キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
ななが母親からの招待でフランスへと旅立つ当日。それと同時並行して学校を終えたこころは自宅に戻ると学校の荷物の片付けを済ませてから予め準備しておいたお泊り用の道具を持って移動を開始する。
勿論目的地は本日泊まる予定の影人の家だ。尚、この日は金曜日なので翌日の学校を気にする必要は無い。だからこそななも気兼ね無くフランスへの旅行に旅立てたのだが。
「ふぅ……準備は万端です。あとはカゲ君の家に……」
勿論、こころが影人の家を訪れたのは今回が初めてというわけでは無い。これまでに何度か訪れた事がある。ただ、今回のようなお泊まり会目的で訪れるのは今回が初であった。
しかも、今回は影人の両親が揃っている。今まではこころが影人の家を訪れても仕事の忙しさから彼の両親は揃っておらず。中々揃った状態で面と向かっての挨拶をしてこなかった。
「(大丈夫……大丈夫!!)」
とはいえ、もう約半年近くお付き合いをしている上にその関係性は完全に双方の両親が公認している。そのため、今回の挨拶は半ば形式上の物であると言えるだろう。
「(……お父さん。私、将来のお婿さんの家にちゃんと挨拶してくるね)」
こころは緊張しながらも、自分が将来結婚する相手の両親に挨拶してくるという事を自室にある亡き父との想い出の写真の前で手を合わせて報告。それから家を出た。
それから暫くして。影人の方はあらかた片付けを終えると安堵の顔を浮かべていた。
「な、何とか間に合った……」
「はぁ……。今回のそれ、本当にお兄ちゃんらしくないよね」
「そりゃあ、やるのをすっかりと忘れてたんだからな。仕方ないだろ」
夢乃はらしく無い兄の挙動に溜め息を吐くと影人は冷静な様子で答えを返す。するとこのタイミングで自宅のインターホンが鳴り響く。
「あ、来た!」
「早速お出迎えするか」
それから影人と夢乃は自宅の玄関を開けてそこに立っていたこころを出迎える。
「カゲ君。夢乃ちゃん。こんにちは」
「そんなに畏まらなくてももう普通に接すれば良いのに」
「ささ、どうぞどうぞ。こころお義姉ちゃん!」
「ふえっ!?」
すると、不意打ちで夢乃はこころの事を姉として呼ぶ。その言葉にビックリしたこころは顔を赤らめつつ慌てて夢乃へと声を上げる。
「ゆ、夢乃ちゃん!?」
「だってお兄ちゃんのお嫁さんだから義姉ちゃんで大丈夫じゃないの?」
「それにしても急に呼ばないでくださいよ。ビックリしちゃいましたって!」
こころは不意打ちで義姉と呼ばれたのが気恥ずかしく。いずれはそうなるとわかっていてもやはりまだ慣れる事はできなかった。
「夢乃、あんまりこころに迷惑かけたらダメだぞ」
「えー、良いじゃん。家の中でのお義姉ちゃん呼びくらい。お義姉ちゃんだって学校とプライベートでお兄ちゃんの事を呼び分けてるじゃん」
「あ、アレは学校での先輩後輩の義理を……」
「じゃあ私も同じかな〜」
夢乃はのらりくらりとした様子でこころの事を振り回し始めてしまう。そのため、結局は夢乃の義姉呼びに関しては家族だけの時とはいえ一旦定着する事になった。
それから3人は入り口での立ち話を長々とするのも変であるために早速こころを中に入れると荷物を起きてもらってから早速くつろいでもらう事に。
「お邪魔します」
「ああ、ゆっくりしていってくれ」
そして、こころがソファーに座ったタイミングでゆっくりしてもらうために夢乃がお茶を出しつつ影人は何故か台所で作業を始めていた。
「どうぞ、お義姉ちゃん」
「ありがとうございます。……あれ、カゲ君は何をしてるんですか?」
「ん?ああ、今日はまだうちの両親が帰ってこないからな。あと数時間もすれば来るけど、折角だから今日は俺が料理を作るって話になってるんだ」
「か、カゲ君の手料理……」
こころは大好きな彼氏に料理を振る舞ってもらえると聞いて嬉しい気持ちが湧き上がってくる。……ただ、流石に自分がくつろいでいる中で影人だけに料理をさせるというのは気が引けたのか。
最初こそ嬉しさでボーッとしていたものの、数秒で首を振って意識を取り戻して慌てて影人の元に行く。
「そ、それだったら私も一緒に作りますよ!」
「ッ……こころに手伝わせるなんてそれはそれで俺の方が申し訳ないよ」
「そんな事言わないでください。私はカゲ君と一緒に料理をしたいんです」
こころは潤むような目線を影人へと向けつつ懇願。影人はそんな彼女からの訴えに胸を撃ち抜かれそうになる。
「くっ……可愛さの破壊力ヤバいな……。わかった、それじゃあ一緒にやるか」
「はい!」
そんな風に2人で今日の夜ご飯として食べる料理を作る事が決定したわけだが……この様子をニヤニヤとした様子で見る者が1人。それは当然影人の妹である夢乃だ。
