キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
それから玲音からの指導の元、影人達はアカペラ練習に打ち込む。ただ、やはりプロ目線の視点を持つ玲音からすればまだまだ影人達の歌には改善の余地が残っていた。
「今の合わせで思った事を指摘するね。まずはうたちゃん。うたちゃんは普段高音を歌っているのに慣れている影響か、低音の中でも上の方になりがちって言えば良いのかな。同じドの音でも厳密にはドの範囲の中で無数に音があるんだけど……」
「え?え?どういう事?」
うたは玲音からの表現が意味不明に感じてしまったのか混乱。そのためななが補足する。
「つまり、ドの中でもレよりのドと下のシ寄りのドがあるって事だよ」
「そうそう、そんな感じ」
「そういう事か!」
「それで、うたちゃんの場合はどうしても高音寄りの場合が多くて。そうすると、やっぱり微妙にハモれない原因になっちゃうから……もう少し下げる事ってできそう?」
「頑張ってみます!」
うたは元気良く返事を返す。玲音としてはうたのこの何事にも前向きな性格にはとても助かっている様子だった。
「(……うちの部活のウタもこの子みたいに前向きでいてくれると少し気持ちは楽なんだけどなぁ……)」
玲音は自分の部活に所属する嬉歌の方はとにかくネガティブ思考な人間であるために少しだけこちらのうたに羨ましさを持つ事になる。
「次はななちゃんだけど、ななちゃんは高音の音はしっかり出せてるイメージだから今度はその高音に透明感を持たせてみようか」
「透明感……」
「そ、折角ななちゃんの声はプリキュアの時も透き通った声を売りにしてるんだし……聴いた時にスーッて響いた方が気持ち良いでしょ?」
「確かに……気をつけてみます!」
高音パートである1stはコーラスの中でも特にイメージに残る。その際に汚い響きよりも綺麗な響きの方が受ける方の気持ち良さが段違いなのはもう今更語るまでも無いだろう。
「夢乃ちゃんは基本的に1stだけどリードを歌う場面もあって。ちょっとまだ切り替えがぎこちない感じがするかな。というか、もしかすると歌い方がそんなに変わってないって言った方が良いんだろうね」
「歌い方が変わってない……」
「そ。リードと1stは全く別物として歌うべき所で二つの歌い方がほぼ同じになってしまってる。あまり良くない事だからあくまでリードはリード。1stは1stで歌えるようになるともっと上手くなると思う。また個別でアプローチは教えるから一緒に頑張ろ」
「はい、お願いします!」
夢乃はパート切り替えの際にどうしても似たような歌い方になりがちであるという弱点があった。他のメンバーはコーラスからコーラスだったり、うたのように低音の3rdと主旋律のリードなのでわかりやすいために余計に夢乃の切り替えが目立つのだろう。ちなみにこれはプリルンことぷりんにも言えたりする。
「こころちゃんは改めてだけど他の音に引っ張られてる所だよね。多分前々から言われてる指摘で今はその頃と比べると改善はされてると思うんだけど」
「はい……。でも自分の上にも音があって、下にも音があるってどうしても釣られちゃいますよ」
「うーん、ここはアイリ……うちの部長ならもっと上手いやり方がわかるんだろうけど……。こころは自分の歌に自信はある?」
それを聞いてこころのアホ毛がクエスチョンマークになる。つまり、今回の質問の意図がわかってなかった。
「えっと、それってどういう意味ですか?プリキュアとして歌うときとか他の場合はは自信を持ってると思いますけど……」
「私の勝手な予想にはなるんだけど、こころちゃんの歌って自分一人の時は自信持って歌えていて。ただうたちゃん達他の皆と歌う時は心の中にどこかセーブがあるのかわからないけど思いっ切り歌えてないようにも見えるんだよね」
それを聞いてこころは目を見開く。そして、改めて自分の気持ちを思い出すと思い当たる節はありそうな様子を見せた。
「その感じだと思い当たりはありそうだね。……折角こころちゃんも上手いって言えるだけの歌える能力があるんだからそこはもっと自信を持たないと。多分他のパートに引っ張られるのもそれが原因になってる可能性が高いかな」
「言われてみると私も先輩達相手に一歩退いちゃってる所があるかもしれません……。私ももっと自分を主張できるようにします」
