キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
影人達が手鞠沢高校へのお出かけを終えて自宅へと帰って来たのとほぼ同時刻。チョッキリ団アジトではスラッシューが自室で頭を抑えていた。
「何故だ……何故いつもいつも……」
スラッシューの脳内に浮かぶのは毎回のようにプリキュアを潰すつもりで出撃してもそのプリキュアからの説得を受ける毎に自分の気持ちがおかしくなって撤退する自らの無様な姿である。
「それに、どうして私はあの時……あんなくだらない事に出ようと思ったのかしら」
そして、またそれとは別で思い出されるのは自分が手鞠沢高校の学園祭でやっていた出し物の一つであるコスプレファッションコンテストに出たという記憶である。
やはりスラッシューはあの時、天城切音としてコスプレファッションコンテストへと出場していた。タイミングとしては影人達8人が挑戦し、その後天城がスラッシューとしてダークランダーを出すまでの間となる。
「……あの日、私は久しぶりにKotoneとしての格好をして。それで満点を貰って……。周りが称賛の目線をくれて」
当然ながら、スラッシューは本来のKotoneとしての姿をコスプレにしたんだから似合わないはずがない。そのためプロの審査員のまりあも満点の判断を下して見事夢乃の99点を上回った。その際に受けた周りからの祝福や喝采の際に彼女は高揚感を感じ、心を満たす事に。
「ッ……あんな気持ち、二度と感じられないと思ってた。……Utakoが側にいてさえくれたら……こんな事には……」
その瞬間、スラッシューの脳内に冷徹な自分の声が響く。それは自分の弱さと迂闊さのせいで彼女が亡くなってしまった事に対する戒めだった。
『あなた、まだそんな甘ったれた事を言える立場だと思ってるの?Utakoが死んだのは他の誰でもないあなたのせい。あなたのその弱さが大切な相棒を無くすキッカケだってことぐらいもうわかってるでしょ』
「ッ……そんなのわかってるよ。だけど、それでもUtakoにまた会いたい!!」
『今更会ってどうするの。あなたみたいな奴の事、Utakoが許してくれるとでも思ったわけ?その甘い考え。今すぐ消すべきよ』
「ッ……そんなのわかってる。わかってるわ」
スラッシューは冷徹なスラッシューの人格からの言葉を聞いて自分は温かい場所にいてはいけない。アイドルプリキュアの話など一切聞き入れてはいけないと刷り込もうとする。
『ねぇ、それは本当にUtakoの望んだ事なの?私がこうやって自棄になって……闇の中で世界を恨んで……他人から光を奪って。アイドルは他の人を照らすのが仕事なのに……』
「煩い!黙ってよ!もう、私には後戻りなんてできない。ダークイーネ様を1人にしないためにも、ダークイーネ様の幸せだけを考えて動くのが当たり前なの!!」
『そうよ。あなたのような甘い人格は要らない。消えなさい』
『ッ……ああっ!?』
スラッシューはKotoneとしての人格を無理矢理抑え込むようにするとその言葉は聞こえなくなってしまう。同時に胸の中に形容しがたい程の不快感が湧き上がってきた。
「私はダークイーネ様と共にあると決めたのに……ダークイーネ様と一緒じゃなきゃ、また孤独な現実を見せつけられるだけなのに。何でずっと抑えられていたはずの昔の栄光の記憶ばかり出てくるの……」
「……それはスラッシュー様がアイドルプリキュアに心を開きつつあるからですよ」
スラッシューはいきなり聞こえてきた別の人の声に慌てて振り向くとそこにはいつの間にか部屋に入ってきていたジョギが立っている。
「ッ!?ジョギ、あなた。いきなり入ってくるなんて……」
「いや、僕も何度か入る事は入り口で言ったんですよ?そうしたら大きめな独り言が聞こえてきたもので。異常かと思って駆けつけたんです」
スラッシューが慌ててジョギへと不法侵入について指摘すると彼は平然とした様子で上司を気にかけるような言葉をかけてきた。そのため、スラッシューもこれ以上は怒るに怒れず。そのまま気持ちを落ち着けるように深呼吸した。
「そう……それは迷惑をかけたわね」
「……それで、どうですか?気持ちは落ち着きました?」
「ええ……」
スラッシューはジョギへと落ち着いたと返すものの、どうしても胸騒ぎだけは収まらず。それを見抜いたジョギがスラッシューへとそれを指摘する。
「もしかして最近アイドルプリキュアに絆されてる事を気にしてるんすか?」
「……そうね。端的に言うとアイドルプリキュアと話す度に心がメチャクチャにされるのをどうにかしたいと思ってるわ」
