キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
アイドルプリキュアに全国ツアーの話が持ち上がった翌日。……奇しくも、それは夏休みの最終日だった。朝、音崎家のレイの部屋では目を覚ました彼が起き上がる。
「……んんっ」
それからレイは起きてからのモーニングルーティンをする中で昨日のバッサリーナの事について考えた。
「……どうやって彼女の心を救うべきか」
レイは昨日のバッサリーナの話を聞いて、更に彼女の苗字からバッサリーナ自身の抱える事情も何となく推察。ある程度の答えには辿り着いた。ただ、結局考えてもバッサリーナを救う方法なんて出てこない。
「結局、俺がバッサリーナさんと似たような問題に対して出した答えは自分が吹っ切れる事だったからな」
結局の所、バッサリーナの進む先を決めるのは彼女自身の決定次第でしかない。
「まぁ、なるようになるか」
レイはあまり難しく考えるのも時間の無駄になると判断。そのためこれ以上は考えないようにして準備を進めていく。
一方のバッサリーナも起きた時から思い詰めたような不安そうな顔を浮かべる。
「はぁ……。私の中の迷い……」
バッサリーナが胸に手を当てるとやはりざわめいている感覚がずっと止まらない。
「……わかってるわ。そんな事くらい……。レイさんにも何となく見破られちゃったし」
それから彼女は気合入れとばかりに自身の頬を両手で同時に軽くペチペチと叩く。
「……今日こそはアイドルプリキュアを捕まえる。世界中を真っ暗闇にして……私の目標を叶えないと!」
彼女はそうやって己の中の迷いを無くすように自分に言い聞かせる事で気持ちを保っていた。しかし、そんな気持ちとは裏腹にバッサリーナの中にある迷いの気持ちは消えるどころか更に増してしまう事になるのだが……。それはさておこう。
そして、時間が経ってお昼時。喫茶グリッターの方は普通にお店がやっていた。流石に二日連続でこの時間が空くなんて事は無い。そのため、田中はいつも通りにグリッターでのバイト中。
彼の代わりに姫野が仕切る形で影人達学生組がグリッター二階のスペースで待機。プリルン、メロロンは当然人形のフリ。そして姫野が階段付近でやってくるバッサリーナを待つ形を取っていた。
「バッサリーナさん。来るかな」
「きっと来ますよ。真面目そうな方でしたし、私には分かります。あの目は推しのために全力で頑張りたいっていう決意がありましたから」
うたの心配にこころがこちらもやる気十分と言った反応を示す。そして、そんな中でななはレイへと小声で声をかける。
「レイ君、答えはさっき出してくれた物で良いんだよね?」
「ああ。変更は無い」
この時、レイは既に影人達他の人にも自身の意見を話していた。そして、その上で納得もしてもらっている。
「プリルン、メロロン。一応二人には人形でいてもらうから。動いたらダメだし喋るなよ?」
「勿論プリ」
「ねえたまと一緒にお人形さんになるのメロ」
「皆さん、来ましたよ」
そう姫野が告げるとバッサリーナが到着。姫野が自然に出迎える形で彼女を二階にあるスペースへと連れ出す。加えて、バイト中の田中がうたの両親への補足説明を入れた。何も説明が無いと二人からしてみたらバッサリーナはお店に来てくれたお客さんなので、大事な話の途中に介入されてしまうリスクが出る。
そのため、田中が予め二人に説明を入れる事でその辺りでの事故を防ぐ目的があるのだ。
「バッサリーナさん。お忙しい中で何度も申し訳ありません」
「いえ、私も今回の全国ツアーに関してはいきなり決めてもらえるなんて事は考えてませんでしたし。ゆっくり考えてもらえるならその方が良いですから」
それからバッサリーナは目の前にあるテーブルの所の座敷に正座する。それを見てレイが優しく話しかけた。
「足は崩してても大丈夫ですよ。長々と話すかもしれませんし、正座なんてしてたら辛いでしょうから」
「えっ……あっ、わかりました。お気遣いいただきすみません……」
それからバッサリーナが改めて座り直す。今現在の配置はグリッター二階にあるテーブルを取り囲むように影人、レイ、うた、なな、こころの五人が着席し、一番廊下に近い場所にバッサリーナが座っている。勿論、バッサリーナは客側なので、五人はできる限り彼女の周りから離れた位置だ。そして、姫野が座敷の外で立ったまま話を聞く形である。
「あの……マネージャーの田中さんは……」
「田中さん、実はアイドルプリキュアのマネージャーに加えてここでも働いてて。なので今日は田中さんの代わりにマネージャー見習いの俺達が話をします。それと、姫野さんもいますしもし俺達が子供だという事を心配するのでしたら姫野さんを信用してください」
