キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
夢乃は自らの夢をサウンドプロダクションの社長であるハジメや自分の家族に改めて明かすとその了承を得る事に。
彼女は自分の意思で配信者とファッションモデル。両方の道を進むと決めて決意を固めた。そして、それが両者に届いた結果が今の現状だろう。
『そっか……スカウト、受けてくれるんだね!』
「はい。でも、色々あってそちらの事務所には行けなくて」
今は話し合いが終わって少し後。夜ご飯を済ませた夢乃は自分をスカウトしてくれた相手、早乙女まりあと電話をする事にしていた。答えを出すまでの期限が来年の3月まであるとはいえ、早い段階で決まったのならそれを伝えないのも勿体無いという事で早速話を通す事にしたのだ。
『もしかして、ハジメさんが止めちゃった感じ?』
「はい……折角私の事を買ってくれてるのに……」
『良いよ良いよ。そういうのを話し合うのは事務所同士なんだから。夢乃ちゃんが私のスカウトを受けてくれただけで十分。今度タイミングを合わせて私とあと妹のかぐや……早乙女かぐやともお話ししよっか』
「えっ、良いんですか?」
『うんうん!その方が私達もアゲアゲな気分になれるし!』
「はい!よろしくお願いします!!」
それから2人はある程度雑談をしてから電話を切るとそれを待っていたかのように部屋の戸がノックされる。
「夢乃、そろそろ大丈夫そうか?」
「うん。入っても大丈夫だよ」
そのタイミングで夢乃の部屋と廊下を繋ぐ扉が開くとそこには影人が立っていた。このタイミングでの話というのは最早一つしか無いだろう。
「夢乃、覚悟を決めたんだな」
「うん……。私は配信者とファッションモデル。どっちも諦めたくない。まぁ、お兄ちゃんの事だしそんなの欲張りって思うかもだけど……」
「……そうだな。俺だって声優をやるために死ぬ気で努力してる身だし夢乃の事を欲張りだとは言いたい」
「むーっ!そこは曲げてくれないんだ……」
影人はやはり夢乃が2つの目標を同時に追うと言い出して何も思わなかったわけが無く。流石に否定的な意見を言ってきた。
「だけど、お前は父さんを納得させたしその感じだとあのハジメさんも上手く丸め込んだだろ」
「え?う、うん……」
「俺から言わせたらそれだけ欲張りな夢を持ってその道を進むのに否定的な大人達相手にそれだけの事をやられたらもう否定なんてできねぇよ」
影人としては自分があれだけ対面の話で手も足も出なかったハジメ相手に夢乃が上手く立ち回って彼の言質を取ったという事実は地味に堪えていた。主に妹に出し抜かれた感があって悔しいようである。
「それに、その2つって案外両立しやすかったりはするからな」
「うん。ファッションモデルの中には顔出しで配信者をやってる人もいるからね!」
これは実際そうである。今はネットが発達した時代。ファッションモデルのような雑誌で活動していた人達もネットを利用して自分の魅力を外に発信する機会なんて幾らでもある。
「配信頻度は落ちるだろうし、ドリーム・アイと同時並行できるかどうかは別だけどそれもまた1つの選択肢だ。俺は夢乃の夢を応援する」
「そっか……ありがと!お兄ちゃん」
何にせよ、これで夢乃の悩みだった配信者とファッションモデルを同時並行してやるという形は完成。ここからは大人達が夢乃を上手く育てる番だが……その辺はハジメに任せる事になるだろう。
夢乃はハジメの手腕ならきっと自分を活かすやり方を出してくれると信じている。何しろ、自分の所に留め置くと決めたのは彼自身。もしここで夢乃を裏切れば他の所属タレントにも悪影響が出る。
そこまで計算したわけでは無いが、ハジメ側が夢乃をサポートする理由は十分あるわけだ。
「それじゃあ、明日はいつもの出張所でのアカペラ練習だから今日は早く寝ろよ」
「うん。私達のアカペラももう完成間近だし、後は山上さん達がオッケーを出してくれるだけだもんね!」
こうして、影人達は翌日のアカペラ練習に向けてまずは自室でゆっくりと休む事になる。
その頃、チョッキリ団アジトにて。チョッキリーヌが1人で考え事をしながらビリヤードを打っていた。
「………」
その瞬間、チョッキリーヌが構えていたキューを使ってボールを突くと狙っていた番号のボールは見事に穴の中に落ちる。ただ、やはり彼女の中には虚無感が拭えない。