「う〜ん、来て早々に共同作業だなんてラブラブだねぇ。それじゃあ、後はお二人さんでごゆっくり〜」
「「あっ……」」
2人はそう言われてようやく今の一連のやり取りが夢乃相手に筒抜けだった事を自覚。恥ずかしさで顔を赤くしてしまう。同時に夢乃は邪魔な自分はいない方が良いとばかりに自室に戻ってしまった。
「たくっ、夢乃の奴。今日に限ってやけに揶揄ってくるな」
「それだけ夢乃ちゃんも歓迎してくれてるって事ですかね」
「夢乃だけじゃない。多分うちの両親も歓迎してくれてるさ」
何ならもうお付き合いを始めた当初から2人の関係性は双方の家族間の公認事項に入ってしまっている。そのため、今更お付き合いを認めないなんて話にはならないだろう。本当に今回のお泊まりは今までできてなかったこころからの影人の両親への簡単な挨拶目的である。
それから早速影人とこころは2人で料理を開始。今日作るのは勿論こころが大好きなピーマンの肉詰めをメインとした物だ。
「それにしても私の好物に合わせてもらえるなんて嬉しいです」
「当たり前だろ?折角うちに来てくれてるんだ。だから少しでも沢山幸せ気分になってほしいからな」
2人はピーマンへとこねた肉を詰めつつ会話を弾ませる。その姿は楽しそうに一緒に料理を作る若い夫婦にも見えた。そうこうしてる間に肉詰めが終わり、後は焼くだけだ。ただ、丁度食べるタイミングで温かい方が良いという事で一旦先に別の物を作る事に。
「改めてですけど、カゲ君って料理上手ですよね」
「別に……うちの両親が忙しくてちょくちょくご飯が作れないタイミングとかがあるからその時に自分でやってただけだから」
「そうかもしれませんけど、多分同年代の他の男子と比べたら多分断然美味しいご飯を作れますよ」
影人はこころから褒めてもらえたのが照れくさいのか。少しだけ無言になってしまう。そんな影人に微笑ましい顔を向けるこころ。2人の距離感は自然と縮まっており、すぐ隣にピタッとくっついていた。
尚、今は包丁などの危ない物は使ってないのに加えて火も使ってないのでそこまで大きな危険は無い状態である。
「「……ジーッ……」」
そんな時だった。影人は廊下に繋がる部屋の出入り口付近から2つの視線を感じてしまう。隣にいるこころはそれに気づいて無かったが、影人は何となくその正体が誰なのか察していた。
「はぁ……。あのさー、そうやって俺達が良い感じな雰囲気なのを覗かないでもらえませんかね?お二人さん」
「……へっ?」
影人は半ば呆れたような顔つきで視線のする方を向きつつ話しかけるとこころの方は不意を突かれたためにまた変な声が出てしまう。そして、影人達の視線の先。居間に通じる廊下との扉の向こう側から2つの影が現れた。
「いやー、すまんすまん。2人が仲睦まじくしている所を見たらついな」
「影人とこころちゃんが2人で濃密な時間を過ごすのを邪魔するのも悪いしね」
「だからって2人揃って覗かなくても良いと思うんだけどな?」
影人は2人がいつの間にやら帰ってきた挙げ句、夫婦のように一緒に料理を作っている自分達を見かけた瞬間こっそりとそれを覗いていた事に呆れ顔を向ける。対してこころは今までの濃密な時間が2人に見られていたと思うと困惑と共に頭が真っ白になってしまっていた。
更に恥ずかしさのあまり一瞬で顔が赤く染まると顔から湯気を出しつつグルグルと目を回してしまう。
「あ、ああ……」
「こころはこころで恥ずかしさで機能停止状態になりかけてるし……というか、2人とも帰ってくるの早くない?俺の想定よりも1時間くらいは前なんだけど」
影人は思っていた以上に家に早めに帰ってきていた黒霧夫婦へと指摘を入れると彼等は至って普通の様子であっさりと答えを返す。
「え?折角影人の彼女さんが来てくれるってわかってるのなら早めに上がるのは当然だろ?」
「そうそう。私の方も偶々都合良くキリがついたタイミングが早くてね〜。職場の方には影人が彼女を連れてくるって話をしてたからシフト時間よりも早めに返してくれたのよ」
「ぐ……この親バカ両親が……」
影人は明らかにこころが来るのに合わせて仕事を切り上げた2人に苛立ったような視線を向ける。
「ッ……」
そして親子の会話をしていた影人と黒霧夫妻だが、ようやく置いてけぼりにしてしまっていたこころの元に2人が歩いてくると改めて挨拶をする事に。
「改めて、黒霧影人の父の黒霧魁斗です」
「母の黒霧理沙です。私達の事は気軽にお義父さん、お義母さんって言ってくれて良いからね」
「へえっ!?」
「あー、夢乃がそうだから当然こうなるよなぁ……」
影人は娘である夢乃がこころにお義姉ちゃん呼びをしていたので何となく想像はしていたが、やはりこの2人も自分の息子の嫁になる人にお義父さんやお義母さんと言われたいらしい。
「わ、わ、私はカゲ先輩の彼女の紫雨こころです。こ、こちらこそよろしくお願いしま……」
