キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
影人がレイと話す少し前の事。夕日が傾く空。こころは一人ダンスを踊っていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
それこそ、頭が真っ白になってしまうまで。何も考えられなくなるぐらいにまで疲れる事で先程の出来事を無理矢理記憶から追い出そうとした。
「……ダメだ。全然忘れられない……。むしろ、ダンス中に記憶が何度も頭をよぎって集中できない」
先程からダンスの動きも注意力散漫なせいで質が大きく落ちている感覚だった。多分、今影人に見てもらっていたらダメ出しを沢山受けただろう。だが、影人は練習場に来てくれない。……むしろ、今は来てほしくなかった。
「こんな程度じゃダメ……。カゲ先輩に合わせる顔が無いよ」
するとふと浮かんできたのは先程マックランダーを倒した時に生で見たキュアアイドルのライブシーンである。
「……すっごくキラキラしてたな。あんなに強い気持ちでモンスターに立ち向かって……。笑顔はキラキラで。私にはあんな事……できない」
こころは悔しそうに唇を噛み締める。自分にはキュアアイドルやキュアウインクのような輝きは出せないとこころはそう思ってしまった。二人の立っている場所は自分には到底届かない場所だと、そう考えてしまう。
「……それに、そんな私にはカゲ君の隣にいるなんて……無理、だから……諦めなきゃ、諦めなきゃ……」
こころの目にはそうやって言う度に涙が溢れ出てくる。本当はこころは影人の隣にいたい。大好きが溢れてたまらないくらいに。影人はそのくらいこころにとって憧れで、眩しくて。
「先輩……大好きなのに、大好きだって言いたいのに……。私なんかには無理なんです……ううっ……」
するとこころの胸がズキズキと激しい痛みを訴える。自分の気持ちを言えないというだけでこんなにも心は痛く感じるのだとこころはやっと理解できた。
「心……ズキズキします。先輩、私……どうすれば良いんですか……。助けてください」
こころが小声で呟いたのはそんな彼女の悲痛な気持ちの奥底である。心の中では影人と一緒にいたくて仕方ないのだが、今の自分では遥かに遠い場所にいる影人の隣にいるのはダメだと。せめて影人の近くに行かないとダメだと思っている。しかし、今回の件でこころはその影人のいる場所がアイドルプリキュアと同じと思えるぐらいに遠いのだと感じてしまった。
それから暫くして。この日の練習を終えると夜の暗い道を歩いて家に戻る。それからこころは暗い顔のまま家に入ると玄関の戸を閉めて靴を脱ごうとした。
「お帰り。こころ。今日は仕事が早く終わったの」
すると玄関の電気が点くと同時にこころの母親である愛が出迎える。こころは一瞬びっくりするが、すぐに顔つきをニコニコとした笑顔に変えた。家族にまで今回の事で心配をかけたく無いのだ。だが、母親はそんなこころに違和感を感じたのか声をかける。
「……こころ、どうかした?」
「ううん。何でもないよ」
そう言ってこころは愛とすれ違うと部屋へと歩いていく。夕ご飯までに宿題をやると呟いたこころだが、愛は見逃さなかった。こころの目元にあった涙を流しすぎてできた充血を。
「こころ、やっぱり何かあったのかしら」
ただこころの性格上、今自分がその事を聞いても無理に誤魔化そうとする。むしろ、その話題を引っ張り出してこころは余計に辛い想いをするかもしれないと考えて愛はわざとこころに何も問わなかった。
「……こころのあの感じは失恋かしら。私もこころぐらいの年頃にしたなぁ……」
ひとまず愛はこれ以上こころの深い部分には触れないようにしようと考えつつ戻っていく事になる。
そして、部屋に戻ったこころは扉を閉めた瞬間苦しさで胸が今にも張り裂けてしまいそうになってしまう。影人に恋心なんて抱いたらダメだとさっきからずっと言い聞かせてるのに、どうしても気持ちは収まってくれない。
