キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜   作:BURNING

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働く者達の地獄 休む者達の天国

影人達が田中のやる予定だった仕事を分担して始める中、場面は変わってチョッキリ団アジト。そこではバーのカウンター席に上半身を乗せて少しでも休もうとする男……ザックリーがいた。

 

「あぁーっ、疲れた」

 

「……夏休みが欲しいかい?」

 

「んぁ?」

 

そんな時にザックリーの後ろからかけられた声。その主はチョッキリーヌである。彼女は突っ伏したザックリーを後ろから笑みを浮かべつつ見下ろしていた。

 

「チョッキリーヌ様っすか……。そうっすねぇ、ここん所は働き詰めっすからね。前の休みもスラッシュー様に代わってもらった時ぐらいですし」

 

少し前まではカッティーがいたので三連勤ぐらいまではあってもそれ以上の連勤は無い。しかもカッティーがいなくなって以降はスラッシューが出てくれた二回以外はずっとザックリーが出撃しており、その回数は既に六回に及ぶ。

 

カッティーがいた頃ならこの中の最低二回ぐらいは彼が請け負っただろう。そのためザックリーはまた休みが欲しくなっていた所だった。

 

「ならやろうか」

 

「え?本当っすか!?」

 

ザックリーの目にはたったそれだけで希望の光が灯った。彼にとってそれだけ休みが欲しい状況なのである。……しかし、チョッキリーヌが次に言った言葉がそんなザックリーの希望を満面の笑みを浮かべながら簡単に踏み潰した。

 

「世界をクラクラの真っ暗闇にしたらその後で幾らでもくれてやるさ。な・つ・や・す・み」

 

チョッキリーヌからの宣告にザックリーは唖然としつつも、今にも溜め息を吐きたそうな声色で返す。

 

「えぇ……それって今日も働けって事じゃんかよ……」

 

「というわけで、さっさと行ってきな!」

 

そんなテンションが爆下がりのザックリーを他所にチョッキリーヌはさっさと去っていく。同時にザックリーはここ最近の苦しい状況に耐えかねてきていた。

 

「はぁ、癒しが欲しいぜ……。スラッシュー様にまた頼んで交代……いやいや、スラッシュー様も最近ずっとあんな調子だ。それに、男として弱ってる相手に無理強いして頼むのもなぁ」

 

流石に万全な状態のスラッシューに頭を下げてお願いするならともかく、今の不安定な精神状態の目立つスラッシューに頼むのはザックリーとしても嫌なようで。ただ、このままでは自分が潰れるのも時間の問題。そうなればやはり何か心や体を癒せる物が欲しくなるわけで。

 

「そういや、癒しと言えば……」

 

それからザックリーは自らのスマホを開くと早速ある動画を観るために画面を操作。そこにあったのはまさかのキュアウインクのライブ動画であった。勿論曲は“まばたきの五線譜”である。

 

『きらめきへ踏み出そう〜♪受け取った勇気つないで♪まばたきの数だけ〜♪五線譜……』

 

ザックリーは最初の方こそこの動画を観てテンションが上がっていたものの、すぐに我に帰ると慌てて再生を止めてしまった。

 

「ッ!?何で俺こんな物観てるんだ!」

 

ザックリーは自分でも何故キュアウインクの動画に癒しの要素を求めたのかわからないと言わんばかりである。

 

「チッ、調子狂ったぜ……これ以上ここにいても意味ねぇし、さっさと行くか」

 

ザックリーはここにいた所でまたチョッキリーヌにサボりを指摘されるのみで得が無いという事でキラキラを探しに街へと繰り出す事になる。

 

同時刻。グリッターではバイト中の天城がカウンターでの皿洗いをしつつ客への対応をしているうたの姿を見ていた。

 

「(……やっぱり、いつも見てて思うけど。キュアアイドル……咲良うたと話した相手は大体の場合笑顔になってる。特に客に聴かせてるあの歌……)」

 

天城はバイトをする中で度々うたが客相手に歌う歌を聴いているのだが、妙に惹かれる節があった。

 

「(……何かしら。あの歌を聴いてると、心に響くと言うべきかしら)」

 

天城は最初、チョッキリ団として……スラッシューとして敵の懐に入り込んだ上で隙を見てプリキュアのアキレス腱となる物を切断。一気に決着を付けようと思っていた。しかし、数ヶ月を過ごす内にその機会を逃してしまったのか。ここ最近、バイト中だけでも心境が変わるようになってきていた。

 

「(人々のキラキラも見慣れたせいか目障りに思えなくなって……。むしろ、グリッターの外に出たらまた鬱陶しいと感じるのが余計に不思議なのよね)」

 

天城はグリッター内でのキラキラにはもう見ても反応しなくなっており、それだけここでのキラキラに慣れたということだろう。

 

