キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
影人の心に色々と嫌な予感が浮かんでいたその時。テラは一人、波打ち際の方に進みつつアマスに対して思う所を口にする。
「……いきなり姿を消したアイドルも大概だけど、アマスもアマスで女神のくせに弱いわよね。他人の歌や踊りに一喜一憂するなんて」
「そんな事無いよ!好きなものは気になるじゃん!ねっ?」
「メロ!メロロンはねえたまや影人が嬉しいともっと嬉しくなるし、悲しいともっと悲しくなるメロ」
「好きな物に対して気持ちが上がったり下がったりする事は感情を持ってる者達にとっては十分あり得る話だと思う。テラだって嬉しい事、悲しい事。それらに対応する気持ちになるくらい、様々な感情があるだろ?」
テラは他人によって気持ちが左右されてしまっているアマスは神様として弱いと断定。しかし、影人達はアマスにだってそういう感情はあって当然だと思っている。
「神様にだって気持ちはある。どうしてもダメな時だってあるはずだ」
「けど、そのせいで私達は……」
「だったら、今度は俺達がアマス様の事を助ければ良い」
それを聞いてテラは僅かに顔が歪む。自分はアマスと会ってはいけないとさっき言ったばかりなのに何故会うように仕向けてくるのか意味がわからないのだ。
「あのねぇ、さっきも言ったけど私は女神と会ったらいけないの」
「それはあくまで気がする……ってだけだろ?そうやって言い訳して逃げるつもりか?それじゃあ、いつまで経ってもヤミクラゲの脅威は終わらないぞ」
「そんなのわかってるわ……でも……」
「はいはい、暗い話はここまでここまで!」
テラは影人からの言葉に核心を突かれているせいか、少しずつ観念したような顔になっていく。そこにうたがこれ以上変に暗い雰囲気にするのはダメと言わんばかりに介入。話を強制的に終わらせた。
「今は伝説のアイドルを捜す事が一番やるべき事だよ!」
「……そうだな。すまん、雰囲気を悪くして」
その頃、村にいるなな達の方では彼女達も伝説のアイドルを見つける方向で方針が固まっていく。
「アマス様、話を聞いた感じだと伝説のアイドル笑顔に力を貰ってたんだよね」
「はい!推しがいてそのアイドルから元気を貰ってる私にはわかります!推しはファンに力を与えてくれるんですよ!」
こころはそう言いつつ片手でキュアウインクが名乗りの際にやっている“お目目パッチン”のポーズを取ってみせる。
「そうだね!」
「頑張って伝説のアイドルを見つけましょう!むしろ、そこでカゲ先輩達を待つというのも良いですね!」
「ふふっ、確かにそれも面白そう」
「プリ!」
すると三人がふと空から先程まで無かった無数の光のような物を感じて見上げると何かに気がついた。
「「わぁ〜!」」
「プリ〜!」
そのほんの少し前、影人達の方ではテラが話も大体終わったという事で寝床に戻ろうとする。
「まぁ、あなた達は伝説のアイドルの事を捜すのでしょうけど……私は降りるわ。せいぜい頑張って。やっぱり私には自分の気持ちを他人任せにするなんて、さっぱりわかんないわ」
「ええ〜。影人君が折角話してくれたのに……」
「まぁ、ここまで話をしてダメなのなら仕方ないだろ。嫌がるテラにこれ以上強要するわけにもいかないし、今日は一旦諦めよう」
テラはやはりどうしてもアマスが他人の影響でここまで心境が変わった事がわからないようで。それは先程影人が話をしてもダメだったようだ。
「言ったでしょ?私、アイドルなんか嫌いだって」
「テラちゃん……」
そんな時、月明かりに照らされていたはずの空がいきなり暗くなる。それを受けてメロロンが驚きを見せた。
「メロ?いきなり暗くなったのメロ」
「月が隠れたのよ」
「わぁ……」
月が隠れたことで月明かりによる明るさは消えてしまった。しかし、空の光景は月とは別の物で光り輝く。影人達三人が空を見上げるとそこには満天の星空が広がっていた。そして、先程なな達三人が見ていたのもこの空である。
「満天の星!」
「凄いです!」
「プリ〜!プリルン、ここまで綺麗な星空は見た事が無いプリ!」
何しろ、人々が沢山住んでいるような街中では夜も街の明かりがあるために大体の場合星空が見えてもここまで綺麗にはならない。恐らく、今のアイアイ島も無理だろう。1000年前、まだ村やその明かりが小さい今だからこそ見える星空だった。
「キラッキランラン……」
「メロ……満天の星空、隣にいなくともあなたと私……きっと同じ空を見てる」
場面が影人達の所に戻り、メロロンのポエムがいつも通り炸裂した所でうたは思わずこの空の輝きを受けて歌い始める。
「瞳にはStar願い星がある〜♪目を伏せたってもれる光〜♪」
その静かな立ち上がりからテラを魅了するかのようにそっと語りかけるような優しい笑顔で彼女へとアイドルスマイルを向けた。
