キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
影人が声優の仕事の見学会に行くためにレイの父親、音崎ハジメが経営する事務所であるサウンドプロダクトに到着。早速受け付けを通ると出迎えてくれたレイと共に事務所にある会議室へと移動した。
「レイ、すまないな。お前も折角の夏休みなのに」
「このくらい気にすんなって。むしろ俺はお前の方が心配だよ。……その、うちの親父のせいで変に乗せられてるだけなんじゃないのかなと……」
レイは完全に自分の父親の事を信じてない様子だった。影人をこうやってやる気にさせたのは良いが、それも自分の目的のために影人を利用しているように見えてならない。それに影人だってノリと勢いだけで乗せられただけだ。下手したらまた現実を見て心を折ってしまうのではないのかと不安になるのも無理は無い。
「俺も昨日は乗せられたって思ったよ。……でも、俺はこうしてここにいる。多分、心のどこかでまた戻りたいって思ってたのかもしれない」
「過去のトラウマが呼び起こされるとしても?」
「……それで本番で足がすくむなら……その程度の気持ちだったって事だろ」
影人がそう言ったものの、声には僅かな怯えも感じられた。レイは影人の覚悟はまだ不完全なのではないのか。そう思えてならなかったものの、彼はやると言っている以上はそれを尊重しないといけなかった。
「……ねえたま、にいたまは本当に大丈夫なのメロ?」
「大丈夫プリ。影人ならきっと頑張れるプリ」
影人が荷物として持ってきた鞄の所にうたから借りたポシェットを付け、その中にいるプリルンとメロロンもそうコソコソと話をしている。主にメロロンが影人を心配している話だが。
「わかった。でも無理だと思ったらちゃんと言えよ……あの馬鹿親父。少しでも隙を見せたらそこから一気に付け込むの得意だし……」
レイは影人が見学会に行く事を尊重するのと同時にハジメからの言葉に警戒するように注告した。
「ああ」
「……失礼します」
すると会議室に姫野が手に資料を抱えた状態で入ってくる。それは影人にこれから必要となる声優についての説明のための資料であった。
「姫野さん、おはようございます」
「おはよございます、影人さん。社長からの指示につき声優についての説明のための資料を持ってきました」
それから影人の前に説明のための資料が並べられる。その資料を影人が受け取る中、彼は疑問符を浮かべた。
「……あれ?そう言えば、説明の講師の方は姫野さんじゃないんですか?」
「……あの、最初はそのつもりだったらしいんですけど……今日の見学会の際に指導してもらえる講師の方が影人さんへの説明も引き受けてくれたみたいで」
つまり、本来なら午後からの参加のみだった見学会の方の講師がわざわざ午前も来てくれたという事になる。
「俺一人のために何でそんな……」
「私も詳しい事情はわかりません。……ただ、本人は今日は時間があるからという理由でオッケーしてくれたとしか」
姫野も自分が説明係だと思っていたために少し困惑した様子だった。そのため、今日の姫野の役目はその講師のサポート役に回る事になる。
「わかりました。それで、講師の方は……」
「もう来ます」
その直後、姫野の入ってきた入り口から一人の女性が入って来た。服装は正装……というわけでは無く、普段彼女がアフレコやらの際に来てくるそれなりにしっかりした物だった。そして、影人がその顔を見た時目を見開く。何故彼女がこんな所にいるのか……と。
「初めまして、今日の見学会の講師を務めます。茅原愛衣です」
「は……え?」
「……正直、俺も何で今日偶々スケジュール空いたのか気になるくらいの方が講師になったと思ったよ」
彼女は茅原愛衣。デビューしたのは今から約15年前。デビュー当初は中々活躍の場に恵まれず、エステティシャンとして働きながら声優をしていた。そんな中でデビューから一年が経過。そのくらい経ってから出演した作品での名演技が認められ、声優グランプリと呼ばれるその年で一番活躍した声優を表彰する式典で新人賞を獲得。
それ以降も数多くの作品で活躍をし、物静かな高校生からドMで変態なクルセイダーという狂気的な役という幅広い演技の幅を持つ。加えて、数年前には20年近く続く有名アニメシリーズの中でも数少ない敵役から光堕ちした魔法少女のような戦士を演じた。
大のお酒好きで動画投稿サイトに専用チャンネルを設けて日本各地のお酒を飲む動画を仕事の一環として投稿する一面もある。その動画も数々の有名人とコラボしたりしているのでそれなりの知名度もあった。
特に特筆すべきなのが、彼女自身大らかな性格であるために人前で怒った事が殆ど無いくらいにおっとりとして優しい。共演者達からもその点で言及がある程にその性格が定着している。
「あの……本当にあの茅原さんですか?」
「そうだよ。今日はよろしくね」
「は、はい……」
