キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜   作:BURNING

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影と心の初めての対話

影人が“はなみちタウン”へと引っ越してから数日後の朝。今現在、彼はまた街中を一人で歩いていた。今日は特に何か予定があるわけでは無い。だが、何となく彼は外を歩いていく。そんな中、影人は何かの施設の前に停まったキッチンカーの近くにあるベンチに座っていた。

 

「……やっぱりここ数日歩いているけど。この街……居心地は悪く無いかな。自然はちゃんとあるし、空気もそれなりに美味しいし」

 

すると影人がボーッとベンチに座ったまま前を歩いていく人々の影を見ながら一度溜め息を吐くと俯く。

 

「……何でこんなに俺の心が踊らないんだろ」

 

影人の周りには今まで知らなかった新しいで溢れている。それだけ彼の周りには刺激があるはずなのだ。それなのに彼の心は無反応だった。

 

「……そういや、この前中学校の前で会ったあの子……」

 

この時、影人の脳裏によぎったのは数日前に転びそうになったのを助けた一人の少女だった。何故かわからないが、影人は彼女の心の奥底から何かへの熱い情熱を感じたのである。

 

「あの子、昔の俺にそっくりだな。俺もあの子みたいに心に熱さを秘めていた時があった……。もう今はそんな熱さなんて消えちゃったけどな」

 

影人の心はどんどん深い影の奥底へと沈んでいく。まるで自分で光るための方法を忘れてしまったようだった。

 

「……俺にもあったはずなんだけどな。あの子みたいな心が滾って踊るような……確か、その時言ってた口癖が“心、メラメラする”……だっけ」

 

影人はかつての事を思い出して複雑な気持ちに思い耽っていた。影人は幼い頃。自分が中心として輝く事や楽しいと思う事をする事で心が踊り、燃え盛るような熱い情熱を形容する時に上手い言い回しがわからず、“心、メラメラする”という言葉をよく使っていた。

 

「メラメラ……って言葉も児童のアニメで覚えたんだっけ」

 

影人はそんな気持ちも無くなってしまった自分が悔しくて両手の拳を握り締める。しかし、影人はそれを感じても無駄だと考えた。自分にそんな夢のような気持ちを求めた所で絶対に輝けない。他人が輝く光の前では自分のような微かな光など簡単に埋もれる。自分の存在意義なんて自分の名前通り誰かの影……脇役でいるしか無いのだと思っていた。

 

「ふぅ……ひとまずここにいても何も変わらない。帰って新学期の準備をしよ」

 

だが、影人はわかっている。新学期の準備なんてものはここ数日でとっくに終わっている事を。また、そんな風にちょっと話題を転換した程度で自分の悩みが何も解決しないという事も。

 

影人が俯きながらベンチから立ち上がると暗い顔で歩き出そうとする。すると彼の足元。視界の端っこに誰かの靴の足先が見えた。影人が見上げるとそこにいたのはこの前転びそうになったのを助けた子がいる。

 

「君は……この前の」

 

「また会いましたね。あの、顔色が悪そうですけど、大丈夫ですか?」

 

彼女が心配そうな顔つきで自分を見つめてきた。だが、影人はバツが悪そうに目線を逸らすと彼女に誤魔化しの言葉を言う。

 

「ごめん。ちょっと色々と悩んでてな。でも、あんまり他人に迷惑はかけたく無い。だから、放っておいてくれ……」

 

影人はそう言って離れようとする。しかし、少女はそんな影人へとまた声をかけた。

 

「どうしてそんな嘘を吐くんですか?」

 

彼女からの鋭い指摘に影人はやはり彼女へと目線は合わせられないと後ろを向けたままだ。

 

「私にはあなたが今にも助けて欲しい。……そんな風に訴えているように見えますよ」

 

「……それでも、見ず知らずの君にそこまでは求められない」

 