「いまここでキミが背中を向けても♪何度も何度でも笑いかける〜♪」
それはまるで、アイドル嫌いのテラがどれだけアイドルに対して背中を向けたとしても振り向いてくれるまで彼女の心に優しく響かせるような物だった。
「大好きとか、大切とか♪キミに届けたい〜♪世界はほら、こんなに今♪キラッキランラン〜輝き始めてる〜♪」
そして、そんなうたの語りかけるような歌に心なしかテラの気持ちは無意識にそちらへと引っ張られ出した。その瞬間、雲に隠れていた月が出てくるとそれがスポットライトのように地上を……いや、うたを照らし始める。少なくともテラにはそう見えていた。
「歌って、踊って♪あふれる想い〜♪喜ぶキミを見ると〜嬉しくなる♪」
そして、うたはテラの周囲を舞い踊るように動きつつ歌を継続。それはまるで、伝説にあった巫女が女神に歌や踊りを届ける光景にも見えた。更にうたの姿は月の光の影響で普段以上に眩しく輝きを放つ。
「笑って、笑って〜♪場所はどこでも〜♪」
そして、テラもそんなうたの姿に完全に見惚れており、メロロンも楽しくなったのか思わずダンスするような仕草を見せる。影人も体を横に揺らしつつリズムを取っていた。
「心が動くとこに、笑顔はツナガルから〜♪」
最後にうたは自身に見惚れてくれたお礼と言わんばかりにアイドルスマイルをしつつ手を差し伸べるとテラがそれを握った。
うたの歌が終わる頃、村ではなな達が眩い星空の下に立ちながら話をする。
「アイドルって不思議だよね。“歌手”じゃなくて“アイドル”。その違いって何なんだろうねって」
「確かに、不思議ですね!」
「プリ。キュアアイドルはキラキラしてるプリ〜!」
「あはは。そりゃキュアアイドルはキラキラしてますけど、今はその話とは違いますよ」
「プリ?」
確かに歌手もアイドルも本質は似たような物だ。客の前で歌を披露して魅了する。勿論アイドルの方が大人数だとかダンス等のパフォーマンスとかそういう面で気を引きやすいのはあるかもしれない。歌手に無くてアイドルにある物。それが何なのか気になるななとこころであった。
尚、プリルンはいつも通り二人の話に理解が追いついていなさそうだったが。
そんな三人の事はさておき、握手をしたうたとテラの場面へ。そこではテラがうたの歌に魅了されてボーッとしていたが、自分が何をしているのか気がつくと慌てて手を離す。
「……んぐっ!?ああっ!な、何で私……」
「アレだけアイドルの事を嫌っておいてうたの歌だって聴く前に拒否してたのに、実際に聴いたら虜になって。案外可愛い所あるよな、テラってさ」
「う、煩いわよ!」
「こいうのをツンデレって言うのメロ」
「それはメロロン自身にもブーメラン刺さるんじゃないのか……?」
影人とメロロンがコソコソと話をしているとうたは改めてテラへと話しかける。
「私ね、アイドルプリキュアになって歌って踊ってファンサして。誰かをキラッキランランにできる事が凄っごく嬉しくて楽しくて。この気持ちをテラちゃんにも届けられたらって思う」
うたは両手を眩しく光り輝く月に向けて掲げるとそれからテラに向けてキュアアイドルのポーズである独特なハートマークを作ってみせる。
「私……か、簡単にあんたをその……推し……とかしないからね!」
「本当にテラってツンデレ属性が強いよな」
「素直じゃ無いのメロ」
しどろもどろでうたに背中を向けつつ素っ気ない対応をするテラを影人達は微笑ましい目で見ており、うたは人懐っこい笑顔でそんなテラへと視線を向けていた。
「さてと、明日こそ三人を探しに行こうか」
「うん!」
「メロ!」
それから影人達三人は寝ることになった。ただ、テラはただ一人……僅かに懸念点があるような顔つきをしていたが。
「(そろそろこの子達にあの事を言わないと……だけど、一晩くらいなら……)」
テラのこの判断が後々裏目に出ると彼女は知らず、三人はそのままここで寝ることになった。
その日の夜、うたは再び夢を見る。そこでは昔懐かしい昭和のようなステージの上で脚光を浴びる伝説のアイドルの子とその隣に並ぶ水色の衣装の子。その子はステージを降りると不安そうな目を向けていた。
「う、Utako。私……大丈夫だったかな……」
「大丈夫だって。Kotone、凄くキラキラしてたよ!」
うたはその夢を見ながらKotoneという名前にどこか親近感や聞き覚えのような何かを感じる。そんなうたの気持ちを他所にKotoneは客席から聞こえる鳴り止まない拍手の音にホッとしたような顔を向けた。
「Kotoneの歌も私は素敵だと思うんだけど、本当に良かったの?私のハモリばかりで」
「良いよ、私にはUtakoみたいに神様をも魅了できるような歌声なんて無いし」
「神様って、ちょっと大袈裟すぎない?」
Utakoは謙遜するKotoneに向かって微笑むと彼女の顔を見て改めて向き合うと話し始める。
「Kotone、今度海に行かない?」