スラッシューがジョギへと最近の悩みの種を話すと丁度彼も同じ悩み……アイドルプリキュアが自分にしてくる説得にぶち当たっているからか。珍しくジョギがスラッシューへとちゃんとした答えを返す。
「うーん……。やはり最初から聞く耳を持たない状態を最初から最後まで維持するのが最適なのかなと思いますよ。ほら、どれだけ俺達の事をわかった気になってたとしてもあくまでアイドルプリキュアは僕達にとっては赤の他人ですから」
「む……やはりそれが1番安定するのかしら……」
スラッシューはジョギの提案にそれが1番思い出すまでの時間はかかると考える。ただ問題なのが……どれだけ話すのを拒否したとしても今のアイドルプリキュアは話をしてくるまでゴリ押そうとしてくる所だ。そのせいで最終的には過去の事を思い出させられている。
「悪かったわね。ジョギ、また対策は考えてみるわ」
「いえいえ。それでは」
そう言ってジョギはスラッシューの部屋を後にする。それを見届けてスラッシューは1人考えた。
「……アイドルプリキュア。どうして私の事をそんなにも気にするの。Kotoneとしての記憶を掘り起こして。……もう私は後戻りなんてできないのに」
スラッシューは1人、無意識のうちにそう呟く。そんな彼女の呟きを部屋の外で聞いたジョギは溜め息を吐いていた。
「これはもうスラッシュー様もチョッキリ団で使い潰せる限界が近いのかなぁ……。ま、ダークイーネ様が愛想を尽かさない限りは見逃してもらえるっぽさそうだけど」
ジョギはこういう時だけ自分達の主であるダークイーネの寵愛を受けたが故にすぐに切り捨てられるリスクが無いという点が羨ましいと思ってしまう。
ここまでのスラッシューの振れ幅を見ているとカッティーの時と同じで、いつダークイーネに見捨てられてもおかしく無いくらいの精神状態なのにしぶとく生き残っている彼女への苛立ちも多少あるようだった。
「他の奴が同じような状態になったら即闇で呑み込んでたのに。ダークイーネ様とスラッシュー様。一体どんな繋がりがあるんだろうなぁ……」
ジョギもジョギでスラッシューとダークイーネの間にある関係性が気になっている様子であり、その関係性が2人を繋ぎ留めているのだと予想。
「……ま、どうせ俺には教えてくれなさそうだけどね」
ジョギはそう言いつつその場から去っていく事になる。それからその日の夜は深まっていくと一夜が明けた。
この日は3連休が終わった後という事で平日だった。そのため、黒霧家では影人と夢乃が学校に行くために準備を進めている。
「中学に入るまでに……私、答え出せるかな」
「夢乃?もしかして昨日の事?」
「……うっさい。お兄ちゃんには関係ない事」
夢乃が1人昨日の早乙女まりあからの勧誘について悩んでいると影人が心配したように声をかける。しかし、夢乃は影人に迷惑をかけたくないのか。普段なら取らない年頃女子のような塩対応を見せる。
「ッ……そっか。無理だけはするなよ」
「………」
すると影人は無理に夢乃へと踏み込む事は無く。敢えて様子を見る事にした。これはひとまず夢乃の気持ちを尊重した結果である。
「(多分暫くは大丈夫だろうけど、あまり悩むようだったらタイミングを見て介入するか)」
同時に影人は夢乃のメンタルがまだ危険域には達していないと判断。一旦そのまま夢乃に考えさせるとして、どうしても彼女1人で解決出来なさそうだった場合はどれだけ嫌がったとしても自分が相談相手になろうと考えていた。
「(お兄ちゃん、私を心配してくれてる。……そんな情けない事じゃダメなのに。私が将来の夢の事で悩んでるのを聞くのを待ってもらってるのに……早く答えを出さないと)」
夢乃も1人で悩みを溜め込むのには限界があるというのは彼女自身、わかっていた。そのため、まりあからの提案も含めて早いうちに答えを決めようと考える事になる。
その後、影人達は学校に出かけていく。……それから時間が経ってこの日の放課後、影人とこころは放課後の研究会が終わって2人で一緒に帰っている所だった。
「色々話してたらすっかり遅くなっちゃいましたね」
「ああ。でも、楽しい事をしていたんだし仕方ないだろ。もしあまりにも遅くて愛さんが怒ってたりしたら俺が一緒に謝るから」
「そんな、カゲ君にそんな所まで付き合わせるなんて……」
もう既に時刻は17時を過ぎており、すっかり太陽は西へと傾いている所である。時期的に日が沈むのも早まっているという事もあって早く帰らないと太陽が沈み切って夜が訪れてしまうだろう。
「まぁ、多分うちの両親もこころのお母さんの愛さんも俺達が2人でいる分にはそこまで心配はしないとは思うけど……うん?」
「カゲ君、どうしまし……あれ?」