「……今日はあの生意気なジョギもいないし、ここが静かだね。だけど、やはり私はアイツらがいた頃が懐かしいよ」
それからチョッキリーヌはビリヤードをそのままほっぽり出すとその手にスマホを取り出す。
「今思えばアイツらの連絡先……聞いておけば良かったね。そうすれば、今会いに行くこともできたはずなのに……」
チョッキリーヌはこの前のハロウィンの件で死んだはずのカッティーとザックリーが生きている事実を知った。つまり、はなみちタウンに行けば奇跡的に出会うという事も確率はかなり低いながらも可能なわけである。
「そういえば、スラッシューは前々から仲間について強い執着があったね。キュアソウルビートの事を引き込もうとしていたくらいだし」
チョッキリーヌは数ヶ月前、スラッシューがキュアソウルビートを闇堕ちさせてでも自陣に勧誘しようとしていた事を思い出す。その事実から彼女は仲間を求める意識が根底にあるのだと推測。
スマホを取り出して早速検索を始めた。勿論、キーワードはスラッシューの本来の名前。天城切音である。
「確かこの前大学に潜入した時は天城切音と名乗ってた。多分プリキュアの本拠地に潜入してた時もそうだったはず。……天城切音、天城切音……」
しかし、残念ながら天城切音では検索に一致する物は出なかった。流石に天城切音で引っかかるくらい有名なら大学に行った時もっと話題になってたはずである。
「そういや、このKotoneってなんだい?えっと……ッ!?」
するとチョッキリーヌはとうとう辿り着いてしまったスラッシューこと天城切音、そしてKotoneが同一人物であるという事実に。
「嘘……だよね?まさか、スラッシューが……伝説のアイドルユニットの片翼……」
「……チョッキリーヌ、何を調べてるのかしら?」
そして、こういう時に限ってタイミングが悪いと言うべきか。そこにスラッシューが出てきてしまう。
「す、スラッシュー!?じ、実は……」
「ああ、それなら気にしてないわ。もう過去の話よ」
「そ、それよりもアンタ……昭和のアイドルなら何で……何でそんなに若々しいんだい!?」
チョッキリーヌはかなり動揺と困惑があった。何しろ彼女の感じている通り、スラッシューがKotoneとして活動していたのは今から遡って45年程前。つまり当時20歳だとしても実年齢で考えたらもう65歳前後。今を生きる人間から見れば立派なおばあちゃん世代だ。
それなのに今の彼女の容姿は20代前後を維持している。まるで彼女の中の時が止まっているかのように。
「ああこれ?確かに知らない人はビックリするわよね。だって私……過去からタイムスリップしてここに来たのよ」
「た、た、た、タイムスリップ!?」
「そ、タイムスリップ」
チョッキリーヌはスラッシューの知らない情報が大量に吹き出している事に脳内の処理が追いつかなくなっていた。
「……とは言っても私がダークイーネ様に拾われたのはこの時代に来てからよ。だからタイムスリップ自体はダークイーネ様とは関係ないの」
スラッシューからの言葉にチョッキリーヌは未だに信じられない顔を向ける。
「この事、ジョギは知ってるのかい?」
「当然知ってるわよ。というか寧ろ、私は何であなたがこの事を知らなかったか聞きたいくらいなんだけど」
「仕方ないだろう!ダークイーネ様はそこまで教えてくれなかったのだから!」
スラッシューはチョッキリーヌが言ってることは事実だと感じると一度溜め息を吐く。
「はぁ……そういう事ね。自分語りをし過ぎたけど、これ以上は詮索しない事をオススメするわ。誰にだって触られたくない秘密があるのはあなたにもわかるでしょう?」
「ッ……そうだね」
チョッキリーヌはこれ以上スラッシューを問い詰めても彼女を怒らせるだけで何も得はないと判断。それ以上の質問をしない事を決めた。
「それで、調子の方は大丈夫なのかい?」
「……万全とは言い難いわ。それに、多分アイドルプリキュアと接触したらまた記憶の侵食が始まる」
スラッシューはもう自分がアイドルプリキュアに接触する事で発生してしまう記憶の復活は止められないと悟っていた。
「じゃあどうするんだい?アイドルプリキュアと会ったらそうなるんじゃ対処のしようが……」
「……こうなったらアイドルプリキュアと会わずに仕留められるか試してみるつもりよ。ただ、戦いをダークランダーに依存させる事になっちゃうけど」
