兄ちゃん、今まで私達のせいで色々と縛ってたと思うとこの方が気持ちが楽だから」
「とは言っても、やりたい事なんてそんなすぐフワッと思いつかないんだよなぁ」
影人は自分のやりたい事についてここ数日頭を悩ませてきたが、前のうたの時……程までは行かずともハッキリとした何かは全く浮かんでいなかった。
「もういっその事、役者をもう一度目指すって事はできないのかな」
「それは……」
影人は夢乃からの話を聞いて無言になってしまう。やはりその話はトラウマに触れてしまうせいかどうしても踏み込めなかった。
「……やっぱり無理かな?」
「ああ」
夢乃はその言葉に兄はもう一度あの場所を目指すのは難しいのだと考えてしまう。正直、夢乃はもう一回チャレンジしてほしい気持ちがあった。影人にとってそれは酷であるとわかっていても、あの時の影人は今までのどの時よりも輝いて見えていたのだから。ただ、影人の心はどうしてもやるという決心に至らない。
「(俺にもう一度あの場所を目指す?……そんなの、できっこ無い。またあんな……あんな気持ちになりたく無い。……それに、俺にはもう自分で輝く力なんて無いのに……)」
影人は絶望を味わったあの日以降自分への自信が消え果てたまま。自分の輝きだって誰かに依存している以上は自分で輝くなんてできないとすっかりその気持ちに蓋をしてしまっている。この状態では自分の良さを見せるのは不可能だろう。
「それよりも、夢乃。今日は姫野さんと直接会って話すんだろ?」
「え?うん。夏休み期間での今後の活動とかね」
「そっか……」
今の時期は夏休み期間という事でそれは夢乃のドリーム・アイとしての活動がしやすい期間でもある。そう考えるとこのタイミングでの活動の擦り合わせをするのは至極当然だろう。
「お兄ちゃんも良い加減自分に自信持ってよ?いつまでも自分が輝く力が無いなんて……そんなお兄ちゃん見たくないから」
夢乃はそう言って一度影人の前からいなくなる。夢乃もかなり複雑な気分だった。自分の兄は凄いってわかってるからこそその兄がいつまで経っても足踏みしているのは嫌なのである。
「もっと真剣に考えるべきかな。俺のやりたいって思える事」
それから少し時間が経過した後。グリッターのカウンター席ではプリルンが目の前に出されたオムライスを美味しそうに食べていた。ライスの上に被さった薄焼き卵にはケチャップでハートマークが描かれており、その隣には付け合わせのトマトやレタスも添えられている。
「ん〜!美味しいプリ!」
プリルンは幸せそうな顔でオムライスを頬張っており、隣にはそれを作ったうたが座っていた。
「プリルン、ご飯粒付いてるよ」
「本当プリ?」
うたはプリルンが頬っぺたにご飯粒を付けてしまっているのを見てそれを取ろうとする。そんな時だった。後から追ってきたメロロンが突撃してきたのは。
「ねえたま〜!」
「ぶえっ!?」
「メロロンが取ってあげるメロ!」
「ありがとプリ!」
メロロンはプリルンの近くにいる邪魔者を排除するかのようにうたの顔面に一度激突してうたをプリルンから遠ざけさせる。それからメロロンはプリルンに対する満面の笑顔で頬っぺたに付いたご飯粒を手で取って食べた。
「メロロン、今日も元気だね……」
「咲良うた、良い加減ねえたま泥棒をするのは止めるのメロ」
メロロンがうたへの敵意を向ける中、突如としてグリッターの扉が開けられるとそこに田中が到着する。
「はぁ、はぁ……おはようございます」
「おはようございます!」
どうやら、メロロンがグリッターに来るのを後から追いかけてきたらしい。ただ、人間の姿で走っていたせいか息は荒れていた。するとうたの足元でロープの玩具を咥えていたきゅーたろうが田中の元に歩いていく。
「あ、きゅーちゃん。田中さんに遊んで欲しいの?」
「くぅーん」
「え?」
きゅーたろうはうたの言う通り、田中に遊んでもらいたいがために玩具を咥えたまま彼へと好意的な目を向ける。ただ、当の田中本人は犬への恐怖からか苦手意識のある顔を見せていた。