「カゲ先輩……大好きなのに、何で側にいられないんですか……何でそんなに遠い場所にいるんですか……」
するとこころの視界にキュアアイドル、キュアウインクのポスターや自作のグッズが映る。
こころは立ち上がるとそのグッズを段ボール箱の中にしまい始める。自分はアイドルプリキュアなんて目指せない。目指せない憧れなんて物は、自分にとって必要無いと彼女は胸を痛めながら片付けていく。
「私……心、キュンキュンして……して……ません」
こころは抑えたはずの涙がとめどなく溢れてくるとアイドルプリキュアのグッズを入れた段ボールを押し入れの中に入れて封印してしまう。
「……先輩とも顔なんて合わせられない……嫌だよ……そんなの……まだ、気持ちもちゃんと伝えてないのに」
こころはそう言って自分の気持ちに無理矢理蓋をするとその日の夜を過ごす。同時刻、夢乃は影人からこころともう会わない宣言を受けて大声を上げていた。
「えぇー!?こころ先輩と会わないって……お兄ちゃん本気で言ってるの!?」
「……ああ。朝練も、学校でも……放課後も……俺にはこころに会う資格は無い」
「……お兄ちゃん、先輩が嫌がる事とか何かしちゃったの?」
「別に……。俺はこころと向き合えるような器じゃなかっただけ。……こころに失望されたんだよ」
影人は夢乃がそれ以上こころへの追求をしないようにわざとこころが自分に失望したと嘘を吐いた。
「……お兄ちゃん、本当に良いの?こころ先輩はきっと……」
「この話はこれで終わりだ。夢乃、暫く一人にさせてくれ」
「ちょっと、お兄ちゃん……」
夢乃がそう言うと部屋へと戻っていく影人をただ見送る。夢乃はトボトボと歩く影人を見て小声で彼へとある事を言った。
「もう、お兄ちゃんってば……やっぱりこころ先輩の気持ちがわかってないよ。……多分、その感じだとこころ先輩はお兄ちゃんが好きだから距離を取ってるのに」
夢乃がそう言う中、影人は一人部屋に入ると部屋の扉にもたれかかってから手を顔に当てて悔しそうに涙をこぼす。
「俺にだって……そんな事、とっくにわかっている。こころが俺に友達とは別の感情を抱いてる事ぐらいな」
どうやら影人もこころから向けられる気持ちに関しては薄々勘付いてはいたらしい。ただ、やっぱり今の自分にはこころに近づくという行為はできない。第一、彼女の落ち込む原因を作ってしまった自分がどの面を下げて彼女と会うなんて言えるのだろうか。
影人がスマホを見る中、こころからの連絡は一通も来ない。そして、影人は痛感する。いつの間にか、自分の心は彼女に支えられるようになっていたのだと。彼女に嫌われたかもしれない。そう思った自分の胸が強く締め付けられるのを感じた。
場面は変わり、その日の夜。咲良家のうたの部屋。そこではうたとプリルンが眠っていたのだが、二人揃って夜中に目が覚めてしまう。
「やっぱり気になるプリ!」
「私も、こころちゃんと話してみよう!話せば何か……そう!こころちゃんをキラッキランランにできるかもしれない!したい!」
「プリ!」
「じゃあ決まり!そうとなれば……」
「プリ!」
「まずは寝よう!」
「プリ!」
それから二人は嵐のように起きて嵐が過ぎ去った後のように眠り始める。その際二人揃って鼻提灯を鳴らしていたが。
翌日の朝、影人はこころのやってる朝練には顔を出さず。学校への登校に関してもこころが登校している時間を外して行った。影人は徹底的にこころとの接触を無くしているらしい。
「おはよう影人く……えっ!?その顔どうしたの?」
「済まないな。ちょっと色々あって。授業は普通に受けられるから」
影人はこころと接触を避けるという事を決意したものの、やはり精神的なダメージは計り知れないのかやつれたような顔つきになっていた。それを見て東中や他のクラスメイトが心配して声をかける。