スラッシューの狙いはアイドルプリキュアのいない場所でダークランダーを召喚。そのダークランダーに暴れさせ、その間自分はダークランダーの前に姿を表さないという物だった。つまり、自分は徹底的にアイドルプリキュアとは会わないという一点を貫くつもりである。
「ジョギも言ってたけど、アイドルプリキュアは説得を始めたらこちらが完全に折れるまではずっと続けてくる。鬱陶しいと思える程にね。……だから今回はそもそも対話しない。そうすれば、ダークランダーの働き次第では会わずに勝つことができるって事よ」
「なるほど……それなら、私から一つプレゼントよ」
「……プレゼント?」
スラッシューへと投げられたのはクラヤミンダーを作るための紫色をした旧式の水晶だった。
「これはクラヤミンダーの。だけど、何であなたが?宝箱に入ってた分は全部ダークランダー用の物に変化したでしょう」
スラッシューは何故かチョッキリーヌがクラヤミンダーを召喚する用の旧式の水晶を持っていた事に疑問を浮かべる。それを受けてチョッキリーヌはバツが悪そうに答えを返した。
「元々それはバッサリーナに渡すために持っていた物だよ。初陣から帰ってきたあの子のために用意したこの水晶だけど、あの子は次の戦力としてダークランダーを望んだ。だから渡す機会が無かったのよ」
「なるほど、そこで自分が使うために取っておいたら今度はジョギが宝箱の水晶を全部赤いダークランダー用の水晶に変えたから……」
「そういう事。だからこれだけダークランダーの水晶にならなかったのよ」
だが、どちらにしてもダークランダー用の水晶を使うようになってからはそもそも主戦力がダークランダーに移ったため、使う機会が無くずっと手元に残っていた。
「けど、今更アイドルプリキュアにクラヤミンダーは通用しないと思うけど」
「……確かにそうだね。そのまま使えばクラヤミンダー相手には通用しない。……だけど、クラヤミンダー召喚の際にアンタの力を注ぎ込めばその力を限界突破させる事ができるはずだよ」
アイドルプリキュア相手にクラヤミンダーをぶつける上で一つ問題点がある。それは性能的に今のアイドルプリキュア相手には通用しないという事だ。主戦力がダークランダーへと移った最大の要因はこれである。
ただ、チョッキリーヌはスラッシューならクラヤミンダーをクラヤミンダーとしての姿のまま更に限界突破させられると思っていた。
「でも、クラヤミンダーのまま使う理由はあるのかしら。クラヤミンダーの光よりもダークランダーの闇の方が素体を比較的発見しやすいと思うのだけど」
「……いや、逆にそれが良いと思ってるのよ。闇は手頃に発見できてしまう分、質で劣る物が多い。しかしその反面他人よりも突出した光は見つけるのに苦労する。だからこそ召喚したクラヤミンダーの力をより引き出せるんだよ」
ちょっとした闇を使えるダークランダーは比較的見つけやすい分、厳選する気が無いのならどうしても質は落ちやすい。ただ、クラヤミンダーを召喚する際は他人よりも優れた光を使う必要があるためその分高品質な個体を作りやすい利点がある。
「なるほど、そういう事なら試してみましょう。どうせ使うのはこれが最後なんだし、折角ならとびきりの光を放つ者を探してみようかしら」
こうして、スラッシューはチョッキリーヌの提案に乗った。彼女は最後のクラヤミンダーの水晶を使う形でアイドルプリキュアに挑むべく部屋へと戻っていく事になる。
「……これでアイドルプリキュアが倒れてくれれば、アイツが苦しむ事も無くなるんだろうけどね……」
チョッキリーヌは出かけて行ったスラッシューの後ろ姿を見送りつつ彼女には幸せな顔になってほしいと考えてしまう。
そして、一方のスラッシューは自室に戻ると手にしたクラヤミンダーの水晶を眺める。
「……ここで敢えて暗闇では無くキラキラを狙うか」
すると、その瞬間スラッシューから闇のエネルギーが少しずつクラヤミンダー召喚用の水晶に流れ込んでいく。すると水晶の色合いが薄紫から濃い紫へと変色が開始される。これはスラッシューの持つ闇に共鳴して水晶の方がダークイーネの力に頼らずに自分で進化を始めた事を意味していた。
「今度こそは絶対に、絶対にアイドルプリキュアを潰す。そのためにはより一層凄まじい程のキラキラの力を見つけないと」
そして、スラッシューはアイドルプリキュアを倒せる程の凄まじいキラキラを持った人間を探すべく翌日に向けての準備を進めていく事になる。
また次回もお楽しみに。