キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜   作:BURNING

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アフレコへの挑戦 影人自身の色

午後に入り、食事を挟んだ上で声優という職業についてのおおまかな仕事内容については理解する事ができた。今現在、影人はレイと二人でアフレコブースへと移動中である。茅原はこの後の指導のための準備があるのでこの場にはいないものの、影人は相当疲れたような顔つきをしていた。

 

「……なぁ、レイ」

 

「何だ?影人」

 

「……何でお前昼休憩の時間でプリルン、メロロンを連れていなくなった?」

 

影人の目はレイを恨むような状態であり、レイは苦笑い。彼に抱かれているメロロンの方は普通に話を聞いていたが、プリルンに至っては何故影人がこんなにも疲れたのかわかってない様子である。

 

「仕方ないだろ。あの場に二人がいたら耐えきれずに動き出すのがオチなんだからさ」

 

「ぐ……。だからって昼休憩の時に茅原さんが準備のために移動するまでの間、俺を一人で放置するとかお前は鬼か?」

 

影人が相当疲れている理由。それは昼の食事の時間の際に茅原と二人きりにさせられたからである。影人は茅原相手に失礼を働かないように……かと言って話をしないのも微妙な空気感になって気不味いのでどうにかある程度の会話をしながらその場を保たせたのだ。

 

「でも良かっただろ?中々無いぞ、有名声優で多忙な茅原さんとの一対一でのフリートークタイム。少なくとも一般人であるお前相手にだ。普通だったらトークショーとかじゃないとあんなに間近で会えないし、そもそも一対一の状況にならない。あの人と対面で話せるのは基本的に同じ有名人だけ」

 

そう考えれば影人は圧倒的に恵まれた条件下で一対一でのお話しの時間を貰えた事になる。

 

「そりゃあ、普通だったら俺なんか近づく事さえ烏滸がましいってわかってるけどさ。……どうしてそこまでして俺と話そうとしてもらえるのかわからない」

 

影人は正直、自分に声優をやる才能は無いと思っている。レイの父親であるハジメは太鼓判を押しているが、自分はそこまで過大評価される器では無いと影人は考えた。そんな時、メロロンはそんな影人を見て珍しく自分から意見を言う。

 

「にいたまは少し考え過ぎメロ」

 

「メロロン?」

 

「二人共、にいたまに特別な何かを感じたから気にしてくれるのメロ。……メロロンだったら、興味の無い相手の話なんてしないのメロ」

 

それはつまり、二人は影人に何かしらの興味があるから話をしてくれている。そんな風に見て取れるという事だ。少なくともハジメは影人の才能に興味があるため、茅原も影人に何かを見ているからこそ話をしてくれているのかもしれない。そんな予感がしたため、メロロンはそう話す。

 

「そういう……ものか」

 

「影人だって興味の無い相手と話したりなんてしないだろ?それとも何だ?お前は道端ですれ違った人と一人一人お話をしないと気が済まない性格だったりするのか?」

 

「いや、レイ。流石にそれは誇張し過ぎだろ……。流石にそんな事したら変人って思われるし」

 

影人はそこまで言って自分でも何となく二人が自分に話しかける理由に関しては理解できた。尚、茅原の方に関してはまだ自分に話しかけてくる意図を理解したわけでは無いが。

 

「とにかく、このまま俺はプリルンとメロロンを連れて事務所の方に行く。影人は見学……と、体験までさせてもらえるんだろ?頑張れよ」

 

「ああ……それと、二人の事よろしくな」

 

「任せとけ」

 

「にいたま、ファイトメロ!」

 

「影人、頑張るプリ〜!」

 

こうして、影人はレイ達と別れると一人で声優養成のための練習用の部屋へと移動。そんな中でも緊張感が影人には残っていた。

 

「……そういや、俺以外は普通に養成所の所属している方達なんだよな」

 

影人はその事実を思い出すと余計に不安を抱いてしまう。少なくとも、演技に関してはあまり実践経験の無い自分が変にでしゃばるのは良くないと考えた。

 

「周りが養成所の生徒達なら自分だけ下手なのは当然。だったら、せめてその活動の邪魔をしないようにしないと」

 

それから影人は養成所の練習のための部屋の前に移動。後は扉を開けて中に入るだけ……なのだが影人はある事実に思い至る。

 

