キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
場面は戻ってはなみちタウンの夏祭り会場。そこではななとレイが隣り合って歩いている。
「……レイ君」
「どうした?」
「もしかして、今日もレイ君のパパと何かあった?」
ななが浮かべたその顔には僅かに不安そうな視線が混ざっていた。レイは自分の表情にそれについて心配されるような要素があったのだと感じるといつも通りの調子で返す。
「心配しなくても平気だ。……今日に限って仕事の手伝いの予定が多かっただけ。勿論、意図的にじゃなくてただタイミングが悪かっただけなんだけどな」
しかし、レイは僅かに落ち込んだ様子を見せていた。何しろ自分の都合のせいで大事な日にななを待たせてしまったという事。加えて少しピリピリした姿を彼女相手に見せた事が申し訳なかったのだ。
「ううん。レイ君だって忙しい事は私もちゃんとわかってた。だから気にしなくても良いよ。そんな事よりもあれ見て!」
ななはレイがこれ以上自分を責めてしまわないようにするために話題を変えるとある場所へと指を指す。そんな彼女の視線の先にあったのはチョコバナナの屋台であった。それを見てレイはある事を思い出す。
「チョコバナナか……あ、確か蒼風さんってバナナが好きなんだよな?」
「うん。小さい時に連れて行ってもらった夏祭りとかでもよく食べてたんだ」
ななは前にプリルンへの料理を作った際にバナナが好きであると公言している。なので夏祭りの屋台でチョコバナナが好きと言ってもなんら違和感は無い。
「……じゃあ、早速食べるか?」
「うん!」
二人の目的は花火だが、真っ直ぐに向かってしまうと早く着いてしまう。なので、このように寄り道も楽しもうという事で早速買いに行った。
「いらっしゃい」
「チョコバナナを二つ」
それからななとレイはそれぞれチョコバナナを購入すると早速食べる事になる。
「はむっ……美味しい!」
「ななさんも大好物のバナナの前では顔も緩むんだな」
ななは大好きなチョコバナナを食べると顔を綻ばせる。彼女が美味しい物を食べる事で嬉しそうな顔をするのは普段あまり無い。だからこそレイはそんな珍しいななが見れて微笑ましさを感じ取っていた。
「蒼風さんは行きたい屋台とか他にある?」
「うーんっと……。じゃあ、あそこ行こ!」
ななが次に提示したのは金魚すくいだ。二人は頂上への道を進みつつその屋台の場所に行くと誰かが泣く声が聞こえてくる。
「ううっ……ぐすん……」
「ほら、泣いたらダメでしょ」
「うう、だって……金魚……」
二人が見たのはうずくまって泣いてしまっている幼い女の子とその近くにいた母親らしき女性であった。恐らく少女がここを通った時に金魚が欲しいと言い出すと母親が一回だけと言って少女が挑戦。しかし一匹もすくえずにポイは破れ、そのため、少女は泣いてしまったのだ。
そんな様子を見たななは泣いてしまっている少女の前にしゃがんで声をかけた。
「どうしたの?」
「うぅ……金魚……欲しいのに取れなかった」
少女がななへと泣きじゃくりながらそう言う中、少女の母親は他人に迷惑をかけるのは不味いと慌てて対応しようとする。そこにレイが話しかけた。
「大丈夫ですよ。俺達に任せてください」
するとななはお金を払うと金魚をすくうのに挑戦する事になる。少女はなながやるのを見て少しずつ泣き止むとそのタイミングを見て彼女が話しかけた。
「お姉ちゃん達に任せて」
「うん……」
ななは泣いている少女を助けるためにポイを手に金魚すくいに挑む。なながまずは取りやすそうな金魚を探す。狙うのはできる限り動き回っていない金魚が良い。
「………」
そして、ななはポイを水の中に入れると狙った金魚をすくいあげようとした。
「あっ!?」
しかし、金魚がポイに乗った瞬間。金魚が動いてしまうとその拍子にポイが破れてしまったのだ。これにより、ななは金魚をすくうのに失敗。少女の目にまた涙が浮かびそうになる。
「……じゃあ、今度はお兄ちゃんがやってみるね」
すかさずそこでレイがフォロー。ななは思わずレイの方を向くと申し訳なさそうな顔をしていた。
「レイ君……」
「気にすんな。俺がどうにかすれば済む話だし」
レイはそう言うと彼もポイを購入。今度はレイのチャレンジとなる。それから彼も狙う金魚を探す。
「良し……こいつかな」
レイはなるべく早めにターゲットを決めるとポイを沈める。それから自分からすぐには行かずに少しだけ様子を見た。
「………」
少女はそんなレイの手元をジッと見ていた。その瞬間、レイはあっという間にポイで金魚をすくうと手に持っていたお椀の中に入れる。
「!!」
「ふう……。これで大丈夫かな?」
レイは少女の望みを叶えるとその一匹を持ち帰り用の袋に入れてもらい、彼女へと手渡した。
