キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
影人達となな達の出来事がそれぞれ起きたタイミングから少し遡って。田中と姫野の二人は街中にある温泉に入っていた。ただ、やはり二人は男女であるためかバラバラの湯に入らざるを得ず……姫野は一人温泉の中で膨れた顔をしていた。
「むぅ……。もう、完全にやらかした……」
この時、彼女はいつもかけている眼鏡を外していた。田中と違って彼女の眼鏡は伊達である上に妖精態の時も常に眼鏡をかけているわけでは無い。だからこそ風呂の中では外す事になるのだ。
「……折角田中さんとお話しできるチャンスだったのに……」
姫野がそんな風に悔しさを浮かべているとそんな彼女の方へと近づく影がいた。
「あれ?その顔……もしかして姫野さんですか?」
「えっ……あなたは、理沙さん!?」
姫野へと声をかけてきたのはまさかの自分がマネージャーとして支えている夢乃や影人の母親、黒霧理沙であった。
「眼鏡をかけてなかったから最初人違いかと思いましたけど、こんな所で会えるなんて」
「い、いぇ……今日偶々お休みを取れる事になっただけで……理沙さんこそ今日は平日なのに」
「あはは、実は私達も夫婦揃って過ごすために有給を取ったんですよ」
「うぇ!?そうなんですか!?だとしたら尚更すみません……」
黒霧夫妻は丁度今日を休みとする事で温泉に浸かり、日頃の疲れを癒そうと来たようであった。そんな中、姫野は夢乃の母親である理沙相手に卑屈になってしまう。仕事で会う時はもっと毅然としているはずなのにここで卑屈になったのは仕事外である事が大きい。
「姫野さん、そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ。今日は私達仕事の外で会うんですから」
「はい……」
そのまま二人で雑談を始めていく。そんな中、田中の方も男湯で理沙の夫の黒霧魁斗と会ってこちらでも世間話に花を咲かせる事になるのだった。
田中の方はさておき、ここでは姫野と理沙の話を重視しよう。まずは理沙が先に話題を振った。
「姫野さん、今日は田中さんと?」
「ッ!?えっ、な、な、何でわかるんですか!?」
「ふふっ、動揺しすぎですよ。……田中さんや姫野さんがこんなに時間ができるって事は……何かありました?」
「え、えと……その。仕事を手伝ってもらえるって話になって」
姫野はどうにか理沙相手に誤魔化そうとした。自分達が休む原因を作ったのが影人達とバレた場合、息子達の夏休みの時間を奪ったとか自分達がやり切れなかった分の仕事を押し付けたとか思われそうで怖かったのである。
「そうなんですね。……これは影人達にご褒美あげないとかな」
「そうなんです、影人君達が……はっ!?」
「ふふっ、また釣れちゃいましたね」
「理沙さん、今のは……」
「大丈夫ですよ。影人達に無理矢理やらせるなんて二人がしない事ぐらいわかってますから」
理沙はそう言い切るくらいに二人を信用しており、ひとまず誤解が解けた所で姫野はまた一息吐く。
「姫野さん」
「はい!」
「何か悩み事がありました?」
「え、えっとその……」
「私で良かったらお話しを聞くくらいならできますよ」
そう言われて姫野は理沙に田中と共に温泉に来た経緯を伝えると同時に自分がやってしまったやらかしも話した。
「そうなんですね」
「……うぅ、折角の田中さんに何年も無かったお休み。私の事を魅せるチャンスなのに」
姫野は完全に落ち込んでしまっていた。ずっと諦めていた田中への気持ち。それを封印して蓋をして純粋に仕事にだけ打ち込んできた彼女はここに来て奇跡にも近いチャンスを貰えたのだ。それなのにこんな風に自分でチャンスを棒に振ってしまった事を酷く後悔しているのである。
「……私って本当に仕事以外だと失敗ばかりと言いますか……。昔からずっとそうなんですよね」
姫野は続けて田中の事を好きになった経緯を理沙へと話す。それは自分がキラキランドにいた頃にまで遡る。尚、キラキランドの部分は物理的に凄く遠い街として理沙に話す。
「私は幼い頃から何をするのも不器用で失敗ばかりでした。周りの友達達はそれでも私を受け入れてくれたんですけど……それでも自分は情けなく感じるばかりで」
それでもキラキランドにいる間はそんな状態でも特に不便は無かったために多少は目を瞑っていた所があった。
「……でも、私は成長して大人になった。それからこの街に来て、仕事に就いたある日の事です」
姫野は大人になって人間態に変身できるようにまで成長した。キラキランドにおいて、人間への変身が可能な妖精は限られる。少なくとも、精神的に幼い妖精達ではできない。基準は姫野でもわかってないが、田中に前に聞いた所大人の嗜みを覚えた者だけらしい。
だから精神的に幼いままだと一生かかってもキラキランドの環境下では人間化できない妖精もいる可能性がある。そんな中、姫野は人間化が可能になった。……その条件を満たしたのである。
