キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜   作:BURNING

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考え過ぎな思考と単純な答え

影人が実際にアフレコを体験し、茅原から言われた指摘の後少しして。影人は今現在、事務所の外にあるベンチで項垂れていた。

 

「……はぁ。自分の色を出せって……どうすれば良いんだよ」

 

あの後一通りアフレコ練習をその場にいた面々で一周した後。茅原は影人に二十分程外に出るように指示を出した。影人はその言葉に硬直。最初は訳がわからないと言った様子で困惑したのである。

 

〜回想〜

 

数分前。アフレコが一通り終わったというわけで次の指導に移る直前。影人はアフレコブース内で茅原に呼び出されていた。

 

「何で……外で……」

 

「これから二十分くらいは影人君が仮に見ても学ぶ物が少ない練習をするの。だから一回外で気持ちを落ち着けてきて。その後でもう一回アフレコの体験をやってもらうから」

 

「えぇ……」

 

影人が唖然とする中、茅原は彼の反論を許す事なくさっさと次の指導に行ってしまった。そのため影人は困惑したまま外に行く事になる。

 

〜現在〜

 

そして現在、何故茅原からの指示が一回外に出ろなのか。影人は彼女の意図をどうにか理解しようとした。

 

「まさか、俺に教えても無駄だって感じたんじゃ……」

 

影人はネガティブな思考に包まれていく。しかし、それならもう一回のアフレコのチャンスなんて無くても良いだろう。

 

「茅原さんは俺に何を求めてるんだ……。いや、それはわかる。自分の色が無い……。俺は周りに合わせて、あのキャラの感情の起伏の範囲内でちゃんと演じたはずなのに」

 

勿論、影人には先程の自分の演技が最善である……なんて傲慢な言葉を言うつもりなんて無い。そもそも演技にこれと言った正解なんて存在しない。全く同じ演技を機械のように何度もやるなんて無理だ。

 

「そうだ、俺の演じるキャラは相手からボールを奪ってそれをゴール前でエースのキャラに繋ぐ所をやる……。もっと彼の心情を読み解けば正解が出てくるのかな」

 

しかし、影人がそれをするにはまるで時間が足りない。本来、台本のある演技をする系の仕事というのは貰ってから本番までそれなりに時間がある。その時間を有効に使って自分の中で演技を作っていき、それを本番で収録をしてくれるディレクター達相手にぶつけて答え合わせをするのだ。

 

「ダメだ……。理解ができても……作り上げる時間が足りなさ過ぎる」

 

影人は思考を重ねても上手く行かない現状に苛立ってしまう。茅原の求める自分の色……それに到達するために必要なのは何なのか。影人は一応“他人よりも秀でた所を見せる”つまり、演技を何かに特化させるという答えには辿り着いた。……しかし、影人がそれをやるには何もかもが不足している。技術・経験・キャラへの理解力……それをこんな短時間で揃えろなんて無理だ。

 

「クソ……どうしたら良いんだよ。どうしたら……俺は茅原さんが望む演技ができる?」

 

影人は今、酷い顔をしているだろう。あれだけ大物声優と近くで接して、それなりに会話して。アフレコの体験までさせてもらって。何も得られずに帰るなんてあり得ない。この経験を全部台無しになんてできないと影人は思い悩んでいた。

 

影人が休憩に入ってから既に10分。もう半分が経過してしまった。このままでは手ぶらで練習場に帰る事になる。茅原に期待されている以上、そんな事は影人にはできない。

 

「にいたま!」

 

「影人、大丈夫プリ?」

 

影人の思考がもう少しでパンクしそうになったその時。突如として影人は後ろから声をかけられるとそこにいたのはプリルン、メロロンだった。二人共レイと一緒に事務所の中にいると思っていたために影人は唖然とする。

 

「プリルン、メロロン?何でここに……レイは!?」

 

「プリ?レイならそ……」

 

「ねえたまがどうしても茅原さんに会いたいって言ったのメロ。だから二人でレイの目を盗んで抜け出したのメロ」

 

メロロンは何故かプリルンからの言葉を遮るように話すと理由を説明。彼女の言うにはプリルンもメロロンも茅原に会うためにレイが部屋から出た隙を突いて抜け出してきたらしい。本当に大人しく待つという行為ができない妖精達だと影人は呆れた顔になる。

 

「そんな事よりにいたまは何でここで悩んでるのメロ?」

 

影人はメロロンからの問いに誤魔化そうと考える。あれだけ自分を応援する形で後押ししてきたプリルンやメロロンに余計な不安を与えたくないからだ。しかし、そんな誤魔化しでは納得しない。そんな目線をメロロンに向けられると影人は観念した。

 

「……わかったよ。こうなった理由は……」

 

影人は時間もあるので簡潔に自分が悩む理由を話した。二人と別れた後にやったアフレコで自分の色が出ていないという指摘を貰った事。その答えを必死に探していて、ある程度固まったのは良かったがそれを実行するには時間が足りない事。