玲音が新人として勧誘を受けているParabolaもメンバー一人一人がエース級と言える程、歌における主張の強さが激しい。そんなParabolaに新人として呼ばれている玲音だからこそこころが一人だけ主張が足りないというのもよくわかるのだろう。
「次はぷりんちゃんだけど、あなたはさっきと比べて皆に合わせた歌をできるようになってきてるからそこはその調子でね」
「はーい!」
「他に改善点を挙げるとするとぷりんちゃんはどっちかと言うと周りに合わせれてない」
「えっと、ハモれてないって事?」
「いや、ハモりはできてるんだよ。だけど、それはあくまで周りが合わせている所が大きくて。ぷりんちゃんは段々自分の方に余裕が出てきたんだから今度は他の人に合わせるという事をやった方が良いって事」
「他の人に合わせる……」
アカペラは一人の歌だけでは完成しない。沢山の歌が重なる事でようやく一つのハーモニーとなる。そのため今の彼女には自分が一人で自由に歌うだけだった今までのやり方だけでなく、他人と心を合わせて綺麗なハモりを作るという行為を自分から行うという行為が必要となるわけだ。
「でも、上手く合わせられるかな」
「そういう時はハモりたい相手と手を繋いで歌うんだ。それだけでも相手の気持ちが伝わってくるから」
「手を繋いで……面白そう!」
ぷりんは精神年齢的にあまり難しい事を教えても理解が追いつかない。そのため玲音は伝わるか心配したが、どうにか理解してくれてホッとしたような顔を見せる。
「めろんちゃんはリズムキープが良くなってきたね。始めたての時の映像とかも観させてもらったけど、ブレブレだったリズムが上手い感じに纏まってきてる」
「ええ、私自身もそこは成長として感じてるわ」
「……じゃあ今度は私が本来のリズムよりも早めの手拍子をするからそれに釣られないようにしないとね」
「えっ?」
めろんはそれを聞いて困惑する。リズムキープができてるのに何故それをやるのか。練習の意味が気になっためろんは玲音へと聞き返す。
「……この前の夏休みの時に私の高校の登校日になんだけどさ、私の所属するアカペラ部は発表会をやったんだけど。観客である生徒達がアカペラで盛り上がっちゃって手拍子して。……それが原因でアカペラがバラバラになっちゃったんだ」
『ッ……』
「それって手拍子でテンポが狂ったって事ですか?」
「簡単に言ったらそうなるかな。……それで、うちの部活の中でも音楽に命を懸けてるくらい本気の子がバラバラのアカペラを大成功って言った子に対して怒っちゃって」
影人はそれを聞いて何となくその場面を想像する。恐らく大成功と言った子も悪気があったわけじゃ無いのだろう。現に観客の生徒達は手拍子するくらいに盛り上がったのだ。普通は成功と言う。……だが、怒った子は玲音が言うにはアカペラガチ勢で。アカペラがバラバラなのに成功なんて言葉で締められるのがかなり不快だったに違いない。
「それで、今はその子達大丈夫なんですか?」
「うん。ガチ勢の子も成功って言ってしまった子もそれぞれ前を向いて歩いてるよ。まだ完全な仲直りはできてないけど、きっといつか元に戻るって信じてる」
玲音の様子からちゃんと二人共がそれぞれのやるべき事をやってるのは事実だろう。また、この様子から怒ってしまったガチ勢の子も部活を辞めたわけでは無いようで。ちゃんと部活をしてくれているのならいつか和解してくれる日が来ると玲音も信じている辺りまだ希望はあるのだろう。
「話が脱線しちゃったけど、結局めろんちゃんにこれをして欲しいのは私達の二の舞になってほしくないからだね」
「わかったわ。そういう話ならやらないといけないわね」
めろんも玲音のこの話を聞いた以上、やらないなんて選択肢は存在しない。彼女もアカペラをやるからには本当の意味での大成功を目指したいのだ。
「その手拍子、俺もやって良いですか?折角俺もここにいるので少しは手伝いたいです」
「あ、私も私も!」
するとレイやぷりんもやりたい人として立候補。すると影人やうたが慌ててぷりんの発言にツッコミを入れる。
「おい待て待て。何でお前もやるって言うんだ」
「そうだよ!それに手拍子を増やす事に意味ってあるの?」
うたの疑問符に対して玲音はあくまで落ち着いた様子で対応を返す。どうやらこの質問も想定通りらしい。
「私としては手拍子が多い方が助かるかな。その方が不特定多数の人の拍手が響くからめろんちゃんの練習になるし」
「そっか、手拍子に釣られたらダメだから何も一人分の手拍子じゃなくても良いのか!」
