キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
影人達が寸田の応援に行っていた頃。夢乃はドリーム・アイとして自身が所属する事務所、サウンドプロダクションの社長の音崎ハジメに呼び出されていた。
そして、ハジメへと自分のやりたい事……夢であるファッションモデルについてを話す夢乃。ただ、これはハジメの中では望まない答えだ。そのため、まずは小手調べとばかりに彼はやんわりと否定的な意見を返す。
「ほう。中々面白い夢だ。……ただ、私はオススメはできないね。ファッションモデルという事は君は素顔を晒す事になるんだよ?ドリーム・アイと違ってVtuberとしての自分じゃない素の自分。君にそれが耐えられるかな」
「……確かにそうです。ファッションモデルに必要なのは素顔の自分を周りに見てもらい、そこに魅力を感じてもらう事。私はその事は覚悟した上でやりたいと思ってます」
「そうか。……だが良いのかい?君にはドリーム・アイとして人々に笑顔を届けるだけの才能がある。現に登録者だってもうすぐ100万人に達するではないか。……それだけじゃない。もうすぐ君が念願にしていたアイドルプリキュアとのアカペラコラボもある。こんなに旬な時期にドリーム・アイを辞めてしまうのは……勿体無いと思うけどね」
最初の小手調べでは折れないと感じたハジメは攻め方を変える事にした。それは、ドリーム・アイとしての成功談を挙げる事で引き留めるという手である。
人間の心理として、物事が成功している……若しくは成功しそうな瞬間では取り組んでいる事を止めにくい。何しろ、成功している事を放り出してまで新しい事を始める者は少ないからだ。普通は成功しているものを大成功させる方に進めるだろう。
だからこそハジメはそういう形で夢乃がサウンドプロダクションを辞めないように仕向けようとした。
「……そうですね。私も今辞めてしまうのは勿体無いと思います。それに、ドリーム・アイとして活動するのが楽しいというのも確かな私の気持ちです」
「ふふっ、そうだろうね。それなら何故ドリーム・アイを辞めようと考えるのかな?ファッションモデルをやるよりもより確実に将来が約束されている物がある。だったら当然続けるべきだろう」
ハジメはそういう形で夢乃の心理をコントロール。操ってしまおうと考える。そして相手は小学生の夢乃だ、目の前に甘い餌をぶら下げられれば我慢なんてできないだろう。
「(さぁ、君はそんな夢を目指すよりも目の前にある成功している物を続けるべきなんだ。今の君。うちの事務所から逃すなんて事はさせないよ)」
「(ッ……親父、やり口がだいぶ汚い……というか大人気ないぞ!?影人に鍛えられているからとは言っても夢乃ちゃんも年齢相応の精神力しか無いんだ。こんなの、耐えられるわけがない)」
すると、その様子を見ていたレイがハジメのやり方を何となく察すると夢乃の逃げ道をさり気なく無くした上で目の前に甘い餌をチラつかせている状況を作っていると考える。
この時点でハジメは自分の勝ちを確信し、レイもそんなハジメに夢乃は上手く釣り上げられてしまうと思ってしまう。……ただし、この中で1人。夢乃のマネージャーである姫野だけはそうはならない事を感じていた。
「はい!なので、私は両立したいんです!配信者としても……ファッションモデルとしても!」
「「……ッ!?」」
その言葉を聞いてレイもそして夢乃を餌を撒いて釣り上げようとしていたハジメさえも困惑する。
「夢乃ちゃん、両方をやるって……」
「そうですよ。……だって、どっちも私にとっては大切な事なんです。配信者として、ドリーム・アイとしての時間も。新しく見つけた私が目指せる目標、ファッションモデルとしての夢も」
レイからの問いに夢乃は純粋な子供のような雰囲気で答えを返す。そんな彼女を見てハジメは脳内がかなり混乱していた。
「ッ、それをやるのがどれだけ大変なのか。わからない夢乃君では無いだろう?」
「勿論です。……でも、私はこの前プロのファッションモデル。早乙女まりあさんにスカウトされて、自分で考えたんです。……素顔の自分にも誰かの事を元気づけられる力があるんじゃないのかって」
夢乃はハジメの前で毅然とした対応を見せる。実はここに来る途中、姫野からハジメについて色々と話を聞いていた。ハジメは相手をコントロールして自分のペースに持っていくために自分の意思に反した答えだった場合、相手の事を色々と惑わせるような手を使ってくると。
それに対する対処法として夢乃はどれだけハジメが自分の気持ちをコントロールしようとしてきても迷わず自分の気持ちをちゃんとぶつけるという事を決めていた。
