キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
夢乃達がグリッターから出て行ったその直後。僅かに興奮したように赤い顔になったななが入ってきた。
「あっ、ななちゃん!おはよう!」
「お、おはよう。うたちゃん。影人君も……」
「あれ?ななちゃんどうしたの?」
「ううん。何でもない。ちょっと嬉しいことがあっただけだから」
ななは自分が興奮したせいでうたにまで夢乃の秘密をバラすわけにはいかないと誤魔化す事に。それから三人は集まれたという事でまずはなながピアノを弾く事になった。
「それじゃあ弾くね」
「うん!」
「あっ!はもりも聴く!」
なながピアノを弾き始めるとそのタイミングで影人達は勿論、お店にいた客達もななのピアノの演奏に惹かれ始める。そしてそれが終わると拍手が鳴り響いた。
「やっぱりななちゃんカッコイイ!」
「すっごくすっごく上手!」
「影人君もそう思うでしょ?」
「何で俺に振るんだよ。まぁ俺も蒼風さんのその演奏、透き通ってて好きだけどさ」
「ふふっ。ありがとう!」
ななも沢山褒めてもらえて嬉しそうだった。そんな彼女を見て影人は完全に立ち直った事を実感し、改めてななの心の強さにキラキラとした輝きを感じる。そして、店にいた二人の若い女性客がある話を始めた。
「素敵な演奏」
「あっ、ねぇキュアアイドルって知ってる?」
「勿論!新しい子のライブも上がってたよ!」
二人の客の内の一人がスマホの動画を再生するとそこにあったのはキュアウインクのライブ映像である。
『きらめきへ踏み出そう〜♪受け取った勇気つないで♪まばたきの数だけ〜♪五線譜に焼きつけていく♪出会えたキミへと奏でたい♪いつまでも鳴り止まないメロディー〜♪』
「へぇ……キュアウインクだって」
「この子のステージも良いんだ〜」
そんな風にキュアウインクの話題一色な客の姿を見ていると影人は唖然とし、うたやななもコソコソとウインクの話題が出ている事を話す。
「キュアウインクの話、してるね……」
「あっ、そういえば……夢乃ちゃんもさっき言ってた。思わず聞き返さずに流しちゃったけど、どうしてネットにキュアウインクの映像が上がってるんだろ」
それから三人は慌ててカフェから続く二階に上がるとそれぞれのスマホを出して検索を始める。
「私の時はプリルンがついついやっちゃったんだけど……」
「そういえば、そんな話だっ……」
「アレもプリルンプリ〜!」
影人が言い切る前にプリルンが手に電源を切った状態のペンライトを持ってテンション高めのプリルンが自白。それと同時にポンと音が鳴るとプリルンの髪がモッサモサの姿になった。
「……プリ?」
「「あっ……」」
「プ〜リ〜!?何でプリ!何でプリ!女王様もどこかで見てるプリ!?」
プリルンのやったネットへの晒しはあっという間に女王ことピカリーネにバレたようで罰も即時実行される事に。
「これ、何!?」
「女王様の罰だよ。というかバレるの早っ!!」
「……あー。悪いな。俺のスマホにいつの間にか女王様との専用通話アプリがインストールされててだな。多分、俺がスマホを持ってるだけでそういうプリキュアの話題は筒抜けなのかもしれない。プリルンが言うまでそうならなかったのは一応自白する瞬間を待ってたんだと思う」
その言葉を聞いてプリルンは影人の顔面に突進するとそのまま影人を押し倒す。
「何でそんなのを入れてるプリ!」
「仕方ないだろ。アイドルハートブローチ?があるお前ら二人と違って俺は女王様との連絡手段が無いんだからさ!」
プリルンが影人の顔でジタバタする中、影人はプリルンを鬱陶しく感じたが、退かすとまた面倒だと考えたので何もせずに何かを言われた時だけ言い返すのみに留まった。
「でも、私的にはアイドルと言えばやっぱり響カイト様かな〜!」
「レジェンドアイドルだもんね〜」
そんな風に話す若い女性客の二人。それから二人が店から出ていくと最後に出てきた響カイトと呼ばれる人物について二階にいた三人の話題は移る。
「響……カイト」
「確か、レジェンドアイドルとまで言われるほどに世界中から注目されてて赤ちゃんからお年寄りまで。幅広い年代の人に愛される歌声の持ち主……だったかな」