「そうそう。何なら手拍子の練習の時だけ全員で手拍子しても良いよ」
こうして、玲音からの指摘はとうとう最後の一人。影人の方へと視線が向く。
「最後に影人君だね」
「はい」
「……影人君はさっきまで指摘してきた全員のズレを上手く埋めて活かしてる。そんな感じの歌い方だね。私も凄い器用に熟していると思うよ」
「そうなんですかね。俺は普通に歌ってるだけなんですけど」
「うん。私も影人君は普通に歌いながらそうやって周りを上手く調律して一つの歌として完成させてる。やっぱりここでもバランサーって感じだよね」
玲音は影人がバランサー役であるとここまでのレッスンで見抜いており、そして同時に彼へとある事を言い出す。
「……そんな影人君への改めての指摘だけど……。一回影人君はそのバランサー役をやらずに自然に歌ってみよう」
「えっ?」
影人がバランサー役をやってはいけないという玲音からの指示。それを聞いて当然彼は困惑する。
「待ってください。そんな事したら……」
「うん。アカペラが崩壊するリスクがある。だけど、やっぱりこれは必要な事だから。……うーん。じゃあ皆でもう一回通して歌ってみようか」
「また急ですね。もしかして今の指摘を含めて見る感じですか?」
ななはいきなり通し練習を指示した玲音へと聞き返す。そして、それを受けて玲音が理由を話した。
「それもあるんだけど……一番見たいのは、影人君抜きで歌った時にどうなるかを見たいかな」
「えっ!?カゲ先輩抜きでですか!?」
「もしかして……」
「そう、影人君がバランスを取っていたアカペラを影人君抜きでやった場合にどのくらいその形を維持できるか。これから上手くなるために必要な事だから聴いておきたいかな」
「でも影人抜きで上手くできるかな……」
この意見に特に不安だったのがめろんだ。理由は単純でベースの影人抜きだと彼女は一人でリズムキープをしないといけなくなる。それだけ負担が大きくなるのだ。
「大丈夫だよ、メロちゃん。私達もできる限りフォローするから!」
「うん。私達が影人抜きでもやれるって事、見せてあげよう!」
夢乃やぷりんがやる気になっているのを見てめろんも心強さを感じると彼女も強く頷く。こうして、影人抜きでアカペラを行った一同。それを終えると玲音は意外そうな顔をしていた。
「どうでしたか?」
「思っていた以上に綺麗に揃ったね……。むしろ影人君に頼らなくなった分他の人が周りの歌を気にするようになって……」
そして、その事実を受け止めた影人はガックリと項垂れてしまう。自分という存在抜きでここまでやれてしまうのなら自分は要らないんじゃないのかと思わざるを得ないのだ。
「嘘だろ……何でここまで」
「ああっ、カゲ先輩!?」
こころが慌てて影人を宥めに行く中で玲音は改めて影人へと話しかける。実は影人へのアドバイスをする上でこの流れは必要事項だった。
「さて、影人君」
「はい……」
「影人君が無理にバランスを取らなくてもアカペラとして上手く纏まったのはわかったよね」
「ッ……もしかして」
影人は玲音がそこまで言ったところで彼女の意図に気がつく。そしてそれは影人が同じように前々から言われていた事だった。
「そうだよ。影人君は自分の歌に集中しても良いって事。何で影人君の主張が控えめなのかなと皆のアカペラを見て思っててさ。でも、影人君がバランサーとして調節役を必要以上に引き受けてるからって考えたら辻褄が合いそうなんだよね」
「……なるほど、結局俺は自己主張しているつもりで出来てなかったって事になるんですか」
影人の弱点、それはやはり周りを一つに合わせられるだけの能力があるからこそ自分が無意識にその役割を引き受けがちなのだ。
「うん。だから、影人君は一回自分で自由に歌ってみたら?勿論すぐにやれるようにならなくて良いからさ。多分それがあなたに教えてる仙石さんが言いたい事なんだと思うよ」
「……わかりました。自分の歌……やってみます」
こうして、一通りの指摘が終わった影人達。そのため今度は指摘を踏まえた上での改めての練習が始まる事になる。
だが、Parabolaの講師の人と聞いていた影人達はもっと厳しい先生が来ると予想していた。しかし、蓋を開けてみれば意外と自分達の事を考えてくれる優しい講師だったために影人達はモチベーションを高く保てている。
それから影人達は玲音の指導の元、更なる上達のために練習を継続するのだった。
また次回もお楽しみに。