「えー?そんなに緊張しなくても大丈夫よ。それに影人の事、そんな先輩呼びなんて堅苦しい呼び方してなかったでしょ?」
「はぅうう……」
理沙がこころを揶揄うようにそういうと彼女は完全に萎縮してしまう。影人は完全に場の雰囲気に呑み込まれてしまったこころの頭にそっと手を置く。
「大丈夫だ。そんなに気を使わなくても普段通りにしてれば良いんだよ。うちの父さんも母さんもこころの事を歓迎してる気持ちは同じなんだからさ」
「うん……ありがと」
こころは影人に慰められて安心そうな顔つきを見せると影人の両親は再度微笑ましい顔つきでその様子を眺める。
「それじゃあ、話も終わったし。こころ、続きをやるぞ」
「わかりました」
「父さんと母さんは仕事の疲れもあるだろうしゆっくりしてて」
「ああ、ありがとうな」
「影人、こころちゃんとの時間を楽しんでね」
2人はそう言いつつ自身の片付けをするために2人の部屋へと向かっていく。それから影人とこころは料理の続きをやりつつ影人の方から問いかけた。
「こころ。父さんや母さんと話してみてどうだった?」
「あはは、ちょっと揶揄ってくるところがあるけど……何だかカゲ君が幸せそうなのを見て安心してるような感じというか。凄い優しい方達なんだなって」
「あー……。そういう所はあるかもな。何しろ俺がメンタル的にヤバい頃の事を思えば今の状況は安心して見ていられるのかも」
こうして、着々と料理が完成していくと味噌汁を作る段階に。とは言っても後は味噌を入れて味見をする程度ではあるのだが。
「ん〜……どうだろ……」
「どうしたんですか?」
「いや、今味噌汁の味見をしてみたんだけどさ。こころの口に合うのかなって」
「私はカゲ君が作ってくれた物でしたら全然大丈夫ですよ?」
こころはそう言ってくれているが、それでも影人はどこか納得行かないようで。どうにかしてこころの口に合う味を探していた。……ただ、それでも味に関しては結局の所こころ自身にしかわからない。そのため、影人は少しだけ考えてからある手を使う事にした。
「……仕方ないな」
「カゲ君?」
「……はい、あーん」
そんな時だった。影人は味見用の小皿に味噌汁のスープを少しだけ入れるとそれをこころの口元に近づける形で差し出す。そして、いきなりそんな事をされれば当然彼女もビックリするわけで。
「ふえっ!?か、カゲ君!?何で……」
「何でって、こころに味見してほしいからに決まってるだろ。せめて、こころが気に入る味にしたいんだし」
「いやいやいや、その前に“あーん”とはちょっと違いません?」
「あ、確かに言われてみればそうか」
影人はこころにどうやったら違和感なく味見してもらえるか考えた結果、先程のようなやり方をしたのだが、どう考えてもあのやり方だと違和感しか無い。
そんな影人の天然ボケにこころはドキドキさせられつつも影人の頼みを無碍にはできなかったので受ける事にした。
「もう、ひとまず味見はちゃんとしますので」
「ああ、頼む」
こころは早速影人から味見の小皿を受け取ってそれを飲み干そうとする。しかし、その直前にある事に気がついた。
「(……あれ、この小皿。さっきカゲ君が使ってませんでした?)」
そう、この小皿。直前に影人が味噌汁のスープの味を確認するために使ったばかりかつまだ洗う前だった。そして、その状況下でこの味噌汁のスープを飲めば間接キスという形になる。
しかも影人は何の因果か、先程自分が口を付けた場所をこころの口元の正面に向けて差し出していた。
「(か、か、カゲ君!?またこんな大胆な事を……。最近なんだか遠慮が無くなってません!?)」
こころは影人からの大胆な行動にまた動揺してしまうが味見をすると言った手前、今更断るなんてできず。
「すぅ……ふぅ……で、では……いただきます」
こころはそうやって間接キスについて色々考えながら結局その影人が口を付けていた場所から味見のスープを飲み干す事に。
そして、その直後にこころの脳に電流が走るような感覚と共に懐かしさを感じる味が広がった。
「こ、これ……私の家の……」
「ああ、前にハロウィンの仮装作りをするためにこころの家に行っただろ?その時にレシピだけ貰ってて。それから何となく再現できないかなって……」
「ッ……もう、カゲ君ってば何でも出来すぎですよ。私の家の味噌汁の味まで再現するなんて」
こころは影人が自分の実家の味を再現してくれた事に嬉しさやそれをレシピを見ただけで自分で再現してしまう彼の能力の高さに感心する事に。
「さ、こころのお墨付きも貰えたし。ラストスパートに入るか」
「はい!」
こうして、影人とこころは2人で夜ご飯を完成させる事になる。尚、先程の味見小皿の間接キス関連の話は何故か丁度タイミング良く通りかかった理沙がバッチリと見てしまっており……後から色々と問いただされてしまうのだが、その話はご想像にお任せするとしよう。
また次回もお楽しみに。