「は、はぁ……」
バッサリーナは困惑した顔を浮かべる。プロデューサーとして子供が交渉相手になるという事に困惑するのは仕方ない事だろう。何しろ、自分達の仕事は責任が必要な物だからだ。
「そちらの事情はわかりました。それで、田中さんの出された答えというのは……」
「いえ。その前にです。……バッサリーナさん。まずはあなたの本心から聞きたいです」
レイに言われてバッサリーナは目を細める。やはり前日の時点で本心を隠しながら話している事は見抜かれたために想定範囲内だったが、それでもやはり実際改めて言われると心に来てしまう。
「本心……」
「まず、どうして偽名なんて物を使ったんですか?」
「ッ!?」
レイはバッサリーナへと偽名について問いかけた。そして、それはいきなり彼女の核心を突いたのか動揺の顔つきを浮かべてしまう。
「ぎ、偽名だなんて……」
「あなた、桜庭花さん……ですよね。うちの会社のオーディションを受けていただいた」
「あ……あぁ……」
バッサリーナは素性まで完全にバレてしまったと顔つきが固まってしまう。そしてそれが彼女が偽名を使っていた何よりの証拠になってしまった。
「ッ、違うんです!私はあなた達を騙すつもりで偽名を使ったんじゃ……」
「……そうだと思いますよ。バッサリーナさん、あなた……ミュージカルガーデンの社長さんの一人娘……ですよね」
レイはあくまでバッサリーナへと偽名を使った事を責めるような言い方では無く、彼女を安心させるような優しい言い方で問いかける。
「……はい。やっぱり、バレちゃいましたね……」
バッサリーナはレイの話し方からしてチョッキリ団に自分が関わっている事自体は分かってないと判断。そのため、既にバレてしまった素性を使ってそちらを隠す事にした。
「ッ、私達はレイ君から話を聞いていたんですけど……本当なんですね」
「ええ。でも大した事ないですよ。ただその家に生まれてきただけ。むしろ、そのせいで不自由な事もありますし……あはは……」
「……例えば、自分の好きな夢を追いかけられない……とか?」
「ッ……な、何でそこまで……」
バッサリーナが苦笑いしていると影人が更に核心を突くような指摘をする。そして、バッサリーナは案の定困惑した。
「やっぱりそうですか。……レイ」
「ああ。……実は俺も親に夢を追いかけるのを止めさせられた人なんです。だから、バッサリーナさんの気持ち。全部とは言わないですけど、わかるんです」
レイはバッサリーナと同じで親であるハジメからの圧力が原因となり、大好きなバスケを止めさせられた。だからこそバッサリーナの気持ちが多少はわかるという事である。
「……何がわかるって言うんですか……」
するとバッサリーナは明らかに落ち込んだ様子で小さく呟く。その顔つきは先程までの推しや大好きなアイドルプリキュアに賭ける情熱が全て消え去ったようであり、まるで全てに絶望したような顔をしていた。
「……あなたが私の事を知ってるように、私もあなたの事は父から聞いてるんですよ。あなたは同じ止めさせられたでも、才能があるから……。バスケが上手いからこれ以上上手くなって引き返せなくなる前に止めさせられたんでしょう……?私にはそんな物無いんですよ……」
そんな風に自分語りをするバッサリーナの瞳に光は無く、闇に染まったような様子である。それから彼女は更に続けた。
「私には夢があるんです。……アイドルとして、女優として、ダンサーとして……とにかくキラキラ眩しいステージに立ちたい……。そんな人になりたくて頑張ってきた。それこそ学生の頃からそれだけを目指して。でも、私には才能が無いって言わんばかりに……どれだけ受けてもオーディションに受かる事は無くて。もう大人なのにずっと無職のままでした」
バッサリーナの自身の見た目からして20代前半くらいだという事は見て取れるのだが、新人として芸能界入りできる一般的な限界年齢に……彼女は差し掛かろうとしている。
つまり、もう彼女には後が無いのだ。青春全てを芸能界一筋に捧げてしまったせいで、今後の就職で有利になれるような要素が何も無い。
「……バッサリーナさんって、この感じだと幼い頃のカゲ先輩によく似てますね」
「ああ。けど、違う点を挙げるとすれば……バッサリーナさんには立て直すための時間が無い事だろうな」
影人も幼い頃に芸能界を志して失敗。己の輝きと頑張る活力を失ってしまった。今のバッサリーナはそうなってしまう直前の影人とよく似ている。頑張っているのに成果が出ず、焦って希望を失いかけている。
ただ、その時の影人は年齢的に幼かったからこそこうやって心を立て直すだけの時間的余力があった。今のバッサリーナは彼のように立て直せるだけの時間的な余力なんて物は無い。
