キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
影人の声優体験が無事に終了し、彼の追いかけるべき夢が見つかった翌日の夜。雨が降る中、蒼風家ではピアノの音が鳴っていた。
ピアノで弾いているのはキュアウインクのステージ曲である“まばたきの五線譜”である。ただ、ななの顔は曇っていた。
「……」
思い出されるのは数日前に田中の代わりにパトロールをした際に助けたザックリーの事である。結局その後、彼はクラヤミンダーを召喚。それを浄化した後にもう一度ザックリーとの対話を試みるが……。
『お前なんか……嫌いだ!』
ななの脳裏によぎるのはザックリーが去る前に最後に自分へと向けて言ったあの言葉である。そして、それと同時に思わず彼女はピアノを弾く手を止めてしまった。
「ッ……ザックリーさん。私に、何かできないかな」
ななはこの前の事でザックリーが苦しんでいると悟っており、自分が彼の現状をどうにかしてやれないかと思い悩んでいた。
「……何か良い案が無いか、レイ君にそうだ……」
ななは頭の良いレイなら何かしら良い案を出してくれる。そう信じて相談するべく連絡しようとするが、途中でその手を止めてしまった。
「ッ……。そういえば、レイ君も夏休み中忙しいって言ってたよね。明日も来れないって」
ななはレイの多忙さを思い出すと彼を頼るのは難しいと考える。ただ。それでもななのザックリーを助けたい気持ちは変わらない。
「レイ君には極力負担をかけないようにして、ザックリーさんを助ける方法……考えてみようかな」
ななはそう考えつつその日の夜を過ごす事になるのだった。そして、夜は明けて翌日の昼頃。蒼風家のインターホンが鳴り響いた。
「はーい」
「ななちゃん、お待たせ!」
「こんにちは、なな先輩」
「皆、来てくれてありがとう」
「珍しいよな。蒼風さんが自分の家で遊びたいって言うなんて」
この日、影人達は珍しくななの家で遊ぶ事になったのだ。キッカケは数日前、影人が声優体験の事をハジメに誘われたあの日。ななが自分から家に来てほしい事を提案し、誘ったのである。
ななからの提案に影人、うた、こころ、プリルン、メロロンが来る事になった。レイは先程言った通り家の方の事で来る事ができなかったのである。
「それじゃあ、ここで立ち話するのもだし。中にどうぞ」
「「「おじゃまします!」」」
こうして影人達はななに案内される形で蒼風家の中に入ると早速うたは興奮したような声を上げた。
「ななちゃん家初めて来た!」
「やっぱり落ち着いた雰囲気だな……蒼風さんのイメージ通りの家って感じ」
影人達が客間に通されるとそこになながコップに紅茶を入れて持ってくる。更にななには出したい物があるようで。
「ちょっと待っててね。ママがフランスから贈ってくれたお菓子があるから」
「えっ!?フランスのお菓子!?」
「そういえば、なな先輩のお母さんはピアニストとして世界中を飛び回っているんですよね」
「うん。折角なら皆で食べたくて」
その後少ししてなながフランスからのお菓子としてマカロンを持ってくる。また、その皿を置く際にティースタンドも使っていた。
「これって何プリ?」
「マカロンだな。大体色ごとで中に入っている味とかが予想できる」
「影人君、この皿が二段になってるやつは?」
「それはティースタンド。昔から西洋の方でお茶会をする時に使われてるんだけど、小さいテーブルでも沢山の品が出せるようにするために皿が二段も三段も置けるようになっている」
影人の解説が済むと早速ななが出してくれたマカロンを食べる事になる。一応プリルンとメロロンの分も別の皿に取り分けられて二人の前に出されていた。
「いただきますプリ!あーむっ!んん〜っ!美味しいプリ〜!」
プリルンが幸せそうな顔を浮かべる中、それを見届けてからメロロンもマカロンを食べ始める。
「あ〜むっ、メロ!」
妖精達がマカロンを食べ始めたようにうたやなな、影人達も食べ始める事になった。
「それにこれ、美味しいだけじゃなくてとっても可愛いです!」
「ななちゃんのお家で美味しくて可愛いお菓子!夏休みサイコー!」
「ですね!」
影人も静かだったが、マカロンを食べており口の中には甘い味が広がっていく。
「美味しい。……やっぱり世界中を飛び回っているおかげか、蒼風さんの母さんはこういう美味しいお菓子とかも結構チェックしてるのかな」
少なくとも、世界的なピアニストである点から舌は肥えているのだろうと察せられる。
「ふふっ。皆と色んな所にお出かけとかもしてみたいな」