2人が会話をしながら自分達の家に向かって歩いている時だった。突如として何かの音楽が聴こえてくるとその視線がその方を向く。そこは影人とこころがちょくちょくダンスの朝練のために使っている建物の前であり、ガラス張りの建物の壁を使って踊る1人の少年がいた。
「この音楽、誰かダンスの練習中でしょうか?」
「なんかそんな感じがするな。それに、あの帽子を前後ろ逆で被ってる人……何処かで見た事があるような」
その少年は影人と言う通り帽子を前後ろ逆で被っており、加えて影人達と同じ学校の学生服を着てクルクルとダンスの振り付けとして回りまくっている。
「こうして、こうして、クルクル回転!」
「あっ、前に私をダンス部に勧誘していた寸田先輩ですよ」
「寸田先輩……ああ、うちの学校のダンス部の部長さんか」
影人とこころの視線の先でダンスを踊っていたのはかつて入学したてだったこころをダンス部へと勧誘していたダンス部の部長。寸田躍である。
「確かこころが勧誘されたあの時点でこころはアイドルプリキュアのファンだったんだよな」
「はい。私がまだプリキュアになる前、ただのアイドルプリキュアのファンだった頃に勧誘されて……その時にお断りしたんですよね」
「思えば、あれ以降しつこく勧誘とかしてこなかったし。それどころか研究会を頑張るように励ましてきたんだよな」
そう考えると寸田躍という男は影人達にとって良い先輩という立ち位置になるのだろう。それはさておき、その寸田は先程からの高速のスピンを継続。その回転にかける情熱を示しているように見れた。
「はぁああああっ!」
「凄いですよ寸田先輩。こんなにも回転を継続できるなんて。常人にはとても真似できません!」
「というか、真似したら絶対脳震盪か何か起こすだろ。良い子は絶対真似したらダメだからな」
しれっとメタ発言を挟む中、その会話中も寸田の回転は止まらない。そのため、流石に2人はこの状況の危険さを認知し始めた。
「なぁ、こころ。あの人まだスピン続けてね?」
「は、はい。そろそろ私もいつまで回るのかなと思ってて……」
しかし、2人がそう考える間にも寸田のスピンは止まらない……どころか、回転スピードが更に速くなり始めた。
「もっとだ!もっと速く!もっと回るんだ!」
寸田がスピンをするのに更に気合いを入れていると影人とこころはそんな寸田を見続けてしまったせいか、今度は自分達まで目を回し始めてしまう。
「ちょっ、これ本当に終わるんですよね?」
「流石に止めないとヤバそうかもこれ」
影人は寸田のスピン時間が長すぎるためにそろそろ止める必要があると判断。そのために動き出そうとした瞬間、寸田を起点に風が発生して小さな竜巻と呼べるような物が発生。その風は動こうとした影人を止めるとこころの方は風でスカートやらが捲られてしまわないように抑える。
「ぐっ!?風で近づけない……」
「ッ!!何!?何!?」
「幾らパフォーマンスでスピンするって言ってもここまでのスピンをするか普通!?」
「もっと!もっとだ!うぉおおおおっ!」
影人達の混乱などお構い無しな寸田は回転した状態のまま影人達の方に近づきつつその回転をまだまだ継続。
「おおおりゃあああっ!」
「「えええええっ!?」」
最後にはフィギュアスケート選手もビックリな程に高速回転をしながらジャンプ。その大ジャンプに呆気に取られる影人とこころ。その2人を跳び越えた寸田は2人の反対側に見事な着地を……。
「って!?あれ、ちょっ……止まらな……ぐはあっ!?」
できるはずもなく。寸田は自らの回転速度が原因で着地に失敗。そのまま止まりきれずに流れるように前へ前へと進んでいくとその先にあった公園のベンチに激突。その様子に呆気に取られていた2人だったが、慌てて我に帰ると寸田の元に駆け寄っていく。
「寸田先輩、大丈夫ですか!?」
「取り敢えず息は大丈夫そうだな」
影人とこころが倒れてしまった寸田の様子を確認しているとその寸田が最後の力を振り絞るようにある事を言い出した。
「ダンスは……世界を……救う」
「「へ?」」
寸田は回転をし過ぎたせいか、よくわからない事を口走るとそのまま気絶してしまう。そのため、こころは慌てて叫んでしまった。
「寸田先輩ーっ!?」
「……何だこの状況は……」
対して影人は完全に呆れたような目線で寸田を見ており、折角良い人認定したばかりなのにそれを早々にへし折った寸田の行動を見て今にも溜め息を吐きたい気持ちになる。
「こころ、ひとまず看病するぞ。このまま見捨てるのは後味悪い」
「勿論です!それに、何であんな事をしてたか問いただしませんと!」
こうして、影人とこころは寸田が復活するのを待って彼から事情を聞くという事を決定。まずは寸田の意識が戻るまでやれる事をやるのだった。
また次回もお楽しみに。