「そんな時です……。諦めそうになって……折れかけていた私を救ってくれたのがアイドルプリキュアだったんです」
バッサリーナがオーディションに落ち続ける中、あと少しで心が折れそうになってしまったその時。そこに一筋の光を与えてくれたのがアイドルプリキュアのショート動画だった。その日から彼女はアイドルプリキュアのファンになったのである。
「私が目指した女優みたいにキラキラしてて。眩し過ぎるくらいに私の心を照らしてくれた。彼女達の存在がもう少しだけ頑張りたいって気持ちにさせてくれたの」
バッサリーナは最後の望みを賭けるかの如く、気力も体力も振り絞った。……だが、それでも閉ざされた合格という扉は沈黙を保ったまま。バッサリーナが日の目を浴びる時は遂に訪れなかった。
「……つい数日前、実家の家族から連絡が来ました。とうとう夢を追いかける日々は終わっちゃったんです。今まで私がオーディションに集中できたのは家族の支援があったからで……それも打ち切られてしまって……」
バッサリーナは拳を握り締める。結局、彼女は夢を叶えられないままに実家に援助を打ち切られてしまった。
「こうなったら私には実家に戻って、そこで働くしかありません。だからこうして、アイドルプリキュアのプロデューサーとして……」
バッサリーナはそう言うと自身がアイドルプリキュアのプロデューサーをやろうとした経緯を強引に終えようとする。そのタイミングでレイは溜め息を吐いた。
「はぁ……。バッサリーナさん」
「はい……何でしょう?」
「また俺達に本当の事を隠しましたね」
レイはバッサリーナへとジト目を向ける。そろそろ彼女には本音で話して欲しい所だった。そのため、影人がそんなレイの事も考えて更に追撃する。
「バッサリーナさん……俺達にそんなに話せない事って何ですか?まさかと思いますけど、この全国ツアーの提案自体が嘘って事ではありませんよね?」
「ッ……それは……」
「……あともう一つ。数日前に家族からそうやって言われて会社に戻ったばかりなのに……何でもうプロデューサーをやれてるんですか?」
バッサリーナは影人から言われて完全に先程の話が裏目に出てしまったと悟る。先程の自分の身の上話は実際の所本当の事だ。しかし、だからこそそこで矛盾が生じてしまう。
本来プロデューサーという仕事は簡単に任せられる役職じゃない。まずは他のプロデューサーの下に付き、数多くの経験を積んだ上で実力が認められるとようやく任せられるようになる。幾ら事務所の社長と一人娘だからってやれるような仕事でも無い。
だからこそレイもハジメから中学生の今のうちに少しずつ会社での仕事に慣れるように教育を施されているのだ。
「こ、これは……えと……」
バッサリーナはとうとう不味いと察してしまう。こうなると影人達からの疑惑の視線は免れない。このまま何も言えなければ話を断られてしまうだろう。どうにか弁明しようとするが、良い言葉が浮かばずにバッサリーナは弱り果ててしまう。
「……バッサリーナさん」
このタイミングでレイは改まるとバッサリーナへと改めて向き合うと話を持ちかける。
「はい」
「これでもまだ、バッサリーナさんの本音を隠すんですか?アイドルプリキュアの全国ツアーが嘘だという事も……」
「……」
レイは既に答えに辿り着いていた。彼女は自分達を騙すために近づいてきたのだと。ここまで聞かれてもハッキリ答えられないのであればもう交渉の余地無く断られても仕方ない。
「あの!私、バッサリーナさんが色々あって嘘を吐いた事。とても悲しいです。……けど、アイドルプリキュアの全国ツアーをプロデュースしようとしてくれた事。とても嬉しかったです!それに、推しの事を語るバッサリーナさんの情熱が……全部嘘だなんて、私達には思えません」
「私もですよ。凄く心がキュンキュンしました。このまま嘘のまま終わりだなんて……嫌ですよ!」
そして、うたやこころも口々に言うとななも真剣な目線を向ける。するとバッサリーナは俯くと心の中に様々な気持ちが湧き上がってきた。そして、彼女はある事を考える。
「……わかりました。私の本当の事を話します」
バッサリーナがそう言うと懐からダークランダー召喚用の赤い水晶を取り出し、一同に見せるとその場の全員が目を見開く。
「ッ、それって……」
「もしかしてチョッキリ団の……」
「……ええ。チョッキリ団の水晶です。……皆さん、お手数をかけますが、ここから先の話は別の場所でしましょう」
バッサリーナにそう言われては影人達も断れない。彼女がここで暴れられるよりはマシという事でバイト中の田中とそのまま交戦する可能性を考慮し、姫野も残して全員が場所を移動する事になるのだった。
また次回もお楽しみに。