「ハジメさんにとっては不本意かもしれませんけど、私はハジメさんの経営している事務所……サウンドプロダクションにいるからこそこの選択肢も取れるって信じてます」
「ッ……」
そして、夢乃はあくまでハジメの力を信じるという形で自分のどちらも捨てたくないという気持ちを最後まで貫き通す。それに対してハジメは僅かに不機嫌そうな様子だった。
「世の中というのは単純じゃないよ。そうやって周りから少し才能があるって言われたからってそれがずっと通用するわけじゃない。早乙女まりあ君に認められたという点を含めても、今の君はまだ幼い子供でしか無いんだ。……それでもやると言うのかな?」
「……やります。社長がどれだけ私の気持ちを否定したとしても、私は自分のやりたいと思った事を捨てたくありません。少なくとも、挑戦して自分ができないって思うまでは」
ハジメはそんな夢乃の強い意思を見て目を細める。そして、同時に自分の意思を強く持つ彼女の瞳に何かを感じていた。
「……わかった。君にそれだけの覚悟があると言うのならやってみれば良い」
「ッ……!!」
それからハジメは夢乃が自分のやりたい事である配信者やファッションモデルを両立したいという気持ちを一応認める事に。ただ、やると決定した所でハジメ側にだって言いたい事はある。それが2つの条件として提示された。
「ただし、2つ条件を付ける」
「条件……ですか」
「ああ。私も君にファッションモデルという外部の仕事をやらせるのはリスクがあるからね。まず1つ目、君の親御さん達の了承を得る事。その感じだとまだ話すら通してないだろう?それが無い事には話にすらならない。だから親御さんには許可を貰わないとダメだ」
流石にこの条件に関しては妥当な話だ。夢乃はまだこの話を家族にすら通していない。影人は兎も角として、夢乃の両親がこの件に納得しなければ話を進められないのも当然の流れだろう。
「2つ目。あくまで所属はサウンドプロダクションにする事、そして早乙女まりあ君の所属する事務所にはうちの事務所に業務を委託する。つまり、仕事を君に振ってもらう形を取ってもらう事だ。それが私の中でギリギリ譲歩できる範囲になる」
要するに、あくまで夢乃の所属事務所はサウンドプロダクションで固定。もしまりあの事務所の方からファッションモデルとしての仕事が投げられる場合、業務委託という外部の個人にファッションモデルの仕事を任せるという形で通すとの事だった。
これならば仕事に対する報酬の方は一度サウンドプロダクションの方を通る形となる。
「まぁ、2つ目に関してはこれからまりあ君のいる事務所と話し合う必要はあるけど……それでも私は君をファッションモデルとして出すのならこの部分は譲れない」
「わかりました。……両親への説得はいつまでにやった方が良いですか?」
「……そうだね。可能なら今月中にしてもらいたい。12月に入ってしまうと年末年始に向けての仕事に重なるからね」
「じゃあ、今月中に説得して姫野さんの方に合意書は出します」
「それでよろしく頼むよ」
それから話を終えたという事で夢乃と姫野は部屋を出て行く。そんな中でハジメは顔つきが不機嫌そうな物に変わると拳を握り締める。
「何故だ……何故あんな子に……」
どうやら今回の論戦で夢乃相手に言い負かされた事が悔しいらしく。同時にかなり混乱した様子だった。するとレイが考える。
「(多分親父が負けたのは……夢乃ちゃんが夢をひたすら追うのに純粋な子供だったからだろうな。打算とか可能性とか。そこまで難しい事がわからないから、純粋に親父の意見に真っ向から対応できた。多分影人や俺に同じ事をやれって言われても無理だ)」
同時にレイはあれだけ自分の事で迷っていた夢乃が覚悟を決めるとここまで変わるものなのかと感心した様子も見せていた。
「(夢見る乙女の底力……親父も珍しく言い負かされて動揺してる)」
「……レイ」
「何ですか?」
するとハジメは部屋の片付けをしながら考え事をしていたレイへと話しかけるとレイはそれに答える。
「私のやり方は間違ってるのか……?」
「……間違ってるかどうかで聞かれたら俺にはわからないですよ。結果的に社長のやり方でここまで生き残ってるので」
「ッ……あんな子供に打ち負かされるとは」
「でも、あなたの目的は達成されてますよ。少なくとも、夢乃ちゃんはこれで事務所から出て行く可能性は皆無になりましたし」
それは実際その通りだ。本来なら、ハジメが夢乃を呼び出した目的もそこにある。夢乃が自分の事務所を抜けてしまわないようにするための説得。それが元々の達成条件だったはずだ。
「ッ……もう良い。明日の話、任せるぞ」
「……はい。山上さん達との話も済んでます。田中さんにレコーディングの話も投げてるので」