「う、海!?で、でもこの前コンサートのついでで……」
「アレは遠くから見ただけでしょ。泳ぎたいの。あなたと一緒に」
「……私、多分泳ぐの下手だよ?」
「そのくらい良いじゃん。私はKotoneと一緒に海で時間を過ごしたい。これからもっと忙しくなるし……今くらいだよ。私達がアイドルでいる間にゆっくり時間が取れるのも」
実際の所、UtaKotoneとして爆発的な人気を記録し始めてから数年。既にスケジュールはかなり埋まりつつあるし、これからアイドルとして現役でいられる数年が勝負なのは間違い無い。だからこそUtakoはアイドルでいられる間に二人で遊びに行きたかった。
「それで、Kotoneはどうしたい?」
「……私もUtakoと遊びに行きたい……」
ボソボソとした声だったが、Utakoはそう言ってくれた彼女に嬉しかったのか。Kotoneへと抱きつくと背中を優しくさすりながら約束した。
「そっか。Kotoneがそう言ってくれて嬉しい。じゃあ決まりだね」
それから二人は一緒に海水浴に行った。……しかし、その際に二人は突如として荒れてしまった海に攫われてしまう。そして、Utakoが次に目を覚ますと知らない島に流れ着いていた。
「(Kotone……帰らなきゃ……Kotoneは寂しがりだから……早く自分達の生きてた時代に戻らないと……)」
Utakoはアマスと謁見した際にどうにか元の時代に帰る事を伝えようとする。ただ、その前にアマスはアイドルがどういう物か見せて欲しいと言われてしまった。
「アイドル……それは一体何なのか。実際にやって教えてもらえるかしら?」
「わかりました」
Utakoはこの時、Kotoneの元に戻りたいという気持ちを抑えると全力でアイドルとして歌い踊る。ここで下手な歌や踊りを見せればアマスに気に入られる事は無かったかもしれない。ただ、ずっと自分の歌と踊りで観客を魅了し続けてきたUtakoにとって、アマスも立派な客の一人。
客の前で手を抜くなど彼女自身のプロとしての気持ちが許さなかったのだ。そしてそれは……女神アマスのお眼鏡にかなってしまった。
「凄い……あなた、これからもこの島で歌と踊りをして欲しいわ。島の皆もきっと気に入ってくれるから!」
「ッ……。わかりました!」
「ずっとずっと、一緒にいようね!約束よ」
「はい!私も女神アマス様のために歌うとお約束します!」
そしてこの時、Utakoは元の時間軸にKotoneを残した状態でこの島にずっといる事を約束してしまった。そのくらい、アマスの気持ちにプロとして応えたいという気持ちが勝ってしまったのだ。勿論Kotoneが元の世界で独りぼっちになってしまう懸念点もある。しかし、彼女なら上手くやれる、Kotoneの歌ならきっと誰かの心に響くと信じてUtakoはこの島に残る道を選んだ。
それからUtakoはアマスには戻りたい気持ちを絶対に悟られないようにするために全力で歌い続けた。アマスがそれを知ったらきっと悲しむから。そしていつしか、Utakoはアマスに対してもKotoneに向ける感情と似たような物を抱くようになっていく。恐らく、長い時間を過ごす内に彼女に対しても情が湧いたのだ。アマスの事も一人にさせたく無いという……そんな気持ちである。
そしてUtakoの胸に浮かんだその情が……アマスにとっての不幸をもたらすとわからずに。
うたはその状況を見ているといきなり頭の中に声が響き出す。それは前日と同じく彼女を呼ぶメロロンの声だった。
「うた!起きるメロ!」
「ああ……あと5分……」
うたはメロロンから起こされてもまたもやいつもの寝坊癖が発動。起きる事ができなかったためにメロロンが慌てて声を上げる。
「ダメメロ!」
「嘘だろおい……咲良さん!早く起きろ!生命エネルギー吸われて石になるぞ!」
影人がどうしても起きないうたを見て彼女をゆすり、メロロンも頬を引っ張る形でアシストする。
「んん〜……ふぁああ……」
うたはここまでしてどうにか目を覚ますと起きる事ができた。彼女が寝床から出ると緊急事態を前にしてメロロンの手によって眠りから起こされるという前日と似たような流れに既視感を覚えるうた。
「あれ〜?何か前にもこんな……」
「寝ぼけてる場合か。目の前見てみろ!」
「え〜目の前……って……ええっ!?」
寝ぼけたうたや彼女の近くで構えている影人達の前にいたのは海から姿を現して砂浜に上陸してきていた無数のヤミクラゲである。
「ヤミ〜」
「ヤミ〜!」
「えーっ!?何これ、何これ?どうしちゃったの〜!?」
「お前本当に朝に弱すぎだろ。俺達がいなかったら眠った状態のまま石化して一生起きられなくなるやつじゃねーか」
うたが大慌てでメロロンをゆするが、そのメロロンは呆れたような目線をうたに送り、影人も同じく呆れた声で話すとうた達と共に目の前にいるヤミクラゲ達と対峙することになるのだった。
また次回もお楽しみに。