キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
プリティーストアにて影人達からカイトの所に行くように背中を押されたうた。彼女が向かった先にあるのは海を一望できる砂浜だった。すると、うたの視線の先に1人の男性が映る。
「ッ、いた……!」
うたの予想通り、その男性……響カイトはまるで海へと響かせるかのように歌を歌っている所であった。
「胸の奥にもらった二人の場所は〜♪相も変わらず特別なままで〜♪」
その顔つきはやはり先程見せていたような寂しそうな顔のままであり、胸の辺りに手を置くと寂しさによってまるでポッカリと空いたような気持ちの空間が余計に浮き彫りになる。
「また時を刻んでいくから〜♪自由においでよecho〜♪」
それでもカイトは誰かに自分の歌を届けるかのように、歌うと歌い終わると同時に俯いて小さく呟く。
「……カズマ」
「カイトさん!」
カイトの言う“カズマ”という人物がやはり彼にとって大きな存在なのだろうと察せられる中でうたがカイトの元に到着。カイトはうたの存在に気がつくと彼女の方を振り向いた。
「ッ……!!」
「はぁ……はぁ……」
するとそのうたは走り続けて疲れたような息遣いを見せつつも目の前にいるカイトと話すためにまずは呼吸を整える。
「うたちゃん?どうしたの?」
「えへへ……ごめんなさい。さっき寂しそうな顔をしたカイトさんを見ちゃって……。それで……」
うたはまるで見てはいけない場面を見てしまったかのような言い回しで申し訳なさそうにするとカイトもそれを受けて“見られてしまったか”と言わんばかりに少しだけ申し訳なさそうに微笑む。
「……あの、カズマって……」
するとうたは先程カイトが呟いていた人物……カズマについての話を聞いた。
「……ああ。カズマは、俺の親友」
「親友……あっ!」
カイトから飛び出した親友という言葉に聞き覚えがあると感じたうた。それは以前のデートの際に言及されたカイトが笑顔にしたい人物の事だった。
「……とは言っても、もうずっと会ってないんだけどね」
「会えてない……そっか、カイトさんはレジェンドアイドルになっちゃったから……」
それも仕方のない話だろう。その親友がどこに住んでいるのかは別として、今のカイトはレジェンドアイドルとしての活動を再開している。ドラマにラジオ、CMに映画。芸能界に関連する数多くのメディアから引っ張りだこになっている彼の忙しさを考えるに、自宅があると思われるはなみちタウンの人間以外がエンカウントするのはかなり難しい。
そして、活動再開前は一応名義上はアメリカのニューヨークへと留学中となっているため日本では物理的に会うことができない。そう考えるとずっと会ってないというのも仕方のない話だ。
「もしかして、その友達と別れる前に何かあったんですか?」
「……うん。そんな感じ」
カイトはうたからの質問に隠す事なく即答。彼の口振りからうたは過去にその友達と喧嘩別れのような事を起こしたという考えに落ち着くと自分に今できる事を考える。そして、導き出したその答えというのは勿論うたが得意とするアレだった。
「……きっと大事な友達〜いつかまた会える♪ゼッタイ!♪だって!♪……こんなにも思ってる♪」
うたがカイトの心をキラキラに輝かせるために歌を歌って彼に聴かせる。そして、カイトに改めて向き合うと微笑んだ。
「私、カイトさんには笑っててほしいです!」
「ッ……!!」
そして、うたのそんな笑顔を見たカイトは目を見開くと心の中に元気が湧いてくるような感覚を感じた。そのため彼はうたへとお礼を言う。
「ふふっ、ありがとう。……やっぱりうたちゃんの歌は元気が出るね」
「ッ……」
カイトはうたに元気づけられた事で少しずつ彼女に心を許し始めていた。そしてそれは誰にも相談できなかった自分の過去を話す勇気を与えてくれたようで。彼はうた相手にその話をする事になった。
「……カズマと初めて会ったのは……この場所だったんだ」
カイトが思い出すのはかつての記憶。自分の親友と呼べる存在との出会いと別れの話であった。
〜回想〜
今から数年前、学生だったカイトはこの街……はなみちタウンに住んでいた。この頃の彼は歌う事その物は好きだったものの、今と比べると人前で歌う事は無く。よく1人で目の前に広がる海に向かって歌っていたらしい。
