キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
田中と姫野が休みの過ごし方として温泉に行く事が決まった頃。街中の上空ではザックリーがクラヤミンダーの素体となる人間を探していた。
「どこだ!キラキラ!どこだぁ!」
そんな時だった。ザックリーはここまでの連続勤務の反動か、頭に痛みを感じると顔が青くなってしまう。
「あっ……ぐっ……やっべぇ。ここ最近の疲れで」
流石にザックリーも働き過ぎで疲労の蓄積が凄まじく、力も抜けていく。ひとまず休息の必要があると地上に降り立った。
そんな彼とは別の場所。そこではななとレイが田中の代わりのパトロールをするべく背中にゴミを入れるための背負い籠を装着し、手にはゴミ拾い用のトング。もう片手にはパトロールするためのチェックシートの付いたボードを手に持っていた。
勿論服装は暑い夏の時期でも大丈夫なように帽子や半袖等の動きやすい夏服である。
「ここも異常無し!」
「しっかし、改めて自分達でやってみるとわかるけど……中々大変だな。パトロールするってだけでも」
「うん。でも、田中さんはずっと一人でこれをやってきたんだし。私達は二人なんだから」
「だな。田中さんは折角休みになったんだし、その分俺達で頑張ろ」
ななとレイが街中を歩きつつパトロールを進めていく中、二人は普段一人で毎日のようにパトロールをしていた田中の凄さを改めて知る事になった。
「そういえば、田中さんと姫野さんは上手くやれてるかな?」
「うーん。今の所田中さんには姫野さん相手にその気はまだ無いだろうし……姫野さんってほら。仕事以外だと色々ポンコツだろ?多分姫野さんがやらかして二人きりの時間を活かせて無さそうな気がするな」
レイは鋭い予想で今姫野が置かれている状況を予測。ななもそれには苦笑いをしてしまうのだった。
「レイ君って、夏休み予定とか結構もう埋まってたりする?」
「それってうちの親父関係でって事?」
「うん。レイ君のパパの事だから夏休みの時間とか使って……」
「ああ、例年通りならまたそれなりの日数は拘束されちゃうだろうな……」
レイは僅かに寂しそうな目になる。ななはそんなレイを見つつ彼の複雑な家庭環境に何かできないかと考えた。
「(レイ君も田中さんと同じ。忙しさに追われて休みが無い。でも、レイ君は田中さんとは違って夏休みがちゃんとあるのに)」
「蒼風さん、そんなに心配しなくても大丈夫だぞ」
「え?」
「……前にも言ったけど、これは仕方ないんだよ。この家に生まれた以上は、いつか親父の跡を継ぐのは決まってる。だから今のうちから厳しく教育されるのは当たり前……」
しかし、レイは今にも溜め息を吐きたそうな顔になってしまう。一年……いや、半年前のレイだったら同じ状況になっても特にこんな顔にはなっていなかった。現に今年の春休みくらいまではこんな感情なんて思わなかったのだから。
これは影人が転入してきたあの日以降……彼の人生に本当の意味での友達ができたからだろう。それまでは自分と話す人達はあくまで広く浅い関係でしか無かった。これから会社を継ぐために情報を集める能力を高めるため、他人とのコミュニケーションだけを目的とした薄っぺらい関係。
それがレイと周りのクラスや学年の人達との関係であり、それはレイからすると悪く言えば自分の将来のために周りの同級生達を上手く使っているという状態と言える。
「(レイ君。やっぱり辛そうだよ。夏休みなのにそれを素直に喜べなくて。……きっとそれは私達と改めて友達になったから。夏休みを一緒に過ごすのが楽しいって思える人達ができちゃったから)」
ななはそんな夏休みなのに友達と楽しい時間を気軽に過ごす事ができないレイを見て何かできないかを改めて考える。自由に時間を作れないのなら……その時間を何かしら作ってあげられないのか、と。
「あのね、レイ君」
「ん?どうしたんだ?蒼風さん」
「……その、レイ君が良かったらなんだけど」
ななはレイに話しかける前、一度勇気を出すためのおまじない。ウインクをしてからある事を話した。それを聞いてレイは驚いたような顔になる。
「蒼風さん……それ、本当に良いのか?」
「うん……」
「一応だけど……影人や咲良さん、こころ達と皆で行くって手もあるんだぞ?」