「……あれ?そういえば、ここに入る時どうするかの説明……されたっけ?」

 

影人は午後からは講師である茅原からの指導の元、養成所の生徒達がアフレコ練習をする風景を見学するという趣旨の内容は聞いていた。しかし、この養成所の生徒達との合流の際にどうするかの話の説明を全く受けていなかったのだ。

 

「待て、俺が聞き逃した可能性とかもある……思い出せ……」

 

影人はどうにか記憶を辿って思い出そうとする。彼はこのまま無闇に入って変に生徒達の注目を浴びたく無いと考えていた。茅原と一緒に入るなら入るで彼女とタイミングを同じにしないといけない。だからこそ彼は打ち合わせた内容を呼び起こそうとした。

 

「……ダメだ。そもそも説明を受けた記憶が無い」

 

影人は説明を何も受けていなかったので余計にどうするべきかわからずに困惑。そんな時だった。

 

「君は……誰?」

 

影人はいきなり後ろから声をかけられる。そこにいたのは養成所の生徒の一人と思われる若い大学生くらいの男性であった。彼は入り口付近で立ち往生していた影人を見た際に知らない顔という事で声をかけたのである。

 

「ッ!?はい!」

 

「……あ、もしかして今日見学が来るって言ってたけど……その子?」

 

「はい、そうです」

 

影人はあまり取り乱すのも良くないと感じ、ひとまずは男性からの質問に頷く。すると彼は微笑みつつ優しく影人へと話を振った。

 

「そっか。もうすぐ講師の先生……茅原さんが来ちゃうし。まずは入ろうか」

 

「はい。その、すみません」

 

「大丈夫だよ。緊張なんて誰でもするし、君は初めてここに来るからね」

 

影人はそんな風に男性生徒に連れられる形で部屋へと入室。そこはそこそこ広めな空間の中に20〜30人くらいの高校〜大学生くらいの男女がいた。

 

「ッ……」

 

影人は普段見ない顔という事で最初はその部屋にいる人々からの視線を一手に受けるが、彼等も話は聞いていたので割とすぐに見学者だと思い至る。そのため影人への注目もそこまで長い時間は続かず、自分達の作業に戻っていた。

 

影人はひとまず自分への注目が無くなった所で見学者用に用意されていた椅子に座ると生徒達のやっている事を観察する事になる。

 

「(練習前とかで普通に柔軟とか発声練習とかやるんだな。まぁ、毎回毎回そういう事前準備系の事を練習時間にやったら時間が勿体無いだろうけど)」

 

養成所の生徒達はそれぞれ柔軟や発声練習と言った基礎的な物から今日のアフレコ練習で使うであろう台本を手に復習をしたりして万全の体勢を作っていた。

 

「(……むしろ、何もやらずにボーッとしている人が誰もいない。もう準備の時点で周りに負けないように万全にしている。自分以外は全員競争相手だからこそこの準備の時から手を抜いたら負けるんだ)」

 

影人は改めて声優になるための道は競争の道であると。周りにいる自分以外の生徒達は同じクラスメイトであっても売れるためには打ち勝たないといけないライバルなのだと改めて実感する事になる。

 

「(もしここの人達の誰かが先のステージに進めたのなら……俺は、ここにいる誰かとも戦わないといけないのか)」

 

影人は声優への興味とやる気を茅原からの話のお陰である程度は得られていた。……しかし、やはりかつて自分の能力では芸能界に行くどころかその入り口で門前払いされたという事実を重く捉えてしまう。

 

「勝てるのかな……俺は」

 

影人はやはり難しく考えてしまうと心の余裕が消えていく。すると、部屋の扉が開くと生徒達がその方へと挨拶をする声が聞こえてきた。影人が声の行く先を見るとそこには準備を終えた今回の講師……茅原がやってきていたのだ。

 

「それじゃあ、早速始めましょうか」

 

その直後、今日の当番と思われる挨拶担当の生徒が真っ先に声を上げると講師へと授業開始の挨拶を行う事になる。声はピッタリ揃っているのと、誰も物おじせずに茅原へと大きな声で挨拶をしていた。

 

「まずは出席から取るね」

 

茅原は手にしたクリップボードにある名簿の名前を呼び、その返事を貰う事で出欠を取っていく。程なくして出欠が取り終わったのか、茅原が続けて影人の名前を呼ぶ。

 

