キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
アイドルプリキュアの本当の姿を知り、大好きな影人の立っている場所がまるで別世界と思える程の遠さを感じてしまったこころ。
彼女はそれを自覚した瞬間、心がボキッと折れる音が聞こえてしまった。彼女の目の光は消え、輝きも失われてしまう。
「……心キュンキュンしてません」
影人はこころの中に宿っていたはずの光が全て消えてしまったと感じ取れた。その絶望感は自分が一番よく知っていたからだ。
「こころ……」
プリルンが小さく呟く中、こころはスッと立ち上がると悔しそうに唇を噛み締める。
「……ごめんね、プリルン。あんな怖いのと私、戦えない。アイドルプリキュアになりたいなんて私、言っちゃダメだったの……。それに……」
こころは影人の方を向いて何かを言おうとしたが、今の自分がそんな事を言ってもただの言い訳にしかならないと思うと口を噤んでしまう。
そんな彼女を見たアイドルもウインクも彼女の落ち込み具合は見ていられない程だった。
「こころちゃ……」
「助けてくれてありがとうございました!……失礼します」
こころは自分を助けてくれた三人にお礼を言うと駆け出して去っていく。その刹那、影人達は見てしまった。こころが泣いてしまっているのを。
「こころー!!」
こころが去って行って叫んだプリルン。その瞬間、影人の中で何かがキレたかのようにプリルンへと掴み掛かろうとしてその手がプリルンへと触れる直前で止まる。
「影人く……」
「……ダメだ。今ここでプリルンに八つ当たりしても何も結果は変わらないわ……」
そんな影人の顔は怒りを通り越してまるで死んだように元気を失った物だった。
「……ごめん、俺も帰るわ。……アイドルプリキュアへの協力は今度もちゃんとする。だから、今は休ませてくれ」
影人が去っていくのを見届けたアイドル達。それから少しして、海岸の方から凄まじい程の怒りをぶつけるような叫び声が聞こえたのは言うまでも無い。
そこから更に時間が過ぎ、喫茶グリッターの二階にて。そこになな、プリルンがいると下から気持ちを休めるためのホットミルクを淹れてきたうたが上がってくる。そしてそれを二人へと出した。
「はい、ホットミルク。気持ちがホッコリするよ」
「うた、ありがとプリ」
「……ありがとう。うたちゃん」
「どういたしまして」
それから三人でホットミルクを飲むと一息付いてからまずはうたが話し始める。
「影人君もこころちゃんも……大丈夫かな?」
「プリ……」
「こころちゃんの方はきっと驚いちゃったんだと思う。……やっぱり、あの時ちゃんと話しておけば良かったのかも」
うたとなながアイドルプリキュアとしてこころに接触した際にちゃんとアイドルプリキュアの使命を話していれば……。結果は変わったのかもしれない。
『恐らく結果は変わらねぇよ』
すると機械越しにレイが話す声が聞こえたために二人がその方向を向くとそこにいたのはどこかへと移動しながらビデオで通話するレイだった。
「レイ君!?」
『大体の話と経緯は田中さんとピカリーネ様経由で聞いた。一応、俺も影人と同じでスマホに専用通話アプリがあるしな。それで本題だけど、多分だがあの子が事実を知って絶望するのはどう足掻いても変わらない。まぁ、今回は最悪のバレ方だけどな』
レイとしてはアイドルプリキュアとプリルンを通じて接点を持った以上、どれだけ隠したとしてもいつかはバレる。そう考えていた。ただし、レイの言った通り今回のバレ方に関しては最悪のパターンになるが。
こころはアイドルハートブローチを貰った時点で完全にアイドルプリキュアになれると信じてた。本物のアイドルみたいにステージの上で多くの人の前で歌やダンスを披露すると。だが、実情は違った。目の前に怪物が現れて人々を容赦無く襲う。そんな光景を何の事前説明も無しにされたのだ。加えて、そんな事情だからこころは戦う覚悟を持っていなかった。そのため、いざという時の覚醒も引き起こせず。彼女へのトドメとなったのは影人が助けに入った事だろう。
『この際だからハッキリ言うけど、あの子は影人の事が異性として好きだ』
「うえっ!?」
「……うたちゃん、気づいてなかったの?」
「うん。てっきり影人君の事を特別に思ってはいてもそれは友達としてと思ってたから」
うたの鈍感さはさておき、影人が好きなこころはかつて彼に助けられた。その恩をずっと胸にしまっていた所、つい最近奇跡的な再会を果たして毎日のように会える関係になれたのだ。
『これは予想だけど……紫雨さんは自分から見たら影人の隣にいても良いように頑張っていた所、アイドルプリキュアが突然出るようになった。ネットでそれを見た彼女はアイドルプリキュアの放つ眩い光を自分も使えるようになればきっと影人の隣にいても恥ずかしく無いだろうと感じたんだ』