「えっ!?あ……それは……そうだけど」
ななはそれを言われて戸惑ってしまう。どうやらななの提案はレイと二人でどこかに行く事らしい。ただ、ななはその事に指摘されるまで気が付かなかったのか混乱する。
「……え、えと……」
ななは二人きりで行くという提案が恥ずかしくなってしまったのかレイの指摘の後に何も返す事ができなかった。そんな彼女を見たレイは微笑むとこれがななのやりたい事であると考えてから彼女へと改めて話しかける。
「そっか、わかった。……蒼風さん」
「は、はい!」
「じゃあ、その日。丁度空いてるし……二人で行こう」
「うん!」
そんな風にとある話が二人の間で決まる中、そのまま公園に到着。それからそこでもパトロールをする事になる。
「ここも異常無し!」
「ああ。このまま行けば夕方までには余裕で……あれ?」
レイがある物を見て言葉が止まる。そんな彼を見たななもその方向を向くとそこには芝生の上で尻もちを付いたまま前に上体を倒したような状態で力尽きたような人がいた。
「あれは!異常有り!」
「あの!大丈夫ですか?」
二人が慌ててその人の元に近づくと声をかける。その人は深緑の髪で夏なのに長袖長ズボン。夏の暑さにやられてしまったのだとハッキリと見て取れた。
そして、その人が自分に話しかける声に気づいて起き上がると慌てたような声を上げる。
「んぁ……げっ!?キュアウインク!……と、プリキュアの仲間の小僧か」
「あなたは……えっと……」
「この人は、ザックリーね?あとお前らから見たら俺の事は小僧扱いなんだな」
レイはななのド忘れをフォローしつつ自分がチョッキリ団からしたらただの小僧扱いされている事に多少のショックを受ける。ただ、今大事なのはそんな事では無いためにレイはザックリーの方を改めて向く。
「ったく、キュアウインクの方は俺の名前を忘れやがって……つか、放っておけよ。敵同士なんだからよ」
「誰だろうと、こんなフラフラな人を放ってはおけません!」
「このままお前の事をここで見捨てるのは寝覚めが悪いんだよ」
確かにザックリーはプリキュアの敵。普通なら助けたらいけないのかもしれない。しかし、それでも二人は目の前にいるザックリーを見過ごす事ができなかった。
「とにかく、こっちに来てください!」
ななは自分の帽子をザックリーに被せる中、彼を木陰の下にあるベンチへと連れて行く。それに合わせる形でレイは近くの自販機に水を買いに行くとペットボトルの飲料水を持ってきた。
「ほら、顔が青いしそのままだと本当に死ぬぞ」
「チッ……悪い……」
ザックリーは渋々レイからのペットボトルを受け取るとその水をがぶ飲みする。それによってようやく彼は持ち直すと青かった顔も元に戻った。
「(どうしよう……)」
ただ、ななは敵であるザックリーを助けた事を気にしている様子で不安そうな顔になる。そんな彼女にレイは小声で話しかけた。
「ひとまず、なるようになるしか無い。それに折角今は戦いとか関係無しに話せる機会だから、まずは話し合おう」
レイからのアドバイスにななも小さく頷く。彼の話す通り、今回はザックリーがクラヤミンダーを呼び出した上での出会いでは無い。むしろ、戦いとは関係無い所での会話だ。今ならいつもなら出来ない会話ができるだろう。
「……最初にお前らと出会った頃に比べて、随分と仲良くなったんじゃねぇか?お前ら二人」
「え?」
ザックリーが水をある程度飲んだ所で一番に言い出したのはななとレイの会話の距離感の近さだった。レイは彼の都合上毎回戦いの場に来ているわけじゃ無い。むしろ、その頻度は少ない方だ。それでも、ザックリーがそう思えるくらいに二人の距離感が近くなっているという事である。
「お前には関係無い事だろ?」
「ケッ……確かにそれもそうだな。で、俺の事を勝手に助けて良かったのかよ……。ほら、他の仲間達の事もあるだろうし」
今回、ザックリーが助けられた際にその手を差し伸べたのは完全なるななやレイの独断。普通なら他の仲間にもこんな大事な事は相談して然るべきだろう。だからこそザックリーは二人へとその点が気になった。
「……誰にだって休息は必要です。偶には、自分を癒さないとダメですよ」
そう言ってななはザックリーへとハンカチを差し出す。ザックリーはそれを受け取りつつ彼女の言った癒しという言葉を呟いた。
「癒し」
