キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜   作:BURNING

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呼び出された影人 彼への提案

影人達が田中と姫野を休ませるために仕事を肩代わりした夏休みの初日。その日の日暮れ頃に知らされた事実を聞いた影人は思わず叫んでしまった。それから一夜が明けた朝方。影人は早々にある場所に行く事になる。

 

「……何でこんな事になってんだよ」

 

今現在、影人は今すぐにでも頭を抱えたい事態に陥っていた。何しろ、今自分がいるのはレイの父親が社長を勤めているサウンドプロダクションの会社の中にある応接室のような部屋である。

 

「……本当にすまん」

 

「何でお前が謝るんだよ」

 

そこにはここに呼び出された影人と彼をここに呼び出したレイ。更に影人はその膝の上にメロロンを乗せていた。何故影人がメロロンを連れているのか。それは彼女本人がそうしてほしいと言ったからである。

 

「にいたまはどうして呼び出される事になったのメロ?」

 

「メロロンには言ってないからな。説明すると、あの馬鹿親父の出した交換条件のせいで連れて行かざるを得なくなった」

 

「交換条件?」

 

交換条件とは何の事なのか。それは一日前、影人達は田中と姫野の二人きりの状況を作るために本来仕事であるはずの姫野をレイの父親である音崎ハジメに頼んで休みにしてもらった。

 

ただ、勿論タダ彼女をいきなり休みにしただけだと当然会社は損失を被るのみだ。だからこそハジメはここぞとばかりにレイへとつけ込んできた。

 

「姫野さんを急に一日休みにした代わりに、影人をここに呼び出したんだよ。俺の親父は……」

 

「そんな急に呼び出してその人は何をしたいのメロ?」

 

「……正直嫌な予感しかしない。あの人は……目的のためなら非情にだってなれる人だからな」

 

レイは自分の父親を警戒しまくっていた。何しろ、彼はかつて自分の見た夢を強引に捨てさせられたのだ。それ以降、親子の間には大きな溝ができてしまっている。

 

「影人、本当にすまん……。交換条件だから姫野さんが休みを選択した時点で……」

 

「それは良いよ。俺もあの時は色々抜けてたし。ただ、姫野さんの方には黙ってないとな」

 

こんな事姫野本人が知ったら酷く後悔するだろう。彼女はそういう時の責任を感じる側の人間だからである。

 

「それはそうと、レイ。今日の話の内容とかは聞いてるのか?」

 

「それがわからないんだよ。俺も何もその手の話を聞いてないんだ」

 

「マジか……」

 

そんな風に二人で今日の事について話していると部屋の扉がノックされて開いた。その音に二人は話を止めると座っていた椅子から立ち上がる。それと同時にレイはさっさと部屋の端に移動した。彼はこの会話に基本的に口出しするのはダメだからである。

 

そして、扉を開けてやってきたのはレイと同じ茶髪で彼の面影を感じつつ、見るだけで威厳を感じるような威圧する赤い瞳の目つき。

 

「こうして直接会うのは初めましてだね。黒霧影人君。改めてだけど、サウンドプロダクションの社長でそこにいるレイの父親……音崎ハジメだ」

 

ハジメは影人相手に入ってくる時に見せていた威圧する目線では無く、その目線からは考えられない程の柔らかい視線と言葉付きで影人と接した。

 

「こちらこそ初めまして、黒霧影人です。……妹の夢乃がお世話になってます」

 

「レイから聞いた通り、大事な相手には相当慎重になる子だね。……だが今回はそういう堅苦しいのは必要無い」

 

ハジメの話し方はレイの言う程恐れるような物では無い。むしろその逆、周りから見たら影人相手に警戒心を解かせるような柔らかい話し方を見せている。

 

「(この人……ヤバい。レイがどれだけハジメさんを恐れるか……この一瞬でわかってしまった)」

 

ただ、言葉の奥で影人はまるで威圧されている。そんな風に感じてしまう。彼の言葉には重みがあるのだ。この柔らかい話し方も全て計算された上での物であると影人は察する。

 

「ふふっ、……君も相当賢いみたいだね。わかるんだろう?私が君を丸め込ませるためにこういう話し方をしていると」

 

「……ええ」

 

「これも私がここまでこの会社を牽引する上で身につけた物だ」

 

影人はこの少しの会話だけで察してしまう。論戦とかになった際に彼相手に勝ち切るビジョンが見えないと。それどころか、多少不利な状態からでも無理矢理ねじ伏せられる。そんな気さえしてしまった。この辺りは彼との経験の差が大きいだろう。

 

何しろハジメは無名の弱小事務所から始めたサウンドプロダクションをたった一代でそれなりに有名な事務所に押し上げた敏腕経営者。彼の経営者としての厚みに影人が勝てないのは当然である。

 

「さて、私はこの場で変に雑談を長々とするつもりは無い。君の時間だって取ってる訳だしね。早速本題に入ろう」

 