「全員出席してるね……それじゃあ、次は……黒霧君」

 

「はい」

 

今回は見学だけで無く体験もするという事でまずは自己紹介から入る事になった。

 

「黒霧影人です。よろしくお願いします」

 

「彼は見学だけど、折角来てもらったのに見るだけじゃ勿体無いから実際にやってもらおうと思うの。影人君の分の台本は……」

 

すると生徒の中の一人が動くと余っていた台本を影人へと手渡す。影人がそれを開くとそこには話すべき台詞がしっかりと書かれていた。

 

「それじゃあ、最初は……Aチームから行こっか」

 

茅原の指示と共に生徒達は移動を開始。部屋の一角にある簡易的なアフレコブースへと入っていく。影人も見学なので一緒に移動するとブースの中に入る。

 

「よろしくお願いします」

 

ブースに入る時は挨拶が必要なので影人も他の生徒達に倣う形で挨拶を済ませて入室。茅原も機材操作のために部屋に入るとアフレコ練習が始まった。

 

本来の現場ではこの機材操作は専門の人間がいてその人が操作する。だが、こちらではそこまでするのはできないので本当に簡易的な操作のみで動かせる物になっていた。

 

「シーン4。行くよ」

 

茅原の合図と共に演者の生徒達は“よろしくお願いします”の挨拶を入れる。これもマナーらしい。すると演者の生徒達の前にある映像が動き出す。

 

「(アフレコブースで演者に関係する機材は基本的に映像の流れる画面に加えて横に並んだ3〜4本のマイク。後場合によってヘッドホン。ただ、演者はアニメの中では基本的に五人以上いるのが当たり前……。四本しか無いマイクをどう使うかと言うと)」

 

影人がそう考えていると台詞を言い終わった人が後ろに下がって控えていた人と交代。時には一つのマイクをそれぞれ半身状態で使用する場合もある。台詞の順番に合わせた立ち位置の移動。勿論音を鳴らしたらそれも録音されちゃうのでマイクワークによる移動だとしても基本的に音を鳴らすのは禁止。

 

「(それと今回は映像が完成してるけど、普段は確か線画……っていう未完成の絵でアフレコするんだよな)」

 

今回のアフレコ練習では茅原が過去に実際に出た事のある作品の中で割と古い作品を使ってアフレコをしている。作品によっては権利とかの問題があるのでこういう場でも使用を禁止されているわけで。だから使えるのは基本的に事前に許可を取った物くらい。

 

加えて、そういう作品は大体絵が完成した完全な物を使うのだが……実際のアニメアフレコの場合はアニメの放送に合わせて放送より前に収録する。その時点ではまだ映像が完成しておらず、線画と呼ばれる不完全な絵だけという場合が多い。

 

「(……それにしても、やっぱり皆さんちゃんとタイミングが合ってる)」

 

今回のアフレコ練習は生徒達が最初から台本を持っている所と喋る所の擦り合わせをしていない所を見ると確実にこのレッスンの一週間くらい前の練習の日に台本は受け取って練習をしてきているというのがわかる。

 

それから少し時間が経過して最初のチームのアフレコ練習が終了。早速茅原からの簡易的なアドバイスが入ってから次のチームと入れ替わる事になる。

 

「……早速だけど黒霧君も入ってやろっか」

 

「……え?」

 

影人はその瞬間凍りつく。茅原は微笑んでそう言うが、影人の中ではまだ心の準備は整ってない。それでも講師である彼女の指示は絶対なのでひとまず入ってきたBチームに混ざる事になった。

 

「あ、今日見学の子だね。一緒にやるの?」

 

「はい……よろしくお願いします」

 

「茅原さん、彼の役は……」

 

「深川の役にしてもらおうかな。本人にもそう伝えてるし」

 

やり取りが飛び交う中、影人は自分がやらないといけない役の台詞を即興でもう一周分読み込んで確認。幸いにも今回やる範囲の中ではそこまで多いわけでは無かった。

 

「……良し。できる……できる……」

 

影人は大物声優の茅原や周りはできる人だらけのこの状況下でアフレコの空気を崩してはいけないと感じるとどうにか作品として成立できるようなアフレコにしようとして臨んだ。

 

「それじゃあシーン4、行くよ」

 