「天城さん?」

 

すると天城がいきなり名前を呼ばれ、慌てて目の前を見るとそこには客への対応を終えて戻ってきたうたがキョトンとした顔をしていた。どうやらボーッとしてしまったらしい。うたはそんな天城を見て心配している様子である。そのため、天城は慌てて反応した。

 

「ッ!すみません、うたさん。何でしたか?」

 

「いえ。……ここ最近天城さん、元気無いですよね。この前も頭を痛めてましたし、バイトに積極的に参加してもらえるのは嬉しいですけど……無理しないでほしいなって」

 

うたの言葉に天城は、スラッシューは……胸にチクリとした感覚が走る。彼女は目の前にいるチョッキリ団としての自分の敵に。プリキュアに心配されているのだ。そのため天城は情けなど要らないと言わんばかりに強く言い返そうとする。

 

「ッ、そんなの全然へい……」

 

“全然平気。あなた達に心配されるような私では無い”。天城はそう言おうとして詰まった。このままでは自ら正体をバラす事になってしまうからだ。そのためスラッシューは感情的になるのをどうにか抑えて返す。

 

「……全然平気ですよ。頭が痛いのもその日だけ……」

 

「本当にですか?……今の天城さん、凄く辛そうに見えますよ?」

 

うたが不安そうな声になっていた。うた視点だと今の天城の顔つきは精神的に酷く疲れたような顔つきになっており、そんな彼女を見ていると田中のように働き過ぎになっているのではないか。このまま放置したら下手するといつか倒れてしまうのではないのかと思っているのだ。

 

「………」

 

天城はうた相手に黙り込んでしまう。これ以上話をしたらボロを出しかねない。そう考えた天城は一度考えを整理する時間が欲しかったのだ。しかし、うたから見たら彼女は図星を突かれて不安になってると感じたらしく。天城が考えを纏めて話そうとした直後に歌い始める。

 

「……心配し……」

 

「いつもありがとう天城さん〜♪お店のお手伝い♪感謝♪ハッピー♪でも時には休んでね〜♪」

 

「……え?」

 

うたはいつもグリッターを訪れる客へと聴かせる感覚で、天城の心に響くように優しく語りかける形で歌を歌う。そんな彼女に天城は困惑したものの、そのすぐ後に同時に天城は目を見開く事になる。

 

「嘘……何で……」

 

そこに映ったのはうたとそっくりな顔つきをしつつ、緑の瞳にキュアアイドルのような雰囲気の髪型。黄色を基調としたアイドルのようなフリフリのドレス姿である。これは、少し前に天城が一瞬だけ思い出した子と同じ姿であった。彼女がうたに重なるようにして姿を見せたのだ。

 

つまり、天城視点だとうたがアイドルのような姿の女性と置き換わったように見えたのである。

 

「……うた……

 

「はい?私がどうかしました?」

 

そして、絞り出すように天城がいきなり言ったのはまさかのうたの名前だった。うたの後に最後に何かボソッと一文字言ったものの、うたには名前を呼ばれた事への動揺で聞こえていない。

 

「ああ……やっと会えた……もう二度と会えないと……溺れて死んだと思ってたのよ……」

 

その瞬間、天城の目には涙が浮かぶといきなりうたへと近寄り始める。勿論そんな事を急にやられてもうたは困惑する一方なわけで。

 

「うえっ!?天城さん、急に泣き出してどうしたんですか!?」

 

「何言ってんのうた……あなたは今ここに……」

 

天城は困惑するうたを見ながら両腕を彼女の肩に置いてから思い出話をするように色々と話そうとした瞬間。同時にまた天城の頭に凄まじい痛みが走ると顔を歪める。

 

「あ……ああっ……」

 

「天城さん?」

 

「う……うっ」

 

「天城さん!?しっかりしてください!聞こえますか?天城さん!」

 

同時に天城は声すら上げずにそのまま崩れ落ちると気絶。こうなった理由は当然脳内へと直接激痛を与えた犯人、ダークイーネが手を下したからだ。それはまるで余計な事を思い出すなと言わんばかりのやり方であり、何にせよ天城はまた壊れかけていた記憶の封印の鎖をまた強く巻き直される事になるのだった。

 

「お父さん、お母さん!」

 

「また天城さん倒れちゃったの!?」

 

「ひとまず奥の部屋で休ませよう」

 

それはさておき、目の前で天城が倒れたのを見たうた。彼女はいきなり天城がこうなってしまった理由がわからない。慌てて目の前で倒れた天城を心配すると同時に両親に声をかける。それから二人と相談の上で一度天城を休ませるために店の奥にある休憩用のスペースでひとまず彼女を寝かせる事になるのだった。

 