「はい、どうぞ」
「わぁ……!」
少女は欲しかった金魚が手に入ってご満悦な顔になる中、少女の母親は改めて話しかけてくる。
「うちの子のためにわざわざすみません。ほら、お兄ちゃんとお姉ちゃんにお礼を言わないと」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。金魚をすくってくれてありがとう!」
少女は幼い口調ながらも自分を助けてくれたななとレイにお礼を言う事になり、母親からもお礼を貰うと二人は夏祭りの人々の中に消えていった。
「レイ君……助けてくれてありがとう」
「いや。蒼風さんがあの子を助けたいって思って声をかけたから……俺も彼女を助けようって思えたんだ。礼を言うのは俺の方だよ」
それでも僅かにななは申し訳なさそうな顔をする。本当なら自分の分だけで金魚をすくわないといけなかった。それなのにレイも巻き込んで彼の手も煩わせてしまったのである。
「本当にレイ君って何でもできるよね。正直、羨ましい」
「何でも……かぁ」
ななはレイが羨ましいと思っていた。彼も影人と同様に割とオールラウンダーな能力をしている。今回だって器用な手つきで金魚すくいをやってのけた。ななは能力が無いと一歩踏み出す勇気を持てても実際に助けようとした相手を毎回救えるわけでは無いと感じたのである。ただ、レイは違った。
「……俺は逆に蒼風さんの率先して誰かを助けようと動ける所、羨ましい」
「えっ……」
「俺は今まで周りの人を積極的に助けようとは思えなかった。まぁ、助けを求められたら流石に助けるけどさ。でも、家の事で自分の心に余裕が無いから他の人の困ってる場面を積極的に助けられなかったんだ」
彼の様子を見るにレイは自分への助けを求められれば助ける事はできるものの、自分は将来のために情報を集めたり人と上手く関わるのを勉強するので手一杯。だから他人の困っている場面で見て見ぬフリをした時だってあったのだ。
「だから蒼風さんがそうやって他人の困ってる場面を見たら勇気を出して一歩踏み出せる所が羨ましい。蒼風さんにその力があったからこの前ザックリーを助ける事ができたんだと思う」
ななはレイからの言葉に気恥ずかしいのか少し顔を赤くする。そんな彼女にレイが微笑むと二人は再度夏祭りの屋台が並ぶ道を進んでいく。
「そうだ。折角だからレイ君の夏祭りでの思い出を教えてよ。昔の事でも良いから」
「そんな事言っても人に話せるような思い出なんて……」
ななはレイの夏祭りでの思い出について聞いてみた。彼女も折角のチャンスなのだからレイについてもっと知りたいのだ。ただ、当のレイは少し複雑な顔を浮かべる。何しろ、昔の夏祭りの思い出となると家族関連の話になってしまう。
その話題だとあまり良い思い出を想像できないと考えたのだ。それでもここで折角のななからの話題を蹴ってしまうわけにもいかないので彼は少し考えてみた。
「……あ、考えてみたら普通にあるわ」
「ほんと!?じゃあ教えて!」
ななは嬉しそうにレイへと詰め寄る。そんな彼女をレイは一度落ち着かせてから話し始めた。
「オーケー、オーケー。話すから取り敢えず落ち着いて……」
「あ、ごめん……」
「確か俺が園児くらいの事だったかな。母さんと二人で夏祭りに行ったんだ」
それを聞いてななは少し疑問符を浮かべるが、丁度その頃はレイの父親であるハジメは事務所の社長として会社を成長させるために忙しい日々を送っていたのだと察する。
「俺はその日、父さんと約束してたんだ。三人で絶対に夏祭りに行こうって……」
「でも、レイ君のお父さんは……」
「うん。蒼風さんが察してる通り、父さんは仕事で忙しくて。だから俺と母さんだけで行く事になったんだけど、幼い俺はそれが受け入れられなかったんだ」
当時のレイは母親と二人で夏祭りに来たものの、祭りを100%楽しむ事ができなかった。理由は当然レイの父親が来てくれなかったからである。
「今でこそ父さんが忙しい事を理解しているんだけど、昔はそんな事もわからなかったからなぁ」
レイは父親が来てくれない事に不満を抱き、不貞腐れた顔のまま夏祭りの会場に到着。そんな彼を励ますためか、レイの母親は色々と楽しい話をして笑顔を取り戻そうとしてくれた。
「それでも俺は納得できなかった。……父さんは約束を守ってくれなかったって怒っちゃって」
「………」
ななも似たような経験はある。何しろ、自分の母親は世界的なピアニスト。そのため、大事な家族でのイベントになかなか来てくれない場面もあった。ただ、ななの場合はある程度彼女が成長してそれなりに分別がついてから。
レイの場合は幼い頃からずっとそういう事があったのだろう。大事な場面で父親がいなくて寂しがった事もこの時だけじゃ無いのかもしれない。