それからというもの、凄まじい行動力でアイドルプリキュアを研究。少しでも自分が近づけるように必死に努力したのだ。しかし、こころの気持ちとは違いアイドルプリキュアは普通のアイドルでは無かった。怪物と戦う戦士であり、マックランダーを見て萎縮して動けなかったこころの前で影人は持ち前の行動力と発想を遺憾無く発揮して時間を稼いだ。
『……自分は怖がって何もできなかった相手に同じ生身の影人があれだけ動ける所を見せられたらな……』
自分には影人のようになれない。自分なんかでは影人に追いつくのは不可能だと感じてしまうのは自然の流れだった。加えて影人とお付き合いして隣に立つ事を夢に見ていたこころにとって、その事実はどれだけ頑張っても影人と付き合えない状況を自分で作り出してしまったのだ。
『……早かれ遅かれ、紫雨さんが立ち直るには時間がかかるだろうな』
そんな風にレイが話す中、なながレイへとふと気になった事を彼へと問いかける。
「そういえば、レイ君はそこで何をしてるの?」
『……俺?俺か……。ちょっとこのままだと立ち直りが遅そうな馬鹿をどうにかしてくるだけ。きっと、紫雨さんもアイツの立ち直りが遅いのは嫌だろうからな……』
その言葉を最後にうた達は言葉を返す間も無く通話が強制終了してしまう。するとプリルンの目に涙が浮かぶと彼女は泣きながら声を上げた。
「プリルンのせいプリ!……影人、すっごく怒ってたプリ。こころの事をプリルンが簡単に誘ったから……」
「「プリルン……」」
プリルンは今回の件について責任を感じているようだった。確かによくよく考えれば、今回の一連の件の大元はプリルンが興味本位でアイドル研究会を訪れてしまった所にある。
影人が怒るのも無理は無い。あれだけこころにアイドルプリキュアの事を言うなと影人から言われていたのにプリルンはそれを破って取り返しのつかない失敗をしてしまったのだ。
「……あなたがそんな弱気になってどうするのですか」
うたやなながプリルンへとどう声をかけるか迷った中、田中はプリルンへと激励の言葉をかける。
「タナカーン……でも、プリルンのせいで……」
「プリルンは最後のアイドルハートブローチを一度はこころさんに渡した。それには理由があるのでしょう?」
「……プリ。こころはすっごくキラキラしてたプリ。だからこころはきっとアイドルプリキュアだって、思ったプリ」
それは影人からの忠告なんて関係ないプリルンの本心であった。プリルンはこころならアイドルプリキュアとしてやっていけると、その確証があったのである。
「では、その輝きを信じてみてはどうです?」
「それってどういう事です?」
「彼女の持ってる輝きが本物であるなら……そう簡単に消えてしまうはずがありませんから」
それからななはもう帰る時間になると言う事でグリッターを出ようとする。すると彼女は帰る前に田中へと問いかけた。
「あの、田中さん……。田中さんは影人君がアイドルプリキュアになれる可能性が一番高いって仰られていましたよね?どうして……」
「……私もあの時はすっかり失念していました。女王様も仰られていたのですが、影人君の持ってる輝きは普通とは違うんです。だからきっと、アイドルプリキュアになれたとしてもその形は他の三人とは違うんですよ」
その言葉を聞いてもうた達はまだ上手く理解が追いつかない。ひとまずこの話題は置いておくとして、今はそれぞれのやるべきことを考えるのであった。
その少し前。電話を終えたレイは目的の人間のいる海岸の砂浜にまで来ていた。そんな彼の視線の先には一人膝から崩れ落ちて地面に握り拳を叩きつけたような形で嗚咽を漏らす影人がいたのだ。
「……やっぱりまだここで落ち込んでいたか。影人」
「……煩せぇ。今はお前の相手はしてられない。消えろよ」
影人の言葉遣いは相当悪い物だった。そのくらい追い込まれているという事なのだが、レイはそんな影人を見て溜め息を吐く。
「お前さ、何をそんな風に怒ってるんだよ」
「……こころの夢をぐちゃぐちゃに壊して踏み躙ったからだよ。それに、俺はこころが絶望したのに何もしてやれなかった。俺は、俺はこころを救えなかったんだよ」
「……それはただのお前の自己満足ってやつじゃねーのか?紫雨さんは多分、お前がマックランダー相手に立ち向かえた事に対してもショックを受けてるんだと思うぞ?」
その瞬間、レイの胸ぐらはいきなり影人によって掴まれると彼は殺気を込めた怒りの顔つきをレイへと見せる。
「……ざけんな。こころがああなったのは俺のせいだって言いたいのかよ。俺がプリキュアの仲間になったせいでこころを巻き込んだって言いたいのかよ!」