 

全てを話し終えた上で影人は完全に手詰まりであると二人に話した。ただ、この二人に言ったところで有効な答えは返ってこない。影人はそんな風に考えていた。勿論二人を信用していないわけでは無いが、二人にはそんな難しい質問の答えなんて出す事自体が無理だと影人は感じていたのだ。

 

「……やっぱりにいたまはいつも通り考えすぎなのメロ」

 

「は?」

 

だからこそメロロンにピシャリと言われて影人は余計に唖然とした顔つきを見せる。

 

「だってそうなのメロ。にいたま、全然楽しんでないのメロ。ねえたまを見習うのメロ」

 

「プリ?」

 

影人はメロロンからの話に彼女から馬鹿にされていると思って反論しようとした。ただ、メロロンの目は冗談でも何でも無い上に影人を馬鹿にしているわけでも無かった。つまり、至って真剣なのである。

 

「にいたまはいつも通りのにいたまで良いのメロ……。それこそ、メロロンを初めて助けてくれたあの時みたいに……困っている誰かに手を差し伸べてあげてほしいメロ」

 

「俺がいつも通りじゃない……」

 

「プリルン、普段の影人と一緒にいられて楽しいプリ!でも、今の影人。とても難しい顔をしてるプリ。全然活き活きしてないプリ」

 

プリルンとメロロンには難しい言葉なんてわからない。だからこそストレートに話ができるし、影人もわざわざ言葉の裏を考える必要が無い事でもある。

 

「プリルンは折角あの人と一緒に歌えるなら思いっきり歌うプリ!その方が楽しさがいっぱいプリ〜!」

 

「思いっきり歌う……思いっきり演技する……」

 

影人は二人から言われて少しずつ複雑にこんがらがっていた思考が解けていくのを感じた。

 

「さっきの演技は周りに合わせて、無理にでも溶け合わせようとして……それは俺の思いっきりを全部殺してた……。あくまで皆に合わせるスタイル」

 

茅原は影人にアドバイスを送る際に言っていた言葉。“自分の演技を主張していない”、“周りが合わせてくれるんだから強く出る”。それは初心者で、尚且つ今回失敗しても何も失う物が無い影人だからこそできる思考だった。

 

普通演技する際は色々と考えて、思考して、自分の持てる演技力を全て使って自分の演じるキャラを作る。ただ、それを今の影人に求めても絶対に無理だ。だから茅原はまず最初に影人に演技を思いっきりやって欲しかったのだろう。何も思考しなくても良い今だからこそできるやり方。

 

今の影人は考え過ぎなせいで肩の力がずっと入りっぱなしだったのだ。これは普段から考える事を絶やさない影人の悪い癖である。最高の演技とか、最善の演技とか……そんな物は実際にやってからで良い。

 

まずは、影人が全力で楽しんで演技をする。演技を好きになれなければ……そもそも声優なんて目指す事自体が不可能なのだ。

 

「何だよ……。茅原さん、だから俺とあんなに会話しようとしてたのか……。俺が少しでも楽しめるようにして……。でも、俺はずっと緊張しっぱなしで。結局アフレコでの演技も楽しめてなくて。あの場所でやらされた演技じゃダメなんだ」

 

影人はようやく理解が追いついた。茅原がこうして一旦練習その物から引き剥がした理由も今なら説明が付く。それから影人は立ち上がるとプリルンとメロロンがキョトンとする。

 

「……プリルン、メロロン。ありがと……。俺、演技するのが全然楽しめてなかった。ミスはダメ、作品を壊しちゃダメって堅苦しい事ばかり。背伸びなんてできる能力すら無いのにこんな事ばかり考えて」

 

影人はプリルンとメロロンを抱くと二人の頭を優しく撫でる。そして、彼に笑顔が戻ったという事で二人も嬉しそうにしていた。

 

「にいたま……嬉しそうメロ!」

 

「影人は影人プリ!影人が楽しいなら皆もきっと楽しいプリ!」

 

「……あ、そろそろ戻らないとだ。……なぁ、二人共……一緒に来てくれないか?」

 

「プリ!?影人、良いプリ!?」

 

「にいたまのアフレコ……楽しみメロ!」

 

「決まりだな。……ただし、ちゃんとぬいぐるみとして良い子にする事。それができないなら次から良いって言わないからな」

 

影人は二人に助けられた。だから二人に恩を返したい。そう思って二人をぬいぐるみとしてアフレコ現場に連れて行く事にした。言い訳くらいは後からゆっくり考えれば良い。そう思えるくらいには今の影人は楽しい楽しいアフレコ練習をやりたくて仕方ないのだ。

 

「……やれやれ、やっとわかったか」

 

そんな時、レイは建物の柱の影からスマホに何かの文言を打ち込んで送信していた。その相手は茅原である。一応レイには会社用のスマホが支給されており、そこにはしっかり茅原の連絡先も入っていた。

 