その直後、脳裏に浮かんだのはキュアウインクがライブをしているあの動画であった。癒しと聞いて真っ先に浮かんだのがキュアウインクの動画だという事で余計に彼の頭は混乱する。
「癒し……」
「それに、夏なのにそんな厚着をしているのは体に良く無いと思いますよ」
「それは俺も見てて思った。お前らチョッキリ団は服装も一年間共通にするくらいブラックなのか?」
ザックリーはそれを聞いて慌てて立ち上がると二人へと反論を示す。その厚着発言に関しては二人の思ってる事が間違いだと感じたからだ。何しろ、今のザックリーが着ている服の枚数は……。
「はぁ!?俺のどこが厚着してるって?ほら、可愛いおへそが出てんだろ!」
そう言ってザックリーが服を持ち上げると今彼が着ている服はまさかのチョッキリ団として着ている一番上の服だけ。中に着ているはずのインナーシャツは全く着ていなかった。
「あのな?蒼風さんが言ってるのはそういう事じゃねーんだよ。半袖を着ろって事。半袖」
レイがそう言ってザックリーへとツッコミを入れる。幾らザックリーが着ている服が長袖一枚だけだからと言って、その長袖の服自体が夏用の物では無い。つまり、真夏の太陽が照りつける今の状況下では周りから見ると十分暑そうに見えてしまうのである。
「くっ……そんな事言ってもチョッキリ団の服に夏服とかはねーんだよ」
ザックリーの言葉にひとまず服装については置いておく事になった。ななはそれ以外にも言いたい事があるために話を続ける。
「……それとザックリーさん、そんなに強がらないでください。かなり辛いんですよね」
「え……」
ななからの強い視線を受けたザックリーは彼女が本当に善意で自分を助けてくれてると感じ取るとななの差し出したハンカチを手に取った。
「チッ……なんだ、その……ありがとよ」
「お、意外にもちゃんとお礼は言えるんだな」
「うるせぇよ……。俺だって、恩を感じる時だってあるさ。スラッシュー様に助けられた時とかもな」
「スラッシューが……」
ザックリーが前にスラッシューに助けられたという趣旨の話をしたのを聞いて二人は顔を見合わせる。助けられたのに強がってなかなかそれを受け入れなかったザックリーがこうもアッサリと認める辺り、これは本当なのだろうと二人は感じ取った。
「……ゆっくり休んでください、ザックリーさん。それから、もう人のキラキラを奪うのは止めて」
ななはザックリーの心配をすると共に人からキラキラを奪うのを止めてほしいと彼に伝える。ただ、人からキラキラを奪うのが仕事であるザックリーにそれは受け入れられない事であった。
「……キラキラはザックリ目障りだ」
「そんな事……」
「あるんだよ!キラキラを奪うのは、ザックリ俺の仕事なんだ!」
「仕事……ねぇ。ザックリー、本当にそれがお前にとってのやりたい事か?」
ここである程度傍観に徹していたレイがザックリーへと踏み込んだ質問を投げかける。それはザックリーにとっての本当にやりたい事であるのか……という物だった。
「はぁ?何言ってんだお前、それが……」
「……チョッキリーヌ?だっけ、お前の上司。そいつに無理矢理働かされてるからさっき倒れてたんじゃないのか?」
「ッ……それは」
「なぁ、ザックリー。多様性が重視される今の時代。一つの仕事に執着する人は昔と比べて激減してる。少なくとも、転職はしようと思ったら幾らでもできるんだ。そんな環境下で生きるためにやる仕事で……死にかけるくらいの苦痛を味わうなんて間違ってるだろ」
ザックリーはそれを聞いて苛立ちが溜まる。レイは自分の事なんて何も知らない。加えてチョッキリ団という暗闇でしか生きられず、転職したくともできない自分と人間として幾らでも自由に生きられるレイとでは条件が違いすぎる。そう考えたザックリーは思わず強く声を荒げた。
「ざけんな!お前、そんな事言うけど俺には……俺にはこの仕事をやる以外に居場所なんて無いんだよ!幾らでもやりたい事ができる可能性に溢れたお前に言われたって……説得力なんざねぇんだ!」
「ッ……」
「それと、改めて言っておいてやる。次に邪魔をすれば、必ずお前らを全員纏めて倒してやる!……じゃあな」
ザックリーがそうやって吐き捨てるとななに被せてもらった帽子をベンチに置く形で捨てるとそのまま歩き去って行く。
「ッ……」