「私は当時……その仕事もダメダメで」
姫野はこの街でサウンドプロダクションに就職した際に持ち前のポンコツを仕事でも発揮。何度も上司に注意を受ける事になってしまった。姫野はこうなって自分の無能さを改めて思い知るのと同時に自分なんかが人間化できたのは間違いだと感じてしまう。そんな時、事務所に来ていた田中と偶々出会った。
「田中さんは私が苦戦しているのを見てアドバイスをくれました……それはどれも的確で。私が今まで苦戦していたのが嘘みたいに仕事が上達したんです」
姫野は田中に救われた。彼女はその日以降、仕事で忙しい中で休み等の隙を見つけては田中へと関わろうとしたのだ。……しかし、田中は仕事熱心で姫野の事をあまり相手にできるような状態じゃ無かった。
「馬鹿ですよね……。私はあんなに仕事に埋もれて忙しくしてる人の邪魔をして。その時点で私は田中さんに恋していたと思います。仕事ができる田中さんに憧れて」
自嘲するように話す姫野に理沙は何一つ横槍を入れる事なく黙って聞く。結局、姫野は最後に田中の邪魔をするくらいなら自分が我慢すれば良いとずっとこの気持ちを封印してきたと言って話を終えた。
「以上です……その、すみません。こんな話」
「……姫野さんはどうしたいんですか?」
姫野が理沙に謝った所で彼女は姫野へと問いかけた。その言葉に姫野は思わず理沙の方を向く。
「どうって……でも……私には」
「姫野さんの気持ちがです。田中さんの邪魔になるとか、それを抜きにして……姫野さんは田中さんとどうしたいのかって聞いてます」
姫野は少し迷ってから理沙の方をしっかりと向き合った上で自分の気持ちを素直に話した。
「……田中さんとお付き合いしたいです」
「その気持ちが言えるだけで十分ですよ……。姫野さん、田中さんが忙しい事を理由に好きな気持ちから逃げてるだけだと思ったので」
「え……」
「……一人のある女子高生の話をしますね?」
理沙はそれを前置きにしつつ話を始める。その女子高生には同じクラス内に好きな人が存在した。でも、その好きな相手は自分の将来の夢を叶えるために勉強に命を懸けるくらい真剣に打ち込んだ。
「その子は好きな人の邪魔をしたくなくて……自分の気持ちを封印して我慢しました……でも、彼が好きだったのはその子だけじゃ無かったみたいで」
「え……」
ある日、その女子高生は友達に相談を受けた。友達は自分が好きな子に告白したいと言い出したのだ。女子高生の気持ちは正直複雑だったが、自分は好きな事を周りに公言して無かった以上黙っているしか無かった。
「……そのまま二人は付き合ってしまったんです」
「そんな」
女子高生は深くショックを受け、表面上こそ祝福したものの暫く立ち直る事ができなかったそうだ。
「……数年後、その女子高生は大人になって。高校時代に好きだった人と偶然再会しました。その時、彼は当時付き合ってた子と別れていました。どうやら彼とは合わなかったみたいで……とにかく、彼はフリーになってました」
その女性はそれを知って以降、迷わずアタックを続けた。自分が我慢したがために好きな人を目の前で逃したと、後悔していたから。例え彼に嫌われたとしても……その言葉を直接言われるまでは諦めないと言わんばかりに。
「おかげで最初ちょっと嫌われちゃったらしいんですけど……最終的に二人は付き合って結婚までしました。今は二人の子供にも恵まれて、幸せに過ごしてるらしいですよ」
「ッ……」
姫野はその言葉に息を飲む。その話を終えた時、理沙は少し気恥ずかしそうに顔を赤くしていた。要するに、その女子高生というのが……という事だろう。
「私から言いたい事は一つだけ……田中さんが忙しいのを言い訳にして……一番のチャンスを逃したらダメって事です」
「それが、田中さんにとって迷惑だとしても?」
「……それは、迷惑にならないように考えるんですよ。……例えば、田中さんの仕事をできる範囲でそっとサポートしてあげるとか」
「え……」
「それこそ、影人達がそれを示してくれてるんじゃないんですか?」
「あっ……」
姫野は理沙からの言葉にハッとする。自分は田中ほど忙しいわけじゃない。休みの日は一週間の中にちゃんと存在する。本当に田中と付き合いたいと願うのだったら、少しでも田中と一緒にいられる方法を探すべきだと……理沙は姫野へとアドバイスをした。
「そう……ですね。理沙さん、ありがとうございます。私、今まで幾らでもチャンスはあったのに……それを逃してたんですね」
「ふふっ、姫野さんが元気になってくれて良かったです」
「……それとその、理沙さん」
「はい?」
「また、ご相談しても大丈夫ですか?」
姫野は恥ずかしそうにしつつも理沙へと頼み込んだ。姫野にとって理沙は成功談経験のある一番話しやすく歳も近い女性だった。だからこそ彼女へとお願いしたのである。
「勿論ですよ!」
こうして、二人の間に新たな繋がりができる事になるのだった。その頃、男湯にて世間話をしていた田中と魁斗の方では……。
