キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
影人達がお泊まり会をして眠りについた頃。日本から遠く離れたフランスの地ではななが父親の一と共にある場所に向けて急いでいた。その場所というのは勿論ななの母親である蒼風睦美の出演するコンサート会場だ。
しかし、運の悪い事に……丁度なな達が搭乗したフランス行きの飛行機がトラブルが起きた影響で遅延。時間的にもかなり厳しくなってしまっていた。そのため、ななも一も必死にフランスの街中を走る形で移動していたのである。
「参ったな……こんなにも飛行機が遅れるなんて」
「ママのコンサートに遅れちゃう……」
そんなわけで2人はどうにか公演の会場に到着。結論から言うとコンサートの開演時間には間に合った。そのため、早速チケットに書かれた自分達の席の場所に移動する。
「な、何とか間に合った……」
「うん。開演時間ギリギリだけどね……」
2人がそんな風に話をしつつ席に座った直後。公演が始まる影響で客席付近の照明が暗くなり、ステージの上だけが照明で照らされる。同時に会場内に拍手が広がるとその拍手の中、ステージの上に1人の女性がゆっくりと歩いて出てきた。
「ママ」
ななが小さな声で呟くように自分の母親の登場を喜ぶ。この事からそこにいたのはピアノを弾くため綺麗な衣装に着替えたななの母親、蒼風睦美であるのがわかるだろう。
その睦美は観客達へと挨拶とばかりに礼をしてからステージ中央に存在するピアノの席に着席。早速演奏を開始する。
その演奏は周囲の人々を美しいピアノの音の世界に引き込むような……そんな幻想的な物だった。そして、その引き込む対象は自分自身も含まれるとばかりに少しだけ体を揺らす事でリズムを取りつつ自らその世界の中に没入していく。
「(やっぱりママ、格好良い……!)」
ななはそんな睦美の演奏を観て憧れのようなキラキラとした目線を向ける事に。それから暫くして公演が終わると公演を見終わった観客達が会場から移動を開始。
「大成功だったね」
「うん!皆キラキラしてる!ママが皆を笑顔にしたんだ……!」
なな達はホールに繋がる扉から出て少しした所で一旦他の観客達が移動するのを見る事にした。これは世界的に有名なピアニストである睦美の演奏を観た観客達がどんな顔を見せているのか眺めたいというななの要望による物である。
「それじゃあ、そろそろママが住んでいる家に行こうか」
「うん!今日はママのために沢山作ってあげたいしね!」
それからななと一は睦美がフランスで拠点にしている家に移動すると彼女から予め受け取っていた合鍵を利用してその中へ。
そして、ななは家に入って父親の一と共に早々に演奏で疲れて帰ってくるであろう母親のために手料理を作る事に。その後、睦美が戻ってきて料理が完成した段階で久しぶりの一家揃っての夜ご飯となる。
「わぁ、凄いご馳走!」
今回の夜ご飯はハンバーグにサラダ、煮物、味噌汁にご飯という日本でも定番のメニューだった。そして、普段は仕事で忙しいせいで家の中で中々豪華な料理を食べる事が無いためか。はたまた、愛する娘と夫が作ってくれた料理だからか。睦美は出された食事に歓喜の声を上げていた。
「ななと一緒に作ったんだ。なな、最近はどんどん料理が上手になってるんだよ」
「凄いわね〜、こうして家族揃って食卓を囲むのは久しぶり。なな、本当に会いたかったわ」
「私も!」
「あ、勿論パパにもね」
「な、何だかついでみたいだな……」
「ふふっ……」
ななとその両親は久しぶりの再会を果たした事もあって一緒にご飯を食べながら色々と話せるというのはとても喜ばしい事だと感じている。それから、早速3人でご飯を食べつつ家族水入らずの時間を過ごしていた。
「「「ごちそうさまでした」」」
その後、暫くしてご飯を食べ終わると片付けまで済ませてからもう一度3人で向かい合って座ると話の続きをする事に。
「とっても美味しかったわ」
「なぁ、ママ。明日は何か予定はあるの?」
「ごめんね、明日も先生のレッスンがあるの」
「えっ!?何だか不思議……ママはあんなにピアノが上手でプロなのに、まだ先生から教わる事があるんだ」
「ふふっ、確かに私はプロだしその自覚もある。だけどね、プロだからこそ今の自分に満足しちゃいけないの。お客さんに最高の演奏を届けたいから、毎日自分の旋律を磨き続ける。それが私の仕事だと思ってる」