「う……」
どうやら、田中は前にはなみちタウンでの散歩中に同じく犬を散歩させていた人とすれ違った際にドーベルマンと思わしき犬二匹にのしかかられた事があったのだ。ただし犬二匹は田中の事を嫌ったためにのしかかったわけでは無く、寧ろ気に入ったからこそのじゃれつきであった。
それでも田中の中では恐怖心が勝ったようであれ以来犬への苦手意識ができてしまったのだ。
「い、行きますよ?」
ただ、田中はうた達の前でそんな自分はあまり見せたくないのかひとまず普通に接しようと努力する。そのため、きゅーたろうの咥えたロープを掴んで受け取ろうとした。
「ッ!?強い!?」
ただ、きゅーたろうは田中がどれだけ引っ張っても離そうとしない。遊びなので田中も全力で引っ張る事ができずに困惑する。そこにやってきたのは姫野だった。
「あ、田中さん。すみま……え?」
彼女は田中に用事があったのか、声をかけようとした所で彼が犬とロープの引っ張り合いをしているのを見て困惑する。
「えっと……うたさん。これは?」
「あ、姫野さん!実は、さっき田中がここに来て。それできゅーちゃんが田中に遊んで欲しいって」
「大体は理解できました」
姫野はひとまず邪魔するのも悪いという事で一旦横をすり抜けてグリッターの中へと入った。そのタイミングで今度はなな、こころ、レイの三人が到着する。
「「「おはようございます!」」」
「ワン!」
その瞬間、突如としてきゅーたろうは咥えていたロープを口から離して三人へと挨拶代わりに鳴く。そして、そうなると田中はいきなり引っ張る際の抵抗力が無くなるわけで。
「うわっ!?」
「大丈……」
「田中さん!?しっかりしてください!」
「「うえっ!?」」
ななが思わず田中を心配しようとした時。一瞬にして姫野が来ると田中を心配するような声を上げる。そしてそのあまりのスピードにななとこころは驚きの顔を見せた。
ただ、その直後。すかさず田中は復活するとなな、こころと向き合う形で仕事モードで立ち上がる。
「大丈夫です」
「復活早っ!?」
「姫野さんもすみません、心配をかけました」
「いえ、大丈夫なら良いんです……」
姫野は大袈裟に心配し過ぎたと少し顔を赤くする中、田中は目の前の二人へと話しかけた。
「そういえば、平日の朝からとは珍しいですね」
「ふっふーん!何しろ私達、今日から夏休みですから!」
「……夏休み?」
田中は少し疑問符を浮かべてから納得の顔つきになる。七月の下旬であれば世間は夏休みシーズンに入るのも当然だからだ。
「あれ?そういえば姫野さん、今日は夢乃ちゃんとの話し合いの日でしたよね?」
「ああ、それはですね。今日はこっちでやろうかなと。もう少しで影人さんと一緒に夢乃さんも来るそうなので」
折角グリッターが閉まっている時間で尚且つこの場にいるのがプリキュア関連のメンバーだけであるならここで話すのが今後の予定決めに最適だと思ったのである。アカペラの練習だって夏休みシーズンが追い込みをかけやすいというのもあるだろう。
「田中さんもいますし、バイトの後にでもその。ゆっくり予定の擦り合わせとかも」
「なるほど、そういう理由でしたら今日のバイト後にでもやりましょうか」
「お願いします……」
姫野は僅かに上擦ったような声色で田中へと話す。……ここまで小説を読まれている方々ならもうお察しだろう。姫野にとって田中は憧れの人兼初恋の相手なのだ。尚、姫野は彼以外に惚れた事は無いためずっと一途な状態である。
「お待たせ」
「おはようございます」
そのタイミングで黒霧兄妹も到着。これで今日この場に集まる予定のメンバーは全員集合した。
「影人君も来てくれたし、早速話そっか!」
「夢乃さんは……」
「はい、予定についての話し合いですね」
「では私もバイトの準備を」
こうして、メンバーが揃ったためにそれぞれのやるべき事を進めるべく準備を開始。早速話が進んでいく事になるのだった。
また次回もお楽しみに。