影人は自分でこう言ってて後悔をしていた。ちっぽけなプライドだ。恐らく彼女は自分よりも年下だろう。ましてや、彼女とは知り合いでも何でもない。ほんの一言二言話しただけ。だから自分なんかが悩みをぶつけて良い相手では無いと悩みを聞いて欲しいという自分の気持ちを押し殺していた。

 

「……わかりました。じゃあせめて悩みじゃなくて良いので少しお話ししませんか?」

 

そう彼女は言う。影人は彼女が落ち込んだ自分を助けようとしてくれているとわかっていた。それでもまた変なプライドが邪魔をしてしまう。

 

「あのさ、君にとって俺は知らない人でしょ?小学生の時に教わらなかった?知らない人にはついて行ってはいけない。ましてや、自分から声をかけるなんて。……大体、俺みたいなこんな興味の無い相手の話を聞いたって何も……」

 

「興味はありますよ」

 

「……は?」

 

彼女がそう言って影人の近くに来ると幼さの残る可愛らしい顔で微笑んだ。それから彼女は影人へと敵意ゼロと言わんばかりに緊張感も無く声をかける。

 

「もし嫌でしたら5分で大丈夫です。カゲ……あなたとお話しをさせてください」

 

彼女は何かを言いかけて止めたのを見て影人は違和感を覚えた。しかし、とにかく彼女と話さないと彼女が諦めてくれないと仕方なく付き合う事に。

 

「やっとお話ししてもらえる気持ちになったんですね!」

 

「別に。話さないと帰らせてもらえなさそうだから。それと、もう一回言うけど、誰にも彼にもこんな事してたらいつか悪い人に引っかかるからな?」

 

「はい!わかってますよ!」

 

影人は少女が笑うのを見てどこか心の中でおかしな気持ちを感じた。ただ、それを何かが心に引っかかっているようで上手く言い表せない。

 

「なぁ、君は前にどこかで俺と会った事があるのか?」

 

「……?」

 

「いや、何でもない。ただの思い過ごしだ」

 

影人の言葉に少女は首を僅かに傾げるものの、それ以上特に聞いてこなかった。それから二人は先程まで影人が座っていたベンチに腰掛ける。

 

「そういえば君の名前を聞いてなかったし、俺の名前も言ってなかったな。俺は黒霧影人。もうすぐ中学二年。つい最近この街に来た。君は?」

 

「はい!私は紫雨こころって言います!もうすぐ先輩に助けられた所の近くにあったあの学校に入学するんです。……なので、私が一つ年下ですね。影人先輩、これからよろしくお願いします!」

 

「これからって……まだ俺達何も話してないし意気投合もしてないだろ。あと、先輩呼びか……。俺が通う予定の中学……まぁ君の思ってる通りあの学校だけど。もし違う学校だったらどうするつもりなんだよ」

 

「そんなの関係ありません!影人先輩の事は、影人先輩って呼びたいんです!」

 

しかし、ニコニコするこころの目はとても嬉しそうだった。だが、影人にはそれが理解できない。そもそも普通なら道端で見た自分のような落ち込んだ人なんて無視する。関わるだけ無駄と考える人やそもそも無関心な人が多いからだ。なのに彼女は影人へと積極的に声をかけてきた。加えて彼がどれだけ拒絶しても歩み寄ろうとする。なので正直影人は彼女の気持ちがわからない。

 

「……それで、何を話すの?」

 

「えっとですね、好きな事とか!私はダンスが大好きです!」

 

「ダンス……。俺も昔ダンスは習った事があるんだ」

 

「本当ですか!?」

 

そう言ってこころは嬉しそうに話に食いついてきた。影人はひとまずこの話題で話を進めるべきだと考えてそれを主軸にする。

 

「とは言っても俺はダンス下手なんだ」

 

「え?」

 

「他人と比べると同じ所で何度もミスするし、チームでダンスの練習をする時なんて着いていけなくて。動きのフリを間違えては毎回講師の人に注意されて……他人よりも何倍も練習しないと上手く踊れないし……。酷い時は本番とかでやたら緊張してミスを連発したりしたし」