ハジメがそう言う中、彼は影人が話しやすいように笑顔を作る。影人はそんな彼に警戒しつつも話を聞く事にした。

 

「単刀直入に言う。影人君、ウチに来る気は無いかな?」

 

「……それは、サウンドプロダクションの職員やマネージャーとかとして来てほしい。……そういう事ですか?」

 

影人はそう聞き返す。ただ、彼は以前レイのスマホを借りて通話した際にしっかりハッキリと断りを入れたはずだった。だからこそ何故もう一度同じ質問をして来たのか気になってしまう。

 

「ああ、違う違う。まぁ、確かに裏方として来てもらうのも大歓迎ではある。ただ君は前にその話を一度断っているし、そこまで私もしつこく同じ事を提案したりはしないよ」

 

ハジメはそう言って影人の言葉を否定する。彼はしっかりと前の事を覚えていた。そして、今回の呼び出しの目的がそれでは無いのだとすれば、影人が考えられるハジメの思い描く意図は一つしかない。

 

「……まさか」

 

「そうだよ。……もう一度、あの世界を目指すつもりは無いのかと聞いているんだ」

 

影人はその言葉に困惑する。レイに話している事を全部知ってるのならハジメは知っているはずだ。自分がその選択肢をとっくに捨ててしまっていると。また、自分にその気が無いという事も。

 

「ちょっと待ってくださいよ!影人は……影人は芸能界にトラウマを持っていて、それがまだ完治してない事は」

 

レイもこれ以上は父親が変な事を影人に吹き込んで彼の心をへし折られるのは看過できないので慌てて話に割って入る。

 

「レイ、君は黙っていてくれないかな?……決定権があるのは影人君本人だけだ。それに、私はまだ話を提案をしただけ。詳しい話は何もしていない」

 

ハジメはレイへと威圧的な視線を送るとレイは身震いと同時に無理矢理押さえつけられたかのように押し黙ってしまう。それであって影人が更に警戒を強くしないギリギリ手前。あくまで場の雰囲気を悪くしない程度でレイが変な事をしないように止めさせた。

 

「詳しい話というのは何ですか?……正直、俺はあの世界は……」

 

影人はかつてのトラウマに触れられたせいか僅かに怯えたような声色を見せる。自分の心をもう一度折られるのが怖いのだ。そうなってしまえば、きっと立ち直るのは今度こそ無理だと思ってさえいる。

 

「……君に一つ話をしよう」

 

「え?」

 

「レイから聞いて私もちゃんと知っている。君があの世界に恐怖を抱き、自分の輝きや自信を丸々無くしてしまったと。その上で私は今の君を見てこう思っている。……勿体無いと」

 

「勿体無い……?」

 

影人は疑問符を浮かべた。何故自分が芸能界を目指さない事が勿体無いに繋がるのか。自分でもよくわからないのだ。

 

「君は昔、役者になるために芸能界へと入るべく必死に努力した。ただ、その努力は報われないどころか多くの人間に否定される。私もその話を聞いてから当時の事について少し調べてみたよ。君が入った事務所は本当に能力が無かったということもね。あの事務所、程なくして倒産したらしい」

 

その言葉に影人は複雑そうな心境になる。結果論ではあるが、あの事務所に居続けても先は無かったという事だ。

 

「でも、俺は仮にその事務所に受からなかったとしても……何年も芽が出なくていずれ心は折れてましたよ」

 

影人はハジメの言葉は買い被りすぎであると否定の意見を述べる。そんな彼を見てハジメは小さく笑った。

 

「ふふっ。……確かにそうかもしれないね。でも、私は逆に幼い頃の経験が君の器を大きくした。そう見ている」

 

「器を……大きくした?」

 

「ああ。幼い頃の君はまだ大成する器じゃ無かったという事だ」

 

ハジメは影人相手に傷つくような言葉を平気で吐き続けていた。それにレイは苛立ちを露わにする。ただ、先程黙るように言われた手前何も言えなかった。そして、それは影人が膝の上に乗せていたメロロンも同じである。

 

「俺が挫折した事と……器が大きくなった事に何か関係があるんですか?」

 

影人はハジメの話を聞くために更に踏み込む。その声色は不安に包まれていた。影人はこの時点で既に過去の事を大きく掘り返されて心へのダメージが高まっている。だからこそ引き下がれなくなっていた。このまま話を突っぱねたら自分にとって損しか無いからだ。

 

「君が売れなかった理由は主に二つ。周りの環境と……自分の能力への理解だ。一つ目は周りの環境。……ご両親の方はまだ恵まれている方だった。ただ、君はレッスンに通っていた際に輝く機会に恵まれなかったんだ」

 

影人の周りには同年代の他の子達もレッスンに通っていた。しかし、教室内では一際輝く存在が既にいたのだ。

 

「白石の事ですか。……そう言えばあの子も話を聞かなくなりましたけど」

 

「あの子も残念ながらもう芸能界にはいないよ。……あそこはそういう場所だ」

 

