キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
喫茶グリッターでの交渉の後。バッサリーナは結果を保留にされたという事で一人グリッターから出ていく。その顔つきは多少落ち込んでいるようにも見えた。
「……やっぱりそう簡単には行きませんよね」
バッサリーナとしては今のうた達の反応を見てこのまま押し切れると一瞬思った。ただ、そこで田中から帰ってきた返事は保留の二文字。その結果に思わずあの場面で落胆してしまったのだ。
「流石にまだバレてないとは思いますけど……。でも、アイドルプリキュアが目の前にいたのに……」
バッサリーナは知っていた。自分の目の前にいる四人とプリルン、メロロンの六人がアイドルプリキュアその人であると。これに関しては昨日の時点でチョッキリーヌから情報を与える形で教えてもらったのである。
ただし、ソウルがソウルビートに進化した事に関してはチョッキリーヌも知らない事だったのでまだ知らないが。
「……やっぱり私に魅力を伝える才能は無いのかな」
バッサリーナは暗い顔つきをすると街中を歩く。すると頭に一瞬だけズキンという痛みがする。
「ッ……。今のは……」
その痛みはほんの一瞬だったお陰ですぐに無くなった。ただ、いきなり訪れたその痛みに彼女は困惑する。
「今の、何だったんだろ……」
バッサリーナは急に感じてしまった頭の痛みに困惑した顔を浮かべる。そんな時だった。そこに彼女を追いかけてきたレイが追いついたのは。
「バッサリーナさん!」
「ッ、は、はい!」
バッサリーナが慌てて振り返るとレイが彼女の前にしっかりと向き合う。それからレイが話しかけた。
「すみません、この後もお仕事があるのにいきなり追いかけて」
「あ、いえ。大丈夫ですよ。今日は会社への報告を終えたら帰宅しても良いのそうなので少しくらいなら」
バッサリーナが微笑んでレイと向き合う。その中でレイは彼女の様子を見ると何かを思ったのか改めて提案する。
「あの、バッサリーナさんに聞きたいことがあって」
「えっ?」
「この後、お時間はありますか?」
「それなら大丈夫ですよ。先程も言った通り、一時間とかくらいなら誤差の内なので」
バッサリーナの了承があったためにレイは早速彼女と共に話をするために近くにあったカフェに入るとそれぞれが飲み物を頼む。
「レイさん、中学生なのにコーヒーって大人なんですね……」
「ああ、これはうちの親がコーヒー好きなので似たんでしょう」
今、二人が隣り合わせで座っているカウンター席にてレイはコーヒー。バッサリーナが季節限定のフラペチーノを飲んでいた。
尚、レイは普通にブラックを飲んでいるためにバッサリーナは驚いた顔をする。それはさておき、レイは改めて会話の本題に入る事にした。
「それで、お話というのは……」
「いえ、そう大したものじゃないですよ。バッサリーナさんはアイドルプリキュアのファン……なんですよね?」
「あはは、そうですね。いつも動画を観て元気を貰ってます」
レイはバッサリーナ相手に他愛もない会話を始める。ただし、彼が話したのはアイドルプリキュアについてではあるが。
その頃、グリッターの方に戻るとうた達が話をする中で姫野が今回の事をレイの父親であるハジメに報告していた。
「……以上です」
『ご苦労様。わざわざすまないね』
「いえ、社長が私がいる事を容認したのはそういう意図があるのかなと」
『ほう?それは誰の予想かな』
「レイさんです。電話をする前にメッセージを送ってもらいました」
それを聞いてハジメは自分の息子がちゃんとやってる事が嬉しいのか少しだけ上機嫌そうな笑みを電話越しに浮かべた。
『なるほどね。それで、答えは決まってるのかな?』
「このまま行けば最終的には了承しそうではありますね」
『……そうか。私は正直反対かな』
「それはどういう理由で……」
ハジメは電話越しで反対の意見を唱える。それを聞いて姫野が目を見開くと聞き返す。
『……バッサリーナという子。恐らくだけど本当の名前は桜庭花さんだと思う』
「えっ……」
姫野は彼女の名前が偽名であると聞いて混乱する。何故ここでわざわざ偽名を使うのか、その理由について心当たりが無いからだ。
「それはどうしてですか?」
『それを私の口から言うのは簡単だけど……。ここから先はあの子達自身に考えさせよう。その上で彼女をどうするかを決めるのはレイ達だからね』
ハジメはその言葉を最後に姫野が何かを返す前に電話を切ってしまう。それを受けて唖然とする姫野。
「ッ……はぁ、社長……」