「ザックリー、あいつ……見栄を張りすぎだろ」
「うん」
ななとレイはそんな彼の後ろ姿を見つめる中、ザックリーもザックリーで嫌な感覚を胸の辺りに感じていた。
「何なんだよ……アイツ。アイドルのくせに……男といるなんてよ」
ザックリーはななとレイが二人でいる様を見て余計に胸の辺りにざわめきが強まっていく。一応、アイドルプリキュアやズキューンキッスソウルにいる影人とこころもアイドルであり、恋人同士。ただ、ザックリーはプリキュアと対峙する際にその距離感を毎回見ているはずだ。今更恋人の距離感如きでこんなにも胸は痛くならないはず。
それでも、彼の心は揺れ動く。この様子からザックリーの心は大きな変化点を迎えようとしていたのだった。
一方その頃喫茶グリッターにて。田中のいない間の穴埋めの仕事をする影人達だったのだが……。
「カゲ先輩流石です!」
「まぁ、誰宛かを見てそれぞれの山に手紙を置くだけだからな」
手紙が入った段ボールは全部で三箱分。それらを六つのスペースに置き分ける作業なのだが、影人は慣れた手つきで手紙の宛先を見ては対応する山に置いていく。今の所、アイドル、ソウルが二強と言った感じの手紙量で後は人気順にズキューン、ウインク、キュンキュン、キッスと言った形だ。
キッスが何故人気が無いのかという理由だが、恐らくキッスことメロロンがファン人気獲得にあまり興味が無いというより活動にそこまで積極的では無いのでそれに従ってファンの数も少ないという事だろう。
アイドル、ウインク、キュンキュンの人気に関しては恐らく出た順での活動期間が比例し、ソウルとズキューンの間も同じように出た順での活動期間差が大きい。ただ、ズキューンは大人層に一定の人気があるのでウインクよりは上。ソウルは他の五人と違って一人だけ男なので余計に層の違うファンが多い……という事だろう。
「私達も負けてられません!」
「にいたまが頑張ってるメロ!メロロン達も頑張るのメロ!」
普段ならやる気を出さないメロロンだが、プリルンが一緒である事や影人も頑張っているために今回ばかりはやる気になってくれている。
「これはウインク宛てメロ!」
「プリ〜!」
プリルンとメロロンはプリルンとメロロンで交代しつつ手紙の宛先を読む役目とそれを山に置き分ける役目にしていた。二人は妖精なので空中を飛べる反面、体力面では影人やこころに劣るので二人で役目を交代にする事でそれをカバー。今はメロロンが読み上げ、プリルンが運び役である。
「こっちはキッスメロ」
「プリ〜」
「ねえたま、それはキュンキュンの山メロ!」
「プリ!?じゃあ、こっちプリ?」
「そっちはズキューンの山だよ!」
「プリィ!?」
そんなやり取りを聞いて影人は嫌な予感がしてきていた。プリルンの記憶力は恐らく悪い方である。何なら手紙の置き間違いが既に発生しているのだ。
そのため、プリルンが担当し始めた辺りから彼女の仕分けた物はもう幾つか間違っているのじゃないのかと感じてしまう。更に、自分の記憶が間違っている事を指摘されたプリルンはどれが正しい記憶か必死に思い出そうとするわけで……。
「プ、プ、プ、プ、プ……頭クラクラプリ……」
脳内の容量オーバーとなったプリルンは耳から湯気が飛び出すと同時に目を回してしまう。
「やっぱりこうなったか……これじゃあ田中さんの心配した通りだよ」
影人は完全に機能不全となったプリルンに呆れてしまう。ひとまず影人は一旦仕分けを中断して今出した物が正しい分けられ方か見る事に専念するべきだと提案するのだった。
そして、異変はグリッターの一階でも起きてしまう。……それは、二階でのプリルンや倒れた天城を心配したうたの話だ。
「(……プリルン達、それに天城さん。大丈夫かな……)」
うたは丁度コーヒーを淹れていたのだが、他を心配する辺り視線が明後日の方向を向いてしまっていた。そしてそうなれば当然淹れすぎが起きるわけで。
「ちょっとうた!」
「へ?……うぇえっ!?」
うたはコーヒーがカップから溢れ出るのを完全に見落としてしまっていた。そのため、コーヒーがカップから溢れ放題で下がベチャベチャになるという大惨事を引き起こす事になる。
こうして、田中の代わりに仕事を引き受けた影人達だが……その仕事の進みには早くも暗雲が立ち込める事になるのであった。
また次回もお楽しみに。