ななは睦美からの言葉を聞いて胸が打たれるような気持ちになった。プロになって、それで努力を辞めてしまうのでは意味が無い。プロになったからこそその最高の状態を高い水準で維持する。若しくは更なる高みを目指す。これができないとプロで生きていく事なんてできない。
何しろ、そういう世界というのは常に周りとの競争だ。少しでも怠けてじてば一気に坂道を転がるように転落。そこから能力を取り戻すのには時間がかかるし、前と同じ場所に戻る頃にはライバルは更に先に行くなんてザラだ。下手したら新しく出てきた新人に出演の席を奪われる事もある。
睦美はそういう厳しい現実がわかってて、尚且つ自分の演奏を聴く客達への気持ちがあるからこその話だとななに教えた。
「勿論、レッスンの後は3人でゆっくりお出かけしましょうね」
「うん!」
ただ、やはりプロの事と家族の時間は分けて考えているのか。睦美はちゃんと家族の時間も作ってくれるようだった。すると、ななは先程の睦美からの話に感化されたのか。彼女へとある事を頼み込む。
「あの、ママ!久しぶりにピアノを聴いてくれる?」
「ッ!……ふふっ、勿論よ」
ななは成長した自分を母親に生で観てもらいたいようで。加えて今のななの前にはプロのピアニストという最高の指導者がいる状態なのだ。このチャンスを逃すなんて事はできないのだろう。
それから早速ななは両親に近くのソファーに座る事を促すと自分は準備を終わらせつつ家の中にあるピアノの椅子に座る。
「クラスの皆と合唱した時に弾いた曲なんだ」
「そうなんだね」
「うん!じゃあ早速弾くよ」
ななはそう言って目の前にあるピアノの鍵盤に両手を置くと曲の演奏を開始する。弾き始めた曲の名は“GARDEN”それはななが先程話した通り、春頃に新入生歓迎会の際に合唱をした際の曲だった。
尚、その後にボーカルアルバムにもカバー曲という名目て一応収録されている。
「なな……」
それはさておき、睦美はななが弾く旋律を聴く中でピアノの上達という目に見える確かな娘の成長に微笑ましい気持ちを抱く事に。ななによるピアノの演奏会が終わると3人は順番にお風呂に入っていく。今はなながお風呂から上がって髪を梳かしており、そこに睦美がやってきた。
ちなみにまだ睦美が私服姿なのと一がこの場にいない事から今は彼が入っている所なのだろう。
「なな、ちょっと良い?」
「え?うん」
「そのブラシを貸して」
睦美は早速ななの隣に座ると彼女から貰ったブラシを使ってその髪を丁寧に梳かしていく。ななは久しぶりに母親からやってもらうブラシを嬉しそうに受け入れていた。
「……ななが小さい頃から髪を梳かすのはママの役目だったよね」
「うん。ママにやってもらうのは嬉しかった」
そんな風にななは睦美と話す中で彼女は前々から話を聞いていたななの彼氏……レイの事を聞くことにした。
「そうだ、なな。レイ君って子とは順調?」
「ふえっ!?レ、レイ君との事!?」
「そりゃあ、娘に出来た初めての彼氏だし。それにレイ君の事を話してくれる時のななは凄く幸せそうだから。私としては気になっちゃうかな〜」
ななと睦美は普段会う事ができない分、偶に時間を見つけてはななの父の一と共にビデオ通話する時がある。
そのため、ななが睦美へと彼氏であるレイの事を話す時があるのだが……その時のななの幸せそうな顔を何度も見ているためか。睦美としてのレイの事が気になっているのだろう。
「うぅ、別に特に変わらないよ?学校で会って、家でビデオ通話して。偶にお出かけとかして……」
「え〜?ほら、もうちょっと踏み込んだ事はしてないの?」
「……レイ君だって忙しいのに、私の都合だけでそんなに無茶させられないよ」
ななからの話を聞いて睦美はある事を思い出す。それはななが生まれるよりも前の事。ピアニストとして有名になり始めたばかりの頃、初めて夫である一と出会った時の記憶である。
「(そっか、ななも昔のパパと似たような状況になっちゃうのか)」
何しろ睦美は当時新人だったとはいえ、ピアニストとして有名になる度に一に色々と我慢をさせてしまっていた。彼だって睦美ともっと一緒にいたかったはずなのに……。
そして、睦美はそんな自分の夫と同じ道を歩いているななを見てそっと励ます事に。
「じゃあさ、ななが甘えられる時にもっとレイ君に甘えてみたら?」
「えっ!?」
「甘えられる時間が少ないのならやれる時にできるだけ沢山する。レイ君だって、ななから甘えられるのはとても嬉しい事だと思うわよ」
「本当かな……。レイ君、受け入れてくれるかな?」