同時刻、はなみちタウンの街中。そこにはスーツ姿のひと組の男女の姿があった。それは急遽思わぬ休みを貰えたアイドルプリキュア/ズキューンキッスソウルのマネージャーこと田中とドリーム・アイのマネージャーこと姫野である。

 

「……んーっ」

 

「田中さん?」

 

田中は両側に家が立ち並ぶ所謂生活道路と呼ばれる道の真ん中で太陽の光をいっぱいに浴びながら力を抜いていた。そんな彼の様子を見て姫野が気になったのか声をかける。

 

「急にどうしたんですか?」

 

「いえ、折角夏休みを貰えたのにいざとなると何をして良いのやら……」

 

「ああ……」

 

姫野はそんな田中に納得の顔つきになる。というのもここまで田中は十年以上も夏休み無しの日々を続けてきた。加えて、はなみちタウンの出張所での仕事はどうしても毎日コツコツとやるタイプの仕事。そのため何かしら仕事は存在していた。

 

つまり、根本的に田中の仕事に休みという概念自体が無いのだ。そう考えると田中はそもそもはなみちタウンに来てから休みの日というのを殆ど経験していない。そんな人間がいきなり休みをもらったらどうなるか……まずそもそも休みの日に何をして良いのかわからないという現象が起きる。

 

「(田中さん……いつも忙しそうにしてるから私も休みの日に中々声をかけられなくなって……そのまま私は田中さんの事を好きな気持ちを閉じ込めて)」

 

姫野が田中が好きでも中々アタックしに行けなかった理由もこの田中の仕事に終始する日々を見てきたからである。自分が行っても田中にとって迷惑だと思うようになった姫野はいつしか気持ちを封印するようになっていた。

 

しかし、今日……この瞬間だけは田中と一緒に休みを取れる時間だと思った姫野はどうにか田中に休みの過ごし方を伝えようと考える。

 

「そういえば、姫野さんは休みの日とかは何をしてますか?」

 

「はえっ!?」

 

その瞬間、姫野はいきなり田中からの質問を受けてしまう。自分から話を振るつもりだった姫野は最初から出鼻を挫かれると慌ててまた考える。

 

「え、え、えっと……私ですね!?その……休みの日はとにかく体を休める事を優先してますよ?例えば自分が心からリラックスできるって思える事をやる……とか!」

 

姫野はそう言ったものの、具体的な事までは言えなかった。田中に自分の良い所をアピールできるチャンスのこの時に姫野の欠点……“仕事以外の事をやる際にとにかくポンコツ化する”というのが出てしまったのだ。

 

「なるほど、私が心からリラックスできる……でしたら。前々から行きたい所があったんでした」

 

田中がそう言うと姫野は田中の脳内思考を上手い事休みへと変えられたとホッとした顔になる。

 

「姫野さん、一度自宅に戻って準備をしますからこの場所で集合しましょう」

 

姫野は田中からスマホを見せられると姫野は目を見開く。そこにあったのはこの街中に存在するはなみちタウンの温泉である。

 

「温泉……お風呂ですか」

 

「ええ、折角の休みですし体を休めるのなら温泉が最適です」

 

「確かに、ここなら遠出の必要がありませんし……わかりました」

 

「では、三十分後を目安に」

 

「はい!」

 

それから田中は空中を移動した方が早いという事でタナカーンの姿へと変化。温泉に入るための荷物を取りに行く。姫野もそれを見送ってから早速自宅へと移動しようとしたその時、ふと脳内にある考えが浮かんだ。

 

「……あれ?そういえば今日のお休みって私と田中さんの二人きり……二人きり?」

 

この期に及んで姫野はあれほど夢乃が自分を田中との休みに行かせたがっていた理由にようやく思い至った。それと同時にこれから温泉に入る事の意味にやっと気がつく。

 

「し、しまったぁああっ!?温泉じゃ……二人きりの意味が無いぃいいっ!?」

 

姫野は完全に失念してしまっていた。今の田中との二人きりの状況が意図的に作られたという事。そして、それは同時に自分は田中と二人きりの状況……デートを夢乃達にセッティングしてもらったのだと。

 

加えてこれから向かう先の場所……温泉において二人きりの状況というのは混浴で無いと存在しない。しかも、はなみちタウンの温泉に混浴が無い事は先程調べた時に見てしまっている。

 

強いて言うなら風呂上がりの後のゆっくりとした時間で二人で話すという手があるのだが、姫野は自分のやらかしに気を取られて完全に脳内が空っぽになってしまう。

 

「ぁ……あぁ……うわぁああっ!」

 

姫野また自分のポンコツのせいで田中と二人きりで長時間過ごすという線を自ら投げ捨ててしまったのだと感じ取るとその動揺の大きさのあまり、妖精態に変化して自宅にまで爆速で飛んで行ってしまうのだった。




また次回もお楽しみに。
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