「ふーむ」
「田中さん、どうしました?」
二人は温泉から上がってきていた。どうやら、姫野と理沙の会話が思ったよりも長く。その間に二人は温泉へと割としっかりめに入れてしまったのだ。
「いえ、実は私の普段やっている仕事をうたさん達に任せてしまっていて。どうしても気になって仕方ないんですよ」
「なるほど、それで会話の中でもちょくちょく集中できてなかったんですね」
「すみません、折角話しかけて貰ったのに」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
田中は魁斗との世間話をしている中でも仕事を任せたうた達の方が心配でどうしても温泉に集中できていなかったのだ。
「(本当に、待ち望んでいたはずの休みなのに……どうにも心が落ち着きませんね)」
それから田中と魁斗の男性組は脱衣所で服を着ると休憩所で牛乳を飲み干していた。
「彼女達は上手くやれているのでしょうか……」
「何だか保護者みたいですね」
「保護者……確かにそうかもしれません」
それから二人は温泉の休憩所にあったマッサージチェアに隣同士で座ると肩をマッサージしてもらっていた。
「ふぅ……疲れた体にはこれが効きますね」
「確かに、気持ち良いです」
田中は魁斗へと返事をするものの、やっぱりうた達が心配な様子で。そのため、魁斗が田中へと改めて聞いた。
「……やっぱりどうしても気になりますか?」
「ええ、……これ以上ここでただ考えても仕方ありませんし、一度聞いてみましょうか」
田中は魁斗に断りを入れてからうたへと電話をかけてみる。それから割とすぐにうたは電話に出てくれた。
『もしもし、田中さん?』
「そちらの様子が気になりまして、何か問題は起こっていませんか?」
『うえっ、あ、大丈夫です!問題ナッシング!全部バッチリ順調ですから!田中さんはゆっくりしてきてください!』
……嘘である。うたは今現在、先程零してしまったコーヒーを慌てて拭いている最中。影人達の方は脳がパンクして目を回してしまったプリルンの介抱をメロロンやこころに任せて影人が取り敢えず今出ている分の仕分けのやり直しをしていた。
調べ直した所、やはりプリルンがやってた分の幾つかは彼女が間違えて置いていたためである。そしてそのプリルンは未だに目を回したまま。そんな彼女にメロロンが心配そうに声をかけ、横からこころが団扇を使って風を送り込んでどうにかしていた。
このようにうた達の方は割と散々な状態なわけで。勿論これを田中に見せるわけにはいかないため、全力でうたは隠そうとしている。
「そうですか、では……」
『それじゃあ』
その言葉を最後に通話が途切れると魁斗が田中へと話しかけた。彼も電話の結果が気になったのである。
「どうでした?」
「えぇ……彼女達は大丈夫と言ってました」
「そうなんですね。……影人達ももう中学生ですし、少しずつやれる事も増えてます。……ただ」
「ただ?」
「多分まだ田中さんと同じようにやるのは……難しいと思いますよ」
それを聞いて田中も何となくそんな気がしたのか頷いた。そして、同時に彼も今の返答は半ば強がりであるとも取れるものだと感じる。
「確かにそうですね……。ただ彼女達にできる事が増えるのは喜ばしい事」
「……田中さん、もしかして影人達に自分の仕事が取られるのが、嫌だったりするんですか?」
「え……」
魁斗から言われた質問に田中は硬直。それから少し考えると自分の仕事が全て無くなった時の事を考える。
「あはは……確かにそうかもしれませんね」
「だったら、尚更……」
「えぇ、こうしてはいられません!」
そんなタイミングで姫野と理沙が風呂から上がってくる。二人共しっかりと髪を乾かしており、田中は姫野の手を取った。
「姫野さん!」
「ふえっ!?あ、はい!」
「……折角の休日なのにすみません。私、どうしてもやりたい事ができてしまいました」
田中がそう言うと姫野は彼の顔が仕事モードになっている事に気がつく。そして、そうなれば姫野も言うことは一つだ。
「でしたら、私にもやれる事はあるはずです。皆さんを支える仕事……二人でやっても良いですか?」
「姫野さん……では、我々にしかできない事……やってしまいましょう!」
それから二人は揃って歩き出すと温泉の外に出ると同時に二人共仕事のスーツ姿になっていた。
「こうしちゃいられないタナ〜!」
「皆さんのための仕事、頑張るヒメ〜!」
そして、二人は妖精化すると同時に空へと飛び立つと急いで移動を開始する。そんな二人を温泉の建物の中にいる黒霧夫妻が見送ると二人共上手くいったという事で微笑み合う。
「それじゃあ理沙」
「ええ、私達も夫婦での休日をエンジョイしましょうかしら」
黒霧夫妻はその後、夫婦での時間を楽しむ事になる。ちなみに自分達の馴れ初めの話を姫野にしたと理沙が魁斗に話すと、その事実を彼も少し気恥ずかしそうになったのだがそれは完全な余談だ。
また次回もお楽しみに。