 

それを聞いてこころは何かを思ったのが拳に僅かに力が入る。だが、それに影人は気が付かない。

 

「そもそも俺はそういうステージとかで目立てる人じゃないんだ。周りの期待に応えられないし。さっきも言った通り大事な場面で役立たずだし」

 

「そう……ですか」

 

「紫雨さんが思ってる程、俺は凄くも何ともない。結局もう今はダンスもやってないし」

 

「それでも……影人先輩は、影人先輩は凄いんです!」

 

するとこころは立ち上がるとそうやって言う。しかし、影人は何故こころがそう言うのかわからずに首を傾げる。影人はこころのこの言葉の違和感の正体に気が付けずに話を続けた。

 

「とは言っても、ダンスは俺の元々の夢を叶えるための一つの要素でしか無いし。他の事を頑張れば良い……そう思ったけど、俺は結局輝かなかった。もう今は夢も諦めちゃったんだ」

 

そう言って影人がバツの悪そうな顔でネガティブな話ばかりをこころへと向ける。

 

「影人先輩……」

 

「だから今は正直楽しいって思える事なんて無いんだ。俺は何しても輝けないってわかっちゃったし。でも、このままじゃダメだとは思ってるよ。……はぁ。せめて、心、メラメラするような物が何かあれば良いんだけど」

 

「心……メラメラ……」

 

その言葉を聞いてこころは大きく目を見開く。そんな彼女を他所に影人は話を続ける。

 

「な?俺と話してもつまらないだろ?……紫雨さんは俺なんかと友達になったって無駄な時間を過ごすだけ。だから……」

 

「……お断りします」

 

「……へ?」

 

「先輩がなんて言おうと私が先輩と一緒にお話ししたい気持ちは変わりません。……むしろ、私としては先輩後輩の関係は崩さずに友達になりたいぐらいですから」

 

そう言うこころの純粋な目を見ていると影人の心は僅かに痛む。自分なんかと話しても良い事なんて何も無いのに。むしろ、同学年の友達と話していた方が彼女にとっても良い事なはずだと考えていた。

 

「……先輩、私と話すのは嫌だって言ったのに話してもらってありがとうございます!……あの、もしよろしければまたお話ししてください!」

 

「えー……」

 

影人はこころの言葉に若干呆れの気持ちが湧く。こころ自身が言った通り、正直今の影人はこころと話したくない。ただ、決してこころと話すのが嫌だったわけでは無い。むしろ逆だ。こころとは話していると少し気持ちがスッキリして落ち着く事ができた。だが、あくまでそれは自分の話。こんな自分のネガティブな話にこころを長々と付き合わせられないと思っている。それは彼女のためにならないからだ。

 

「……本当に良いのか?紫雨さんにとって俺の話はつまらないだろ」

 

「いえ、私はもっと先輩の事を知りたいんです。……だって、今。私は先輩に対して興味が湧いて……心、キュンキュンしてますから!」

 

「心……キュンキュン?」

 

影人はその言葉を聞いて目を見開く。何しろ自分がさっき言った心、メラメラによく似た響きを感じたからだ。

 

「……わかった。もし紫雨さんが嫌じゃないなら……またこれからもお話ししても良いか?」

 

「はい!勿論です!じゃあ、これから改めてよろしくお願いします!影人先輩!」

 

こころが興奮した様子で嬉しそうにそう言うと影人は彼女に別れを告げて去っていく。そんな影人の顔は先程とは違ってちゃんと前を向けていた。そんな中、影人が去っていく背中を見たこころは一人呟く。

 

「やっぱり……あの時、私を助けてくれたのは……」

 

こころは去っていく影人を見てごく僅かだが、胸がキュッと締め付けられるような変な感じがした。

 