「ふふっ。少なくとも私がパパに同じ事をしたら凄く嬉しそうにしてくれたわ。だから大丈夫よ」
「ッ……うん!やってみる!」
ななが幸せそうに微笑むとそれから2人は少しの間別の話を挟んでから今度は睦美がある事を言い出した。
「……なな」
「何かな?」
「……実はママね、こっちに来たばかりの頃。とても寂しくて何度もなな達の元に帰ろうと思ったんだ」
「えっ!?」
睦美から明かされたまさかのカミングアウトに思わず驚いたような声と顔を見せるなな。そんな中で睦美は更に話を続けていく。
「でも、こっちに来る前。フランスでの仕事を引き受けるかどうかを話し合った時、ななは言ってくれたでしょ?」
そう言って睦美はその当時の事を思い出す。それは、日本にある蒼風家の中で行った話し合いの際の一幕だ。
〜回想〜
当時、フランスからの仕事の打診を受けた睦美は家族がバラバラになってしまう事。何より最愛の娘を日本に置いていかないといけない事にフランス行きに対しては消極的な所があった。
ただ、心のどこかでは生きたい気持ちがあるのか。悔しそうにテーブルの上に乗せた両手の拳が震えてしまう。それでも家族の事が優先とばかりに彼女は諦めようとする。
「やっぱり……家族と離れるのは……」
「ママ!私、ママのピアノを聴くとここが温かくなるの」
そんな時、ななは席から立ち上がると睦美の隣に移動して胸の辺りに手を置きつつ母親を説得しようと話しかけた。
「ママがフランスに行って、沢山の人が同じ気持ちになれるのなら……応援する!」
睦美は娘であるななからのその言葉がキッカケでフランス行きを決定付けた。ななは迷う母親の背中を押して遠い異国の地に行くように促したのだ。
自分が大好きな母親の側にいられないという苦しい気持ちを押し殺した上で、あくまで笑顔で母親を送り出す事を決めたのだ。
〜現在〜
当時のななの発言が睦美にとって大きな力になってくれたのは間違い無い。勿論、この言葉を言う時にななは泣くのを我慢しながら言ったなんて事は無く。あくまでも母親を応援するという純粋な気持ちでである。
睦美にとってななからのこの言葉はフランス行きを決定した大きな要因だ。
「あの言葉がママを支えてくれたの」
「私の気持ち、変わってないよ」
「ふふっ、ありがとう」
睦美はまず最初にその時の事を改めてななへと感謝の言葉と共に伝える。……その上で、彼女はある提案を娘であるななに伝えようと考えた。
しかし、それを言おうとしたタイミングで睦美はある事実を思い出す。そのため、少しだけ会話に空白の時間ができてしまう。
「あのね、なな……」
「……ん?ママ、どうしたの?」
「ッ……ごめんね。ちょっとどうやって話そうか迷っちゃっただけ」
ただ、もうここまで言いかけてしまった以上はこの事を話さないという選択肢は無くなってしまっていた。そのため睦美は覚悟を決めたような雰囲気を見せる。
「ママ……大丈夫?」
「ええ。ちょっとこの事を話す覚悟を決めただけ。それじゃあ、言うね」
それからななは覚悟を決めた睦美からの話を聞いて驚きの顔つきになると嬉しい気持ちが湧き上がる……が、同時にななの脳裏にある人物が浮かぶと顔つきが少しだけ曇った。
「……やっぱり、今のななにとっては辛い事になるのよね……」
「………」
睦美はなながこのような反応を見せると薄々察しており、だからこそこの話を持ち込まない手もあったのだが……。それでも話すという答えに辿り着くとななにこの事を話した。
「返事はゆっくり決めれば良いわ」
「うん、そうする……」
ななは少し落ち込んだような顔で睦美から提示された究極の二択について自分の答えをどうするべきか悩む事に。
「(どうしよう……ママからの折角の提案なのに……どうするのが正解なんだろ。まさかママが家族3人揃ってフランスで一緒に過ごしたいなんて言っちゃうなんて)」
ななにとってこの話はとても嬉しいものがあった。今まで離れ離れで会う事もできなかった母親の睦美と同じ屋根の下で過ごす事ができるのである。嬉しくないわけがない。
しかし、今のななはレイという彼氏持ち。しかもそのレイは日本にある彼の実家のしがらみに縛られてしまっている。少なくとも、一緒にフランスに来るというのはまず無理だろう。
「(ママかレイ君か……どっちにするか答えを出さないといけないなんて……どうしよう。どうするのが正解なんだろう……)」
そのため、ななは母親の睦美と彼氏であるレイ。二者択一の答えを出さざるを得ず、そう簡単に答えを出せなくなってしまうのだった。
また次回もお楽しみに。