「ですよね……じゃあ、アイツよりも結果を出せてない俺が残れるはずが無い。当然の結果ですよ……」

 

「……いいや、彼とは違うよ。……君は気づいてない。君の本当の才能に」

 

それを聞いて影人は固まる。それはつまり、自分には元々売れる才能自体はあったという事だ。

 

「君の場合はそれを引き出すやり方と方向性を間違えただけだ。これが二つ目の自分の能力への理解の不足。そして、私ならそれを多少強引にでも解放させる事はできる」

 

「……嬉しい評価ですけど、買い被りが過ぎますよ。俺なんかに光る事なんて……」

 

影人はハジメにベタ褒めされたのは良いが、かなり複雑な気持ちになっていた。自分には力がある。でも、今の自分はその自覚ができない。仮にあったとしても通用しないと思ってさえいた。

 

「君は……そうやっていつまで自分の力から目を逸らそうとするのかな?」

 

「え……」

 

「本当に勿体無いよ。今の君は」

 

ハジメはこのタイミングで影人を突き放すような言葉を言った。その言葉は先程までの影人を立てるような温かい物から急に冷え切ったような物に切り替わっており、更にハジメは話を続ける。

 

「私は本当に君を評価している。……そもそも普通あり得ないからね?その歳で平凡だった君の妹。……夢乃君を一人の魅力ある力に溢れた立派な配信者に育てた事は」

 

「ッ、あれは……夢乃のやりたい事をやらせた結果で……」

 

「違うね。……少なくとも、彼女が君に依存するくらいは君の力が関与している。それに、君の友達関係の事もそうだ。少なくとも、レイの話を聞く限りだと……私がこれから勧めるジャンルにおいては既に一線級を狙う事が可能だと思ってる」

 

「それは……過言ですよね?」

 

「過言じゃ無いよ。それとも、私の見立てが間違ってると?」

 

ハジメから刺すような目線を向けられた影人。影人はこれでもどうにか気持ちを平静に保っていた。少しでもこの状態を崩せば一気に彼の威圧に負けてしまいそうなのだ。

 

「ッ……」

 

「ふぅ。……勿論、これは強制では無い。ただ、少なくとも影人君。君の夢は……もう普通の小さな目標程度では満たされないんじゃないのかな?」

 

レイはそれを聞いて影人の方を向く。それはレイにも見抜けなかった影人の気持ちの話だった。

 

「……正直、それはそうかもしれません。周りの事を他人に預けても大丈夫になって、色々やりたい事を考えたんですけど……。何も浮かばなくて」

 

「その言葉を聞けただけで十分だよ。……それじゃあ、今日は……」

 

「待ってください。……流石にそれはズルいですよ……」

 

ハジメは影人相手にある程度の手応えを掴めたと考えたタイミングで行こうとする。そんな時、影人は自分からハジメを呼び止めていた。

 

「ここまで俺をその気にさせておいて、何をさせるつもりか言ってくれないなんて……気になるじゃないですか」

 

影人がそう言った瞬間、ハジメは微笑む。そして、それと同時にレイは戦慄を覚えた。この状況にまで彼の思考を誘導させた自分の父親の計算高さに。

 

「そうか。私から君に勧めようと思っていたものはここに書いてある」

 

そう言ってハジメが出したのは一枚の紙である。そこにあったのはサウンドプロダクションが所属する見習い声優のアフレコ見学会であった。

 

「声優……見学会?」

 

「そうだよ。明日君にはこの見学会に参加してもらいたいんだ。あ、それと声優についてはアニメを知ってる君なら知ってると思うが……改めて説明はいるかな?」

 

「いえ、俺も概要自体は何となくわかります」

 

「そうか。……この事務所では声優部門もやっていてね。養成所から昇格する形のプロの声優も育てている。中には演技未経験の初心者もいるが、実績なら安心したまえ。少なくとも、一線級に出る人材はここまでで何人も育っているし、その中には最初初心者だった人もいる」

 

影人はハジメからの説明を受けつつ紙にある文面をジッと見ていた。その様子にメロロンは影人がここまでのめり込む物が気になったのか、彼の顔を気にするような視線で見つめる。

 

「この見学会、明日って言いましたよね?」

 

「ああ」

 

「……参加します」

 

「それは良かった。じゃあ、決まった所で本格的な内容説明をしようか」

 

こうして影人はハジメからの説明を受けると同時に見学会への参加が決定した。

 

「朝は9時にまたウチに来てもらったらそのまま役員に案内させる。終わるのは多分夕方頃になるかな」

 

「あれ、でもアフレコ自体は昼からってありますけど」

 

「一応君はまだ声優に関しては割と素人に近い状態だ。軽くその説明を入れて色々と理解した状態で見学をしてもらいたいからね」

 

「なるほど」

 

こうして、影人の返事を確認したという事でハジメは仕事へと戻っていく。影人の顔つきは少し不安があったものの、声優という職業への興味があった様子で。少なくとも先程までのトラウマによる恐怖心は和らぐのだった。




また次回もお楽しみに。
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