「……ハジメさんにお話していたんですか?」
そこに影人がやってくると話しかける。姫野は影人が来たために少し安心すると先程のやり取りについて簡易的に話す事にした。
「えぇ、話を全て聞いた後に社長に意見を貰いましたよ」
「そうなんですね。……社長には反対されたんですか?」
「ッ、やっぱりわかっちゃいますよね」
影人は姫野の様子からして反対されたことは何となく想像できた。そして、姫野もバレてるなら隠す必要は無いという事で頷く。
「ハジメさんの事なので反対するのかななんて思ってましたよ」
「ええ。ただ、反対した理由は何となくですけど自分達の利益が損なわれるから……だけでは無い気がします」
「わかりました。……今はひとまず、咲良さん達としっかりと話し合う事をしましょう」
「勿論です。こんなに大事な事、私達だけで軽々しく決めてはいけませんからね」
仕事モード状態の姫野が珍しく口元だけほんの少し微笑むと二人は他のメンバー達の元へと戻っていく。
そんな会話がグリッターであった頃。レイとバッサリーナの話も進んでいた。
「レイさんの推しはキュアウインクなんですね!」
「ええ。あの透き通ったような綺麗な歌声が好きなんです。まるで綺麗な泉を見ているような感じで」
「ッ!その表現、何となくわかります!アイドルプリキュアの清純派の枠って感じですよね!」
今はお互いに推しているメンバーについての話をしている所だ。レイはやはりキュアウインクを推しである。
「バッサリーナさんは?」
「私は箱推し派ですね。皆さんにそれぞれの良さがあって……。アイドルプリキュアとズキューンキッスソウルが別れちゃってるのが本当に勿体無いくらいですよ!六人の方がきっと……」
レイはバッサリーナからの言葉に苦笑いする。まだ世間に向けてアイドルプリキュアが六人チームになった事は解禁していない。だが、昨日新たに誕生した新ライブ曲の公開と同時に世間に二つのチームが合体した事。ソウルがソウルビートとしてリニューアルした事を伝えるつもりだ。
そして、そこまで話した所でレイはバッサリーナへとある話題を振る事にした。
「バッサリーナさんは本当にアイドルプリキュアがお好きなんですね」
「はい!アイドルプリキュアが世間に出始めた頃からのファンです!」
「……今のバッサリーナさん、凄い活き活きしてますよ。けど、だからこそ気になったんです」
「え?」
レイはアイドルプリキュアを語る時のバッサリーナが活き活きしている所を言った上で彼が話したい本題について入る事に。
「……バッサリーナさん、本音や感情を隠すタイプですね」
「本音や感情を隠す……」
「間違ってたらすみません。……ただ、今こうしてアイドルプリキュアの推しについて語っている時とさっき全国ツアーをプロデュースする話を持ち込んだ時。話し方が同じように見えて少しだけ違うって思ったんですよ」
それを聞いてバッサリーナは驚いたような目線を向ける。どうやらこの反応からして当たりらしい。
「何で……」
「俺も同じなんです。実家の事情で本音とかを隠して話す場合が多くて。だから何となくわかるんですよ」
「あはは……そうなんですね」
バッサリーナは苦笑いした。勿論先程までのアイドルプリキュアの話は嘘では無い事に加えて、まだチョッキリ団所属とバレて無いことからあくまでただのバッサリーナとしての話をする事にした。
「……実は私も実家が少し複雑な家庭で。だからですかね。本音を隠すやり方が身についちゃったのは」
「バッサリーナさん……」
「でも、アイドルプリキュアに向けるファンとしてのこの気持ちは嘘じゃ無いってハッキリ言い切れます!」
「えぇ、それは俺も同じですよ」
バッサリーナが笑顔を浮かべるとまた先程同様にほんの一瞬だけ痛みが走る。それにバッサリーナは少しだけ顔が歪んでしまう。
「ッ……」
「バッサリーナさん?」
「いえ、何でもありません!……レイさん。今日はわざわざアイドルプリキュア事を語ってもらってありがとうございました!」
「こちらこそ、楽しい時間になったのでお互い様です」
「それでは、全国ツアーの件のお返事をまた明日よろしくお願いします!」
こうして、二人は挨拶をすると別れる事にした。そんな中でレイは去っていくバッサリーナを今度こそ見送ると何となく先程の疑念の正体がわかりつつあった。
「(……やっぱり、さっきアイドルプリキュアの全国ツアーについて話していたバッサリーナさんの声色。カフェで話をしていた推し話と比べるとどこか申し訳なさが浮かんでた。……彼女かその裏にあるミュージカルガーデンのどっちか。いずれにせよ、あの全国ツアーを提案した裏には何かある)」