「熱くなりすぎだ。影人。俺は別にお前が悪いとは言わない。ただ、あの子の気持ちをちゃんとわかってやれと言ってるんだよ」
「はぁ!?」
「冷静になれって言ってるんだよ。お前だって薄々気づいてたはずだ。アイドルプリキュアに憧れて情熱を持って練習している紫雨さんがもしアイドルプリキュアの関係者にある誰かと接触したら……遅かれ早かれ事実を知る事にさ」
「……でも、それはプリルンが勝手に……」
「そこでプリルンのせいにするな。……一番最初に接触したアイドルプリキュアの関係者はお前だろ?」
影人はレイからの指摘を受けて苛立ったのか、更に顔は険しくなる。だが、レイの言ったことは何も間違っていない。アイドルプリキュアの関係者の中で一番最初にこころと会って彼女に自分から近づいたのは影人だというのは揺るがない事実だ。
「やっぱり、俺のせいだと言いたいのか?……俺はあれだけこころの夢を、憧れを尊重して……それを壊さないように必死に守ってきたのに!」
「……言い方は悪いかもしれないが、それはあくまでお前が事実を隠蔽して触れさせないようにしてるだけだろ?アイドルプリキュアを憧れにして目指す以上はいつか事実に触れないといけない。それで諦めてしまうような夢や憧れならそこまでって事だよ」
レイの目つきは鋭さを増すと影人を表情ひとつ変えずにジッと見つめる。影人は胸の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような気持ちになってきていた。
「ざけんな!それでこころの夢を、希望を壊すのなんて……」
「ふざけてるのはお前の方だ。影人、お前がこころの事を大切に思っているのなら、ちゃんと事実を伝える義務はあったはずだ。アイドルプリキュアの秘密の件があって話せないにしても“目指したらダメ”だとか何かしらは言えたはずだ」
影人はそんなレイからの言葉を聞いて確かに彼の言う事は何も間違って無いと思い知る。こころの事を真に考えているのであればちゃんと何かしらの説明をそれこそプリルンとこころが接触する前から言えたはずだ。
アイドルプリキュアを秘密にしないといけないという制限の中でも何かしらは言えたはず。その中で“秘密があるから話せない”という結論になってもこころも影人相手にならその意図を汲んでくれた可能性が高い。
「でもお前もこころ相手に何の説明もしなかった。……今回の件はプリルンや俺も含めた全員の連帯責任な面は強いけど、その中でも俺から見たら一番悪いのは影人だと思うぞ」
「ッ……」
影人はこころの夢や憧れを壊してしまうのが怖かった。そのため、自分にならいつでも出来たはずの事前説明を何もせずに黙っていたのだ。
「……俺のやってきた事はこころにとっては悪手だったって事なのか?」
「違う……とは言い切れない。でも、何度も言うけどいつかは知らないといけない現実だ。……アイドルプリキュアに憧れてそれを目指す上で、現実を見ずに目指せる夢なんてそんな都合の良い話は無い」
影人はようやくレイから手を離すと熱く燃え滾っていた怒りの気持ちはレイからかけられた言葉という冷水によって急激に冷やされると影人はまた崩れ落ちる。
「じゃあ俺は、俺はこころになんて言って謝れば良いんだよ。俺のせいだって事はよくわかった。他人を責められる立場で無いことも。……その上でこころにしてあげられる事って……」
影人は俯いたままレイへと問いかける。その声色は彼が素直にレイへと助けを求める声だった。前まではこんな風に素直に助けは求められなかったのだが、きっとこれも影人が変わった証拠だろう。
「……俺には思いつかない」
「ッ!?」
「悪いな。……正直、今影人が紫雨さんと接触して彼女へと何を言っても上手く行くビジョンが見えないんだ。彼女はそのくらい、お前への気持ちを我慢してる」
「……そうかよ。わかった。……暫くこころとの接触は控える」
影人はその言葉を最後に立ち上がると一人でさっさと家へと歩き始める。そんな中、レイは影人へと声をかけた。
「……影人、俺達が絶対に紫雨さんの気持ちを戻してみせる。だから、紫雨さんが自信を取り戻してまた元の彼女に戻れたら……影人もそれをちゃんと受け止めてあげろ!」
レイにそう言われて影人はその場に一度止まると背を見せたまま彼はレイの言葉を受け入れ、また歩き出してそのまま見えなくなってしまう。
「……影人、ごめんな。お前が一番紫雨さんの事を心配してるんだろうけど、今お前が紫雨さんに接触するのは……正直、逆効果でしか無いからな」
レイは一度影人をこころから引き剥がす手を使わざるを得なかった自分への悔しさがあった。それからレイはまた一人で自分の家へと戻っていく事になる。
また次回もお楽しみに。