「無理だけはするなよー?」
「うん、ありがと」
そんな影人を見てレイはホッとした顔つきになる。恐らく、転入したての影人であればこの時も意地を張って周りからの声掛けにも素っ気ない反応を返したに違いない。彼の心の変化がこの時にも現れていた。
ただ、やはり普段と比べて元気が無い。授業も集中が欠けつつあるぐらいだ。
「(まぁ、それでも周りから見たら平然としているようには見せてるからアイツの演技力も凄いんだろけどな……)」
アイドルプリキュアの関係者以外から見たら教師含めてほぼ平常運転に近い状況に影人は持って行っている。心はズタズタにされてもその切り替えができる辺り、レイとしてはまだ影人の中にある最後の支えは消えてないのだと察した。
それから放課後。元々この日を影人通じで研究会がある日だと知っていたうたは早速こころに会うために研究会のある教室へと向かう。しかし……。
「こころちゃん、帰っちゃったの!?」
「うん。今日の研究会はお休みにするって。連絡が入ってて。……何かあったの?」
「いや、ううん!何でも無いんだ。あはは……」
うたは何とか誤魔化す中、ななもこころがここにいないとなるとどうやって彼女を探すべきか悩む。
「でもどうしよっか。こころちゃんに用事があるんだけど」
「そうなんだね!あ、それじゃあ。私、お家知ってるから教えよっか?」
その言葉を聞いて二人はパッと明るい顔つきになる。同時刻。こころは学校が終わるとさっさと家に帰ってから準備をしていつものダンス練習をしていた。そんな彼女の顔つきはやはり曇ったままである。
「ダメ……カゲ君の事は、忘れなきゃ……。もう私……顔だって合わせられないのに……」
こころは悔しさに包まれていた。忘れたいのに忘れられない。どうしても影人の顔つきが頭に浮かんで仕方ないのだ。
「私……。こんなにもカゲ君に依存してたなんて」
こころは久しぶりに影人に会えたあの日からずっと影人の事が忘れられなかった。今も尚、影人の事を考えてばかりである。……やはり、どうしても忘れるなんてできないのだ。
「紫雨さん」
すると歩いてくる音と同時にこころへと声がかけられた。こころが振り向くとそこには前にこころをダンス部へと誘っていた寸田がいる。
「寸田先輩。見てたんですか?」
「ううん。丁度今来た所。……でも、紫雨さんを昔から見てて集中力も凄いと思ってるよ」
「あはは、前に寸田先輩に声をかけられるまで気づかなかった時もありましたよね」
こころは影人やアイドルプリキュアの件で元気の無い所を見せるわけにはいかないとできる限り平静を装って話に対応した。
「……私、気づくと集中しちゃってます。踊るのはやっぱり楽しくて、嫌な事を忘れられるんです。今も……昔も」
嘘だ。昔はそうだったのだが、今は踊っても忘れられない事ができてしまった。ただ、それを悟られたく無いがためにこころは嘘を吐く。
「……そっか。そうやって聞いてると、なんか尚更ダンス部に入らないかって誘いたい所だけど……」
そんな風に寸田は惜しそうな声色でそう言う。彼としてはこころのダンスの才能がどうしても欲しい。彼女がいるだけでもダンス部は強くなれると感じているようなのだ。
「……はい、考えてみます。もう一度」
こころはダンス部の誘いを考えると返した。アイドルプリキュアの件も影人の件もある中なのだ。まだ答えは出せないが、今はそうするべきだと彼女は判断する。
「えっ!?本当!?嬉しいよ!やった!紫雨さんゲット!!」
寸田が喜ぶ中、こころは僅かに申し訳なかった。アイドルプリキュアや影人の事を忘れるためにダンス部に入る。そうすれば少しは心のモヤモヤが消えると思っての判断なのだ。結局、彼女の考え方の根底は何も変わってない。それでも気持ちの整理を付ける時間は必要なのだ。
「……返事はまた今週中には改めて返します。ただ、色々とあって考えが変わってるんです」