影人もアニメとかはちゃんと人並みには嗜むし、有名声優の事もある程度はわかる。ただ、まさかこの場にガチのベテランが来るとは思っておらず。来てもデビューして五年とかで新人からちょっと抜けたくらいの人だと思っていたので余計に混乱したのだ。
「あ、あの。自己紹介が遅れてすみません。今日はお世話になります。黒霧影人です。……よろしくお願いします」
「ふふっ。凄い緊張してるね」
影人はかなり緊張した様子だった。何しろ今日は講師が誰かと教えられておらず。そこまで気を張っていなかったのだ。そこに来た大物の有名人となれば彼だって緊張してしまう。
「その、すみません……」
「大丈夫だよ。少しずつリラックスしてくれたら良いから。……それじゃあ時間も惜しいし、声優についての話を始めるね」
それから影人は茅原からの説明で声優についての話を受ける事になる。そんな中、レイはそんな影人を見守りつつ内心で色々と考えていた。
「(本当にうちの父さんは。大物が来るってわかってたら影人ももうちょっと準備しただろうに……。わざわざ黙ってろと俺に言うとか。……でも、最初は俺も信じてなかった。本当に茅原さんが来てくれるなんてな)」
彼女は今期のアニメにもメイン級の役柄を貰っており、その他にもメイン級じゃ無いにしてもそれなりの役を幾つか務めている。つまり、多忙なはずなのだ。なのに何故かここに来ている。……それには彼女の経歴に事情があった。
「(……茅原さん、うちの事務所の養成所出身でそのまま正式所属してるんだよなぁ)」
そう、普通は他の事務所に所属している声優を講師として呼ぶ事は声優の専門学校以外では中々できない。何しろ他の事務所は業界の中では競合相手でしか無いのだから。わざわざライバルを強くするために所属声優を講師としてなんて貸し出す事はあり得ないのだ。
しかし、茅原はデビュー当時からずっとサウンドプロダクションに所属して正式所属の状態を続けている。そのため、一応こういう時に講師として起用するのは可能ではあるのだ。ただ、彼女自身は先程から言及がある通り多忙なので今日こうして来れたのは本当に偶々である。
「(……ただ、これある意味人選ミスだろ。影人、大物声優さんの前で失礼な事とか失敗とかできないって思ってるのか萎縮している所あるし……)」
レイがそう考えつつ指導の様子を見ていると影人から預かっていたプリルンとメロロンが彼の肩の辺りに乗っかる形でヒソヒソと話す。
「あの人、そんなに凄い人なのメロ?」
「プリ!プリルン、あの人が話している所を見るとすっごく安心するプリ」
特にプリルンの方は茅原の声色に安心感を覚えている様子だった。するとプリルンはむずむずし始める。
「プリ……レイ、プリルン。あの人と歌いたいプリ」
「……プリルン?」
「レイ、あの人と会わせてほしいプリ〜」
「ダメだって。そもそもお前は動いている所を見られたらアウトなんだよ。大人しくてる約束なんだからさ」
「レイ、メロロンからもねえたまのお願いを叶えてほしいメロ〜」
そんな風に両側からプリメロコンビにせがまれるレイ。ただ、やっぱりどうしてもダメな物はダメなのだ。どれだけプリルンが一緒に歌いたいと言っても約束は約束である。
「今度、今度な。今日は大人しくする約束なんだから我慢してくれ」
レイはどうにか宥めつつ二人をそうやって落ち着かせる事になるのだった。そして、同時並行で進んでいた茅原からの声優についての指導もある程度進んでくる。
「……やっぱりここ最近、声優さんにも求められる仕事の範囲が広くなってますよね」
「そうね……。昔と比べると歌やダンス、あと露出とかも結構増えてるから演技だけができればそれで十分……ってわけにも行かなくなってる。それに、需要に対して圧倒的な供給過多な状態だから……夢はあるけど望んでいる仕事ができなくて生活が立ち行かなくなるのも当たり前」
茅原はデビューから一年の下積みがあったのだが、実際問題彼女の場合はこれでも有名になるまで割と早い方だ。もっと早い人は養成所時代からその能力を認められてアニメ出演……とかもあるものの、それが出来るのは圧倒的少数派で実際は有名声優達の殆どは何年もの下積みを経てようやくアニメ出演が叶うという人ばかり。
「そうやって考えると運も必要そうですよね」
「うん、仮に能力があったとしても活躍機会に恵まれないとずっと前には出られない。例えば、自分が出たいと思ったアニメのオーディションを受けても役に選ばれるのはたった一人。しかもメイン級の役となると……」
アニメにもよるので一概には言えないが、人気な漫画のアニメ化とかで注目があると当然オーディションを受ける人は増える。そんな中でたったひと枠しか無い席を確保しないといけない。
「ドラマ俳優とかとそこは何も変わらないんですね」
「えぇ。確かに現実的に見ると大半の人間は夢を叶える前に生活が出来なくなって途中で断念するとか、仮に生活自体はできるようになっても……アニメ出演を諦めてナレーターとか別の仕事に終始する人もいるわ」