「……綺麗な声してんじゃん!」
「うえっ!?」
そんな時、海に向かって歌うカイトを見て声をかけたのはカイトとオレンジの瞳に若干灰色に近い黒髪のイケメン学生。そしてそれがカイトの親友となる存在。カズマ……燈夜カズマとの出会いだった。
「お前の歌、好きだよ」
それからカズマはカイトの歌声に惚れ込むと初対面の彼に気さくに話しかけ、ある物に誘った。
「なぁ、一緒にオーディション受けない?」
「えっ……オーディション?」
カズマが見せたのはとある有名なアイドルの事務所のオーディション。要するにそれは事務所の新人発掘オーディションだった。
「有名なアイドルが何人もいる大きな事務所のオーディション!」
「あ、アイドル!?」
「ああ!」
ただ、当時のカイトは人前で歌うことが苦手な方であったためにいきなりアイドルのオーディションを受けるなんて言われても実感がまるで湧かない。
「行けるんじゃね?俺達2人ならさ!」
「でも……俺の歌はそんなに言うほど……」
カイトには自信が無かった。何しろ、自分の歌声が良いとカズマに言ってもらえたとてそれはあくまでカズマ個人の感想だ。世間が自分を認めるかどうかはまた別問題となってしまう。しかし、それでもカズマには謎の自信があった。
「大丈夫だって!未来のレジェンドアイドルの俺が言うんだから、間違い無い!」
「えぇ……」
当然カイトはカズマの謎の自信について行けずに困惑。しかし、カイトは最終的にカズマのこの誘いを受けて彼と拳を軽く突き合わせた。
デビュー前、はなみちタウンに住むただの1人の学生に過ぎなかったカイトにとって……カズマの持ち掛けた話は魅力的な物と言えたのだ。そして、カイトは己の中に湧き上がる新しい予感とワクワクを信じてアイドルの世界に片足を突っ込んだのである。
「ほら、カイト置いてくぞー!」
「待って……カズマ……!」
それからカイトはカズマと共にオーディションに応募するとアイドルを目指しての自主トレーニングを始めた。ランニングにダンス、歌の練習。
「ほら、もっとカッコ良く決める!」
「えっと、こうかな?」
学校が偶々同じだった事もあって休み時間とかでもよく絡むようになり、事ある毎にアイドルに関連する話題が2人の間には尽きなかった。
そのくらい、カイトにとってカズマと2人で過ごす時間は楽しく。いつの間にか一緒にいるのが当たり前になる程であったのだ。
そして、時は流れてとうとうアイドルオーディションの前日。2人は最初に出会ったこの浜辺に座ると夕日が沈む中、翌日に向けての会話をしていた。
「いよいよ明日だね。オーディション」
「だな……。本当にあっという間にこの時が来ちゃったな」
それからカイトはリラックスするために体操座りの状態から伸びるとそんな彼の手にカズマが自分の手を重ねる。
「……ッ!?」
「ふふっ」
「カズマ、急に何?」
カイトはいきなりカズマに手を重ねられて少し唖然としていた。するとカズマがカイトへとある事を言う。
「俺達の絆は永遠だ!」
「ふふっ、何だよそれ……」
それでもカイトにとっても永遠という言葉は心地良かったのか……。カズマと重ねた手を強く握り合う。
「にっ……」
「カイト……」
「「ふっ……あはははははっ!」」
それから2人は砂浜に仰向けに倒れ込むと2人の気持ちが同じである事を確かめて笑い合った。思えば、カズマとの思い出がこの瞬間の気持ちで終わっていれば……今こうして悩む事は無かったのかもしれない。
強く握り合った2人の手はまるでその固い絆を現しているかのようだった。それから迎えた事務所へのオーディション当日。この日のオーディションにおいて2人は最高のコンディションを整えると全力を尽くして挑んだ。……しかし、運命はつい少し前まで固かったはずの2人の絆を引き裂いてしまった。
〜現在〜
「……あの日のオーディションに合格できたのは俺だけだった」
「ッ、そんな……」
その合否の通知以降、カイトとカズマを結んでいたはずの絆には深い亀裂が入り……そのまま2人は繋いでいた手を離してしまう。
「その後中学を卒業した俺はデビューするためにこの街を離れて……それ以降、カズマに会ってない」
「そう……だったんですね」
うたとカイトはいつの間にかあの時のカイト、カズマと同じように隣り合って砂浜に座っていた。