「良いねそれ。折角夏休みの時間が沢山あるんだし、お出かけも積極的に行かないと勿体無い」
ななの提案に珍しく影人が真っ先に賛成の意見を言う。するとうたはそんな影人に負けじと早速お出かけ先の候補を見せた。
「あ、私行きたい所ある!ひまわり畑!」
うたがスマホで調べて出したのは綺麗なひまわりが辺り一面にぎっしりと育ったお花畑である。
「わぁ!ひまわり……こんなに沢山!」
「綺麗……」
「ひまわり畑はこの時期ならではの観光スポットだし、良いんじゃないかな」
影人達人間組の三人はうたの意見に同調。うたは三人から好印象だったので嬉しさのあまりいつもの口癖が出た。
「でしょでしょ!キラッキランランでしょ!」
「行きたいプリ〜!」
「ねえたまやにいたまが行くならメロロンも行くメロ!」
プリルンとメロロンがうたの頭の両側に飛び乗ると妖精組も行く事を表明。これで後はレイだけだ。
「凄っごく夏って感じですね!心キュンキュンしてます!」
「うん、楽しみ!……それで、レイ君も一緒に行って良いかな?」
「当たり前だろ。アイツだけ仲間外れなのも可哀想だから誘うだけ誘ってみようか」
そして、そのまま四人の都合の合う日を探してその日に行けるかレイにも聞くことになる。
「あ、それと折角全員揃ってるし……はいこれ」
それから影人が五枚のサイン入りの色紙を出すとうた達に配る。それには茅原から貰ったサインが入っていた。
「このサインってもしかして!」
「ああ。この前声優の体験の時に講師の先生が茅原さんだったんだ」
「嘘!?あの茅原さん!?」
「ありがとう影人君!」
一応あの声優体験の日以降で全員が揃った時に渡そうと思っていたためにこの場で配る事になった。加えて影人はここにはいない夢乃やレイの分も貰ってきたのだが、二人には既にそれぞれ渡してある。
「カゲ先輩、もしかしてこれを貰ってきたって事は……」
「俺は将来、声優を目指す。……勿論簡単に行かない事ってわかってるけど……やっぱり俺はもう一度あの世界を目指したいってなれたんだ」
「カゲ先輩……。わかりました!カゲ先輩がそう言うのでしたら私達は応援するだけですよ!」
「私達も応援するね!」
「影人君、頑張れ!」
「ありがと」
影人はついでとばかりにうた達にも声優を目指すようになった事について教えるとうた達はそんな影人を応援してくれた。数ヶ月前まであんなに暗かった影人が、自分のやりたい事を見つけたのだ。うた達もその嬉しさで自分の事のように喜んだのである。
「それで、いつ事務所に入るの?」
「一応制限として中学卒業が大前提だからな。そこまで待ってから養成所に行って技術を磨く事になると思う。まぁその前に入所のための試験があるけど」
ただ、声優の養成所に入るためには先程言及のある通り試験が必要だ。そのため、この一年間が全く何もしないというわけでは無い。一年も準備期間があるのだから養成所所属のために必要な技術はこれから磨いていくつもりである。
「そうだ、声優体験ってどんな感じだった?」
「あ、やっぱ気になるよな?」
「勿論ですよ。有名声優の茅原さんにも会って、どんな事を話してたのか。全部聞いちゃいますからね!」
うたやこころは影人が体験でどんな事を話をしていたのか気になった様子であり、影人は早速その話から始める事になる。
「影人、活き活きしてるプリ」
「にいたまもやっとやりたい事に踏み出したのメロ。メロロンも嬉しいのメロ」
それから蒼風家での楽しいおしゃべりの時間は続いていく。再び時間を置いてその日の夕方。影人達は蒼風家でのひと時を終えて帰る事になった。
「それじゃあななちゃん。明後日はよろしくね!」
「うん!」
「今から楽しみ過ぎます!」
影人達がいなくなって少し。人がいなくなったせいか静かな空気が流れる蒼風家。そんな中、ななのスマホにメッセージの通知が聞こえた。
「レイ君……ッ!」
ななはレイからの通知という事で急いでメッセージを開く。そこにあったのはOKという文字と“その日なら問題無い”という旨の内容だった。
「良かった……。レイ君、来れるんだね」
ななはレイが来てくれる事に安堵の気持ちを浮かべる。ななは夏休みなのに頻繁に家の都合で呼び出されて休みが少ないレイの事も心配していたのだ。
「レイ君にとっても今回は良い思い出にしないと……」
そこまで考えた所でふとななはある事を感じる。それはここ最近の自分の思考だ。ザックリーもそうだが、前々から彼女はレイの事を考える回数がそれなりに多くなっているのを感じていた。