「……できれば、前みたいに私の事……もっと気安く、名前で呼んでくれても良いんですよ……カゲ君」

 

こころは少し寂しそうに呟くとまたいつもの顔に戻って影人とは別の道を歩いていく事になる。

 

また視点は影人へと戻る。彼は帰り道を歩く中、話す前よりも心が割と軽くなっていた。こころとの会話は思っていた以上に自分の気持ちを落ち着かせられたのだ。

 

「紫雨さん……。あの子には感謝しないとな。……今度何かお礼をするべきか。いや、いきなりそんな事されても困惑するだろうし」

 

影人が考えていると突如として影人の行く前からいきなり何かが声を上げながら走ってくる。

 

「うわぁああああっ!」

 

「……ん?何だあれ……こっちに来てるよう……な?」

 

影人がその光景を見て思わず固まる。それは人とは思えないような猛スピードで走ってくる少女と犬だったのだ。

 

「え!?ちょ!待っ……」

 

その瞬間、影人は反応が間に合わず。少女に思い切りタックルされてしまう。

 

「ごはあっ!?」

 

そのまま影人が吹き飛ばされると地面へと背中を打ちつける。それを見て少女は慌てて声を上げた。

 

「ああっ!!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

「痛てて……一体誰……あ。この前の……咲良さん」

 

影人が打ちつけた背中をさすりながら起き上がるとそこにいたのは前に堤防の上ですれ違った犬連れの歌う少女こと咲良うただ。

 

「影人君!あの、大丈夫?実は色々とあって……」

 

「どうしたプリ〜?」

 

すると影人が聞き慣れないような可愛らしい声が聞こえてきた。そして、その声の主は起き上がる途中で止まっていた影人の腹の上に立っている。

 

「……へ?」

 

「プリルンはプリルンプリ!」

 

そこにいたのは小さなぬいぐるみのような可愛らしい物体だった。体色は薄黄緑。目元には黄色いハートの模様、お腹はピンク色のふわふわとした模様が特徴的だ。瞳はえんじ色、下側に黄色い星の形をしたハイライトある。また、おでこのあたりは丸みを帯びた毛が生え、ピンク色の音符の飾りを付けている。また、両耳の付け根には薄緑のシースルーの飾りが施さ、首元には白いリボンを付けてさらに小さなポシェットを身につけていた。

 

「えっと、プリ……ルン?」

 

「プリルンはプリルンプリ!」

 

その瞬間、影人はいきなり喋り出した可愛らしいぬいぐるみを見て思考がパンクしかける。

 

「なぁ、咲良さん。これ、夢じゃないよね?」

 

「夢じゃないプリ」

 

「咲良さん、俺がこのぬいぐるみを受け入れるには情報整理が必要っぽい……。落ち着いて話せる場所……ある?」

 

「え、えっと、じゃあウチのお店は?」

 

「……そういや、喫茶店やってるんだっけ。じゃあそこで……」

 

「じゃあ、急ぐよ!」

 

その瞬間、影人の上に乗っていた喋るぬいぐるみを咲良がひったくるように取り上げるとそれを先程まで乗せていたと思われる犬のきゅーたろうの上に乗せるとまた猛ダッシュで走り始める。

 

「え?ちょっ!そのスピードありかよぉおおっ!」

 

影人もまさか先程のスピードから全く変わらない全速力で走り出したうた、そしてそれに着いていけるきゅーたろうを相手に完全に置いて行かれた形になった。彼としても女子である彼女にそこまでのスピードは無いと踏んだのだ。ただ、喋るぬいぐるみのインパクトが強すぎたせいで彼は失念していた。先程自分が思い切り吹き飛ばされる程のタックルを繰り出せる程のスピードを彼女が出していた事を。

 

「とにかく待てって!!」

 

影人が慌てて走り出すといつものぶっきらぼうなキャラも壊れるほどに慌てた様子で彼女の後を追いかける事になるのであった。




また次回もお楽しみに。
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