茅原は声優業界の華々しい正の側面だけでなく、声優業界に行く事によるリスクや現実的な話……負の側面もしっかりと話してくれた。普通こういう勧誘とかではあまり悪い方の話はしないものだ。何しろ手っ取り早く声優に夢を持って養成所に入ってくれるのならそれだけで事務所にとっては運営資金を落としてくれる事になるのだから。
「才能や能力。そして運……。わかってはいましたけど現実は厳しいですね」
「確かにその壁が高いのは否定しないよ。……でも、裏を返せばその狭い狭い門を潜れるだけの条件が揃えば……そこには声優を志す人達にとっての楽園が待ってるというのも紛れもない事実よ」
オーディションでたったひと枠だけの役の席を確保し、尚且つそのアニメが世間で売れて有名になる。それだけでその役を取れた人間は世間から評価される事になるわけで。何しろ、その役をやれるという実力の高さを目に見える形で世間に示す事になるからだ。
茅原もブレイクした作品があったからこそ次の機会、またその次の機会に恵まれて。それが何度も繰り返す事ができたからこそ今ここにいる事ができる。
「成功体験を得た人間がそこに確かに存在するからこそ、有象無象の人間が声優に挑戦してそこで夢破れて散っていく。俺に、選ばれるだけの力はあるのかな」
影人が不安そうな顔になる中、茅原はそんな影人へと優しく自分の声優になった経緯を話し出した。
「……私はね、最初は声優なんて全く目指して無かったの。人を癒せるような人になりたい。そう思ってエステティシャンを目指して……その夢は一度叶ったわ」
「確か、美容系の専門学校に行ってましたしね。でも、何で」
「専門学生だったある日、深夜くらいに偶々テレビを付けたらアニメがやってて。そこで私は初めてアニメの魅力に気づいて養成所に行く決意をした。そこから地元は別だったけど、週一でここの養成所に通うようになって。力が認められて事務所に所属したの」
茅原が声優を目指したキッカケは偶々付けたテレビにやっていた内容がアニメだった。たったそれだけの理由だったのだが、彼女はそれだけで情熱を持って声優に挑戦し今ここにいる。そう考えるとやはり彼女が声優になったのは偶然とも、運命的とも言えるだろう。
「でも、こうして見ると茅原さんは凄いですよ……。演技は最初素人で、声優への知識とかも殆ど無かったのに。……それでもここまで有名になって。持ってるモノが違い過ぎますよ」
「……そう言われたら、そこまでかもしれないわね。正直、声優は中途半端な気持ちでは挑戦しても成功は得られないようなシビアな世界。黒霧君にそこまでの気持ちが持てないなら私もオススメはできないかな」
茅原も影人に無理に声優を勧めるつもりは無かった。彼女も見てきたのだろう。先に進む事ができた自分に対して、養成所に自分が入った頃に最初からいて結局自分が正式所属するその時になっても芽が出なかった養成所の生徒達の姿が。
「そうですよね」
「だけどね。それはあくまでちょっと声優に挑戦してみてどうしても出来ないって感じて割り切れる人の話だよ。……黒霧君は、私から見たらその逆に見えるわ」
影人の場合はまだその挑戦すらしていない。それなのに、昔の芸能界を志した気持ちだけ燃え尽きた後に僅かだけ残った残り火のように燻っている。茅原はこのまま彼を返すのは講師としてやったらいけないと感じたのだ。
「……良し、じゃあ黒霧君。この後の見学会で……一回体験してみよっか」
「……へ?」
茅原に笑顔でそう言われて影人の思考は停止する。何故そういう話になるのか影人にはわからない。そもそも見学会というのは自分が声優のアフレコ現場を見学させてもらうだけのつもりだった。
「黒霧君、今日はここの養成所の後輩達がアフレコ練習をするからそれをお試しで見学する目的で来てもらってるからね。でも、見ているだけなんて来たのに勿体無いわ。だから黒霧君にも一回挑戦してもらいたいの。その後にやるかやらないかを決めてほしいかな」
何をするにしても話を聞いただけでは情報が不十分過ぎる。茅原はそれがわかってるからこそこの提案をした。影人にとってこれは貴重な体験にできるはず。影人がこの体験で声優という職業へのやる気が持てるのか、持てないのか。少しでも判断材料にしてほしいという事だろう。
「わかりました。……よろしくお願いします」
「じゃあ、まだもうちょっと時間あるし……マイクワークとかアフレコ現場での話を少しだけするね」
それから影人は午後に向けて早速必要な知識を茅原に伝えられる事になる。こうして、彼は見学だけで無く声優体験もさせてもらう事になるのだった。
今回、影人の講師として出てきたオリキャラがいますが……多分影人のイメージCVとオリキャラの名前とかを見たら何となくモチーフにした実在声優さんがわかるかと思います。
一応オリキャラのCVはモチーフにした実在声優さんという形にしますのでイメージはそれで行ってもらえると嬉しいです。多分この文言でバレバレでしょうけど、声優関連回の最後に答え合わせしますので正式なイメージCVはまだ未解禁という事で行きます。
それではまた次回もお楽しみに。