影人はついでとばかりに彼の持ち歌である“キミからのEcho”を再生して聴いてみる。するとその曲を歌うカイトの声の美しさにあっという間に魅入られてしまう。
「……マジか。改めて聴いたけど、持ってる物が違うな……」
影人はプリキュアに関してもそうだったが、やはり自分と比べると次元そのものが違うと思える程の才能の差があるという事実を見ると自信を無くしてしまう悪い癖が出てしまっていた。
「俺もこのくらい誰かの心を惹ける人間だったらな」
「カイトさんは正に生きるレジェンドって感じだよね」
「うんうん!私もこの曲、好きなんだよね!」
そんな風に三人が話をしていると店の戸が開き、一人の青年が入店してくる。その姿は黒いキャップの帽子を被っており、目には黒緑の眼鏡をかけていた。彼は一度帽子と眼鏡を外すと帽子の下からは灰色がかかったような緑髪が見え、前髪は二つに分かれている。瞳は黄緑色で耳にはピアスを付けており、かなりの高身長であった。
その青年はそこに立っているだけで凄まじい輝きを放っているような雰囲気を纏っており、その姿に二階から下を覗いていた三人の目を惹きつけてやまない。そして、その姿をした青年に三人は見覚えがあった。
「「「……えぇっ!?響……カイト!?」」」
まさかこのお店、喫茶グリッターにレジェンドアイドルとも呼べる存在。響カイトが来るとは思ってもみなかった。となると眼鏡やキャップ帽子は世間に姿を見られて騒ぎが起きないようにするための身バレ防止目的で付けていたと思われる。ただ、殆どの良識のあるファンなら本人だとわかったとしてもそこまでグイグイとはいかないだろうが。
それでもレジェンドアイドルなら尚更悪質なファンにバレにくくするために多少の変装はするものなのである。そして、影人達三人とプリルンは二階からそっと椅子に座った響カイトを覗いた。
「「「そーっ……」」」
ちなみに彼はうたの母親である音に注文をしており、その様子を見届けた三人は顔を引っ込めるとうたは興奮したような様子である。
「あの人絶対!!」
「シーッ」
「え?」
「あんまり騒がない方が良いんじゃない?プライベートでしょ?」
「そういう物なの?」
うたが声をかけようとしたが、それをななが制止する。ななは先程夢乃とすれ違った時もそうだったが、プライベートでゆっくりしている有名人に対してあまり変に騒がないようにする等、ファンとしての常識をしっかりと持っていた。
「……咲良さん。例えばだけど、もしキュアアイドルの正体が咲良さんだと知られたとして。プライベートでのお出かけの時とか、誰かが大声で騒ぎ立ててそのせいで沢山の人に囲まれて折角の休みにゆっくりできなかったらどうする?」
「……うぅ。ちょっと困るかも」
「今のカイトさんはそういう状態。下手に騒いで迷惑をかけるのはダメ。一部の厄介ファンはそれが守れないからそういう人達にプライベートとかで囲まれて芸能人が困っている話とかも偶に聞くだろ」
影人もうたへと戒めの言葉を伝え、二人の説得の甲斐あってうたは無闇にカイトへと突撃するのを止める事に。
「でもさ。今は活動休止中で海外に留学中だったはずなのにどうして日本にいるんだろ」
カイトは公では海外にいるという話になっており、そもそも日本にいるはずが無いのだ。
「……まさかと思うけど、わざと海外にいるって宣伝してるとかかな。日本にいないって世間が知ってれば変に付けられる可能性も下がるし、留学先にされてる場所でもそこに当人はいないわけだから現地まで追ってきた厄介ファンとのエンカウントのリスクゼロ。ほら。顔が似てる人って世間に何人もいるわけじゃん?海外に留学中って大々的に世間がわかってれば顔が似ていても他人の空似だって初めから解釈する人もいると思うし」
要するにカイトの留学は世間の目を欺くためのカモフラージュ目的の可能性もあるという事だ。勿論、今は偶々日本にいるだけという線もゼロでは無いから断定はできないが。
「なるほど。実際の所はわからないけど、確かに影人君の意見も筋は通ってるね。ちなみに留学先はニューヨークで歌の勉強をしてるって事になってる。……でも、凄いよね。ファンの人に歌を届けるために頑張れる人ってさ」
「……そういや、記事には“いつもアイドルとして大切な想いを胸に抱いてます”ってあるけど、それがあるからアイドル活動を頑張れるのかな?」