「でも、そんな中で母さんは俺が笑顔になれるように色んな屋台を回らせてくれた。金魚すくいや射的。輪投げとかの屋台の定番ものはそれなりにやったかな」
レイは母親に夏祭りの楽しさを教えてもらっている間に父親のいない寂しさは少しずつ薄れていった。その後にレイは母親と一緒に一番上の高台で花火を見る事になる。時間はもう遅く、花火も終われば本当に夏祭りが終わってしまうそんな時だ。
「……その時、やっと父さんが来てくれたんだ」
「!!」
「仕事で忙しかっただろうに、俺のためにわざわざほんの一瞬だけ時間を作ってくれたんだよ」
レイの父親は仕事で忙しかったにも関わらず、レイのためにほんの少しだけでもという事で仕事のキリを付けて時間ギリギリのタイミングで来てくれたそうだ。
幼いレイにとって遅かったながらも父親が来てくれたという事実はちゃんと心に響いたらしく。結果的に良い思い出としてレイの中に残ったようだった。
「思い返すと、父さんにも良い所があるのに……何でこんな大事な事忘れてたんだろ」
レイはここ最近父親へと悪い感情ばかりを向けてきたせいか、今回のような事例をなかなか覚えている事ができなかった。
「良かった……。レイ君、ご両親とも良い思い出があるんだね」
「蒼風さん、ありがと。思い出させてくれて」
「ふふっ。どういたしまして」
それからななとレイの二人は会話をしつつ山道を登っていく。道中に屋台もあるためその辺りにも寄りつつだ。
「わたあめ美味しい!レイ君も早く」
「ああ。今食べるよ」
レイはななに促される形でわたあめを食べると口の中に甘い食感が広がっていった。二人がわたあめを食べているととある屋台に気がつく。それはフランクフルトのお店……なのだが、そのフランクフルトのお店は一風変わっていた。
「何々……タコさんウインナーフランクフルト……へ?」
「変わった屋台もあるんだね」
その屋台で出されているのは、フランクフルトのような長いウインナーを串で刺した後でわざわざ下の方をタコさんウインナーのように切った物である。
「でもお客さんからは人気あるんだよね……」
「多分物珍しいから話題にもなりやすいんじゃないな?後は普通に美味しいとか」
「じゃあ、食べてみる?」
それから二人はその屋台の方へと向かっていく。しかし、そんな中で二人の視界に気になる影が映った。
「あれ?屋台裏に何か白い動物の耳っぽいの見えない?」
「うーん?どうだろ……」
しかし、二人の位置的にその場所は見えにくく。その物体が何なのかわからない。
その直後、屋台の店主が裏の方に行くと動物の耳っぽいのは慌てた様子でそのままいなくなってしまった。そんな挙動に二人は顔を見合わせる。
「まさかと思うけど……プリルンじゃないよね?」
「いやいや。流石に屋台に出される予定の商品を店主不在の間に勝手に食べたりはしないだろ……」
そんな事をやったら犯罪行為になってしまう。流石のプリルンでもそんな事はしないだろうと二人は目を逸らす事にした。尚その影は焼く前のフランクフルトを食べようとした所、丁度屋台の店主が裏の方に来たために急いで逃げ出したために色んな意味でセーフだった模様。
それから暫く経過して。ななとレイは山道の半分より少し越えた所まで登っていた。
「そうだ。花火の時間は大丈夫そうかな?」
「ああ。まだ時間はある。予定通り行けば花火が始まる前にはハートの木がある高台に着けるはず」
そんな時だった。夜の暗い空の色が僅かに変化したように見えたのは。同時にレイのスマホにメッセージが届く。
「っと、何だこんな時に……。あ、影人からか」
レイがスマホを開くとそこには影人から短くメッセージが添えられていた。その中身は以下の通りである。
“クラヤミンダーが出た。蒼風さんがそれに気づいてこっちに来ないようにそのまま上に連れて行ってくれ”
レイはそのメッセージに目を見開く。それと同時に色が変わっていた空がまた元の色合いに戻った。レイは今までこんな事象が無かったために困惑するものの、それを悟られないようにななの方を向く。すると彼女は運良くあまり気づいていない様子を浮かべていた。
「レイ君、どうしたの?」
「いや。何でもない。このまま上行くぞ」
「え?う、うん……」
レイは影人達がなな抜きでクラヤミンダー相手に戦う事にしたのだと察すると、同時に彼等は自分達の時間を壊さないようにしてくれたのだと考える。
「(影人……ありがと。蒼風さんは責任を持って頂上の方に連れて行く)」
レイはそんな決意と共にななへとあくまで普通に接するとデートの続きを進めていくのだった。
今回ななとレイのデートの裏側でクラヤミンダーが出ましたが、何故そのような事態になったかはまた裏側を描く回を作りますので今回はここまでです。それではまた次回もお楽しみに。