そして同時にカイトが影人を気にかけていた理由に何となく察しがついてしまう。
「カイトさん、もしかして影人君の事を度々気にしてたのって」
「うん、彼の纏う雰囲気が……あの時のカズマにそっくりだったから」
カイトの言う事は正しい。実際影人もカズマと同じように芸能界に挑みつつも力及ばずに散ってしまった人間である。
「でも、影人君は最終的に立ち直れた」
「それは、影人君が強いからで……」
「違うよ。……多分、彼は一人だったらずっとその事を引き摺るタイプだと思う。そして、うたちゃん達に会うまでは実際そうだった……でしょ?」
カイトは影人の事をそこまで深く知っているわけでは無い。それでも彼の心がうた達との出会いで少しずつ照らされ、救われた事ぐらいは何となくわかっていた。
「……勿論影人君が強いのはそうかもしれない。だけど、うたちゃん達が周りでそっと支えていたからこそ……彼は一人でそれを乗り越える事ができたんじゃないかな」
「……だとしたら、カズマさんは……この前の花さんみたいに」
うたは影人の例を聞いて嫌な予感がしてしまう。もし仮に影人とカズマの置かれた状況が同じで無いにしても似ているのだとしたら……今のカズマに心の支えになり得る人がいるのかどうしても気になってしまう。
そして、それが無いまま一人で抱え込んだ結果……闇の奥底に堕ちてしまった女性……桜庭花の事がうたの脳裏に過ぎった。
「……うたちゃん達は、俺がカズマにできなかった事を簡単にやってのけた。それがうたちゃん達の凄い所だと俺は思う」
「(初めてだ。カイトさんがこんなにも自分を曝け出して悩んでいる所を見るの)」
うたはカイトの話を聞けば聞く程に彼は昔の事を未だに強く引き摺ってしまっているのだと察せられた。
「あの、カイトさんはそれからアイドルとして歌うのって」
「うん、ある意味……ファンのためでもありながら……世界のどこかにいるカズマのためでもあるんだ」
レジェンドアイドルとして多くのファン達に歌を届ける中で、カズマという一人の青年のために歌うカイトの姿。それが彼がここまで多くの人々を魅了してきた魅力の一旦を担っているのかもしれない。
「アイドルになってから、自分の歌がカズマのいる所にまで響いて、辿り着いていたら良いなと思って歌い続けてきた。だから今も時々ここに来て、空に歌を聴かせていたんだ」
そして、カイトがこの場所で歌を歌う意味もその中にあった。空であれば世界中のどこにでも繋がることができる。カイトが度々歌っている“キミからのEcho”という歌は道が別れてしまった親友に向けて自分の想いを届ける歌であると言えるだろう。
「カイトさんがここに度々来てたのってそういう事だったんですね」
「うん。……あの時、俺はカズマを追いかけられなかった。ずっと、その事を後悔してる」
カイトはそう呟いているとそんな彼を上空から見つめる影がいた。それは先程公園でカイトとすれ違いつつ彼に話しかけ、カズマの事を思い出させた男……ジョギである。
「へぇ、レジェンドアイドルにも良い真っ暗闇あるじゃん。……見せてごらん?」
彼はいつものように目元にチョキを作った手を持ってくるとそれ越しにカイトを見ていた。するとカイトの体から闇が溢れ出ているのが見えてしまう。
その理由は単純。カイトはカズマの事を想うあまり、別れる直前に離してしまった手の事を後悔してしまっていたからである。そしてそれはカイトの中に闇が生まれる事を意味していた。
「……さてと、闇を貰う前に挨拶くらいはしておくかな」
ジョギはそう言うとうたやカイトの後ろに降り立つ。そして、その音と気配に気がついた2人が振り返るとうたがすぐに反応した。
「ッ、ジョギ!?」
「やぁ、残念だけど用事があるのは君じゃ無いんだよね」
「えっ……」
うたが困惑する中、ジョギの姿を見たカイトは彼女以上に困惑していた。……似てるのだ。声色、顔つき、雰囲気……それら全てがあの時手を離してしまった親友に。
「……ッ、カズマ……?」
「!?」
カイトが思わず呟いた名前にうたは驚く。まさか今まで自分達がプリキュアとして敵対していたジョギが、カイトの親友のカズマと同一人物であるなど思わないからである。
そして、うたが思わずカイトとジョギを交互に見る中でジョギは邪悪な笑みを浮かべるのだった。
また次回もお楽しみに。