「よーし!私、行っちゃお!折角のレジェンドアイドルを間近で見たい!」
「……迷惑はかけるなよ?」
「わかってるって!」
影人が一応うたに変な事はしないように釘を刺すとうたは音へと手伝う事を自分から希望。それからカイトが頼んだハーブティーを持っていく事に。
「……くっ、キラッキランランしてて眩しい……。流石レジェンドアイドル。オーラが半端ないわ……」
うたのティーを持つ手はかなり震えており、カタカタとカップや容器は振動。影人はそんなうたを不安な気持ちで見ていた。
「おい、震えてるけど大丈夫なのかよ」
「だ、だ、大丈夫。このくらい平気だよ」
「一ミリもそう見えないんだけどなぁ……」
ひとまずどこかで転んで大惨事になるのは御免なので転んでしまってもフォローできる気持ちを持ちつつ、うたをそっと見守る。それから彼女は震える手で何とかカイトへとハーブティーの入ったマグカップを出していた。
「ふぅ……お待たせしました!ハーブティーです!」
「ありがとう。……おっ」
「は、はい!?」
「これ、とっても美味しいね!」
「(……凄いな。今のお礼の返し方。ごく自然に出てる。普通の人は店員さんへの感謝の言葉なんてあんまり返さない。そりゃあ、返す人もいるとは思うけどその方が少数派だ。あの良い慣れ方。他のお店とかでも日常的に返してるんだろうな……)」
影人はカイトの店員への対応の仕方も人に好かれる一つのピースになっていると考えた。そんな中、うたはカイトからのスマイルやファンサに思わずトレイを向けるとトレイはカイトからの光を受けて眩く輝くようにさえ見える。
「(咲良さんは完全にカイトさんの虜みたいだけど……)」
影人はプリキュアとしてアイドルをやってるうたやななでは圧倒的に勝てない程のアイドルとしての厚みをカイトは持っているのだと察し、彼のアイドルとしての力を改めて感じ取った。
するといきなり厨房の方からうたの父親の和が出てくると一大事を伝える事に。
「た、大変だ!!パスタが切れた。うちの名物ナポリタンが作れないなんて……。一大事だ。すぐに買ってくるよ!!」
そう言って慌てて駆け出した和。そんな彼を見て影人は半ば呆れたような目を向ける。
「いやいや、料理を作る人が買いに行ったらダメだろ……」
影人がそんな目を向けていると今度は音が財布を片手に出てくると彼女も慌てた様子であった。
「ちょっとお父さんったらお財布忘れてるって!うた、すぐに戻るから少しの間お店をお願いね!」
「はもりも行くー!」
「は!?待て待てそれをやったら……」
流石に影人はこの店の営業の要である両親が二人揃っていなくなるのはヤバいと母親を止めようとするが、目にも止まらぬ速さではもりと共に出かけて行ってしまった。
「……速っ!?そういや、初めてここに来た時も咲良さんの走るスピードがえげつなかったからなぁ……。むしろこっちが元祖か」
影人はその謎理論に勝手に納得すると現状に僅かだが危うさを感じる。今店にいる店員はうただけ。この状況で人が沢山来たら捌くのは難しいだろう。
「そういえば一人で大丈夫なの?」
「うん!この時間は殆どお客さん来ないから」
「……あっ。コイツ秒でフラグ立てたな。どうなっても知らないぞ?」
するとその直後に男性が訪れた。それ以降も連続して客が入ってくるとあっという間にお店はほぼ満員に。
「……うたちゃん。流石にこれは」
「フラグ回収早すぎだろ、これ」
「はわわわっ……」
このままでは店が回し切れずに大変な事になってしまう。そんな中だった。先にいてハーブティーを飲み切っていたカイトが立ち上がると声をかけてくる。
「大変そうだね。俺も手伝うよ」
「えっ!?そんな、悪いですよ!」
「……良いから任せて」
「でも……」
「うたちゃん。ここはカイトさんの手も借りよう。あと、私と影人君も手伝うから」
「ななちゃん、影人君……」
「おう、俺に任せ……っておい。俺を勝手にカウントすんなよ」
ただ、今回ばかりはうた達とは無関係のカイトが手伝うと言ってるのに自分が働かないのは自分の流儀に反するとして仕方なく受け入れる事に。こうして、一時的なアイドル三人プラス影人によるほぼ満員の客を捌くための共同戦線が張られることになった。
また次回もお楽しみに。