レイはバッサリーナが真面目で好きな事には熱心な性格である事を完全に見抜いていた。その上で今回の件には何かしら別の思惑があると悟ったのである。
「ひとまずは戻って相談……かな」
レイはバッサリーナの方に抱いた疑念についてある程度正体を突き止めるとグリッターへと戻っていく。そして、別れたバッサリーナはこちらも違和感を感じていた。
「……レイさんとアイドルプリキュアについて純粋に語り合う時間……楽しかったな。はぁ……。チョッキリ団じゃなかったら私はきっと……」
バッサリーナは何となく察していた。自分がチョッキリ団である事が己の気持ちの枷になっているのだと。チョッキリ団に入った事でファンとしてアイドルプリキュアに近づけたのは正解だったかもしれない。ただ、こんな偽りの気持ちで彼女達と接する申し訳なさが彼女の中に浮かびつつあったのだ。
「ううん。そんな事考えたらダメ。私は私の仕事をしないと。……そのためには」
バッサリーナがキョロキョロと周りを見渡すとその視線の先に他の人と比べて一段とキラキラに輝く人が見えた。
「ッ、本当に見えた。チョッキリ団の力ならキラキラを見分けられるって聞いたけどこんな風に見えるのね……」
そこにいたのは喫茶グリッターで常連をしている老人である城蓮司であった。彼の手には前に田中や姫野が入っていた温泉の割引券が握られており、もう片手に袋に入った何かの荷物を持っていた。恐らく、福引きか何かで当てた形だろう。
「まさかこんな所で温泉の割引券が手に入るなんてな。折角だし、日頃の疲れを癒しに行くとしよう」
「お爺さんか……でも他にキラキラは無さそうだし。本命のための肩慣らしはあった方が良いわよね……」
バッサリーナはこれからチョッキリ団として活動するならもっと大掛かりな作戦もやる必要があるとわかっていた。そのため、ここで自分の力の確認をしておかなければならないと判断。早速彼のキラキラを奪う事にした。
「えっと、こうかしら?あなたのキラキラ!オーエス!」
バッサリーナはチョッキリーヌに教えてもらったやり方で他の団員と同じように綱引きをすると蓮司からキラキラを引き抜いてしまう。
「うわぁあああっ!」
「さぁ、バッサリ行っちゃいましょう!」
勿論キラキラを引き抜かれた蓮司は叫んでしまうと赤いリボンが出現。そして、バッサリーナはそれを切り裂いてしまう。
そして、バッサリーナは片手に水晶、もう片手に蓮司の閉じ込められた闇のボールを持つとそれを合わせて叩きつける。
「来てください!クラヤミンダー!世界中をクラクラの真っ暗闇にして!」
「クラヤミンダー!」
バッサリーナが召喚したクラヤミンダーはやはり蓮司が先程割引券を手にした割引券を手にしたキッカケである回転式の抽選機をモチーフにした個体である。
「ふふっ。上手く行った。けど、チョッキリーヌ様が言うにはアイドルプリキュアはクラヤミンダーの出現を察知できるらしい。……じゃあ、さっさと話を済ませましょう」
バッサリーナは暴れるクラヤミンダーの元に行くと召喚主を見たからか、一度暴れるのを中断した。
「クラ?」
「クラヤミンダー、お願いがあるんだけど良い?」
「クラ!」
バッサリーナがそう言うとクラヤミンダーは片手でオッケーサインを作り、彼女へと見せる。そのため、バッサリーナは頷くとすぐに指示を出した。
「じゃあ、後お願いね!」
「クラ!」
バッサリーナはクラヤミンダーに伝言を残すとその場から急いで退避。そしてクラヤミンダーは相変わらず暴れていった。そしてバッサリーナが物陰に隠れるとそこからそっとクラヤミンダーを見る。
「ッ、クラヤミンダー!?」
「ダークランダーじゃないですね」
「と言う事はチョッキリーヌメロ?」
そこに影人達プリキュアが到着。相手が何故かダークランダーでは無くクラヤミンダーのため、影人達は少しだけ意表を突かれた顔を見せる。そんな中でバッサリーナは気になる単語を聞き取った。
「ダークランダー?……クラヤミンダーとは違うのかしら……」
ここでまた痛恨の伝達ミス。チョッキリーヌはダークランダーを知らないため、バッサリーナにまでダークランダーの話が行ってなかったのだ。そのため彼女はキョトンとしてしまう。
「誰が相手だとしても助ける事には変わらない」
「勿論!」
「絶対に助けるよ!」
だが、アイドルプリキュアは誰が相手だとしても容赦するつもりは無い。囚われた人々を助けるためにプリキュアへと変身する事になるのだった。
また次回もお楽しみに。