「そっか。俺としては入ってくれるのは嬉しいよ。……ただね、今の紫雨さんを見てると何かを失って彷徨っているように見える……。さっきのダンスの最後の部分を遠目から見てたけど、そんな感じなダンスだったよ」
「……!はい……。返事を返す時までにはこの迷いも無くしておきます」
「無理だけはしないようにね」
それから寸田は去っていく。こころはそれを見送ってからまたダンスに没頭するのだった。
同時刻。影人は一人で自然公園の中を歩いていた。するとそんな彼の前から昨日会った天城が現れる。
「あっ、影人君」
「あなたは、天城さん……。お仕事は……」
「私、休みが不定休の仕事をやってて。今日はお休みなんです」
「……そうなんですね」
影人が暗い顔つきをする中、天城はそんな影人を心配に感じたのか影人へと話しかける。
「あの、どうされました?」
「え?」
「……昨日私を助けていただいた時と比べて元気が無いなと感じて……あの、私で良かったら相談に乗りますよ?」
影人はそんな彼女に言われて近くにあったベンチに座ると一旦プリキュアの事は伏せつつ悩みを話した。
「なるほど、自分が好きだと思っている子の夢を深く傷つけて壊してしまったと」
「……簡潔に言ったらそうなります。実際はもっと複雑なんですけどね」
「そっか……」
「俺はあの子の夢を間接的とはいえ壊しちゃって。こころは、きっと俺の事を許してくれません」
影人は怖かった。こころに自分のせいだと言われてしまうのが。彼女に自分の事を否定されてしまえばきっと今度こそ影人は折れてしまうだろう。
「……辛かったですね」
「はい。正直、今も辛くて辛くて仕方ないです。謝りたいのに、また元の関係に戻りたいのに」
影人は不甲斐ない自分が情けなかった。あれだけこころの事を考えた行動をしていたはずなのに今はもう彼女に嫌われるのが怖くて怖くて仕方ないのだ。
「大丈夫。きっとその子は影人君の事を許してくれますよ」
天城は影人と話す中で影人を安心させるように優しく話しかける。その包容力に包まれた影人の心の中に安心感が浮かんできたのか急に眠くなってきた。
「(あれ……俺、何で急に……)」
影人は周りに見せてこなかったが、内心ではかなり気を張っていた。うた達以外にアイドルプリキュアの事がバレないように周りには何倍も気を遣って神経を張り詰めていたのだ。そのため、フル稼働していた神経の反動からか彼の体へと疲れがどっと襲ってきたのである。
「あら……寝ちゃった。置いて行くのも申し訳ないし、どうしよう……うーん」
彼女は無理に影人を起こすわけにはいかないとひとまず影人の事を置いては行かずに見守ることにした。
「……影人君、ふふっ。寝顔も可愛いなぁ」
それから天城は影人が起きないように静かにその場で時間を潰す事になるのだった。すると彼は寝ているために無意識ではあったのだが、影人の胸に僅かに黒い感情が湧き立ち始める。
「(……こころの夢を邪魔するこんな世界、真っ暗闇にしてやりたい……。こころの笑顔を取り戻すためなら、俺は闇の中にだって……)」
影人は自分が心の奥底でそんな意思に染まって行くのに気が付かなかった。それは自分の心を見て見ぬフリをしているだけなのか、本当に無意識なのかはわからない。ただ、彼の中に眠っていた力は徐々に闇の力として邪悪に染まりつつあるのだった。
同時刻、その様子を偶々街に出てきて見ていたスラッシューは笑みを浮かべる。
「ふふっ。影人君、やっぱりあなたはこっち側の人間よ。……あなたが自ら輝くなんて性に合わないわ。私と一緒に世界を闇に染めるために力を振るいましょう。……あなたとなら私は一緒に仕事をできる気がするわ」
それはチョッキリ団の中で一匹狼であったはずの彼女が初めてと言って良い程に感じた他人への期待であった。自分の事しか信じてこなかった彼女はその心の昂りに胸が踊るとそのまま姿を消す事になる。
また次回もお楽しみに。