するとハジメは自分が夢乃相手にしてやられた事が余程気に入らなかったのか。レイとの会話を終えるとさっさと社長室へと引っ込んでしまう。レイはそんな父親の様子を見届けた。
「………父さんもあんなに取り乱す事があるんだな」
レイは珍しく取り乱していた自分の父親に意外そうな視線を送りつつ自分のやるべき事を片付けて行く事になる。それはさておき、事務所から出る際に夢乃は姫野と話をしていた。
「夢乃さん、社長相手にどうしてあそこまで」
「……別に。私はただ夢を追いかけたい素直な気持ちをぶつけただけです。そこに打算とかなんてありませんよ。多分、その気持ちが無かったら……ハジメさんの話に流されていましたし」
夢乃の言葉に姫野は何となく納得はできた。先程の夢乃は最後の方で純粋で欲張りな夢を語りつつも、最後にこの事務所でならそれができる……と事務所を信用している事を伝えた。恐らく、ハジメを打ち負かした最後のピースはその言葉だろう。
「それにしても、あそこまで覚悟が決まっていたなんて……」
「……正直、あんな事を言っておいてですけど……本音を言えばまだちょっと不安です。でも、私は姫野さんやハジメさんの手腕なら絶対上手く行くって信じてます!もし仮にファッションモデルで失敗したとしても……配信者として上手く繋いでくれるって」
「夢乃さん……はい!私も精一杯あなたのマネージャーとして支えますね」
「これからもよろしくお願いします!」
そして、2人は事務所を出た所で握手を交わして微笑み合う。それから姫野はこのまま仕事をするために事務所に残り、夢乃は1人自宅へと歩いて行く事に。
それからこの日の夜、影人や両親が帰宅。そのタイミングを見計らって夢乃はずっと伏せていた自分のやりたいもう一つの夢、ファッションモデルについてを話す事にした。
「お父さん、お母さん、お兄ちゃん。……私、やりたい事を見つけました」
「やりたい事?」
「うん。……この前、手鞠沢高校の学園祭に行った時。コスプレファッション大会に参加して。そこで早乙女まりあさんからスカウトされたの」
「えっ……あの早乙女まりあさん!?」
すると理沙は驚いたような声を上げる。彼女はエステシャンをやっているだけあってそういう雑誌には詳しい。だからこそそこで有名な早乙女まりあからのスカウトと聞けば当然驚くだろう。
「これは本当だよ。俺はその場にはいなかったけど、咲良さん達は夢乃が本物の早乙女まりあさんからスカウトされた所は全員で見たって言ってたし」
半信半疑な両親へと補足するように影人がフォローを入れるとそれに納得。ただそうなると当然次は今の配信の話になってくる。
「夢乃がファッションモデルをやりたいとして。配信者としての方はどうするんだ?辞める形になるのか?」
「ううん……私、配信者を続けながらファッションモデルもやってみたい」
「「えっ……」」
「(なるほど、悩んでいたあの状態からその結論が出たのか。……というか、妙に迷いが消えてる。もしかして今日出かけてる間に何かあったのか?)」
夢乃からのカミングアウトに魁斗も理沙もかなり驚いたような顔を見せると影人も夢乃からの言葉を真剣に聞く。
「2つも同時にやる事が難しい事はわかってる。それに、夢を見過ぎてる事も……それでも私はどっちも諦めたくない。そのくらい、両方共私にとって大切な目標だから」
夢乃は自分の力で、決意を持って2つの目標を追いかけたいと強く願う気持ちを伝えた。それを聞いて魁斗と理沙は確認するように問いかける。
「夢乃は本当にその2つを一緒に追いかけたいと思ってるのか?」
「うん」
「多分今まで以上に自由な事をやる時間は無くなるよ。それに、そんなにキツい事をやって……続けられる自信はあるの?」
「やるよ。……少なくとも、私ができないって思うまではずっと」
夢乃の言う言葉には重みがあった。それだけ彼女が本気でやりたいと信じ、伝えている証拠だろう。
「夢乃、改めてだけどその2つを同時にやるというのは自分で出した答えなんだな?」
「勿論。私が自分の意思でやりたいって思ったことだよ」
夢乃の固い意志を見た影人達は少しの間、夢乃の方をジッと見るとその気持ちが偽りでは無いことを感じ取った。そして、3人を代表するかのように父親の魁斗が答えを示す。
「わかった。夢乃にそこまでの気持ちがあるのならやってみれば良い」
「ッ……!良いの?」
「ああ。ただし、どんな結果になったとしてもそれから逃げずに受け入れる事。これが出来ないのなら認められない」
「うん……ありがとう!!」
父親である魁斗が夢乃の覚悟を認めた以上、影人や理沙はこれ以上とやかく言うつもりはない。こうして、夢乃は配信者とファッションモデル。これからはその両方を目指して頑張る事になるのだった。
また次回もお楽しみに。