「そういえば、ここ最近の私は事あるごとににレイ君の事ばかり考えてる気がする。……何でだろ」
ななはそこまで呟いた所で一度ある考えに至るが、その意味を理解して顔が赤くなる。
「ッ!私、もしかしてレイ君の事……」
ただ、すぐにその気持ちだと断定してしまうのは良く無い。そう考えたなな。それに明後日にはそのレイと会う事になる。そのため、まずは落ち着くとレイへと向ける感情が正しいのかどうか。ひまわり畑に行く時に不自然な話し方にならないようにしようと決意する事になる。
それから一日が経過した翌日の朝、また天気は生憎の雨であった。そんな中でザックリーはようやくチョッキリ団アジトのバーに戻ってくると溜め息を吐く。
「はぁ……。あの日以降やっと戻って来れたが……ザックリ言って気持ちがザワザワする」
ここ数日、ザックリーは相当心を痛めていた。何しろキュアウインクへの向き合い方でずっと悩んでいたのである。加えて、彼女への気持ちも前と比べてすっかり変わってしまった。このままではこれ以降の仕事にも支障が出かねない事態だ。
「お帰り、ザックリー」
するとザックリーがその方向を向くとそこにはスラッシューが待っていた。彼女の姿を見てザックリーは僅かに安堵する。少なくとも待ち構えていたチョッキリーヌにいきなり責められるよりはマシだろう。
「スラッシュー様、お疲れ様っす」
「随分と長い間いなかったわね」
「それはすんません……。ザックリ色々あって戻って来れなかったっす」
ザックリーの言葉にスラッシューは笑みを浮かべる。そんな中、ザックリーはふと何かを感じたのか問いかけた。
「……スラッシュー様、何か変わったっすか?」
「うん?」
「なんというか……その、雰囲気?中身?……何か前のスラッシュー様と何かが違うような……」
今現在、スラッシューは天城としての姿をしていた。前まではバーにいる時もフードを付けて髪や目元を隠してきたのだが、今は珍しく素顔を露わにしている。
尚、メタ的な事を言うとスラッシュー=天城であると明記しないための措置というだけなので正体がわかって以降はわざわざこんな風にしなくてもよかったのだが。
ただ、ザックリーとしては珍しく彼女が素顔を晒しているという事でもあるために余計に気になったのだ。
「……そうね。今の私はまるで少し前の私から一皮剥けて生まれ変わったような気分よ」
「そうなんすね……」
そう言われてザックリーが改めて見ると紺色の髪に赤紫のメッシュのような髪色をしており、瞳も黒よりの紫から黒寄りの赤になった。つまり、変身後の瞳に近い色合いである。
「ねえザックリー……」
「なんすか?」
「あなた……こんなにも仕事に間を空けておいて謝罪の一つも無いのかしら?」
スラッシューからの言葉を聞いてザックリーは目を見開くと彼女を二度見してしまう。
「スラッシュー……様?どういう事っすか」
「言葉のままの意味よ。……アイドルプリキュアに負けた事を問うつもりは無いわ。私だって何度も負けてしまっている。……ただ、だからと言って仕事をサボる事を許可した覚えは無いわよ?」
スラッシューの言葉は少し前の彼女なら絶対に言わないようなそんな冷たい言葉であった。
「スラッシュー様、何でいきなりそんな」
「そうねぇ……。私も前々から思ってたのよ。あなたの事を少し甘やかし過ぎたと。ダークイーネ様だっていつまでも待たせるわけにはいかない。だからあなたには出撃してもらわないといけないのよ」
ザックリーはその言葉にガックリと項垂れてしまう。今までどんなに苦しくてもチョッキリ団に勤めてこれたのはスラッシューが支えてくれた所が大きかった。しかし、そのスラッシューもどういう理由かわからないがザックリーに無理矢理の出撃を勧めてきたとなると……ザックリーも良い加減精神的なダメージが大きかったのだ。
「勘弁してくださいっすよ……。スラッシュー様」
「まぁ、確かにプリキュアに心をやられてからすぐに出ろと言うのは酷かしら。……なら今日一日だけなら休んでも良い。明日からまたバリバリ働くのよ」
ザックリーは何とか食い下がる形でスラッシューからも猶予を貰ったものの、もう彼の心は限界が近くなっていた。心の支えであったスラッシューに完全に裏切られた形なので仕方ない所なのだろうが……。
「(あぁ……。ザックリこんなので明日からまた働けるのかよ……。スラッシュー様、どうしてしまったんだ……)」
こうして、ザックリーは豹変したスラッシューを置き去りにして自分の休憩室へと向かっていく事になるのだった。
また次回もお楽しみに。