実は、茅原が外に行くように言ってからプリルン、メロロンが接触する所までは茅原とレイが打ち合わせた通りだったのだ。つまり、プリルンとメロロンを影人の元に行くように送り出したのもレイである。

 

「本当、人使いが荒いですって茅原さん……。でも、やっと茅原さんが望んでいた彼の本当の演技が見られますよ」

 

それと同じタイミング。茅原は戻ってくる影人を呼びに来た体を装うために生徒達には最後のアフレコ練習に備えた自主練を少しの間するように指示して事務所の廊下を歩いていた。

 

「……ありがと。黒霧君をその気にさせてくれて」

 

茅原は移動しながら小声でそう言うと事務所から出るために廊下を進む事になる。

 

同時刻、サウンドプロダクションの近くの空中では一人の女性が苛立ちを露わにしていた。

 

「くっ、本当にアイツはどこに行ったんだい!?これだけ探しても見つからないなんて……」

 

それは今朝からずっと戻って来ない自分の部下……ザックリーを探し回るチョッキリーヌである。

 

「本当にどこでサボってるんだか……。折角スラッシューが満身創痍で手柄を独占するチャンスなのに」

 

正直、折角外に出てきているのだからもうそのまま自分が働けば良いものを何故ザックリーを探す事に労力を使っているのか気になるが……ひとまず彼女は血眼になってザックリーを探していた。

 

「こんなにもサボって、見つけたらすぐに出撃させて……うん?」

 

チョッキリーヌがどうにかザックリーを見つけようとしたその時だった。彼女の視線の先には影人を呼ぶためにわざわざ事務所から出てきた茅原の姿が映る。

 

「あの女……うっ!?何だあのキラキラは!?」

 

茅原は大物声優である。そんな彼女は影人がやる気になってくれた事が嬉しくて気持ちが昂っていた。そしてそうなれば当然キラキラが出てくる。加えて、そのキラキラはとても質が良い物だった。この辺りは普段から声優業で輝いている事が大きいだろう。

 

ただ、それだけ強いキラキラを放てばチョッキリ団であるチョッキリーヌからしてみればいつも以上に目障りに感じてしまうのだ。

 

「ぐぬぬ……ザックリーに無理矢理やらせるつもりだったけど、こんなにも大きな目障りなキラキラ……黙って見過ごすわけには行かないよ」

 

チョッキリーヌは茅原のキラキラの出現にザックリーの捜索を後回しにすると何気に久しぶりのキラキラの引き抜きを行う。

 

「お前のキラキラ……オーエス!」

 

「きゃああっ!?」

 

茅原はキラキラを抜かれたせいで叫び声を上げるとその声が近くにいた影人達にも聞こえてしまう。

 

「この声、まさか!?」

 

そんな中でも容赦無くチョッキリーヌは胸から出てきたリボンを真っ二つに切り裂く。

 

「チョキッとね!」

 

これにより、茅原は暗闇の中に閉じ込められてしまうとチョッキリーヌはクラヤミンダー召喚のための水晶を持つ。

 

「さぁ、来な!クラヤミンダー!世界中をクラクラの真っ暗闇にするんだよ!」

 

チョッキリーヌがそのまま地面へと茅原と水晶を合わせた物を叩きつけるとクラヤミンダーが召喚される。

 

今回はまるで何かの冊子のような物から両手脚が生え、更に左手には同じように何かの冊子を持った姿をしていた。

 

「クラヤミンダー!」

 

「ブルっと来たプリ!?」

 

「嘘だろ……何でこんな時に、しかも目の前で来るんだよ!」

 

影人、プリルン、メロロンの前に立ちはだかるクラヤミンダー。するとプリルンは早速その正体を確認する。

 

「プリ!?茅原さんが閉じ込められてるプリ!」

 

「茅原さんが……ッ」

 

影人は自分が声優の体験をする中で優しく指導をしてもらった上に自分よ成長を促してくれた恩人である茅原をクラヤミンダーにしたチョッキリ団に怒りを感じた。

 

「……許さない。プリルン、メロロン。行くぞ!」

 

「にいたまの頼みならいつでも良いメロ!」

 

「茅原さんをキラキラにするプリ!」

 

その直後、プリルンとメロロンの姿が人間態へと変化。同時に三人はそれぞれのマイクを手にするとそのままプリキュアへと変身する。

 

「「「プリキュア!ライトアップ!キラキラ!ショータイム!YEAH♪」」」

 

「ハートをプリッとロックオン!キミとズッキュン、キュアズキューン!」

 

「ハートをメロっとひとりじめ!キミと口づけ、キュアキッス!」

 

「ハートをメラッと熱くする!キミと高まれ、キュアソウル!」

 

「ズキュッと!」

 

「夢中で!」

 

「熱くなる!」

 

「「「We are!ズキューンキッスソウル!」」」

 

こうして、茅原を助けるべくズキューンキッスソウルの三人が降り立つと目の前にいるクラヤミンダーへと立ち向かうのだった。




また次回もお楽しみに。
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