「「「「「「よろしくお願いします」」」」」」

 

アフレコに参加する影人含めた六人がそう返すと目の前の映像が再生されて始まる。今回の収録は中学生のサッカーで主人公のチームが相手の強豪チームと対戦するという内容だった。ちなみに茅原はこのアニメではゴールキーパーの役をやっていたらしい。

 

「“良し……相手の意表を突いた。このまま!”」

 

主人公のチームがボールを確保していざ反撃……というタイミングで影人が声を当てる敵チームのキャラの出番だ。

 

「“遅い……そんなスピードで抜けると思うな”」

 

影人演じる深川がボールを取ると攻撃態勢に移行しかけていた主人公のチームは逆に隙を突かれる形となって陣形が崩れていく。深川は相手チームのエースでは無いものの、脚が速いことから切り込み隊長的存在のようだ。

 

ただ、そんな中で影人の演技を見た茅原は僅かに曇ったような顔つきをする。影人の演技に何か違和感を感じたのだ。彼女がそう考えると間もアフレコは進む。場面は変わって主人公チームのゴール前だ。

 

「“ッ、止める!”」

 

「“悪いけど決めるのは俺じゃ無い”」

 

「“えっ……”」

 

そこでは主人公チームのキーパーがシュートに備えて構えるとその瞬間、深川はシュートを警戒してきた主人公のキーパーの意表を突くように近くにいた自分達のチームのエースへとパスを回す。主人公チームは全員が深川の方に注目してしまったがために彼の存在には気が付かなかったのだ。

 

「“サンキュ、深川”」

 

「“しまっ!”」

 

そのまま放たれたシュートによってゴールが決まり、点数は3対1。勿論勝っているのは相手チームだ。そこから主人公側のチームの選手やマネージャー達のセリフが挟まって今回のシーンは終了となる。

 

「お疲れ様。早速私からの意見を言わせてもらうね」

 

アフレコが終わった所で茅原からのアドバイスタイムに入り、それぞれが良い所と悪い所を指摘されていく。影人は他人の分のアドバイスもしっかりと聞いていた。その中に自分にも当てはまる内容があるのなら直せるチャンスだからである。

 

そしてそれは勿論周りの生徒達も同じ。自分の時以外のアドバイスも逃さず聞いていた。

 

「最後に黒霧君だね。……初めてにしては良い演技だったよ。周りの人に合わせて溶け合う演技って言えば良いのかな。それに、目立ったミスも少なくてタイミングも合ってる。声優のアフレコが初心者だという事を考えても最初からよく出来ている演技だったかな」

 

茅原はまずは影人の良い点について褒めの言葉を話す。影人はひとまず周りの空気感を崩さずに安定した演技を目指してやったために目標は一つ達成だろう。

 

「ただ……今回の演技に黒霧君の色があまり見られなかった事は残念だったかな」

 

「……え?」

 

影人の色。茅原から指摘されたその言葉が影人にはあまりピンと来なかった。

 

「確かに影人君は周りと合わせてその時点での及第点の演技に持っていく事はできているんだけど、そこに影人君の分の良い所が見られないって言えば良いのかな。よく言えば周りに合わせられてる。悪く言うなら自分の演技を主張できてない」

 

それは影人がやる前の時点で控えてしまった事だった。失礼やミスが無いようにするために周りに合わせる。あくまで周りの流れに身を任せているだけの演技にしてしまったのだ。

 

「正直な所、勿体無いよ。折角挑戦できるチャンスだったのにそこで自分の演技を主張しなかったのは」

 

温厚な茅原にしては珍しく厳しめな意見だった。勿論彼女の逆鱗に影人が触れたとかでは無いのだが、それでも茅原からして見たら今回みたいな挑戦できる時に自分の演技を周りに魅せようとしなかった影人への気持ちが強く出ている状態である。

 

「……黒霧君、自分以外が声優とかの演技経験者だからこそ周りに合わせたらダメなんだよ。むしろ、周りが自分に合わせてくれるんだから強く出ないと」

 

茅原からの指摘を受けて影人は頭から冷水をかけられたような気分になると呆然としてしまう。それから茅原は優しい微笑みを向けると次のチームへの入れ替えを指示。影人は一旦見学の方に戻る事になるのだった。




また次回もお楽しみに。
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